Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■   作:daaaper

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メリークリスマス〜
久しぶりに戻ってきました

そして唐突ですが来年の2月にこの二次創作小説を書籍化します
詳しいことはしばしお待ちくださいな フォッフォッフォッ



12

3月31日 AM 10:30

 

スネークがインストラクターとしてジェシカを教え始め1ヶ月半を過ぎた。最初の1ヶ月間は徹底的に射撃に関する知識を与え、実践として身体に落とし込めたが、3月に入ってからジェシカの精神面を鍛える目的でCQCを仕込ませた。

この2週間でナイフ術も教えたが、本人の誰かを守るために強くなりたいという思いと素直な性格が功を奏したのか、みるみるとCQCに対する造詣を深くしていった。

 

 

同時刻 ロドス本艦 深層フロア 格闘訓練室

 

 

「シッ!」

 

最初こそ、ジェシカがあまり顔馴染みのない男にコンクリートに叩きつけられ、ニコニコと笑っていることにロドスのオペレーター達は不安がったが、やがてジェシカが男を投げ飛ばし、コンクリートに膝をつかせ、拘束するようになると、文字通り見る目が変わった。なにせあのジェシカが、身長差40cmはあろう相手に全身を使いこなし制圧することができていたからだ。近接戦を主とするオペレーターからすれば、ジェシカの身体の使いこなしと戦闘に関する直感力は、傍からみても明らかに成長していた。

 

「フンッ」

 

今日もジェシカはナイフを構え、スネークに挑んでいる。ジェシカは何度もスネークの間合いに飛び込み、刃を突き立て、斬り裂き、相手の無力化を図る。対するスネークは、ジェシカが仕掛けてくるナイフを手・肘・腰・足の身体全てを使い捌ききる。

懐を深くジェシカを迎え入れ、突き刺してくるナイフを、時に彼女の手掌から弾き飛ばし、奪い取り、あるいはナイフを持たせたままジェシカの身体をCQCで拘束していた。

 

「ッ!」

 

だがジェシカも成長した

 

彼女はスネークにやられる前に逃れる術を身につけた

 

ナイフを握らされたまま関節を極められる前に低い蹴りで間合いを取る

 

「いい反応だ」

 

スネークも彼女の成長に感心しながら足を軽くあげて蹴りを避ける

 

「……ッ」

 

一瞬息を整え、ジェシカは再びスネークへ挑む

 

このような訓練を、ジェシカはこのところ毎日何時間も続けていた。何度もスネークに拘束され、地面へ叩きつけられ、それでも何度も挑む。延々と失敗を続けるこの訓練は、新兵には決して行われない類の訓練だ。ただ身体を痛めつけられながら、勝てる見込みの無い相手に挑むことを強要されることは、しごきを通り越してただの罰でしかない。

 

だがこれは『強くなりたい』と希望するジェシカ本人の選択した道だ。身体を酷使する中で何かしらの気づきを得て、何度も挑戦と失敗を繰り返すことができる訓練だとすれば、勝てる見込みの無い相手に挑むことは、強くなるための糧となり・・・一流の戦士へと昇華させる。

 

左から一気に右に身体を振り、フェイントを入れ彼女は突っ込む

 

スネークは下がらず、あえて半歩前へ動き間合いをズラす

 

すかさずジェシカは身体を低くし、スネークの背後に回り込み勢いナイフを刺す

 

すぐに振り返りスネークはナイフを下へ弾き飛ばす

 

が、ジェシカの姿を見失う

 

スネークは直感的に前方にローリング回避を試みる・・・がその前に後ろから左膝を押され、体勢が崩れ身体が傾く

 

後頭部を抑えられそのままコンクリートへと叩きつけられる

 

咄嗟に顎を引き両腕で受け身を取る

 

ジェシカはスネークの左膝と左腕、後頭部を押さえ、完全にスネークをコンクリートに伏せさせていた。

 

「止まれ!手をあげろ!!」

 

スネークは、残った右手でコンクリートの床を数回タップし遠慮がちに手をあげる。すると周りから、声が上がる。

 

「おお!ついにやった!」

 

「すごいなジェシカちゃん!見違えるように強くなってる!」

 

周りで声を上げたのは、ロドスで新人たちの教育を施す教官たちだ。ジェシカともある程度交流があるものの、ジェシカが射撃メインであったことから、ジェシカと会話したことはあっても直接何か指導したことは無い。とはいえ、自分たちが普段教える格闘戦を他の指導員から教わり、さらにハンデがあるとはいえ、その指導員を倒すまで成長した瞬間を目にすることができ、少し、というかだいぶ興奮している。

 

「……ふぇっ!?いやっあのっ、えぇっと」

 

スネークは先ほどよりも強めにタップし、降伏の意思と若干の抗議をジェシカに伝える……が、ジェシカが周りの教官たちの反応に驚いているどころか、若干怯えているせいで、完全にコンクリートにねじ伏せているスネークのことなど眼中に無いようだ。

 

「……戸惑わせてどうする馬鹿ども。ジェシカ、とりあえずお前の"教官"を離してやったらどうだ、流石に苦しそうだぞ」

 

そんな彼女を見かねたドーベルマン教官は、周りの教え子たちにガンを飛ばすと同時に、ジェシカ……というかスネークにやや憐れみのような視線を送る。

 

「えっ?・・・・・あっ!!すいませんスネークさん!すぐ退きます!!」

 

「……久しぶりに額から打ち付けたな。あー、俺の鼻はついてるか?」

 

「だ、大丈夫です。お鼻もオデコも無事、に見えます……はい、ほんとにすいません……」

 

「なに端からそういう訓練だ。何より周りの奴が言っていたようにお前が強くなっている証拠だ」

 

「あはは……まだまだスネークさんには負けちゃいますけどね。けどそう言ってくださると助かります」

 

そう言ってジェシカは少しだけ自慢気にスネークに語る。未だ自分の実力不足を自覚しているようだが、それでも以前のような卑屈さや陰気な雰囲気は薄らいだ。あとは経験あるのみ、とも言える。そんなジェシカの様子を見ながらも、スネークはドーベルマンの方を見ると、彼女は頷き言葉を発した。

 

「これなら予定通り、こちらとの合同訓練も行えそうだな」

 

「・・・合同訓練?なんのことですかドーベルマン教官?」

 

ドーベルマン教官の言う"合同訓練"という単語に反応するジェシカ。彼女には聞き覚えのない言葉だが、スネークの方は理解しているらしく、あぐらをかきながら、どこか自慢げに鼻をこすりドーベルマンの言葉に応えていた。

 

「これから説明する。お前がどの程度成長したのか、彼女が直接見極めるまでは話さないよう決めていたからな」

 

スネークがそう言うとドーベルマン教官は、先ほど馬鹿どもと呼んだ教え子、もといロドスの戦闘教官2人に合図を出すと、2人はどこかに行ってしまった。スネークは立ち上がり、ジェシカを手招きしてドーベルマンの方へ歩き出すので、ジェシカも彼の後を追いかける。

 

ドーベルマン教官が訓練室の一角に設けられたブリーフィングルームのドアを開けると、それに続いてスネークとジェシカもドアを通る。中には10人以上座れそうな長机が左右に向かい合わせで並べられており、その他にホワイトボード、プロジェクター、情報端末が置かれている。教官とスネークは部屋の1番前、ホワイトボードが置かれている場所に立つ。

 

「あっ」

 

さて、ここで問題だ。

スネークとドーベルマン、どちらもジェシカにとって尊敬する相手であり、様々な手ほどきを受けた相手である。そんな2人が右と左に分かれて立っている、そして机も右と左両方にあり、椅子はどちらも綺麗に並べられている。

 

この場合、彼女は(スネーク)(ドーベルマン)、どちらに座ればいいでしょう?

 

「えっ、えーと……」

 

「おい教官どの、教え子がどっちに着けばいいか迷っているぞ?」

 

「……ジェシカ、今回は向こうだ」

 

「は、ハイ!」

 

そんな挙動不審になった彼女に笑いながら、スネークはロドスの教官に指示をあえて煽ると、教官は相変わらず固い声音で応える。どうやら正解は(スネーク)だったらしい。たどたどしく、ジェシカは右側の机の1番前に座る。彼女が座ったのをみて、教官はどこからか教鞭を持ち出し話を始める。

 

「……さて、先ほど話していた合同訓練についてまずは簡単に説明する」

 

「は、はい」

 

するとドーベルマンは何も書かれていないホワイトボードを回転させ、裏に大きく書かれていた『BSW・ロドス行動予備隊合同訓練』という文字があらわになる。

 

「先ほど少し触れたが、この2ヶ月で私からみてもジェシカは成長した」

 

「ほ、本当ですか!」

 

「私が訓練に関して嘘を言ったことがあるか?」

 

「な、ないと、思います」

 

「……とにかく、お前は彼に鍛えられ成長した。正直私もこの目で確認するまであまり信じきれなかったくらいにな」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「もっとも、相変わらずの自信の無さが私は気になるがな」

 

「うっ、そ、それはスネークさんにも言われました……」

 

「お前の強みでもあるが1番の弱点だからな、指摘もする」

 

少し気まずそうにするジェシカに、スネークが笑いながらドーベルマンの言葉に同意する。ジェシカにCQCを施したのも、結局は彼女の卑屈な心を鍛え、本人の強くなりたいという意志を叶えるためだ。今まで彼女を鍛えていた者からみても成長がわかるのであれば、スネークの目論見通りにジェシカが成長している証拠だろう。スネークが続ける。

 

「だがこの2ヶ月でお前はだいぶ成長した。あとは実戦あるのみだが、ぶっつけ本番はリスクが高すぎる。なにより、BSWは個による戦闘だけを評価するわけじゃあるまい?」

 

「は、はい。BSWの人事査定では、一緒に試験を受ける人が集まります。その人たちでチームを作って数日間かけて集団での戦闘行動も評価されます」

 

「だが俺はお前に集団での戦闘はまだ仕込んでない。そこで、ここ(ロドス)の力を少し借りることにした」

 

「それがドーベルマン教官がおっしゃっていた"合同訓練"、ですか」

 

「そういうことだ」

 

スネークがジェシカの言葉に頷くと、ちょうどドアがノックされる。『入れ』とドーベルマンがドアに向かって応えると、ガチャっと開かれる。入ってきたのは先ほど別れたロドスの教官二人だ。その後ろから『失礼します』という声と共に2人の少女が入ってきた。

スネークは初めてみる2人だが、一人は馬のような耳をした青髪で活発で真面目な印象を、もう一人はネコのような見た目で紫髪、ジェシカと同じような内気な雰囲気がある少女だ。

2人からはまさに新米という雰囲気を感じるが、練り上げれば確かな戦力にもなるだろう、スネークの直感と先入観は2人をそう捉える。

 

「フェンさん!メランサさん!お久しぶりですね!」

 

「久しぶりジェシカさん、最近一緒に訓練しなかったけど、元気そうでよかったよ」

 

「お久しぶりです、ジェシカさん」

 

ジェシカは彼女たちのことを知っているのか、パッと顔を明るくして話をする。

 

「おいお前たち、知り合いに挨拶するのも良いが、初めて会う人にも挨拶をした方がいいんじゃないか」

 

そこにドーベルマンが鋭い視線と固い声音で入ってきた2人に指摘する。彼女たちは『あっ』とドーベルマン教官や知らない(けど偉そうな)人がいるのを思い出したようで、慌てて表情を変えてスネークの方に顔を向ける。

 

「あっ、失礼しました!行動予備隊A1隊長のフェンです!槍使いです!」

 

「こ、行動予備隊A4の隊長を任されています、メランサです。えっと、剣使い、です」

 

「スネークだ。傭兵だが今はBSWに雇われてジェシカのインストラクターをしている……ここでは自己紹介するときは自分の武器を紹介するのか?」

 

「えっ、あっ、大丈夫です!」

 

「えーと……私たち、緊張しているのでついお話しただけなので、大丈夫、です」

 

「そうか?とりあえずお前たちに合わせる、俺は銃とCQCが専門だ」

 

「「CQC?」」

 

「Close Quarters Combat、近接格闘戦術の略だ。ジェシカには銃とCQCの指導をしていた」

 

「そうだったんですか」

 

フェンと名乗った少女が興味深げに、メランサと名乗った少女はすこし警戒しながらもCQCという単語に同じく興味を示したのか、2人とも耳がピコピコと反応している。

 

「さてっ、そろそろ私も話を始めるぞ」

 

そんな可愛らしい反応をしている生徒2名に、教官は軽く咳払いをして呼びかけると、2人の少女は再び教官の存在を思い出したかのようにそそくさと、誘導されるがまま教官側の机へと座る。

 

「……さて、ここにお前たちを呼んだのは他でもない。前々から話していた訓練についての連絡だ」

 

「ということは、ドーベルマン教官が以前おっしゃってた訓練相手はBSWなんですか?」

 

「そこを今から説明する」

 

ドーベルマンが合図を出すと、ロドスの教官が部屋の電気を消して、天井に取り付けられたプロジェクターが起動し、ホワイトボードに真っ青な画面が映し出される。ホワイトボードにはデカデカと『BSW・ロドス行動予備隊合同訓練』と書かれ、見づらいことからスネークは再び何も書かれていない面にひっくり返す。その間にドーベルマンは教鞭と端末を取り出しプロジェクターにデータを送信すると、真っ青な画面から白地の画面へと変わった。

 

「来週の4月7日、行動予備隊A1・A4とBSWとの合同訓練を行う。訓練の目的はチームとしての作戦遂行能力の向上・評価だ。安全管理は私と彼、スネークが担当する。他の教官たちには訓練当日のサポートに回ってもらう、もし訓練中に何かあればすぐ教官に報告するように」

 

その言葉にロドスの教官2人がスネーク、ジェシカたちに軽く礼をする。行動予備隊の隊長2人は鬼教官の言葉を逃さないよう必死にメモを取っているようだ。

 

「訓練内容は、行動予備隊A1、A4、BSWの3チームで紅白戦を行う。詳細は彼から話してもらう」

 

ドーベルマンがそう言うと、スネークが代わって彼女たちの前で話し始める。

 

「今回の合同訓練はドーベルマン教官から提案されたのをきっかけに、教官と訓練内容を煮詰めた結果、建物を利用した屋内戦を想定した」

 

白地の画面に2階建ての間取りが映し出される。

 

「これは今回拠点として使う予定のキルハウスの見取り図だ。これは今日中に各チームに配布する。紅白戦のルールはシンプルだ。1チームはこのキルハウスをセーフハウスとして立て籠もる、1チームはこの拠点を制圧する、残る1チームは見学だ。使用する武器は訓練用の物を使用する。ただし今回の訓練そのものは実戦と同じとする、無茶以外は何をしても構わん」

 

そう言うとスクリーンが切り替わり、『想定内容』と大きい文字が現れる。

 

「対象の拠点内には目標物(パッケージ)であるアタッシュケースがある。防衛側はこのアタッシュケースの移送と護衛が任務だ。現在は中継地点であるこのセーフハウスで30分ほどの滞在後部隊と合流、出発する予定だ。対する攻撃側はこの目標物(パッケージ)の破壊が任務だ。護衛部隊がこのセーフハウスに短時間滞在することを情報部門が掴み、ここで仕掛けることになった。先ほどの見取り図は各陣営の情報部門が提供したものとする」

 

目標物(パッケージ)はアタッシュケース

・防衛側はこれの防衛

・攻撃側はこれの破壊

と箇条書きのスライドが提示される。

 

目標物(パッケージ)の護衛部隊には、セーフハウスで襲われる可能性を事前に本部から知らせを受けている。増援部隊の派遣も決まったが、到着には30分ほどの時間を要する。攻撃側も同様に、30分ほどで敵の増援が到着することは情報部からの情報で知っている」

 

・味方(敵)の増援は30分後に来る

と箇条書きが追加される

 

「セーフハウスの場所は紛争地域の国境沿いにある。治安は悪く、移動都市等の警察や軍による組織的介入は考えにくいだろう。だが目立つ行動をすれば正規軍やゲリラに巻き込まれることが予想されるため、展開する部隊規模は少数に制限される」

 

スライドが切り替わり、航空写真に国境と紛争地域を示す斜線が描かれている。斜線の部分の一部に赤点がある、そこがセーフハウスがあるとされるポイントのようだ。

 

「護衛部隊はこの地域で目立つのを避けるため、セーフハウス以外で増援部隊と合流することは禁止されている。また目標物の破壊を目的としている攻撃側も、増援が来る前に目標の達成と撤収ができなければ騒ぎになることが予想される」

 

スライドは再び白地の画面にキルハウスの間取りを映す。

 

「先も言ったが今回の訓練は実戦と同じとする、無茶以外は何をしても構わない。情報についてはここで出した想定内容のもの以外はない、以上だ。質問は」

 

話し終えたスネークは、各部隊長に視線を送る。行動予備隊の2人は必死にとったメモを見返している。

 

「質問よろしいですか」

 

一方でジェシカはスネークの方を見てスッと手を挙げ立ち上がる。

 

「構わん、なんだ」

 

「訓練の想定内容では、このセーフハウスの見取り図は情報部が提供したものと説明がありましたが、攻撃側はこのセーフハウスは初見として、防衛する部隊はこのセーフハウスを普段から利用しているものとして考えていいんでしょうか?」

 

「……いや、先も言ったがここは紛争地域だ。防衛側の部隊も普段からこのセーフハウスを使っているわけではないだろうな」

 

「では、両陣営とも初めて使う場所という考えでよろしいですか?」

 

「ああ、そうしてくれ。他に質問は?」

 

ジェシカはどこか納得したように席につき、素早くメモをとる。

 

「はいっ」

 

「確か名前は……フェンだったな、なんだ」

 

「えっと、私たちは徒歩で移動しているんでしょうか?」

 

「防衛側、攻撃側共にそう考えてくれて構わない。もっとも増援部隊は車両でやってくるものとする。外に遮蔽物は無く、脱出手段も逃亡手段も無いと考えてくれ。他には無いか?……なら俺からの説明は以上だ」

 

部屋の明かりが点き、プロジェクターの電源が落とされ、ドーベルマンが再び前にでる。

 

「今日はこれで解散だ、訓練は09:30から開始する。各自、必要な準備は怠るな」

 

「「「はい!」」」

 

「よろしい、では解散だ!」

 

ドーベルマンの声に合わせて、3人は立ち上がり礼をする。ドーベルマンはそれに応えると、他の教官を連れて足早に部屋を出ていく。

 

「ジェシカ、あとで俺のところに来てくれ、射撃場にいる。訓練に関してはフランカやリスカムに話してある、バニラには追って伝える」

 

「わ、わかりました!」

 

「おう」

 

スネークはそれだけジェシカに伝えると、彼女の肩をポンっと叩き、教官たちを追いかけるように部屋を出ていった。部屋の中には、フェン・メランサの2人が残っていた。

 

「ん、改めて久しぶり、ジェシカさん」

 

「お久しぶりですフェンさん、メランサさんも元気そうで良かったです。行動予備隊の隊長になったんですね!」

 

「は、はい、ドーベルマン教官をはじめ、他の教官からも薦められて。隊長としては、色々足りないところだらけです」

 

「そうだったんですね。けど、メランサさんならきっと良い隊長さんになりますよ!」

 

「そ、そう?」

 

「そうだよ、メランサはよく隊のメンバーのことも見てるし、戦闘でも周りの様子を見ながら指示出してるんだから、もっと自信持って大丈夫だよ。私だって隊長としてはまだまだなんだから」

 

「けどフェンさんは、A1のみなさんを率いてすごいですし、ドーベルマン教官からも色々と教わって、とても頑張ってますよ」

 

「いやいや、私はまだまだだよ。クルースはすぐにサボってどっか行っちゃうし、ラヴァも隠れるの上手だし……」

 

「あー、私時々クルースさんを見かけますけど、あれってサボりだったりするんですかね?」

 

「んー、正直そうじゃ無い時もあるし、なんだかんだやる時は真面目にやるんだよね。……頼もうと思うといつの間にかいないのがザラだけど」

 

「そ、そうなんですね。けどみなさん元気そうでよかったです」

 

「ん、そうだ!せっかくだし、ちょっと早いけど3人で食堂行かない?私はこの後はみんなに訓練の内容を伝えるくらいで、訓練は無いからさ」

 

「あ、いいですね。私もスネークさんに話があるって言われたくらいでこの後は特に何もありませんし……メランサさんは何かありますか?」

 

「ううん、私も今日は何も」

 

「じゃあ決まりっ、久しぶりにジェシカさんともお話したいし、あの男の人の話も聞きたいしね」

 

「あの男の人ってスネークさんのことですか?」

 

「うん、インストラクターさんって言ってたけど」

 

「あっ、私も、気になります、CQCのこととか」

 

「そうですね……正直、スネークさんのことについては私も詳しくは知らないんですけど、それでもとても強い人なのは確かです」

 

「BSWのインストラクターさんだから、そりゃあ実力は折り紙付きだよね」

 

「あっいや、名目上はそうなんですけど、実はフランカさんがスカウトしてきた、みたいなんです?」

 

「え?フランカさんが、ですか?」

 

「あ、そういえばメランサはフランカさんに剣術教えてもらってるんだっけ?」

 

「うん、フランカさんから誘われて、ドーベルマン教官も許可してくれたから、時々教えてくれてる」

 

「そうだったんですか。けど、私が聞いた話だと、フランカさんがBSWにスネークさんをスカウトしないか提案したそうなんです」

 

「ふーん……とりあえず、食堂行こっか!」

 

「そうですね、お二人からも色々とお話聞きたいですし」

 

「じゃあ行こ」

 

そう言って3人は訓練室に設けられたブリーフィングルームを後にする。三者三様の性格ではあるが、その足取りは揃って年相応の女の子らしく、軽く明るいものだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

艦内の狭い廊下にカンカンと固い足音が3人分鳴り響く、その後ろからタッタッタッと駆けてやってくる音が重なり、声がかかる。

 

「いよいよ来週からだな、よろしく頼む」

 

「いつジェシカに伝えるつもりだ?」

 

「この後だな、1週間の準備期間があれば十分だろう」

 

「彼女にそれだけの能力があるのか」

 

「あれは極端までに自信がないだけだ。状況判断と視野の広さ、極度の緊張下でも僅かな変化に気づくほどの感度の良さ。部隊を率いるには十分な能力を持っている。今までは活かせなかっただろうがな」

 

「私から見たジェシカはBSWの訓練の成果をまるで活かせていない新兵だったが……」

 

「確かにまだ実践経験の未熟な兵士だ。だがあれは大きく化けるぞ。なに、来週にもハッキリわかるさドーベルマン。それに、行動予備隊の連中も何かしら感じるだろう」

 

そう言いながら、スネークはドーベルマンの隣に並ぶ2人の教官の方に顔を向ける。

 

「おたくらも来週の訓練には参加するだろう?改めてよろしく頼む」

 

「あ、ああっ、こちらこそよろしく」

 

「いやぁジェシカちゃん凄い成長しましたね!よろしくどうぞ」

 

二人の教官は、それぞれの反応を示しながらもスネークの握手にガッシリと応える。どうやらスネークに対して悪い印象は抱いていないようだ。

 

「ロドスの実力がどのくらいのものなのか、ぜひ見せてくれ」

 

「もちろんだ。もっとも実際に実力を発揮するのは教え子たちだがな」

 

ドーベルマンがスネークに対してハッキリと"教え子"と言うと、目の前にいる2人の教官は苦笑いし始める。どうやら彼女の"教え子"という言葉に反応したようだ。

 

「ん、おたくら2人も彼女の教え子なのか?」

 

「アハハ……そうなんです。ロドスが創設された初期の頃、指導教官はドーベルマン教官だけでしたから」

 

「バ、バレました?」

 

「ああ、顔に出ていたぞ」

 

「あはは……面目ない」

 

「なんだお前たち。私はあくまで実力を発揮するのは教え子たち、と言ったまでだぞ?」

 

2人の教官は居心地悪そうに、対するドーベルマン教官は意地悪そうに、笑っている。そりゃあ確かに、来週の訓練に参加するのは行動予備隊の面々でありここにいる教官たちではない。だが、行動予備隊の面々を主に指導しているのはドーベルマンとその教え子たちだ。

訓練の結果は、行動予備隊の実力であると同時に、教官たち教え子の成果でもある。半端な結果となれば、その責任は自ずと"教え子たち"のものなのだ。久しぶりに感じる訓練独特の責任と緊張感に気が引き締まると同時に、鬼教官殿に少しだけ怯えるのも無理はない。

 

「なに、目的はあくまでチームとしての作戦遂行能力の向上と評価だ。こっちはおたくの部隊を借りて訓練ができる、そっちは日頃の訓練の成果を実戦に近づけた形で発揮できる機会が得られる。特別なことは何もないさ」

 

「そうですね、いつも同じメンバーで訓練しているだけでは限界がありますし」

 

「個人の実力はだいぶ仕上がってるんですけど、チームとなるとまだねぇ」

 

「そのための訓練だろ。当日はよろしくな」

 

軽く手を前に掲げて3人に挨拶すると、スネークは彼らを追い越し廊下の先へと消えていった。

 

「……私たちも訓練に向けて準備をするぞ、勝ち負け以上に実力をどれだけ発揮できるかが重要だ」

 

「ですね」

 

「訓練までにまだ時間もあるから、集団戦の訓練を中心にしておきます」

 

「細かいところはお前たちに任せる。……ところでグレース、顔に出てたとか何とかと言われていたが?」

 

「アハハ、いやぁドーベルマン教官から教え子と言われるとついっ」

 

「そうか、あまり顔に出やすいのも問題だな」

 

「善処します!」

 

「私はドクターのところに用がある、何かあれば執務室にいるだろう、ではな」

 

ドーベルマン教官はスタスタと"教え子"2人に来週に向けての訓練内容の詳細は任せ去っていく。

 

「さーて……いっちょやりますか!」

 

「グレース、もう少し真面目に……いやまあ良いけども」

 

「お前は真面目すぎるんだよファロン、教官も言ってたぞ。『メランサが真面目すぎるのも考えものだ』ってな」

 

「それを言うなら、『フェンが真面目すぎるのはグレースを見てるからか……』とか悩んでたぞ」

 

「ウッソだろお前」

 

「ああ嘘だ」

 

「っこの野郎」

 

「なんだ、もう少し見本になるような教官になれば良いだろう?追いかけるべき背中を見せることが教官としての存在意義だのなんだの、お前よく言ってるだろ」

 

「そうだな。まだまだヒヨッ子たちには成長してもらわなきゃ困るわけだし」

 

「……まあ、ドーベルマン教官やあのBSWの教官からすれば、俺らもヒヨッ子なんだろうけどなー」

 

「あー、なんかめちゃくちゃに強そうだよなあの人。眼帯つけてるのに銃を使うんだろ?加えてあの格闘戦の技術、凄いよな」

 

「……正直どう思う?」

 

「ん、何がだよ」

 

「あのスネークって人、お前は倒せるか?」

 

ドーベルマン教官にしごかれ、同じ部隊で同じく前線のオペレーターとして活動してきた同僚が、そんなことを質問する。少し考えたフリをして間を置いたあとに質問し返す。

 

「そう言うお前はどうなんだよ。というか、格闘戦ならお前の方が俺よりよっぽど得意だろ」

 

「……たぶん、正面切っての戦闘なら勝てるとは思う」

 

「ほーん?その心は?」

 

「あの人が正面切っての戦闘を仕掛けてくるって前提が必要だってこと」

 

「あー……無いな」

 

同じようにロドスで狙撃教官を務め、昔は同じくしごかれていた同僚のことが頭に浮かぶ。銃を得物にしているのに、剣を持っている相手に真っ向勝負を仕掛けてくるやつがいるか、という話である。神出鬼没の同僚は弓だが、いずれにせよ剣の間合いにノコノコ近づくような奴ではない。

 

「それに、仮に近づけたとしてもあんまり戦いたくない」

 

「まあな……ジェシカちゃん、あんなに強くなってんだもんな」

 

彼ら2人は、戦闘や知識の実力が高ければ他人に教えるのが上手い訳では無いことをよく知っている。個人としての能力が抜きん出ていないものの、教官として素人を一人前の戦闘オペレーターに仕上げる鬼教官の例を知っている。そして、個人としての実力はピカイチであり、ロドスのエリートオペレーターであっても、アーツについて『そんなに難しいことじゃないよ。両手を叩くと、間の空気は押し出されるから。そういうこと』と説明する例も知っている。

 

「上には上がいるってのはロドスにいるとつくづく感じるけど……正直あんな教官がいるなんて想像もしなかったわな」

 

そんな実例と実体験を踏まえても、2ヶ月という期間で、弱気だった1人の新米狙撃手を銃を扱う1人前の戦士に変えるのは尋常ではない。ジェシカと同じような性格であるメランサを、同じように鍛え上げられる教官は少なくともロドスにはいない。

もっとも、別人である以上細かな条件は異なるので、単純にメランサとジェシカを比較すること自体間違えているが、それでもジェシカをあそこまで成長させることができる人材はロドスにはいないだろう。

 

「そうだな。けど、いちいち気にしていても仕方ないだろ。今は来週に向けてできることやるだけ、そうだろ?」

 

「だな! ならA1のみんなに向けて資料用意しておくわ、そっちの分も刷っておくか?」

 

「ああ頼めるか」

 

「あいよ、じゃあ午後に持っていくわ」

 

「よろしくな」

 

「おう」

 

外部の部隊と訓練するなどそう無い、何より実戦を想定した訓練ともなればなおさらだ。訓練に参加する教え子たちが万全を期して臨めるよう、ロドスの教官たちも合同訓練に向けて本格的に動き出した。

 




何かご意見やご感想がありましたら感想欄にて教えて頂けると作者の励みにも参考にもなります。
何かありましたら感想欄にて教えて下さい
m(_ _)m。

※書籍化と言っても、『二次創作小説として本にするよ』って意味です
 出版社とかじゃないですm(_ _)m
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