Metal Gear Solid/ Ark of ■■■■   作:daaaper

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女がPCをいじると、スクリーンに簡易的な人体像が映し出される。みると%が身体のいくつかに表示されている。

 

「これはテラ世界における先民(エーシェンツ)の簡易モデルだと思ってくれ」

 

「……いきなりわからん用語が出てきたが、エーシェンツが人なのはいいとして、テラ世界ってのはなんだ」

 

「この惑星のことだ。続けてもいいか?」

 

「ああ」

 

「この世界では源石(オリジニウム)によるアーツやエネルギーを利用している、同時に源石による鉱石病(オリパシー)も蔓延している」

 

「あの黒い半透明な鉱石が汚染物質であると同時に、価値あるエネルギー源であるということだな?」

 

「……そして今や源石を加工した製品が至るところにある」

 

「燃料のみならず、あらゆる材料でもあるということか」

 

どうやら核燃料と似て非なる物質らしい。

少なくとも核燃料を加工しても大した製品には至らない。せいぜいが徹甲弾がいいところだろう、それも至る所に存在はしないが。

 

「だからこそ、感染していなくとも血液中には僅かながらに源石が必ず含まれている、生まれた赤子でも母体を通して源石は有している」

 

そこでスクリーンが切り替わる。みると、それは血液検査データであり、そのデータには見覚えがあった。

 

「だが、俺の血液中源石密度は0となってる、だな」

 

「ああ」

 

スネークの血液中源石濃度は0、そして【要再検査】と検査欄にはデカデカと表示されていた。

 

「……それで?何が聞きたい?」

 

なんとなく、自分が置かれている状況がわかってきた。

同時に淡々と質問してきた医者の目的もなんとなく予想できる。知りたいことは教えておいた方がいいだろう。

 

「お前はどこからきた」

 

「カリブ海、と言って聞き覚えは?」

 

「・・・無い」

 

「だろうな、BSWの連中にも聞いたが知らないと言っていたからな」

 

「……そうか」

 

そこで女の口が止まる。

スネークの直感が、この女から害を為す気は無いと判断した。話す相手としては好ましくないが、少なくとも悪意はないと感じた。とても好ましい相手ではないが。

とりあえずストレートに自分の要望は伝えておく。

 

「別に検査をするのは構わん、だが実験台にされるのは勘弁だぞ」

 

「ここに拘束し隔離する、と言ったらどうする」

 

「抵抗する」

 

「どうやる」

 

目の前の女は、突然彼女自身が考えていないであろうことを尋ねてくる。

 

「どうやると言ってもな……、言葉で説得されるだけなら言葉で対応する、武力を行使するならこちらも武力で行使するしか無いだろう」

 

「お前の体を研究することで多くの人を救えるかもしれない、それでも抵抗するか」

 

この女は何が目的でこんな意味を持たない言葉を投げかけてくるのか。

それを考えながらも、スネークはそのまま言葉で返す。

 

「自分が不利益を被るなら抵抗するに決まっているだろう。一方的な合意は対立を生むだけだ」

 

「なら、対立を生むまえにお前ならどうする」

 

「……双方の合意のためには、互いの目的を理解した上で妥協する。片方が100の利益をとるより、互いに60程度とれば100以上の利益が生じるだろうからな」

 

武力行使は最終手段であり、交渉は話し合いによってもたらされるべき、というのがスネークの考えだ。兵士は確実に武力を行使すると同時に、交渉を実現させるための存在である。だからこそ、交渉を実現できない組織や国に必要な軍事力を提供する、国家に帰属しない軍隊を創る。

 

それがスネークの考える世界を一つにする方法だ

 

……とはいえ、それをこの女に話したところで理解はされない。というか理解されたところでなんの意味もない。どちらかといえばカリブ海に帰りたいが、帰り方もこの女はわからないだろう。

 

何より、彼女自身はこちらを拘束するなど考えてもいないであろうに、なぜわざわざ訪ねてくるのか、スネークには不可解だった。

 

「なら、私がとった措置は正解だったな」

 

そして、女ははっきりとした言葉を口にした。

 

「……どういう意味だ?」

 

「お前はさっきまで隔離室で飼われる寸前だったってことだ。すぐに私が止めたが。ついでに混乱が広がるのを避けるためにここに連れてきた」

 

「……この会社はコンプライアンスは大丈夫なのか」

 

「問題になるまえに対処している」

 

それは内部で問題をもみ消しているのと変わらないのではないか?

とも思ったが、似たようなことはMSFや金髪グラサン(身内に手を出す副司令)でも思い当たるのでスルーする。いちいち公表していたらキリがない場合もある。

 

「とにかく、全く源石汚染されていない生体は確かに重要な研究資料にはなるだろう。だが、この世界は一切汚染されずに生きていくことは不可能だ。君も生きていくうちに多少なりとも汚染されるだろう」

 

「まあだろうな」

 

「詳しい状況は分からないが、この世界に覚えがない、アーツや源石、そして鉱石病について何も知らないんだな?」

 

「ああ、この世界は俺が知る世界ではない、なぜここにいるのかも分からないな」

 

「なら、君はこれからどうする」

 

「生き残り、仲間がいる場所へ戻る」

 

「そうか」

 

生き残り、カリブ海へ、仲間たちが待つMSFへと帰還する、それが今のスネークの最大の務めだ。

 

「それならロドスは君を放浪者として扱おう」

 

「ふむ、最低限の居場所は提供するということか」

 

「理解が早くて助かる」

 

「数日ぶんの食料と地図さえ貰えればここを出ていくが?」

 

「悪いがそれは医者として許可できない」

 

「なぜだ?」

 

「ここまで源石に汚染されていない例は私も初めてみる、どんな影響が出るか分からない。せめて1週間はここで経過観察をさせてくれ」

 

「ふむ……ここである程度の情報を収集することはできるか?」

 

「情報、というのは何を意味するかによるが」

 

「この世界について全般だ。歴史、宗教、言語、文化、地理、後は源石やアーツ、オリパシーに関する情報も欲しい」

 

「それなら・・・少し待ってくれ。むやみやたらと人が来なければ、ここより都合が良い場所がある」

 

女はポケットから端末を取り出すと、耳元に当てる。

どうやら携帯無線機らしい、少しだけ待つと相手に繋がったようだ。

 

「ああ私だ、今いいか・・・ああ、少し預かって欲しいのが1人・・・いや、詳細は後でメールする、それをみて貰えばわかる。1週間ほどの予定だが・・・いや、できるだけ避けてくれ、今から向かう」

 

「また移動か」

 

「そこでなら君の自由にできるからな、協力者も取り付けた」

 

「そうか」

 

通信機を再びポケットに入れると、女はドアへ向かう。どうやらこのままその協力者がいる場所へと連れていくらしい。恐らくしばらくこの女と会うこともないだろうと考え、スネークは一応尋ねる。

 

「なあ、今更だがお前の名前を知りたいんだが」

 

ドアの手前でそう声をかけられた女は、体はスネークの方に向けず、「なぜ知りたい」と聞いてきた。

 

「なぜって、そりゃあお前さんが俺の主治医になるんだろう、形式上かも知れんが。世話になる相手の名前くらいは知らんとな」

 

「そういえば私も、名前を聞いていなかったな」

 

「俺は……スネークと呼んでくれ」

 

「そうかスネーク、私はケルシーだ」

 

「ケルシーか、まあこれから1週間、よろしく頼む」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

2月3日 AM11:00

 

ロドスアイランド製薬会社、療養庭園

 

ロドスの使われていなかったスペースは、現在は小型温室に改造され、調香工房が併設されている。ここは主に香りによる精神症状へのアプローチを行う休養施設となっている。

今はそれほど慌ただしくなくなったが、先月まではここに多数の休養を必要とする人が出入りし、それら全てに最適な安眠と休息を提供した場所でもある。

そんなロドスの中でも数少ない、積極的なメンタルケアを提供する医療部門でもあり福利厚生の施設でもあるこの療養庭園の管理人は、1人の患者……ではなく、放浪者を預かることになった。

 

「スネークだ、しばらくここで静かにしているように言われた、世話になる」

 

「ここの管理人のパフューマーのラナよ、よろしくどうぞー」

 

調香師(パフューマー)か、道理でここに温室がある訳だ」

 

療養庭園へとやってきた、というよりケルシーに連れてこられた放浪者は、パフューマーという言葉を聞いて、ビニールハウスがあることに納得した。その姿にラナは

 

あまり香りに詳しそうな人柄には見えないけれど……

 

と思った。何せ髭をはやし、右眼には眼帯をつけ、身長はそれほど高くはないが身体つきはしっかりしていて、放浪者というより軍人のように見える、硝煙と不思議な匂いもわずかにする。が、見た目で判断してはいけない、とも同時に思い出し、この少し不思議な放浪者を連れてきたケルシーの方を向く。

 

「1週間ほど、彼をここにいさせてくれ、経過観察だ」

 

「そう、わかったわ。後でカルテを確認すればいいかしら?」

 

「そうしてくれ、すぐに送る。経過観察だけで特別な処置はコレといってない。彼の話し相手にでもなってくれればいい」

 

じゃあ後はよろしく頼む。

それだけ伝えてケルシーは療養庭園から出て行った、自分の研究室にでも戻ったか、ドクターに報告でもしに行ったのだろう。ふと、後ろの方に振り返ると、放浪者がビニールハウスの外から中の様子を伺っていた。どうやら本当に植物に興味があるらしい。

 

「中に入ってみる?」

 

「いいのか?」

 

「ええもちろん、そのための温室ですもの」

 

そう言ってパフューマーはビニールハウスの入り口を開け、どうぞ〜と放浪者を招き入れる。放浪者は、自身の身長よりやや低い入り口に招き入れる彼女にあやかって、屈むようにしてビニールハウスの中に入る。中に入ると温室になっており、さらにいくつかビニールで分けされていた。1年中様々な季節の花をここで育てているようだ。

 

「ここは随分と穏やかな場所だな、上とは大違いだ」

 

「上っていうと、ラボのことかしら?」

 

「ああ、機械やら危険物やら色々あったが、ここには土と植物だ、まるで同じ建物とは思えないな」

 

まあ階層が違えば目的も違うだろうからな、と冗談めかしく軽く言いながら、療養庭園で育てられている植物をじっと観察する。

 

「ナルシサス*1、アイリス*2、他にもボロニア*3、カモミール*4……どれも香料になる植物だ」

 

「あら、植物に詳しいのね」

 

「まあ職業柄色々な奴が時間があれば教えてくれたんでな。それに匂いは重要な手掛かりになる、知っていれば何かしら役立つだろうからな」

 

そう言いながら、彼は「カランコエ*5もある……植生は同じか……育つ条件もおそらく同じだろう」と何やらブツブツと喋っている。何か気になることがあるのだろうか。そう思いながらも、そういえばカルテをすぐに送るとケルシー先生が言っていたことを思い出し、一度端末を確認することにした。

 

「ちょっと私は出るわね、勝手に採取するのは困るけれど、匂いは自由に楽しんでね〜」

 

「そうさせてもらおう、何かあれば声をかける」

 

どうやらとても物分かりのいい放浪者らしい。植物にも詳しく、ここ数ヶ月の忙しさを考えると、また新しい面白い人がきた、とラナはロドスのオペレーターとしてより人としてこのスネークと名乗る放浪者にポジティブな第一印象を持った。

ビニールハウスを出て端末の前に座る。みるとケルシー先生から確かに送られてきた。丁寧にカルテには鍵がかけられている。パスを入力し解除、カルテの中身を閲覧する。

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基礎情報

【名前】自称:スネーク、本名不明

【性別】男性

【戦闘経験】不明、現在調査中

【出身地】不明、聴取していない

【誕生日】不明、聴取していない

【身長】180cm

【鉱石病感染状況】メディカルチェックの結果、非感染者に認定

 

診断結果

【源石融合率】0%

【血液中源石密度】████μ/L

※別紙、経過観察指示書参照

 

 

 

 

———————————————————————————————————

 

それ以外は空欄で、どうやら人事部が調査中のようだ。これはよくあることでもあるので別に驚くことでもない。しかし、血液中源石密度の欄が黒塗りで秘匿措置されていることは今までなかった。一体何があるのだろうか?

送られてきた、そこには《経過観察指示書:関係者以外の閲覧を禁止する》とされ、極秘扱いのデータとなっていた。加えて閲覧にはラナとケルシーとで決めた特殊記号でないと開かないようになっていた。これをあの娘以外のカルテで使うのは初めてだ。

念のため、周りに誰もいないことを確認する。このカルテに書かれている彼はまだ温室の中にいる。自分以外の人がいないことを確認し、特殊記号を入力、経過観察指示書を閲覧する。

 

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経過観察指示書

ラナ、君には彼を観察してほしい。手段は君に任せる。性格、価値観、身体的特徴、何でもいい。彼の経歴を調べる必要はない、彼を1週間観てくれ。

 

スネークと名乗っている彼だが、直近の記憶がないと言っている。だが調べてみたら極めて特殊な体質だ。

 

【血液中源石密度】0.000μ/L

 

これがどんな意味を持つか、君なら十分にわかるだろう。実際、ワルファリンが動きかけたから私が先に動いた。彼は私が知らない固有名詞や地名を言っている。せん妄や何らかの精神疾患にかかっている可能性もある。だが、私は彼の言葉が嘘だとも断言できない。

 

事実として彼は源石に一切汚染されたことがない、これだけだ。

彼にはどんな影響が出るかわからないという理由で1週間ここにいるよう伝えた。

 

人事部が彼を拾ったBSWの3人から情報収集している。分かり次第君のところに情報を回すよう手配しておく。

彼の体質がどんな影響を及ぼすかわからない、が、それ以上にその男はあまりにもわからないことが多すぎる。何より彼の体質について知られれば何かしら混乱が起きる。彼の“特殊な体質“については機密扱いにする。彼自身には源石密度が特殊なことは伝えてある。

 

彼はとにかくこの世界の情報がほしいと言っていた。あまり他の職員やオペレーターと接触するのは避けたいが、図書館から本を貸し出すことは問題ない。君の名前で本を与えてもいいだろう。

 

あまりにも特殊な事例を急に扱うことになって、私もすまないと思っている。

療養庭園の人員と予算の拡大を約束しよう、よろしく頼む  ケルシー

———————————————————————————————————

 

 

 

 

 

 

「……トンデモナイお客様が来たわね」

 

ラナからすれば、経過観察指示書という名目で機密扱いの任務が舞い込んできたのだ。

この療養庭園は普段は人の出入りも多く、香りによる癒しを求めてオペレーターや職員がよく利用する。だが、今は先月の戦闘で疲れた職員たちは休暇を与えられており、またオペレーターたちは訓練や哨戒任務、交易の護衛などの通常任務に出ている。何より療養庭園そのものが1週間の休園を与えられている。

管理人であるラナはここで生活して植物たちをお世話しているので、あまり変わりはないが他の職員や利用者はごく一部の例外を除いてここに足を運ぶことはない。

 

「まあ都合がいいわね、ここなら静かで余計な刺激もない。何より私の暇な時間を潰せそうだわ」

 

厄介ごとを押し付けられた、というよりはうまいこと条件が整っていたらからここを頼ってくれた、私にも都合が良い。そうラナは楽観的に機密扱いの指示を受け入れた。

確かに一切源石に汚染されていない、というのには驚いたが、それだけだ。何より、わずかに彼から香る不思議な香りに興味が湧いた。それにこの指示内容ならいくら会話しても怒られることはないだろう。

 

指示書を閉じ、新しいフォルダを作成し保存。ここに1週間の記録も保存していけば良いだろう。

そうと決まれば早速彼と話をしよう。時間はたっぷりとある。

 

 

 

 

 

 

*1
ナルシサス:和名でスイセン、花言葉は『自己愛、自己中心、うぬぼれ』など

*2
アイリス:アヤメ科の総称、香料の場合はニオイアヤメのことを指すことが多い。花言葉は『伝言、希望、信頼、友情、知恵、賢さ』

なお、地中海産のニオイアヤメは香料として抽出するのに6〜7年ほどかかり、めちゃくちゃ高い

*3
ボロニア:柑橘系の香りがする花、花言葉は『印象的、的確』

*4
カモミール:別名カミツレ、花言葉は『逆境に耐える、逆境で生まれる力』

*5
カランコエ:花言葉は『人気、人望、あなたを守る』




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