Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■ 作:daaaper
2月3日 AM08:15
ロドスアイランド製薬会社、人事部
この日、朝から人事部は少しだけ慌ただしかった。
というのも、BSWから常駐オペレーターとして来ていたフランカとリスカムがロドスに戻り留学生として新人オペレーターも連れてきたから……だけではない。
先日発信された信号から、チェルノボーグで1人の生存者を発見し連れてきたのだ。予定外のことであったが、感染者やその他大勢の難民を一斉に引き受けることもあるロドスである。ましてやそれら大人数を直接捌いていた人事にとって、たかが1人増えただけでは大した仕事にはならなかった。
とりあえず、予定通りの3名は簡易的な源石汚染の確認を行い、追加の1名には簡易検査と精密検査を行う必要があるため、医療部に連絡し検査の手配、あとは本人の希望調査と目的、念のため適正検査もそれとなく受けてもらう。
ロドスの理念や規則を遵守し、協力してくれるなら誰でも採用する、と意訳される採用基準があるロドスにとって、やってくる人は全て採用候補者ともいえる。尤も、ロドスが求める人材にもレベルがあるため、大抵は選考されることもなく、難民として過ごす人間が多いが、意志があればそれを拒むこともない。
とにかく人手が足りないのだ、採用できる人間は採用する
それがロドスアイランド人事部の信条である。
尤も、その採用できる人間という部分は極めて判断が難しいところでもあるが、採用プロセスの最初の関門としての役割を果たす、という志のもと彼らは働いている。
そんなわけで、たかが記憶喪失の住所不定無職の中年男性を1人、ロドスの採用プロセスに掛けることなど、なんということはない。優秀な人材を見逃さないスクリーニング検査に過ぎないのだ。
とりあえず、男性には搬入口近くの控え室で待ってもらうことに。すでに洗浄も済んでいるが、艦内を自由に歩いてもらうわけにはいかないため、個室で過ごしてもらう。もっとも、血液検査の結果さえ出てしまえば、共有区画で自由にしてもらっていい。
検査結果は30分後には出るだろうからその時にまた来ますね、と営業スマイルをして、人事部の職員は部屋を後にした。
ーーー1時間後ーーーー
医療部からすぐに男性を隔離室に移動させ、精密検査の実施とBSWの3名から男性に関する事情聴取を行うよう人事部に要請された。その要請者にワルファリンと書かれていたため、最初は『また何かやらかしているのか』と人事部では思われたが、直後にケルシー先生から『すぐに私のラボに連れてくるように』との指示が来たことから、何かしらあったらしい。
人事部の数人が来て搬入口へと向かうと、数人オペレーターが搬入口を封鎖していた。そのまま近くの部屋に入ると男性が驚いた顔をしながら人事部の職員を見ていた。30分で終わると言っていたのに、突然複数人できたら、そりゃ不審に思うだろう、と職員も思いながら男に声をかける。
「お待たせしてしまいすいません。少し移動することになりました」
「移動?共有スペースではなくてか?」
「はい」
「……まあいいだろう、拘束するか?」
「しません、上からの指示で移動して欲しいだけですし」
「そうか、なら行こう」
素直にしたがった男と共に、ラボに直行する。
できるだけ誰にも接触しないように、との指示もあったため、医療資材搬入用のエレベーターから直接ラボへ向かう。
「随分とでかい建物だな」
「移動都市、まではいきませんが民間企業が所有するものとしてはだいぶ大きいですからね」
「ふむ、民間企業の割には物騒な連中もたくさんいるようだが」
「うちは製薬会社ですけど、薬を作って医療を提供することだけが目的ではないですから。ご興味ありますか?」
「まあ今は無職だからな、パンフレットでもあるのか?」
「後で持ってきますよ」
「そうか、見てみよう」
興味はアリ、理由は経済的なもの
そう頭にメモしながら搬送用エレベーターで上がり、ロドスの研究区画へと到着する。
ここは職員でも、責任者の許可がない限りまず区画そのものに入ることができない。また、各研究室へはそれぞれの研究室を所有するオペレーターや研究者でなければ基本立ち入ることは許されない。それは人事部であっても同様で、用がある場合は入り口に置かれた固定電話で中の人を呼び出す必要がある。
だが今回はすでにケルシー先生が入り口で待ち構えていた。
人事部数人と男が見えた時点で扉が開き、中から出てきた。
「ご苦労、あとはこっちで預かる、君たちはBSWの3人のところに行ってくれ」
「え?」
「ああいや、私からの指示だ。ワルファリンは今は別の作業中だから報告は私のところまで」
「あ、わかりました」
「じゃあその時パンフレットも持ってきますね」
「パンフレット?」
「うちのパンフレットです、その方が興味があるとのことなので」
「そうか、まあ好きにするといい、しばらく彼は私が預かっている」
それだけ伝えると、無言で男性について来い、と言わんばかりに踵を返し、足早にラボに戻るケルシー先生。それについていくように男性もラボの中へと入っていき、やがて扉が閉じられ、ロックがかかる。それを確認した人事部一行は、足早にBSWの3人がいるであろう食堂へ向かう。
彼らは今までの勤務経験から何かが起きていることはわかった。
なにせ、ワルファリンが別の作業をしているのは当然のことで、それにもかかわらず人事部に連絡し、直後にケルシー先生が直接指示を出したということは。
何かしら道徳的によろしくないことを彼女があの男性にしでかそうとした、と考えられるからだ。恐らく、今頃は良くてラボのドアを外から施錠されているか、ドクターの血液の匂いをかがせながら拘束されてるかだろう。反省しないのが悪いから仕方ない。
とにかく、わざわざ命じられた仕事である以上、迅速に片付けないといけない。やらなければいけない仕事は元から大量にあるのだ。今日の人事部はやや忙しくなりそうだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
チェルノボーグ、という街で出会った3人にスネークが連れて来られたのは、ロドスという会社だった。会社と言っても、チェルノボーグよりは小さい町が移動していたが。最初見たときに『なんだあれは!?』と声を出したのは無理もない。
陸上戦艦とも、大地を征く航空母艦ともいえるその姿はスネークの魂を揺さぶった。早い話がカッコ良かった。そのリアクションを3人には笑われたが、それを気にするほどの大人の余裕は持ち合わせていない。素直に興奮していた。
しばらくロドスと並走していたが、やがてロドスが止まると、そのまま車で乗り入れた。横から見た姿は機関車を思わせたが、構造的には空母と強襲揚陸艦を混ぜたような船が陸にあるようだった。物資を運び入れるために大型トラックがそのまま入れるよう十分な運搬路も中にはあった。
そのまま車がロドスに入ると、屋内駐車場のような場所についた。どうやらここで終点らしく、彼女らはそのまま別のところに行き、スネークだけ採血とレントゲン検査をしたあと、別室で待機ということになった。ここの職員だという人間の話だと、彼女らはBSWから派遣され、ここに常駐している部隊らしく、今日から再びここに展開するらしい。
とにもかくにも、三十分もすれば自由にしていいと言われたので、部屋で待っていたが一向に呼ばれない。と思っていたところに突然3人ほど現れて『上からの指示で移動する』と言われ疑問に思うが、ここで何を言っても何もできない。
そう判断したスネークは素直に職員についていくと、でかいエレベーターに乗せられ、上へ昇り、さらにそこから歩くといかにも研究室といった場所にたどり着いた。
中からは小柄な女が出てきた……が、白衣にベアバックスタイルのワンピースとは、いささかどうなのだろうかと思う。別に裸でも構いはしないが、研究室の中で衛生管理や精度的な問題は生じないのだろうか。
そう思いながらも、さっさとついて来いと言わんばかりに歩いていくため、スネークはその後ろについて行く。
「……」
「……」
先ほどまでの職員と異なり、一切会話が発生しない。
彼らは、どんな人間なのか知るためにありきたりな会話を仕掛けていたが、彼女は一切そのようなことはせず、それどころか無駄な会話は一切しないという断固とした雰囲気を纏っていた。
同じ組織でもここまで対応が変わるだろうか。だが、彼らは上からの指示で移動する、と言った。彼女が上からの指示者であれば、彼らがあそこまでフランクな対応は不自然にも思うが……下が知らなくてもいいことがあるのだろう。
そう当たりをつけながら、歩いているうちに一番奥の部屋へと辿り着く。
右ポケットから社員証のようなものを取り出し、かざすと認証されたのかドアが開く。
「入れ」
「ああ」
促されるまま入る。
入ると見慣れたハザードシンボルが目に入る。どうやら製薬会社のラボではあるらしい。もっとも製薬会社の社員の一室に、放射線や磁場・レーザーのシンボルマークが勢揃いしているのが普通かは疑問ではあるが。
そのままさらに奥へいくと、別のドアがある。どうやら実験室と書類や論文等の作業スペースは隔絶されて存在されているらしい。危険物がある中で長時間の作業はしたくないだろう……まあ、世の中にはモンスターの真横で焼きレーションを作る猛者もいるが、それはそれとして。
中に入ると、研究室らしく真っ白な壁にデスクとラップトップPC、棚に大量の蔵書や研究資料、別の机には紙が大量に積まれているが、清潔感に溢れていた。
そんな部屋の真ん中に一つの椅子がある、背もたれがあるどこにでも見かける椅子だ。
「そこに座ってくれ」
そう言われ、スネークは部屋の真ん中に座る。
小柄な女は同じように椅子を持ってきて、スネークの真正面に座る。手にはクリップボードを持っている。
「突然移動しろと言われてきてみれば研究室か、俺を調べても何も面白いことはないぞ」
「いや、私たちにとっては極めて興味深いことがわかった」
「……なんだって?」
そうスネークが言うと、女が一つの紙を渡してきた。
チラッと顔を見ると、アゴをかるく出してきたのでどうやら読めと言うことらしい。読んでみると先ほど行った血液検査の結果らしい。血液型や赤血球数、コレステロールの値などが並んでいる。どれも基準値から逸脱してはいない……が1つだけ【要再検査】とデカデカと書かれている欄がある。
「至って健康な結果に見えるな」
「……その再検査となっている項目が見えないか?」
「あるな、血液中源石密度と書かれているが」
「君は記憶がない、そう言っていると聞いた」
「ああ、目を覚ましたら見覚えのない場所にいた。記憶喪失というより、どうやってここにいるのか見当がつかない、と言った方がいいな」
「……なら、一番最近覚えていることはなんだ」
「それなら隊員に指導していたことだな」
スネークは淡々と聞いてくる女に対して淡々と答える。
女の方はスネークの言葉を確認するかのように質問を続ける。
「隊員、君は何かしらの組織の人間なのか」
「傭兵だ、民間軍事会社だがな」
「その組織の名前は」
「それをいう必要はあるか?」
「身元確認のために」
スネークは目の前の女が会社員や研究者というより、尋問官だと判断した。
尋問される側である自覚はあるが、初対面の相手への対応としては下手だと心の中で思いながらも、『何か知っているのかもしれないしな』と思いながらも期待はあまりせず、ついでに目の前の女の対応に不愉快さを感じながら答える。
「……MSF、Militaires Sans Frontières、国境なき軍隊、それが俺の部隊の名前だ」
「お前がその傭兵団の長なのか」
「総司令らしいがな。創設者のもう1人は副司令だ」
「その副司令の名前は」
「それも身元確認のためか?」
「ああ」
はあ、とため息を吐きながらスネークは答える。
「カズヒラ・ミラー、アメリカ人の父親と日本人の母親を持つハーフで金髪グラサンの男だ。これでいいか?」
「つまり、傭兵部隊の司令官がいつの間にか身に覚えのない廃墟にいた、どうしてそこにいるのか理由が思い当たらないと?」
「そうなるな」
「……
そう女が質問すると、再びため息を吐き、スネークは呆れながら言葉を返す。
「なあ、この血液検査データを見せ続けて俺の身辺調査か?記憶が正しいのか、嘘をついているのか判断するのは任せるが、いきなり血液検査データを先に見せて結果を相手に説明しないのはどうなんだ。曲がりなりにも医者だろ、結果の説明を先に聞かせてくれ」
「……」
「その後ならいくらでも質問に付き合ってやる、だがまずはこの検査結果の意味を教えてくれ。連れてきた職員は血液検査結果さえわかればすぐに自由だとか言ったが、今はここに連れてこられている。何かしらあったならそれを説明してくれ」
スネークに言わせれば、製薬会社に勤める医者が尋問まがいのことをしているとしか思えない。
先ほどここに連れてきた人間たちが相手の方が、むしろ好意的に自分の情報を伝えることができた。だがこの医者が何を思って自分をわざわざここに連れて来させ、血液検査の結果を見せて2人っきりで話しているのか理解できなかった。
とりあえず言いたいことがあるなら先に言え、そしたら俺も答えてやる
「……いいだろう、身元不明とはいえ検査を受けた対象者なら、その結果を知る権利は当然ある」
かくして目の前の医者には、その意思は伝わったようだ。
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