Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■   作:daaaper

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PM 16:27 ロドス艦内 ハンガーB 資材搬入区画 

 

あと1時間もすると日が沈み夜が訪れるこの時間、ロドスのハンガー内は忙しなく物資に人、フォークリフト、さらにはドローンが空中を行き交っている。毎日大量の物資を仕分けるこの区画において、物資の搬入はもちろん定期集荷の最終便も重なるこの時間帯は一つのヤマであり、働くものからすれば──

 

「これ上コンベで流します!?」

「それダメ!中身液体!」

「じゃあ下ですね!」

 

「ハーマイル!そのカーゴこっちじゃなくてハンガーAだわ!」

「うっそ!?向こうに連絡つけます!」

「日が暮れるから急げよぉ!」

 

「集荷物はこれですね個数は……24口?」

「はい、24です」

「じゃあ数えますね」

 

「この建築資材どうします?もう入りませんよね」

「まぁすぐ必要になると思いますけどね」

「確か甲板のコンテナ、昼間に空けたよな」

「じゃあドローン飛ばしますか」

 

ここはまさに戦場である。

そんな騒がしいハンガーにたどり着いたスネークは、無骨に『中央集積所:事務所』と書かれたプレハブ小屋に向かう。16時半すぎであれば、時間帯的には荷物が届いても良い頃合いだろう。事務所で確認してまだ届いていないようであればまた待つのも良い。MSFにいた時も、暇なときは物資の搬入などを覗いていたが、ここはドローンまで飛んでいる。暇を潰すにはちょうどいい、そう思いながらハンガーの中を歩く。

 

「あなたがスネークか」

 

するとハンガー内で駐車していたジープのような車から声がかかる。みると灰色がかったインディゴの髪に犬のような耳がある女が車から出てきた。

 

「……今日は随分と声をかけられることが多い気がするな」

 

「違ったか?」

 

「いいや合っている。俺はスネークだが、おたくはどちらさんだ」

 

「ペンギン急便だ、あなた宛ての荷物を届けに来た」

 

「……ということは、あの金ピカの名刺は君のものか?」

 

「金ピカ?……いやそれは多分、うちのボスのものだ」

 

「そうか」

 

ということは、ペンギン帝国と名乗っていたあの男の声が彼女らのボスなのだろうか。不思議に思いつつも頼んだ装備品の状態の方が気になるため、彼女らのボスのことは頭の隅に置いておくことにした。

 

「それで、頼んだ物は?」

 

「ここにある」

 

そういうと女は車の後ろを開けると、中からボストンバックを取り出す。ラペリング装備一式を頼んだが、どうやら持ち運ぶためのバックも付いてきたらしい。

 

「向こうで手続きしてから受け取りか?」

 

「ああ」

 

「わかった、なら事務所に」

 

「ああ」

 

無愛想に返事をして女はスタスタと事務所の方に歩き出す、どうやらビジネスライクな相手らしい。ペンギン急便は愉快な集まりと思ったが、寡黙な従業員もいるようだ。彼女に続いてスネークも事務所の方へと歩く。

 

「手続きをしたあと、念のため中身の確認をしても構わないか?」

 

「大丈夫だ」

 

プレハブの事務所の前につきスネークが扉をあける。中はハンガーの中と同様に忙しなく動いており、物資の代わりに紙が行き交い、フォークリフトではなくペンがあちこちの机の上で走っている。受付は3つあり、テキパキと対応しているようだ。何人か列ができていたものの、入れ替わり立ち替わり列の人数は減りすぐに呼ばれた。受付に立っているのは以前対応してくれたフェリーンの男だ。

 

「やあポルポ、世話になるな」

 

「あらこんにちは〜、名前覚えていてくれたんですね。今日はなんの御用でしょう?」

 

「さっきそこでペンギン急便のと会ってな。荷物を引き取る手続きをしたい」

 

「これが荷物だ、伝票はここに」

 

スネークの後ろから女がサッとバッグと伝票を受付に置く。

 

「あっ、今日はテキサスさんでしたか。じゃあすぐ済ませちゃいますね」

 

そう言うと彼はコードを機械で読み取り、カタカタカタッと入力していく。

 

「ジェシカさん、どんな感じです?」

 

「だいぶ仕上がってきたな。明後日にロドスと合同訓練だ、彼女がBSWを率いて参加する」

 

「リーダーですか! いやぁ、ちょっと想像できないなぁ」

 

「俺も伝票を出したほうが良いか?」

 

「あっ大丈夫ですよ、コッチのシステムでまとめて処理しちゃうんで」

 

「そうか、それは助かる」

 

キーボードを打ち鳴らしながら軽く雑談を挟む。やはりジェシカがリーダーというのは、事務員である彼から見ても想像がつかないことらしい。

 

「窓口受け取りのメールが届くと思いますけど、そのまま受け取り完了のボタンを押してくれれば大丈夫ですよ〜……はい、これでOKです」

 

「ありがとうな」

 

「いえいえ、これが仕事ですから」

 

じゃあまたな、と彼に手で挨拶をすると手続きが済んだバッグをスネークは掴み、事務所を後にする。

 

「このまま中身の確認をしたい。甲板でやるつもりだが構わないか?」

 

「私は大丈夫だ」

 

「なら移動しよう」

 

受付で彼と話している間も後ろで静かにしていた彼女に確認を取り、ハンガーの搬入口へ歩き、外から階段を上がって甲板を目指す。

ラペリングにはロープとカラビナがあればとりあえずできる。あとはハーネスとエイト環があるとより安全かつ比較的楽にラペリングを実施することができる。もっとも、ラペリングは道具(特にロープ)を磨耗させることで安全に降下する技術のため、少しでも損傷がある場合は極めて危険になる。まさに命を預ける道具な訳だが、あちこち騒がしいハンガーの中では仮に商品が万全の物だったとしても傷付く可能性は十分にある、何よりロープを全て広げれば邪魔にもなる。

わざわざ甲板に移動することに何のためらいも無く頷いたあたり、このテキサスと呼ばれていた女もその事は知っているのだろう。

 

「そういえば確認したいんだが」

 

「ん、なんだ」

 

「俺がスネークだとわかったのはどうしてだ?」

 

甲板へと移動している途中に話を振る。少なくともスネークは彼女の顔を見た覚えはない。

 

「エクシアから特徴を教えてもらった。あとは一度だけ顔を見たことがあったからな」

 

「俺は会ったことがないんだが……」

 

「だろうな。ロドスの甲板でジェシカと一緒に走っていたところを一度見かけただけだ。その時は名前を知らなかったが」

 

「なるほどな」

 

たしかに、ジェシカに指導を始めた頃にロドスの甲板を走り込んだ後すぐに射撃訓練をしていた。ロドスに出入りしている配達業者ならば、スネークの顔を見たことがあるというのは理解できる。

 

「ちなみに彼女、エクシアは俺にどんな特徴があると言っていた?」

 

「眼帯にバンダナ、髭を生やして見るからに戦闘服を着込んでいるオジサン、そう言っていた」

 

「そうか……」

 

見事に特徴がまとまっている。それを聞いた彼女がどんな第一印象を持ったのか、男として気にせずにはいられなかったが、スネークは気にしないことにした。代わりに、『エクシア、もっと他に説明できることがあったんじゃないか……?』と心の中で呟く。そうこう話しているうちに階段を登り切り、甲板にたどり着く。

 

「……よし、中身を確認しよう」

 

「ああ」

 

周りにはチラホラと人やドローンが行き交っているが、ロープを広げても通行の妨げにならないスペースは確保できそうだ。スネークは甲板上の端に移動し、バッグを下ろし中身を拡げる。

中にはロープ、ハーネス、そして内ポケットにはカラビナ4つとエイト環が入っていた。まずはカラビナやエイト環に傷や割れが無いか、注文した通りの強度(kN)が保証されているかを確認する。

 

「こいつの強度はいくつだ?」

 

「注文通り24kNの物だ。36kNや40kN、もっと高い強度の物もあったがそれで良かったのか?」

 

「俺の身体はそんなに丈夫じゃないからな。コレ以上に強度があっても、落下すればあの世行きだ」

 

カラビナのスパイン部分には24kNと表記されており、【Raythean】という記載があった。

 

「確認したいんだが、これはなんのマークだ?」

 

「それはレイジアン工業の認証マークだ」

 

「そうか」

 

レイジアン工業は何かで読んだ記憶がある。確かBSWの本拠地があるクルビアの会社だったはずだ。ミサイルをはじめとした軍需産業を担うメーカーだと記憶していたが、カラビナなども扱っているらしい。ひとまず安心できる有名メーカーだろう。

そのまま物の確認を続けるがどれも傷は見当たらない、どれも問題なく使うことができるだろう、そのままハーネスも点検する。ベルトの毛羽立ち、切れ目、ほつれや焼き目が無いか、アタッチメント部分の擦り切れや変形が無いか、バックルの破損や機能に問題が無いか確認していくがハーネスも問題なさそうだ。

 

「サイズ的にも問題ないな」

 

「使い慣れているのか?」

 

「色々とやっていたからな。極地だろうが市街地だろうが、ロープがあれば何かと便利だからな」

 

もっとも、スネークが最も得意とするのは単独潜入であるため、できる限り痕跡を残さないようにするため、ロープなどの道具を使わず素手で登っていた。

降りる必要があれば他のルートを選ぶことがほとんどで、ハーネスはよく使っていたものの装備一式を使いラペリングをするのは久しぶりだ。

 

「あとはロープだな」

 

ロープはこの中で1番磨耗するため点検には1番気を使う。新品でも破断してることはままあり、それを見過ごせば訓練でも直接死につながる。それが戦闘行動中であれば自分だけでなく任務そのものに支障をきたす。注文したロープは30m、毛羽立ちやロープの収縮、変形、芯の状態を確認し柔らかい箇所が無いか確認していく。

 

「手伝うか?」

 

「点検方法は知っているのか」

 

「ああ、ロープは……何かと使うことが多い」

 

「そうか、なら頼む」

 

スネークが点検する反対側からペンギン急便の女もロープの点検を始める。確認すべきポイントは抑えているようで、指を使いロープを様々な方向に曲げながら具合を確認している。任せても問題ないことを確認し、スネークもロープの点検を続ける。両者共にその後何か話すわけでもなく淡々とロープの点検を続け、およそ真ん中でロープがピンと張り、視界の端に彼女の手が見える。どうやら彼女も半分ほど点検できたらしい。

 

「こっちは何も異常はなかった、そっちは」

 

「問題ない、ちゃんと使える」

 

「そうか」

 

そこでロープを張っている彼女の手をみる。両手に指先が露出されているグローブをはめているが、その指先は綺麗に手入れされている。さらに彼女の頭から足までをザッと見る。全身は着込んでいるものの服の素材は伸縮性に優れている。靴は動きやすいスニーカーでかつ、足首を保護するためかベロの部分は金具で固定できるようだ。

 

「……何か変か?」

 

「ああ、そうだな……なんというか、君は変だな」

 

「……どこが変だ?」

 

「少し待ってくれ……ああ、わかった、それだ」

 

スネークは脚には装着されたホルスターの様な物を指差す。

 

「エクシアは銃を持っていたが君は銃を扱う様には見えない、手先も綺麗だからな。全体的に動きやすい格好なのは運送業だから理解できる。だがその中途半端なレッグホルスターは作業の邪魔にならないか?」

 

「そう指摘されるのは初めてだが……これは私の武器だ」

 

「武器? カードの様にも見えるが」

 

「……これを持っていてくれ」

 

彼女はロープをスネークに渡すとレッグホルスターに手を伸ばし、カードの様だと言われた物を取り出す。周りを見渡し、近くに人や物がいない事を確認するとカードを握る。するとそこから突如光が伸び、カードのように見えた部分は柄になり、光は細身で鋒のある片刃のような実態を持って現れた。

 

「これは……サーベル、なのか」

 

「ああ、私が使っている源石剣だ」

 

「まるでビームサーベルだな」

 

「ビーム……?」

 

「こいつは刀身の長さも変えられるのか?」

 

「これは変わらない。変えられる物もあるかもしれないが」

 

「源石ってのは便利だな……試しに持ってみても良いか?」

 

「ん」

 

スネークは武器マニアの一面もある。銃火器はもちろん、ナイフやグレネードをはじめとした投擲物、装甲車やヘリをはじめとした兵器など、武器全般に精通しているタイプのマニアだ。流石に一流の専門家には知識は劣るものの、みたことのない物を見たら確認せずにはいられない。

 

刃をこちらに向けることなく、彼女はスネークに柄の部分を差し出す。スネークはロープを下に置き、手を開いて下から柄の部分を握り彼女から源石剣を受け取る。すると、スネークが柄を握った途端に剣が消え、カードの様な柄の部分だけになってしまった。

 

「ふむ、アーツをある程度扱えなければそもそも使うことが出来ないのか」

 

「そうだ」

 

この世界に来て間も無く3ヶ月が経つが、未だ知らない物が多い。特にアーツに関しては基礎だけは抑えているものの、その特性や効果は術師の数だけ多様性がある。未知の攻撃への対策も考えなければいけない。

 

「これならジェシカのナイフにちょうど良いかと思ったんだが、これは無しだな」

 

「彼女のナイフを探しているのか」

 

「ああ、BSWから支給されている物だと彼女には少し大きすぎるからな。ちょうどいいナイフを探そうと思っているんだが……」

 

フランカにナイフのことについて相談してみたが、クルビアならまだアテがあるものの、ジェシカに合わせたナイフを用意してくれそうな業者は知らないとのことだった。彼女が使うレイピアは自分で手入れしているらしく、ロドスからでも彼女が仲良くしている業者に連絡はつくものの、商品が届くのには時間がかかりすぎるとの事だった。

 

「ならロドスの鍛冶屋を訪ねてみたらどうだ?」

 

「鍛冶屋? ロドスには鍛治職人もいるのか」

 

「ロドスの中に武器整備を担っている職人がいると聞いたことがある。私は会ったことないが」

 

「そうか、ならドーベルマンあたりに今度聞いてみるか」

 

考えてみれば、ロドスのオペレーターもどこかで武器を入手・整備している筈だ。武器の管理を個人レベルで任せられるほど小規模の組織でも無い。協力関係であるとはいえ、外部組織であるBSWがロドスに武器の管理を預けるのは安全管理上考えにくいことから、フランカから聞いてもわからなかったのだろう。

 

「色々と助かった。ペンギン急便ってのは割と何でも屋なんだな」

 

「私たちの仕事は運ぶことだ。物を届けるのも戦うのも、何かを運んでいることに変わりはない」

 

「運ぶ、か」

 

「それを返してもらえるか」

 

「ああ、すまん」

 

トランスポーター、スネークはこの世界で物を運ぶ存在に少し興味が湧いてきた。しかし今は依頼をこなすことが先だ。自分の教え子が一人前になるまでは面倒を見るつもりだ。

今は剣は出ていないものの、念のため刃が出ていた方向をこちらに向けて、借りていた源石剣を彼女に差し出すと、彼女も手を伸ばしそれを受け取る。

 

「そういえば、エクシアとボスから伝言も預かっている」

 

「ん? なんだ」

 

スネークは下においていたロープを丁寧に巻きながら彼女の話を聞く。間も無く陽も沈み切るのだろう、赤く染まっていたロドスの甲板が段々と薄暗くなってきた。

 

「エクシアからはいくつか部品が見つかったけど時間がかかりそう、あとアップルパイはいつでも歓迎だ、と」

 

「ほぉ、パーツが見つかったか」

 

「そう言っていた。私は銃には詳しくないから、エクシアに直接聞いてくれ」

 

「わかった、それでもう1つのボスからの伝言っていうのはなんだ?」

 

30mあるロープを巻き取り、バックの中にカラビナやハーネスがキチンと仕舞われているか確認する。万が一取り残していたらラペリングができなくなる。

 

「それが、よくわからない」

 

「よくわからない? 伝言なんだろ、わからないも何もないだろう」

 

「まあそうなんだが、歌なんだ」

 

「歌? なんだ、おたくのボスはミュージシャンか何かなのか?」

 

「ああ、ボスは世界的なミュージシャンだ。クルビアでは知らない者はいないラッパーだ」

 

「……冗談で言ったつもりだったんだが……いや、おたくのボスがミュージシャンなのは良い。それなら別に歌が伝言でも不思議じゃないだろ。いや不思議ではあるが」

 

「うちのボスが何を考えているのかは、うちの社員でも完璧にはわからない。だが、みたこともない相手に歌を送るのは私の知る限り初めてだ」

 

「そんな大御所ミュージシャンの初の試みに遭遇できて嬉しい限りだな。それで、その歌ってのは?」

 

とりあえずカラビナやハーネスはきっちり揃ってバックにしまった。最後にロープをバックへ入れ込みファスナーを閉める。

 

「……メロディーまで再現できない、歌詞を読むだけで構わないか」

 

「ああ、それで構わん」

 

一方でテキサスは、歌詞を思い出すためか顎に手を添え、目線を左に向けるとボスから預かった"歌"を口ずさむ。

 

「……Grieve not little darling, my dying,(悲しむことはない、私が死にかけようとも) If Texas is sovereign and free(テキサスに主権と自由があるなら) We'll never surrender and ever with liberty be(我々は決して降伏しない、永遠に自由である) Hey Santa (おい サンタ)……すまない、これより先は思い出せないんだが──」

 

「──Hey Santa Anna(おい サンタ・アナ) we're killing your soldiers below!(下で兵士を殺してるんだぞ!) That men, wherever they go(男たちはどこへ行こうとも)…… Will remember the Alamo(アラモを忘れない)、違うか?」

 

「確かそんな感じだった。知ってる曲なのか?」

 

「ああ……よく知っている」

 

スネークは足元を見ながら静かに立ち上がった。夕陽が沈み、月も見えないため辺りは完全に暗くなる。甲板上にいた人もまばらになり、安全のための最低限の照明と航空障害灯が二人の姿だけをぼんやりと照らす。

 

「よく意味はわからないんだが、クルビアにまつわる曲らしい。私の名前が出てくるところだけなんとか覚えたんだが」

 

「…………おたくのボスは他に何か言っていたか」

 

「一回だけこの歌を歌ってから、龍門に来たら顔を出す事とこの歌詞を届けろとだけ。ただ、『もう歌ったからあとはお前が届けろ!』と言われた」

 

「……つまり、お前がいま口にした歌詞が違う可能性はあるのか」

 

「ああ。特にそちらが歌った箇所は記憶が曖昧だ。ただ Will remember the Alamo(アラモを忘れない)、これは間違いなく歌っていたな。何回も繰り返していた」

 

「そうか……俺もおたくのボスに会いたくなってきたな」

 

「わかった。ボスにはそう伝えておく」

 

「ああ、くれぐれもよろしく伝えておいてくれ。エクシアにもな」

 

「わかった。何かまたあればここに電話をしてくれ」

 

女はスネークに名刺を渡す。それはこの間エクシアからもらったものとは異なり、ペンギン急便のマークが描かれ、白と黒を基調としたシンプルな名刺だ。名前のところにはテキサスと書かれている。

 

「今後もペンギン急便のご利用お待ちしています、では」

 

最後に社交辞令の様に挨拶を述べた後、彼女はハンガーへ続く階段を降りていった。カンカンと訪れたばかりの夜に鳴り響く。彼女が階段を降りていったことを確認したスネークは、胸ポケットから葉巻を取り出し、ナイフで吸い口を切ると、ライターで葉巻に火をつけた。この時間だと人が来る可能性は十分あるが、今はとにかく葉巻を吸いたかった。

 

「テキサス、サンタ・アナ……偶然にしちゃあ出来すぎてるな」

 

今日初めて会い、そして声をかけてきた二人のことをスネークは何も知らない。会話した内容を振り返り、その時の表情まで思い出し、こちらの事を何も知らないのは向こうも同じだろうと結論づける。だが、スネークの頭の中にある記憶ではテキサスという名前はアメリカ合衆国の州であることは間違いない。

 

Remember the Alamo(アラモを忘れない)……なぜこの世界でこの歌を知っている」

 

テキサスがボスから届けろと言われた歌はスネークも聴きかじった記憶のあるものだ。だがそれはあくまで元の世界で聞いたフォークソング、それもアラモ砦での戦いとテキサス独立を讃えた曲だ。

 

「多少歌詞が異なる可能性はあるが……サンタ・アナ、な」

 

サンタ・アナはテキサス独立戦争時の際にメキシコ軍を指揮した軍人であり、アラモ砦を守る守備隊を襲撃した張本人だ。そしてSanta Anna(サンタ・アナ)を女性の名前として呼べば──

 

「Анна……全くの偶然だろうがな」

 

甲板の手すりに近寄り暗い大地を見下ろす。この船が巻き上げているのか、僅かに砂埃のようなものが外壁に取り付けられているライトでチラついている。葉巻を口から外し、指に挟み込んだ手を手すりへ預けると、長くなった灰が暗闇へと放り込まれる。灰はライトに照らされることなく、葉巻に着いている火によって僅かに赤く燻っている。下から風が舞い上がり、やがて古くなった灰だけが消えていく。

 

「……いずれにせよ、いつか直接会わなきゃわからんな」

 

なぜペンギン急便のボスが、テキサスの、アラモ砦を知っているのか。何故会ったこともない彼にアラモの曲を届けさせたのか。今ある情報だけでは推論すら立てられない。ただ確実なのは、今日出会った二人は、スネークのことはもちろん元の世界のことなど知るよしも無い、ということだけだ。

 

「このタイミングで次の目的がやってきた、ってか」

 

ここ2ヶ月でジェシカには技術と知識を施した。あとは彼女自身が自分の能力と実力を自覚するだけだ。その後は彼女の査定が終わり次第契約満了、ロドス(ここ)に長居する理由も無くなる。もっとも、正確には彼女の査定が今よりも一段階上に上がることが契約の条件だが、条件を満たさないことは無い。

 

空いているもう片方の手で、先ほどもらった名刺を見る。

 

「龍門……広東語あたりを学んでおくか」

 

手すりに預けていた葉巻を、短くなった葉巻とともに再び口に運ぶ。葉巻の風味を楽しむこの感覚は、相変わらずこの世界でも変わることは無かった。

 




Twitterの方で同人誌に関して、簡単に説明させて頂きました。
活動報告の方でもう少し詳しく説明しておりますので、もしよろしければご覧下さい。
https://mobile.twitter.com/dapto11

何かご意見やご感想がありましたら感想欄にて教えて頂けると作者の励みにも参考にもなりますので、
何かありましたら感想欄にて教えて下さい


歌詞の引用
作詞・作曲, Jane Bowers
曲名, Remember the Alamo (1955)
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