Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
目を開けると、いつもの日常がやってくる。自分の部屋を出るとキッチンから母さんの声が聞こえる。
「ソニア、そろそろ起きなさい」
「もう起きたよ」
いつも通り椅子に座って、熱々の朝食がテーブルに並べられるのを待つだけだ。朝食はいつも一杯のお粥とパン、それにハムだ。いつもはダイエットで押し麦のお粥が出てくるはずだが、今日は普通のお粥だ。
「あれ?母さん今日は押し麦じゃないの?」
「そうなのよ、ちょっと切らしちゃってね。今日は休みだし買い物に行かなきゃ」
「そっか」
父さんは……いつもと違ってテーブルにいなかった。いつも通りになら私の大っ嫌いな経済、政治、国について書かれている新聞を読みながら、興味もない私の進学について聞いてくるはずなのに。
「父さんは?休みなのに朝早くからいないなんて珍しいよね?」
「ああ、お父さんは先に出かけたわよ、お仕事じゃないみたいだけどなんだか楽しそうだったわね」
「ふーん」
父さんが楽しんでいる、そんな日もあるのか。けどそんな日もあった気がする。いつもと少しだけ違う熱々の朝食を手につける。毎日同じような朝食だけれど、母さんの料理は飽きない。
「じゃあ母さん買い物に行ってくるわね、お留守番よろしく」
「……えっ、あ、うん」
母さんは先にご飯を食べたのだろうか?けど『必ず一緒に朝ごはんを食べよう』と言っていたのは母さんだった……ハズだ。今まで私一人だけで朝食を食べたことは一度だって無い。
気がつくと熱々だったはずの朝食がヌルくなっていた。とりあえず残すのはもったいない、ヌルくなったお粥を一気に口に流し込み、食器を流しに片付ける。流しを見ると皿や鍋、スプーンといった食器が汚れたまま積まれていた。ここ何日か片付けることができないくらい母さんは忙しかったんだろうか?
「……何すっかな」
今は家に一人だ。休日なら適当に外をほっつき歩くだけでケンカを吹っ掛けてくる相手がいるから時間が潰せる、だが母さんに留守番を頼まれた以上家にいるしか無い。とりあえず自分の部屋に戻る。
本棚を見ると色んな本が仕舞われている、だがどれもすでに読んだものばかりで、自分の頭の中に入っている……がふと、絵本が目に入る。だがタイトルは書かれていない。
「なんだこれ……?」
表紙はカラフルな建物に子どもたちが笑っている絵が描かれているが、タイトルはどこにも書いてない。何よりこんな本を読んだ記憶はソニアには無かった。気になって表紙をめくると……中は白紙の紙だった。パラパラと何枚かページをめくるが、どれも白紙だ。
「絵本、なのか……っ⁉︎」
不思議に思い顔を上げるとそこは見知らぬ場所だった。いや、見知らぬどころか本来あり得ない空間、白だった。
白
まっしろ
自分以外何も存在しない場所にただ立っている
「ど、どこだよここ……」
いや、手元には先ほどの見覚えのない絵本がある。だが表紙に絵が描かれているだけで中身は真っ白なままだ。あたりには何もない。
「意味わかんねぇよ……どうすればいいの」
ふと、声がいつもと違う感覚を覚える。自分の声が高く、どこか……幼い。
手に持つ絵本を見ると、絵本が両手に余るほど大きくなっていた。いや、彼女の身体が小さくなっている。
「なに……なんなの……?」
本が大きくなった様に感じているだけのようだ。声も幼い頃のじぶんだ。おかしい、自分は7年生だったハズなのに……あれ?
「わたし、このあとどうするんだっけ?」
たしか、いつもお父さんにはどうするのってきかれて……けど今日はお母さんにおるすばんしててねって言われた。
「……おるすばんしなきゃ」
けどここはどこ?
あたりはまっしろ、まわりを見てもなんにもない
そもそもおうちにかえれるの?
「……うっ、ううぅ」
どんどんさびしくなってくる
わたし、おいえにかえれなぃ!
「おかあさん!どこ!?」
このままひとりぼっちで、このまっしろなお部屋にいなきゃいけないの?
やだ
やだぁ!
「おかあさん!!」
泣きながら精いっぱいの大声でさけぶ
だけどおかあさんの声はどこからもきこえない
「うあああああ!」
さびしいだけじゃなくて怖くもなってきた
わたしこのまま……しんじゃうの
「ううっ……うぅ、たすけてよぉ」
ふと、ずーと持っていた絵本が目につく
まっかに燃えているたてものとたくさんのオトナがあかい水の中にいる絵
その絵をみると……寂しさはどこかきえて、安心することができた
どこかで見たことがあるような無いような……大切な思い出みたいな感覚
絵本を真っ白な地面においてパラっとめくる
そこには……
「ソニア、はやくこっちにきなさい」
「……お、おとうさん?」
絵本のなかにどうしておとうさんがいるの?
「ソニア、今日は久しぶりに一緒に散歩に出かけないか。一緒に好きなものを見に行こう」
「好きなもの?」
「そうだ」
「なんでも良いの?」
「なんでも見れるかはソニア次第だよ」
「わたししだい?どういうこと?」
「ソニア、いま君は何がしたい?」
「わたしは……おうちに帰りたい。おかあさんにおるすばんしてって言われたから」
「はははっ、おとうさんと散歩するよりもおうちでお留守番か。これは予想外だった」
「うう、ごめんなさい」
「謝ることはないさ。ソニアはお母さんの約束を守りたいんだね」
「うん……けどどうやってかえればいいかわからないの」
「じゃあソニアは助けて欲しいんだね」
「……おうち、かえれる?」
「ああ帰れるとも。だけどその前に、大事なお約束をしてくれ」
「おやくそく?おとうさんと?なーに?」
「いいかいソニア、何か困った時があったら『助けてください』って他の人に言うんだ」
「……それだけ?」
「あとは『助けて』って言われたら、ソニアも助けるんだよ」
「うん、わかった」
「ちなみに……今のソニアは助けてって言ったかな?」
そういえばさっき、たすけてって言ったような……言ってないような。
「……いったかも」
「そうか、だから助けにこれたのかもしれないね。じゃあ一緒におうちに帰ろう、手を伸ばして」
「うん」
手を伸ばし、ボフンと絵本に乗っかるような体勢になると、ソニアは急に眠たくなってまぶたが重くなってくる。うとうととしていると、ほのかに乗っかっている絵本から温かみを感じる。どうやらおとうさんに乗っかっているらしい。ゆっくりと歩きながらどこかへと向かっているようだ。
「大丈夫だ、ここはもう安全だ」
「あんぜんか……それなら……」
まぶたがより重くなり、完全に眼が閉じる。どこか懐かしい匂いと安心感を覚える温もりを感じながら少女の意識は落ちて……覚醒する。
「……っはあ」
目を開けると白い天井が見える。まぶたは重くなく眼も冴えている。身体の調子はすこしだるいが、最悪ではない。首を動かして辺りを見渡すと、カーテンで囲われていて周りを見渡すことはできない。ただ、ピッピッという機械音と誰かの足音は聞こえる。誰もいないことはないようだ。それに、消毒液や薬品の独特の臭いと自分がベッドの上にいることから、どうやら病室にでもいるらしいことはわかった。
ゆっくりと身体を起こし、少し重い腰を上げてベッドから立ち上がり、静かにカーテンを開け辺りを見渡す。自分と同じようにカーテンが囲われているところがいくつかある、おそらくベッドがあるのだろう。機械音もそのカーテンの中から聞こえる。
「戻って……る、のか」
不思議な夢だった。この3ヶ月、くそったれな夢ばかりをみていた。そのどれもが気味悪く、恐ろしく、そして自分を攻撃するナニカかが現れて……目が覚めれば吐いていた。同室のラーダやアンナには今のところバレてはいない、というかバレないようにしている。あいつらに自分の弱いところを見せるわけにはいかないからだ。
だが今さっき見た夢は一体なんだったんだろうか。思い出すと……無性に腹が立ってくる。なんで一人ぼっちになった途端、寂しいだの怖いだの言い出した挙句、泣き叫んだのか。思い出すだけで自分自身に苛立つ。
「っていうか、なんでアタシ病室にいんだ」
とりあえず、あの夢のことは放っておいて今の自分の状態を確認する。身体に痛みはないし、腕に注射や点滴が刺されたような感じもない。ふと、ここはまだ夢の中なんじゃないかという考えが思い浮かぶ。なにせまだ気味悪さを感じていない。泣いたのは……まあ怖かったからだが、それでも不快感を感じてはいない。
「…………」
指で自分の頬をつねるが痛みはある。床は冷たくひんやりしているし、しっかりと両足で立っている感覚もある。だが、カーテンの裏側はまだ見えていない。音が聞こえるだけだ。
「だれかいるか」
声をかける……が、当然のように反応はない。周りにも他に人はいないようだ。前にはいくつかベッドがあるようで、どれもカーテンで囲われている。後ろにはドアがあるが、今は閉じている、開きそうな気もするが本当に開くかはわからない。少しだけ自分の心臓の鼓動が強くなるのを自覚する。
このカーテンの中には誰がいるのか……本当に人がいるのだろうか?
「…………」
ただの夢なのか現実なのか、見ればわかることだと確信して、少女はカーテンに手をかける
その瞬間
「何してるの?」
自分の背後から声をかけられる。急いで振り返ると、白衣を着た小柄なヴァルポが先程閉まっていたドアを開けてこちらを見ていた。
「あっ、いやっ、その……」
突如現れた他人に驚き、そして今自分がしていることが悪いことなんじゃないかという気持ちが突如として湧き上がり、どうしたら良いかわからず、たどたどしくなってしまう。
「驚かせちゃったかな?……ん、スリッパ見つけられなかった?ベッドの下に置いてあったハズなんだけど」
「えっ、あっ……おう、悪い」
指摘されて足元をみると素足だった。考えてみれば床の冷たさを感じるということは、素足に間違いないのだ。病室内を素足で歩き回り、あまつさえ他の人のベッドを覗こうとしてたのだ。
そんな自分に恥ずかしさを覚えながら、けれどもそんな気持ちは一切顔には出さず、澄ましたように自分が寝ていたベッドに戻り、置かれていたスリッパを履く。
「改めておはようズィマー、と言ってもだいぶ早い時間なんだけどね」
3月17日 04:27 ロドス本艦 医療区画 ベッドルーム
ススーロはカルテの管理とアーミヤへの報告書が書きおわり印刷もし終えてひと段落していたところ、病室の方から何か声が聞こえてきたので確認してみると、起きたところのズィマーが他の患者の様子を覗こうとしていた。声をかけると驚いた表情をこちらに向けたあと、気まずそうな顔に変化した。
まるでイタズラがばれた子どもの様で笑ってしまいそうだったが、それを言えば不貞腐れるだろうし何よりズィマーに嫌われかねないので、そんな表情は一切顔には出さず、優しく声をかけた。
「じゃあせっかく起きたし、こっちに移動しようか。まだ他の患者さんは寝ているからね」
「……おう」
ズィマーは素直にススーロの言葉に従い、後ろをついていく様に歩き、先ほど閉まっていた扉を通って病室を出ていく。ススーロの所感としては、ズィマーは良い子だ。思春期特有の周囲との距離感の複雑さや、言葉使いの荒さは少し目立つものの、垣間見える素養やロドスでの生活、振る舞いをみれば決して乱暴な子どもでは無いことがわかる。もっとも、ズィマーの年齢を考慮すれば、ただ一言子どもという枠で囲って説明ができる年齢でも無いのだが、それでもまだ心も身体も成人になりきっているわけではない。心が傷付けられているなら尚更だ。
病室を抜け、スタッフルームを通り過ぎ診療室に入る。後ろからついてきたズィマーに奥にある入口近くの丸椅子に座るよう促すと、遠慮がちに頷き静かに椅子に座った。
「とりあえずズィマー、ここに運ばれてくる前の記憶はあるかい?」
「……いや、なんでアタシがロドスの病室にいんのかがわかんねぇ」
「そうか。君は深夜に過呼吸を起こしていたところを運ばれてきたんだ」
「それって、アタシらの部屋か」
ススーロの言葉にハッとしたようにズィマーは反応する。彼女にとって同室で仲間であるウルサス学生自治団のメンバーに心配されるようなところは、焦るくらいには見せたくないだろう。それを知っているからこそ、落ち着いてススーロは言葉を続ける。
「君が見つかったのはデッキの上だ。どういう経路で君がデッキまで移動したのかはわからないけれど、そこで君は見つかって、処置を受けて、ここに運ばれてきたんだ」
「そうか……まて、誰がアタシを見つけたんだ」
「スネークっていう最近BSWから派遣されてきた傭兵の人だよ。君の名前を聞いたらウルサス人じゃないかと思ってウルサス語で君に話しかけたって言ってたね」
「……思い出せねぇ」
「まあ、君は倒れてたところを介抱されてここに運ばれてきたってこと」
「……おう」
「とりあえず、身体に物理的な問題はなかったから、特に処置はしてない。今日はこのまま戻ってもらって大丈夫だよ」
「そうか、じゃあ部屋に戻る」
「ただ、これだけは伝えておくよ。私たちは治療の専門家だ。治療を望むなら全力でサポートする。もちろん望まないことは無理やり突きつけることはしない。それはロドスの考えに反するし、そもそも治療じゃないからね」
「アタシが弱いってか?」
「そうは思わない。そういえば、あなたを助けた傭兵は『必ず強くなる』って言ってたね」
「なんだそれ?まあ、アタシを一目みてそう言うあたり、見るめがあんな、そいつ」
「んっ、確かにそうだね」
「……んだよ笑って、何がおかしいんだよ」
「いやっ、そのスネークって傭兵さんは結構見る目があるなって私も思ってたから、気が合うなって」
「……そうかよ」
「いまはズィマーがしたいことをすればいい。今のあなたは何がしたい?」
「いまのアタシがしたいこと……な」
ふと先ほどまで見ていた夢を思い出す。あんな風に父さんが話しかけてくれたことは無いし、そもそも二人きりで一緒に出かけようということも無かった。ただ、背中に乗せられてどこかに連れて行った記憶はある。どこに行ったかは思い出せないし、思い出そうとも思わないが。
それでも、すでに先の夢の内容が薄れていく中で『なんでも見れるかはソニア次第だよ』という言葉ははっきりと覚えている。今の自分が見たいもの、したいことは何か。
「……とりあえず、部屋に戻りたいな」
「そっか、じゃあそうしよう。また何かあれば、っていうのは変だね。何かなくても遊びに来るといい、みんな話し相手は大歓迎だからね」
「好き好んでこんなところ来ねぇよ……じゃあな」
「うん、じゃあね」
ズィマーはぶっきらぼうに丸椅子から立ち上がり、堂々と出口に向かって歩き出す。そんな彼女に対してススーロは手を振り、ズィマーが出ていくのを見送る。彼女にとってお大事には余計な言葉だ、治療を必要とはしているがまだ患者ではない。
「やりたいこと、見つかると良いなぁ」
ススーロは先ほど印刷したズィマーの診療記録と、ロドス医療部門としての意見書を改めて確認する。彼女は明らかに精神的なトラウマを抱えている、専門家の治療を受ける必要があると医師が判断する程の大きな傷だ。だが彼女は(あるいは彼女たちは)チェルノボーグで保護された際の外傷に対する治療以外は求めていない。拒否している、と言うわけではない。ただここに居る人に対して明確に助けて欲しいという意思表示をしていない。
その理由をロドス医療部門はススーロをはじめある程度把握しているし、同時に全てを把握することはできないことも理解している。治療の専門家であってもできることは少ない。だからこそ、できることを行なっていくしかない。
彼女たちがロドスの戦闘オペレータへの所属を希望するのであれば、それを頭から拒否する理由は無い
「ま、アーミヤさんは反対するんだろうけど」
ススーロはその小さい身体を伸ばしながら、ズィマーがそろそろ仲間が待っている場所に戻れたかな、と考えながら自分も席を立ち診療室を後にすると、休憩室で眠気覚ましのコーヒを入れる。ロドスの甲板上は徐々に太陽光に照らされ始めドローンも飛び始める、間も無く彼女は夜勤明けだ。
これにて一旦定期投稿をお休みさせていただきます。
次回の投稿は……今月中には出せるよう頑張ります!
(出せなかったら察してもろて)
最近Twitter始めて、投稿した報告とかテキトーに好きなことフォローしたりリツイートしたりしてるので気になったら覗いてみてもろて。
https://twitter.com/dapto11
ではでは。
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