Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
4月5日 PM 04:01 ロドス本艦 深層フロア 格闘訓練室
週末に控えたBSWとロドスの行動予備隊による合同訓練を控え、ジェシカはBSWの全員と最後の練習を行なっていた。
キルハウスの入り口のドアに静かに近づき、リスカムは中腰になりドアに向けて盾を構えて報告する
「ポイントエリアに到着」
「手筈通りに行きます。合図と共に屋内検索、バニラは私と一緒に来てください」
しかし5日ほど前、ロドスの行動予備隊との合同訓練をジェシカに説明したものの、その場ではまだ本人が自覚していないことがあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
5日前
「……以上が訓練の概要だ。訓練の想定内容の詳細は今回のチームリーダーのジェシカに聞け。資料も渡してあるからな」
「はいっ、わかr・・・え!?わ、私がリーダー!?」
「何をそんなに驚く。BSWは個人の能力だけじゃなく、集団としての能力も評価するんだろ。何よりお前のための訓練だ、この訓練ではお前が全ての指示を出せ」
ロドスに派遣されているBSWの面々を集め、週末に合同訓練を行うことを簡単に伝えた後、スネークはあっさりとジェシカがリーダーを務めることを伝えた。もっとも、当の本人からすれば重大な事実なのだが。
「え、あっ、えっと、私が指示を出して良いんでしょうか……?」
「当たり前だろう、これは訓練だ。何よりお前らは軍隊じゃない、階級や年齢だけで指揮官は決まらんだろ。それに戦場では指示系統の混乱なんざよくある話だ」
「そ、そうかもしれませんけど……」
「フランカやリスカムの方がお前より経験も実力もあるかもしれんが、お前より偉い存在ってわけじゃない、同じチームだ。お前が指示を出すことにこいつらも不服は無いだろう」
スネークがベテランオペレーターである2人に目線を送ると、2人ともまあね、と言わんばかりに頷いた。
「普段と変わらない、違うのは誰が最初に指示を出すかだけ。私たちもサポートもする」
「そうそう、何よりリーダーだからって緊張する必要無いのよ、リーダージェシカ?」
「そ、そう言われると余計に緊張しますぅ……!」
あうあうとたじろぐ彼女を見て、先輩2人は『やれやれ』という反応をする。まあ無理もない、正直先輩2人もジェシカにこのメンツで指示出しができるのか、と思うところがある。
チェルノボーグ事変の際はロドスの行動予備隊を率いていたものの、あれはしっかりと兵士としての基礎訓練を修了した新兵を、下士官が統率していたのに近い。だが今回は2人のベテラン、研修中の新人という玉石混合のメンツだ。条件があまりにも異なる。
「他者を守るには周りを率いる能力も必要だ。今のお前にはそれができる、訓練でそれを示せ」
「……はいっ」
だがスネークの言葉にジェシカは先ほどまでの落ち着きの無さはどこかに消え、キリッとした顔で返事をした。そのことにフランカは、この2ヶ月でのジェシカの成長を感じた。
「まっ、ジェシカがリーダーっていうのはバニラからしたら不安かもね?」
「え!?いやっそんなことありませんよ!ジェシカ先輩は普段は頼りないですが、いざって時は誰よりも冷静です!」
「だそうよ〜ジェシカせんぱーい?」
「……みなさんいじわるしないでくださぁい〜」
フフンっとフランカは笑う。成長は確かに感じるが、弄ると面白い反応をするのは相変わらずのようだ。
「……さて、俺から伝えることは以上だ。訓練の想定内容についてはジェシカから聞け。明日から実際に訓練だ」
「わ、わかりました」
「よし、なら今日は解散だ。飯食って明日に備えろよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「バ、バニラちゃん、そこで──」
「指示はハッキリ命令しろ!伝わらなければ戦場で死ぬ」
「はっハイッ……バニラ、そこで待機を」
最初は指示出しの声が出ない、ハッキリと命令を出せないといった基本中の基本ができなかった。部隊に対して指揮命令を下すには、自分はもちろん部隊全体、そして敵や周りの環境の状況を見定めた上で的確な指示を出す必要がある。
「リスカムさん先行をして下さい、その後ろにみなさん続いてください」
ジェシカは周囲の状況把握能力に人一倍優れていたが、指示出しは出来ていなかった。ベテランの2人がさりげなくカバーし、ジェシカの指示に応えていたが、それでも訓練ではボロがでる。
「あっ」
進行中にバニラがジェシカの射線に被ってしまったり
「状況中止、全員その場で止まれ」
「わ、私何かミスをしましたか……?」
「確認だ、あそこの部屋はクリアリングをしたのか?」
「えっと……あの部屋に繋がる通路を抑えるようリスカムさんに指示を出しました」
「なら今、誰がこの通路を抑えているんだ?」
「え?」
スネークが指差す方を見ると、通路にいるはずのリスカムがその先にある部屋の中に入っていた。ジェシカの指示を聞いたリスカムが指示とはすこし異なる行動をとった結果、クリアリングやチーム同士のカバーが取れなくなっていた。
「とりあえず今日の訓練は以上だ、今日の反省は明日に活かせよ」
「はいっ!」
スネークがジェシカに施したのはただ1つ、『堂々と命令してやれ』ということだった。使う言葉がたとえ弱くとも、態度に責任が伴ってさえいれば戦場で指示は通る。仲間を鼓舞し全員を引っ張ることだけがリーダー像ではない、ジェシカには仲間を支えるリーダーが似合うだろう。
「……さて、ジェシカを鍛え上げるのが俺の仕事だ。そのためにはお前たちにも協力してもらう必要があるわけだ」
そしてチームとして機能するにはベテラン2人の協力も欠かせない。この日、リスカムは指示とは異なる行動を取った。
「さっきのは……私のミスでした」
通路だけを抑えるなら、部屋まで抑えて射線を確保した方が良いという考え自体はスネークも理解できる。だが、あの場でチームとして指揮命令を下すのはジェシカだ。
「あの場のお前個人の判断自体は理解できなくもない。だがチームとしてはただの独断専行だ」
ジェシカがこの場にいるBSWをチームとして率いるには、ジェシカ本人だけでなくベテランへのテコ入れもある程度必要だとスネークは考えていた。戦場では、良かれと思ってやった事が良い結果をもたらす訳ではない。特にリスカムは射撃に関してジェシカを教えていた思い入れが強いだけに、何かしら問題が起こりうるのは予想できていた。
「まっ、ジェシカの助けになりたいって気持ちもわからないでもないけどね」
この点に関しては、フランカの心配はしていない。彼女は軽口を叩きはするが良く人を見ている、何が必要で何が余計な事なのかよく弁えている。
「リスカム、フランカ。お前たちがどうジェシカを捉えているかはしらんが、彼女も戦士の1人だ。いつまでもただの可愛い後輩ではないからな」
だがリスカムも真面目で、指摘された事であればそれが嫌いな相手であろうと聞く耳を持つタイプだ。スネークが言ったことも、彼女なりに理解することができるだろう。こうして、数日間の訓練でスネークはジェシカ本人をはじめベテランにも介入していき、ジェシカはチームとして仲間に命令することはできるようになっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そして現在、まさに最後の仕上げにかかっていた。
ジェシカがキルハウスに設けられている窓に銃口を向けながら簡潔に指示を出し全員がそれに頷く。リスカムを先頭にフランカ、ジェシカ、バニラの3人が壁に張り付いた。
「フゥ……Move」
普段よりも低く、静かな声でジェシカが合図を出す
それに合わせリスカムが立ち上がり、静かにドアを開ける
ドアを開けるとすぐに玄関のように少しだけ広がったスペース
その先には短い廊下が続く
部屋は2つ、右とその先の左側にドアがある
廊下の先は上へ続く階段と左右に広がるであろう通路が見える
入り口に罠の類が無いことを確認し、リスカムが屋内へ侵入する
その後ろにフランカ、そしてジェシカ、バニラと続く
リスカムが盾と銃を構え右にあるドアに近づく
ジェシカはフランカの右肩を2回タップ
『右に入れ』とサインを送る
フランカは振り返ることなく左手で『了解』のハンドサインを送ると、リスカムの背中に手を添える
パートナーの気配を確かに感じながら、リスカムが右のドアを開けクリアリングを始める
フランカはクリアリングする相棒の動きに完璧に合わせながら後ろに続く
右の部屋をクリアリングしている間、ジェシカは通路に銃口を向け、バニラは玄関付近に注意を向けて部隊後方の警戒にあたる。
ドアからリスカムがハンドサインで『クリア』と報告、部屋のドアから盾と銃を構えジェシカたちをカバーする
報告受けてジェシカはバニラに先行するようサイン。バニラは頷き、ゆっくりと歩き出し通路を左に寄りながら進行、後方の警戒をフランカが代わる。バニラの右後方でジェシカは銃を構える。さらにその後ろの右の部屋からはリスカムも銃を構え、火力でカバーをする。
バニラが左側にあるドアの手前で止まると、ジェシカが彼女の左肩を2回タップ
その合図にバニラは頷き、ゆっくりとドアを開け一歩後方に下がる
スイッチするようにジェシカがさっと前に入り、パイを切るように通路から部屋の中のクリアリングをはじめる。入り口付近に脅威がないことを確認すると、リスカムとアイコンタクト、盾を構えながら通路を進行させ先にある階段と左右に分かれる通路を抑えさせる。フランカが再び盾の後ろに続き、バニラが後方の警戒に戻る。
スネークは、そんな訓練に取り組む彼女らから距離をとり、キルハウスの玄関付近からチームとしての動きを観察する。ここ数日で動きはだいぶ良くなった。なにより、ジェシカの意識の変化が大きいだろう。
「一階クリア」
指示の内容や現場における視野の広さ、何より状況判断の能力についてはスネークが口を挟むところはない。BSWも面々も、ジェシカの指示によく応えている。ベテラン2人はもちろん、バニラもチームを構成する一員として役割を果たせるようにまでになり、常にツーマンセルを維持しながら後方へのケアも保てるようになった。
「クリア」
「「クリア」」
「バニラは一階で待機、リスカムさん階段の先行を」
「了解」
一階の制圧が終わり、二階へと取り掛かる。一名だけ残すのは増援が来た時の対策だろう。敵拠点での活動の場合、例え隠密作戦であったとしても任務遂行中に増援が来ることは十分予想される。
例え潜入がバレていなくとも、敵がタバコを吸いがてら休みに対象の元にフラッと訪れるかもしれない。スネーク自身も敵地でタバコや酒、雑談をしにやってくる兵士をよく見かけた。例え事前にパトロールの巡回経路や兵士の交代時間、ターゲットの普段の行動を完璧に把握できたとしても、実際に何が起きるかはわからない。ジェシカやBSWの面々は、そこまで想定して訓練に臨んでいた。
「──オールクリア、……状況終了です」
総括として、五日間の間で作戦遂行が可能なレベルにまでには"ジェシカのチーム"は仕上がった。あらゆる状況下で、それなりにやっていけるだろう。あとは合同訓練でどれだけ動けるかを評価し、それを踏まえて彼女自身が鍛えていけば良い。
「よし、だいぶ動きが様になってきたな。あとは訓練で成果を見せることができれば上出来だろう」
「が、頑張りますっ」
「そう気張るな。お前はリーダーとしての役割を果たせば良い、他のメンバーもそれぞれの役割を果たすだけだ。ここにいるメンツは役割を果たす能力は十分にあるんだからな」
そうスネークが言うとフランカとリスカムが力強く頷き、バニラはやや緊張しながらもジェシカの方を見てウンウンと首を縦に振っている。バニラはいまだ新人ではあるものの、作戦を遂行するだけの能力を持っている。合同訓練でも十分実力を発揮することができるだろう。
「明日は休みだ、明後日の合同訓練に備えておけよ」
それからスネークはBSWの4人に連絡事項を伝えると、彼女らを背にキルハウスを後にする。すでにジェシカには一流のシューターの技術と知識を与えた。彼女の弱点である心の弱さはCQCで補った。あとは実力を発揮するだけだ。
「わかりました、今日もありがとうございました!」
「おう、じゃあな」
自分で言うのもなんだが、この2ヶ月でジェシカは大きく変わった。ドーベルマンはロドスの行動予備隊の面々に良い刺激になると言っていたが、それ以上の効果が何かしらあるだろう。訓練当日のジェシカの動きや周りの反応が楽しみだ。
訓練室の分厚い扉を開け、艦内の階段を登りハンガーを目指す。今は夕刻だが、いつもの場所であれば誰に迷惑をかけることもなく葉巻を吸うことができる。先月ジェシカに確認したところ、BSWでロープ降下やラペリング技術は一通り教わったらしく、ロープやカラビナ、ハーネスといったラペリングに必要な装備一式は持っているとのことだった。
そのため契約内容を遠慮なく活用し、ペンギン急便にラペリングの道具一式を注文した。BSWから支給された端末で、エクシアからもらった金ピカの名刺に書かれた電話をしたところ、『こちらペンギン帝国、なんの様だぁ?』と男の声でめんどくさそうな対応をされたが、すぐにエクシアに代わってもらえた。
無事注文はでき、今日の夕方には届けると連絡があったので、ハンガーで道具一式を受け取った後、甲板のいつもの場所で葉巻を吸うついでに道具の具合を確認する。いまの時間なら夕日ではあるものの安全確認はできるだろう。ハンガーに向かうには別の階段を登るため、一旦廊下をまっすぐ進む。
そこでふと思う
"彼女"も同じように楽しんでいたのだろうか
「……悪くは思ってないと思うがな」
自分は"彼女"とは違う選択肢を、理想を選んだ。あの理想は、銃を捨てて歩むことは今までの人生そのものすらを否定するに等しい。だが生き残った者たちは、遺された者たちは歩み続ける以外の選択肢は無い。
であれば
「俺は俺の道を歩む、それだけだ」
あの湖であのAIが沈むのを見届け決意したことを思い出しながらも、スネークは今後の予定を頭の中で組み立てる。
「…………ぃ」
とりあえず、合同訓練が終わったあとはラペリングを用いた戦術を仕込む予定だ。その後彼女はBSWで人事査定という名の技能評価を受ける。今のジェシカの評価はB相当、それをAにしろというのがBSWと交わした契約だった。スネーク本人はBSWがどんな査定をするかは知らなかったが、今の彼女なら問題なくいまよりも上の評価を得られると確信していた。
「──おい!」
「ん?」
そんなことを考えて歩いていると、急に背後から声をかけられた。聞こえていない訳ではなかったが、どうやら自分に対して声がかかっていたようだ。声がした方を振り返ると、そこにはいつか過呼吸を起こしていた赤メッシュの少女、その後ろで少し申し訳なさそうにスネークを見ている片眼鏡をかけた学生が立っていた。
「ああ、お前はいつかの──」
「あ、あの時は……助かった!それだけだ!!」
それだけ言うと、赤メッシュの少女は廊下をダッと駆けていき、そのまま消えてしまった。その場に通りがかった者は、何が起きたのかと一瞬スネークや走っていった少女の方をみたが、特に何事もないとわかるとそのまま歩き去っていく。残された学生は、さらに申し訳なさそうにスネークに顔を向け軽くお辞儀をした。
「いきなりすいません。ソニアは……先月からずっと、あなたのことを探していたんです」
「そうか、それにしては急に現れて急に去っていったな」
「彼女はなんというか……一見すると荒っぽいですが、本当はキチンとお礼をしたかったんだと思います。そうじゃなければ彼女も一ヶ月近く、探し続けたりしないハズですから」
「俺からみれば、年相応の照れ隠しに見えたがな」
「ふふっ、私もそう思います」
スネークの言葉につられて少女は笑う。パッと見るとあの少女がリーダー格のように見えるが、実際にはこちらの学生の方があの少女より一回りか二回りほど上手なのかもしれない。いずれにせよ、思春期らしい反応だろう。
「俺を探してたのは、わざわざ礼を言うためか?」
「あの反応を見る限りそうだったんだと思います。もっとも、私も彼女に聞いたんですが一向に理由は話してくれなかったので、本当の理由は違うかもしれませんが」
「なるほどな。ま、元気なら何よりだ」
アレだけの発作なら、1ヶ月やそこらで治るものではないだろうが、生活を送れているならひとまず良しといったところだろう。
「……あの」
「ん?なんだ」
「よろしければ、あなたがよろしければですが、名前を伺ってもよろしいですか?もしかしたら彼女がまたあなたを探すかもしれないので。また1ヶ月も探すのは大変ですから」
「ふむ、俺はスネークだ。傭兵をしているが色々とあってな。今はBSWに雇われてここでインストラクターをしている」
「……ロドスのオペレーター、ではなかったんですか」
少しだけ、目の前の少女の瞳が大きく見開かれる。どうやらスネークがロドスの所属だと思っていたらしい。まあ意外と言えば意外だろう。
「ここには今のところたまたまいるだけだが、ある意味勉強中だ、そういう君の名前は?」
「私は……アンナです。ウルサス学生自治団に所属しています」
「学生自治団?学生の集まりがあるのか」
「はい。自治団と言っても5人の集まりですけどね」
「ふむ……もし俺に用があるなら俺の部屋にでも来てくれ、場所はBSWの連中がいる区画だ。わからなければ、訓練室か射撃訓練場にいる連中に聞けばすぐわかるはずだ」
「わかりました。わざわざありがとうございます」
「構わんさ。何かあるとは思わんが、頼りたいことでもあればいつでも構わんと君から彼女に伝えておいてくれ」
「はい、部屋に戻ったら伝えておきます」
「ああ、
「! ……
最後にスネークがかけた言葉に、先ほどよりも驚いた表情を浮かべた後、彼女は返事をしてぺこりとお辞儀をすると、赤メッシュの少女が駆けて行った方へと歩いて行った。
「……さて、物を取りに行くか」
思いがけない挨拶をされたが悪いものではなかった。むしろ少し時間を潰せてちょうどよかったかもしれない。スネークはハンガーを目指してまた歩きだした。
遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
前回、『書籍化』という文字を使ってしまいましたが、『同人誌』という言葉を使った方が正しかったですm(_ _)m
いずれにせよ、大学卒業の記念に紙の本を出そうと思っておりますので、
明日Twitterの方で説明させて頂きます。
それでは、何かご意見やご感想がありましたら感想欄にて教えて頂けると作者の励みにも参考にもなりますので、
何かありましたら感想欄にて教えて下さい
m(_ _)m。