Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
10xx年2月2日 AM07:32 曇天 視界距離19km
BSW B.P.R.S(生体防護処置班員)ロドスアイランド派遣部隊、チェルノボーグ東部に侵入
《HQ了解、現刻の通信をもって作戦開始を受領した、以降は定期的に報告せよ》
「バニラ、了解しました、通信終了」
《HQ、アウト》
「……フランカさん、BSWに連絡終わりました、以降は15分おきに無線連絡します」
「はいはーい、ご苦労さま〜」
「フランカ」
「ハイハイ、手堅くいくわよ……どうせここから疲れるわけだしね」
車両を適当な場所で降り、歩いてチェルノボーグ東部へと到着したBSWの3人は、全周を警戒しながらも、各々の武器を手にチェルノボーグ一帯の捜索を開始するため、本部へとバニラが報告した。
実際のところ、この捜索はバニラの新人教育の最終確認も兼ねており、これもまた出発直前に『あ、先立として彼女の評価してね、これも君たちの仕事だから』と上司に言われたのだ。
まあどうせそんなことだろうなぁ、と予想していた2人にとっては別にたいしたことでもないのだが。
しかし、リスカムもフランカも、お互いに何かを予感していた。
リスカムは、得体の知れぬ発信者と開いていたドアの違和感に。
フランカは引っかかる任務内容といまだに全容が掴めないロドスの責任者に。
とにかく、ただの人探しでは終わりそうにない、2人はそのように察していたし、新米ながらにバニラも身を引き締めていた。
「ここからさっきのところに行くには左から上がっていけばいいかしら」
「いや、そこに梯子があるはず、点検口からいったほうが近い」
「なるほど?じゃあバニラと私が先行ね」
「カバーする」
「じゃあバニラ、フォローよろしく」
「了解です」
端的に、かつ明確に。
役割を明らかにし、フランカが先行、次にバニラ、リスカムはハンドガンを手に全体をカバーしながら2人が登り切るのを待つ。
フランカは梯子を登り切るとそのまま通路を直進し、曲がり角を確認
そこには少し続いた幅広い通路と鉄製のドアがあるだけ
通路はどの先へもしばらく続いているが、近くにあるドアを開けて階段を登れば先ほど見つけた不審な点検用通路にたどり着くだろう。
バニラは梯子を登ると、獲物であるハルバードで梯子の口の大きさを確認し、リスカムに合図を送り周辺をカバーする。
その間にリスカムはハンドガンを一旦しまい、盾を背中に抱え素早く登る。幸いにも盾を背負いながらでも梯子は問題なく登り切れることは確認できた。
十数キロある盾を背中に抱えながら梯子を登るのは手間ではあるが問題にはならない、なんなく登り切り、再びハンドガンを構えて周辺をカバーする。
リスカムが来たことを確認し、フランカが通路の安全を確認しながらハンドサインで盾が先行するように指示
ハンドサインを受け取り、左に盾を構えながらフランカが確保している通路にカットイン
盾が先行し、バニラ・フランカと一直線に続く
数10m歩いたところでドアの前に辿りつく
『前方にドア、タイミング合わせ』
真後ろにいるバニラにハンドサインで指示、そのままドアの真正面で待機する
交代するようにゆっくりとバニラはドアノブに近づき、手をかけ、合図を待つ
数秒間、無音
バニラの左肩が2回タップされる
金髪がわずかに揺れながら一気にドアが開かれる
開いたドアに右半身を隠しながら左半身を盾で隠し、中の様子を伺う
明かりは点かず、薄暗いが中の様子は窺える
正面には上へと続く階段があり、少し見上げると暗い天井が見える、階段を上がれば先ほど見ていた点検路に辿り着くだろう
正面の安全を確認しリスカムがゆっくりとドアの右側へ侵入
続いてバニラもカバーするようにドアの左側に侵入、何もないことを確認する
「……クリア」
「こちらもクリアです」
そのまま2人は上へ続く階段を監視する、先ほど開いていたドアはこの先にある。この捜索任務が要請されてからおよそ90分経過、実際に信号が発信されてからはおそらく2時間は経つだろう。開いたままのドアは他と比べれば異常ではあるが、そこに目的の対象者がいるとは限らない。だが今のところ痕跡となりそうなものはそれしかない。
加えて、何がいるかも現状ではわからない、レユニオンの残党や野盗の類の可能性もある、こちらが襲われる危険性が自分たちの上方にある以上、上から音や気配がしないか気を配る。
『この上ですね、さっき見かけた点検口は』
『うん、何がいるかわからない、慎重に』
『了解です』
ハンドサインで短くやり取りし、再び盾が先行
階段の外側から一段づつ、ハンドガンを構えて登っていく
ゆっくりと円を描くようにクリアリングし、何かいないか探しながら一段づつ登っていく
背後から襲われることがないよう、少しづつ体の向きを変え
やがて後ろ向きに階段を上がり、踊り場に辿り着く
一度中腰になり、体の大部分が隠れるようにして様子を伺う
数瞬の、無音
やはり何も音は聞こえない
『……クリア、上がって』
ホルスターにハンドガンを仕舞いハンドサインで後続に指示
そのままの姿勢で安全を確保する
数秒間、無音
何も音がしない、どこからも
“階段の下から“も
右に視線を向けるとそこには誰もいない
すぐさま立ち上がり一瞬上方とホルスターの位置を確認
下へ意識を集中させる
「バニラ、フランカ」
数瞬の無音
自分以外の気配を感じない
わずかに心拍数が上がる感覚を覚えながら先ほどまでいたドア付近の様子を伺う
やはり何の気配も感じられない
無線を入れる
「フランカ、応答して」
《フランカ、応答して》
わずかに遅れてドア付近から無線越しの自分の声が聞こえた
ハンドガンを抜き僅かな階段を駆け下りる
目の前には先ほどまで通ってきたやや幅広い通路
そして見慣れた相棒がそこに倒れている
「フランカ!」
すぐさま目の前に倒れている相棒に駆け寄る
念のためドア裏をクリアリング
何もない
「フランカ!しっかりして!!」
パッと見たところ外傷はなく息もしている、脈もある、どうやら気絶しているようだ
ああよかった
そして・・・リスカムの視界は暗転する
ーーーーーーーーーーーーーー
先ほど見かけた3名全員を無力化。
念のため増援を警戒するが、無線でやりとりしていたであろう金髪が無線に手をつける前に背後から拘束したため、問題はないだろう。いや問題はある。
「……側から見れば犯罪者でしかないなこれは」
今の状況を俯瞰的に見てみよう。
茶髪・金髪・銀髪の割と年端も行かぬ(ようにも見える)女性3名を背後から拘束あるいは気絶させ、そこそこ幅のある通路に気絶させたまま仲良く横に並ばせて、それぞれ手を繋ぐように手錠をかけ、端の茶髪と銀髪の手は通路の手すりに紐で縛りつけ、念のため足も縛っている髭面の男。
……カズが同じことをやってたら迷うことなく狙撃するな
それかうちのMP*1が全力でシバキに行くだろう。自分で客観的に捉えてそう評価し始めたところから考えるのをやめた。仕掛けたのは自分だが、こうでもしなければ確実に情報を得ることはできない。それに外聞を気にしているほどの余裕がこの世界にはないこともわかった。可能な限り穏便に済ませたいが、それは周りの状況と関わってくる人物の考えや感情次第だろう。
とにかく今は目の前の三人衆から情報を引き出すしかない、真ん中に座らせた金髪の肩を揺らし起こす。
「お嬢さん、悪いが目を覚ましてくれるか」
「っん・・・!?」
「まあ落ち着け、拘束しているだけだ、左右の先輩は生きているし俺も危害を加える気はない」
「…………」
「……と言われて信じるわけはないな」
目を覚ました金髪は、両手が隣に座らされている先輩たちの手と手錠で繋がれていることを確認すると周囲を見渡す。
「ここはさっきお前たちが入ろうとしたドア近くの通路だ、下にお前たちの車もある、あとお前たちの武器はそっちだ」
そうして指を右へ指す。
指された方向へ彼女が首を向けると、確かにそこにそれぞれの武器がドア前に置かれており、先ほど侵入したドアも開いたままだった。
「ついでに時間は、お前がドアに入ってから3分ほどしか経ってない、安心……するもんじゃないな」
そう言って目を覚ました金髪の目の前にドカッと座りあぐらをかく。目の前の少女の表情に変化はなく、ただこちらの出方を伺っているようだ。
「改めていうが、俺はお前たちに危害を加えるつもりは一切ない……いやまぁ、拘束はしているが、突然武器を持ってやってきたやつを手ぶらで信じるわけにもいかないからな、あざはつけてないから勘弁してくれ」
右手を軽く開き、謝罪の意を示す
しかしどうしたものか。
これが正規軍の兵士などであればいくらでも情報を引き出す方法はあるが、服装を確認したところドッグタグではなく、BSWと書かれている証らしきものがあることから何らかの民間企業の社員らしく、少なくとも軍人ではないようだ。加えて女性である、話せないほどウブではないが、ここまで若い女性から情報を引き出すのはあまり得意ではないし口説く気も無い。そもそも言葉が通じているかも——
「……あなたはここに住んでるわけではないですよね、なぜここに」
金髪から反応があった、言葉は通じるらしい
「ん、そうだ、住んではいない」
「ではなぜここに?」
「ここから出てとりあえず東に向かうためだ」
「東?」
「ああ、街があるだろう?」
「あなたはチェルノボーグの市民じゃないのですか?」
「こんな廃れた街に住めるわけないだろう?」
「……じゃあどのように東の街に行こうと」
「歩きながら、道中でヒッチハイクでもと考えていたが」
「…………」
そこで金髪の言葉が止まる。
その表情から読み取れるのは・・・困惑?理解が難しい、あるいは何を言っているのかはっきりしない、というような印象を受ける。
「あー、難しい顔をしているが、何か理解できないところがあったか?」
「…………いえ、何も」
「とりあえず・・・お前らに反撃されるほどこっちは気を許していない、言いたいことがあるなら直接言ってくれ」
金髪の女の方にだけ顔を向けながら、あえて声を低くし警告するように言葉を発する。
その声にビクッと目の前の女は反応したが、続けて左右の女が目を開き、こちらを凝視する……予想通りではあったが、茶髪と銀髪の2人はこちらを明らかに警戒している、特に銀髪の方からは殺意まで篭っているようだ。
「あら?バレちゃってたかしら」
「そりゃあな、取れる選択肢なんぞたかが知れてる。それにお前は随分と上手のようだが」
そう言って銀髪の方に顔を向ける
「お前はもう少し殺意を隠せ、俺は構わないが相手を間違えればお前の仲間と相棒が死ぬぞ」
「……」
そう言うと右にいる銀髪は静かに下を向いた。どうやらこちらのいった意味を理解はしたらしい……納得はしていないだろうが、それは自業自得だ。
「んで?ここから私たちをどうする——」
「何もしないと言っただろうが、話は聞いていただろ、俺はここから東に行きたいだけだ、そしたらお前らと鉢合わせた」
「スルーすればいいだけの話でしょ、何で私たちを襲うのよ」
「こっちも色々、じゃないな、単純に情報が欲しくてな、手荒な真似ですまなかった」
「情報?こっちは何も吐かないわよ」
「機密情報なんざいらない、むしろお前たちからすればどうでもいい事だとは思うんだが」
どうやら茶髪の女は話は通じそうだ。金髪の方からでも情報を引き出すのは良いが、柔軟な対応ができそうにない。銀髪は殺意を込めている相手には話にもならないだろう。
「まず、日付を教えてくれないか?」
「……は?日付?」
「そうだ」
「あなた知らないの」
「知らない」
「何でよ」
「いいだろう、別に」
襲ってきて縛り付けて女3人に聞くことが今日の日付だと言う。
不可解そうに金髪の方は男の方を見ているが、茶髪の女は別段気にすることないように答えた。
「まあそうね、2月2日よ」
「何年だ」
「何年って、10xx年よ」
「……10xx年?」
これはいよいよ、とんでもない状況に陥っているらしい。幻覚や夢で済めばいいが、生憎目の前に広げる光景や、女3人を拘束した感覚が嘘だとは思えない。加えて記憶の一部欠落、どうやら普通ではない、という言葉では説明しきれないようだ。
「そうよ……ねえ、悪いけどあなたおかしいわよ?」
「何だって?」
「素直に言って頭おかしいわよ」
そう整理していると茶髪の女が突然正論を言い出す。
……確かに頭がおかしい(記憶喪失)のは自覚しているが、いったいどこで感づかれたのだろうか。
「どこらへんがおかしいんだ」
「まず、チェルノボーグから歩いて移動するとか自殺行為にしか聞こえないんだけど。しかも東に行くって、どこに行くか決まってないじゃない」
「まあアテはないからな」
「そんなの良くて放浪してそのまま餓死するか、大方天災に巻き込まれて死ぬわよ」
「天災……落雷とか砂嵐とかか」
「そんなんで済めばいいけど、隕石でも降ってきたら完全に逃げ切れないでしょうに」
「隕石?また随分とでかい災害だな」
この大陸のど真ん中では、砂嵐や落雷などの自然災害なら、まあ確かに巻き込まれる可能性はあるだろう。だがまさか隕石が災害とは恐れいる。いくら何でもそうそう隕石など降ってこない。ましてや自分に直撃するのも、衝撃波に襲われるなどまず無い。巻き込まれたなら運が悪すぎた結果だろう。
「やっぱりおかしいわ」
「あー、まあいい、1974年じゃあなくて10xx年なんだな?」
「はあ?1974年?あなたまさか1000年近く未来からやってきたとか言い出すんじゃないでしょうね」
「・・・・・」
「あのねぇ、縛られようが何されようがこっちは構わないけど、未来人とか頭おかし過ぎるわよ」
「……頭な、生憎直近の記憶がない、あながち間違いではないかもしれん」
「それ本気?」
「ああ」
唐突に襲ってきた人間が記憶喪失だの未来人だの言い出す。
そりゃ頭がおかしいとも思うだろうし、適当に身分をはぐらかすための嘘だとも思うだろう。事実、話していた茶髪の女も金髪も怪訝な表情をしている、得体の知れない何かを相手している感覚なのだろう。
「まあ未来人、というのはどこか違う感覚がある……すまんがいくつか質問する」
「ハイハイ、ご自由にどうぞ、こっちも適当に返すわー」
「……アメリカ、ソビエト、イギリス、アフガニスタン、これらの国に聞き覚えは」
「国、ですか?えーと、細かいところまで覚えてないですけど、そのような移動都市がもしかしたらあるかも知れませんね」
「……お前の出身地はどこだ」
「わ、私は、ヴイーヴルです」
「Vouivre……フランスか?」
「い、いえ、ヴイーヴルはヴイーヴルなのですが」
「……聞いたこともない」
ヴイーヴルは記憶が正しければフランスで語られている竜の一種のはずだ。コウモリの翼に女体の上半身と蛇の下半身を持つ、ワイバーンのようなものだったはずだが……この金髪女性がワイバーンだとは思えない、下半身も人だ。
「ねぇ、こっちからも聞いていいかしら」
「ああ、もちろん」
金髪の女が名乗った地名について、男なりに考察していたところに、茶髪の女が発言する。
今はどんな情報でも状況を知るための手がかりとなる。構わないと話を促すように男は返事をした。
「
「オリパシー?何だそれは」
「……そ、まあいいわ、じゃあついでにこの縛ってるのもいい加減外してくれないかしら?」
「ああ、それもそうか」
「え、いいんですか!?」
「……何でそこまで驚くかわからんが、最初から俺はお前たちをどうしようとする気はない。武装していたから武装解除して話を聞きやすい状態にしただけだ」
それだけ金髪に言って、胸にさした鞘からナイフを取り出し、右端でずっと俯いていた銀髪の足と左手に縛られていたロープを切る。ついでに手錠の鍵も置いておく。
「それに必要な情報は得られたからな、どうやら俺は知らない世界に放り込まれたらしい」
「えーと、えーと・・・つまり、あなたは別の世界からきた、と……?」
「気づいたらここにいた、この街の中で水と食料を集めてとりあえず東に向かうつもりだったが、わからない光景が広がっていた。オリパシー、移動都市、どちらも知らない言葉だ」
続けて茶髪の女の足と右手のロープを切り、手錠の鍵を茶髪の女に渡す。
「とにかく、生き残るしかあるまい。幸いサバイバルは得意だ、迷惑をかけたな」
「あーそー、じゃああなたとはここでサヨウナラってことね?」
「そうなるな」
いくら何でも彼女らの世話になる、と言うのは都合が良すぎる。それに身元不明の男を相手するほど暇も余裕もなければ、ましてや襲ってきた相手であれば印象も悪い。そうそうに撤収するのが——と思っていたが、
「動くな」
背後がから銃を突きつける気配。目の前には茶髪と金髪の女、武器も手にしてない……どうやら先に解放した銀髪の女が武器を拾ったらしい。
「……おいおい、何の真似だ」
「あー言い忘れてたけれど、私たちここにいる不審者をとっ捕まえるのが仕事なのよねぇ」
「とっ捕まえる以前に殺されそうなんだが」
「それはあなたの身の振る舞い方に問題があったんじゃない?」
そう言っている間に金髪の女は横を通って茶髪の女の方に近づき、2人はこちらとの間合いを調整し、すぐに掴まれないように距離を取る。だが、こちらが動けば向こうはすぐに対処できる間合いでもある。
「別に同行しろと言われれば素直に従うんだが」
「気絶させて拘束した相手の言葉を信用できない」
「……お前は、お前の相棒みたくもう少し冷静になれないのか」
「黙れ」
「・・・話にならんな」
どうやら、後ろにいる銀髪の方は頭に血が上っているのか、殺気を隠そうともしなくなっている。
前方にいる2名は比較的冷静……というより、茶髪の女がやり手だ。相棒の状態を把握しながらもあえて放置しているようだ。何を企んでいるのかわからないが……ここはその企みに乗るしかないだろう。
ゆっくりと振り返り、銀髪を正面に捉える。やはり銃を手にこちらに銃口を向けている、盾は持っておらず、ハイグリップで引き金に指もかけている。
「悪いが殺されるのは勘弁なんだが」
「ならその場で跪け」
「命令されるのも勘弁なんだがなぁ」
「従わないなら撃つ」
「……」
距離にして5m、CQCを仕掛けるにしても間合いが広すぎる
・・・あと2mは欲しい
一歩近づく
「動くなっ」
「断る、お前のようなルーキーに指図される謂れはない」
「何がわかる」
一歩近づく・・・あと1.5m
「目立ったのはスリーマンセルでの連携不足、どうやら茶髪の相棒とは日頃連携が取れているようだが、中間に新人を入れたのが間違いだったな。常に前後の相手とコンタクトする必要があるが、信頼から最後尾の相棒と密な連携を取っていなかった。だから彼女が無力化されても先頭にいるお前は気づかなかった」
「……」
「加えて新人も消え、相棒が倒れているところを見た時、お前はすぐに駆け寄ったな?クリアリングをしたつもりだろうが、右側の通路は一切確認しなかった、おかげで簡単に背後を取ることができた」
2歩近づく
「大事な相棒に駆け寄る、素人とあまり違いはないな」
「・・・黙れ」
あと1m
引き金に込める力が強まる
「お前は可愛い新人は放棄して、務めを放棄した、盾として仲間を守るのがお前の務めじゃないのか」
「・・・止まらなければ撃つ」
一歩近づく、あと0.75m
「やれるものならやってみろ」
一歩近づく、あと0.5m
「お前に、俺は、殺せない」
引き金が引かれる
体を左に捻る
マズルフラッシュ
空マガジンを顔面に投げ、一歩踏み込む
狙い通り顔面に向かう
再びマズルフラッシュ
マガジンを狙ったものでこちらには当たらない
相手の銃を掴み左の拳を頸部に叩き込む
左手は触れたまま右足を掛け、女を押し出す
女は片手で受け身をとり、片手は銃を手放さず
見ると、倒れ込みながらもタップラックバン*2をしていた・・・が、ラックは出来ない
「ッ!?」
「欲しいのはこれだな」
右に握っていた銃のスライドを投げ返す
同時にスタンロッドを取り出し、近づき、レバーをひく
座り込みながらリロードしていた体勢で痙攣を起こす
暴れられると迷惑なため、やや過剰ではあるがバッテリーが切れるまでレバーを引き続ける。数秒でバッテリーの出力低下でスタンロッドが止まった。同時に、相手の痙攣も止まり、そのまま廊下に突っ伏した……全くもって手間をかけさせる相手だった。
「リスカムさん!」
「安心しろ、電撃で気絶させただけだ、命に関わることはない……まあ、火傷はあるかも知れんが」
「大丈夫よ、彼女電気には強いから、それに少し寝てもらったほうが都合もいいし」
「……とりあえず、そこの金髪の嬢さん」
「え、あ」
「無線でおたくの本部にでも連絡してやれ、ついでにこいつも運んでやるといい」
「そうね。バニラ、『対象者を発見、現在情報収集中、状況完了次第撤収する』って旨を本部に連絡して。リスカムはとりあえず梯子のところに移動させてあげて、盾は私が持っていくから」
「わ、わかりました!」
茶髪の女がそう指示を出すと金髪の女……バニラと呼ばれていたが、彼女は突っ伏している銀髪の女をヨッコラセと担ぎ上げ、床に置かれたハルバードを手にノシノシと梯子のある方へと歩いていった。
「随分と力があるな」
「まあ、伊達に彼女もBSWの訓練生じゃないから」
バニラと呼ばれた女が通路を左に曲がり、姿が見えなくなった。
「そうか……それで?」
「ん、何か?」
それを確認し、ドアを閉じ、もたれかかり、本題に移る
「そうだな・・・なぜ彼女が銃を突きつけたときに俺を包囲せず距離をとった、なぜ彼女をなだめなかった、なぜお前の相棒を危険に晒した」
この状況はいくつかおかしい点がある。そのどれもが今目の前にいる女が原因だ。
まず、銀髪の女が銃をこちらに突き付けた時点で、それこそ投降を促し、拘束することもできたはずだ。加えて、殺気だっている相棒を落ち着かせる選択肢もあった。少なくとも、今目の前に立っている女は、相棒である彼女が冷静でないことや、そのまま行動すれば相棒が殺される可能性があることも考慮できていただろう。
「十分な間合いを取るためよ、何かあれば動けるようにね」
「ならなぜ、あの新人に武器を拾わせず、わざわざお前のそばに着かせた。それに、ハルバードは無理だが、お前の短剣なら相棒に投げさせでもすれば回収できたはずだ。にもかかわらず、お前は丸腰で距離をとったのは随分とおかしいんじゃないか?」
加えて、バニラと呼ばれていた彼女を、銀髪の女の方に行かせなかったのも不自然だ。彼女が、不審者をとっ捕まえることが目的ならば、武器が置いてある銀髪の女の方に人を行かせればより成功率は高まる。それに銃を突きつけられた時、茶髪の女しか彼の目の前にはいなかった。
にも関わらず、金髪の女はわざわざ男の横を通り、茶髪の女と行動を共にした。距離的にも武器があるほうが近いにも関わらず。指示でもない限り、行動として不自然だ。
「信用していたからよ、彼女を」
「利用したの言い間違いじゃないのか」
「あら、私がそんなに恐ろしい女に見える?」
そう言いながら、こちらに歩み寄り、そしてドアの前に置いておいた短剣とレイピアを女は拾う。
「美人なことはわかるが、心の中身までは生憎見れないんでな、なんとも言えん」
「そう、まあ私もあなたの考えはわからないわね」
「……まあ、お前が言っていた通り、彼女に恨みは買っただろうな。殺されても俺は文句は言えん」
「あら、自覚はあるのね」
「だが、お前も殺される可能性に気づいていたはずだ」
「まあ、随分とあなたは優しいみたいね」
相手を殺していい理由は、どんな状況下でも起こりえない。
殺さなければならない状況に、環境に、時代に巻き込まれた時に、人は人を殺す。
それが彼が経験して形成された価値観であり、だからこそ彼は敵であろうがなんであろうが、人種性別関係なく仲間を募り、国家に帰属しない軍隊を創った。それが彼なりの人を殺した……殺すべきでなかった人を殺してしまったと言う彼なりの過去から産まれた思想だ。
「けど確かに、普通なら殺されているわね。捕まる以前に殺されてるか嬲られるか、まあろくな結果にはなってないわよねぇ」
だが、そんな思想は戦場では流れていない。敵であれば倒し、殺す。それが普通であろうし、ましてや女であればろくな扱いは受けないだろう。それは国や世界が異なろうとも同じらしい。
「なら、どうしてこんな安い芝居を打った、お前やお前の相棒のリスクが高すぎる、理解ができん」
「……私は私で理由があるのよ。リスカムを信用しているのに変わりはないけど、ね」
信じるか信じないかはあなた次第だけど、とも女は付け加える。
一見無害そうに見えるこの茶髪の女だが、人畜無害な真面目な存在ではない。しかし同時に有害でもない。
もし、害があるのであればあの銀髪の相棒などとっくの昔にいないだろうし、先の戦闘で仕留めに来ているだろう。信用は出来ないが、脅威にはなり得ない、油断もできない、彼は目の前に立つ女を総合的にそう評価した。
「なるほど、いい女には秘密がつきものだな」
「そう言うことよ〜」
先ほどまでのわずかに暗い雰囲気はどこかに消え、明るい女の様が男に映る。
相棒である銀髪の女は典型的な真面目な雰囲気があったが、こちらは軽く明るい。互いにないものを補い合っているコンビなのだろうと彼なりに悟る。
「……なら、とりあえず俺はお前たちについて行かないといけない訳だな?」
「そうしてくれると助かるわねぇ、まあどうしてもって言われたらもう私もどうしようもないんだけど」
「……一つだけ聞かせてくれ」
「あら、いい女には秘密がつきものなんじゃないの?」
ニコっと女が微笑む。
その顔からは優しそうなお姉さん、という印象が強く伝わってくるが、男はその手元がわずかにレイピアの鞘へ添えられたことを見逃さなかった。変わらず男は彼女に質問を続ける。
「どうしてお前は俺のことを信用した?相棒のことは……まあ信じていたとしてもだ、お前の立ち振る舞いは俺がお前たちを殺さない前提のものだ、俺は信用されることをした覚えがないんだが」
「なーんだそんなこと」
「ああ、全くわからん」
「いや〜実はねぇ——」
「惚れたなら得物に手を添えるのはいただけないな」
「……あなた、いちいち細かいところを指摘すると嫌われるわよ」
「気を配らないと死ぬからな」
「・・・あなたが
再び女に消えたはずのわずかに暗い雰囲気が戻る。
オリパシー、これが彼女を重くしている存在らしい、それだけの代物なのだろう。
オリパシーという言葉について知る必要があると頭にメモしながら、男は続けて疑問を口にした。
「オリパシーな、聞いたこともない、反応のしようもなかっただけだが?」
「あなたからは嫌忌も恐怖すらも感じなかった、記憶喪失かどうかは知らないけど演技じゃない、それがわかったから。それに、それだけの腕があれば私たちなんてとっくに死んでるでしょうしね」
「俺はアサシンじゃないぞ」
「本当かしら?」
「ああ」
彼は暗殺者ではない、工作員であり諜報活動もできる兵士というだけだ。何より殺すことを生業ともしていなければ、手段とも考えていない。最後の手段として存在する、そう考えている傭兵だ。
「そう、ならいい感じね!」
「何がだ」
「実は、あなたにぴったりの職場があるのよ〜」
「いや、俺には帰る場所がある、それに組織にはあまり——」
「いやあなた今確実に無職でしょ、それに帰る場所わかるの?」
「・・・・・」
考えてみればこの場所……というより、この世界は知っている世界ですらなさそうである。
であれば当然コスタリカはもちろん、マザーベースに帰るための方角も手段も不明である。
ましてや記憶喪失の中年男性、職業自称傭兵・・・とてつもなく胡散臭い野郎の完成である。
「……厄介になるしかなさそうだな」
「話が早くて助かるわ〜、それで?」
「ん?」
「名前よ名前、こっちは報告書やら戦闘詳報作らないといけないんだけど、あなたの名前知らないのよね、当たり前だけど」
「名前か」
「まさか名前まで忘れちゃった?」
「いや、完全な記憶喪失ではないようだ、昔のことも、ここで目覚めてから起きたことも思い出せる」
「そ、じゃあハイ」
そういうと目の前の茶髪の女は右手を差し出す。
「私はBSWのフランカ、今はロドスで駐在オペレーターとしてあなたに握手を求めるわ」
それに応えて男も右手を差し出す。
「スネーク、傭兵だ、海にいたんだが気がついたらここに居た……あまりお嬢さんに世話になるのは気がひけるんだがな」
そう言って男は……スネークはやれやれとため息を吐きながら胸ポケットを探り
「困ってる人を助けるのは当然でしょ?」
「よく口が回ることだ」
——そして
「……葉巻がない」
極めて重大な事態に陥っていると初めて気づくのだった。
※少しだけ補足。
リスカムさんはスネークさんにハンドガンを掴まれたため、装填不良が起きたかもしれないと判断し、
倒れながらも器用にタップラックバンを実行しました。
もっとも、スライドそのものがなくなっていたので、装填不良以前の問題が起きていた、ということを表現しております
何かご意見やご感想がありましたら感想欄にて教えて頂けると作者の励みにも参考にもなります。
何かありましたら感想欄にて教えて下さい
m(_ _)m。