悪ふざけから生まれた、濃厚なBL。

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こんばんは。焼き鯖です。


第1話

 始まりは、一本の小説からだった。

 たまたまのぞいていた小説サイトで、ふと気になってクリックした作品。

 それが、僕の運命を変えた。

 灰色の青春を送っていた僕にとっては、世界に突然色という概念が持ち出されたような衝撃だった。

 今まで読んでいた小説が、全てチープに思えるほどの完成度、まるで生きているように活き活きと動くキャラクター、緻密に練られた伏線の数々、何よりも、言葉選びのセンスが群を抜いていた。

 僕は彼の作品を夢中になって読み込んだ。寝る間も、ご飯を食べる間も、ゲームする時間をも惜しんで、ただひたすらにその人の作品を読みふけった。文章を目に通す一瞬一瞬が楽しかった。

 その人の名前は、おぴゃん。僕に色を与えてくれた恩人。

 僕はテル。おぴゃんさんの虜になった、唯の高校生。

 あぁ、神様、もしも願いが叶うのなら。

 どうか、この人に会わせてください。

 

 

 

 

 

 

 


 

 あれから二年経った。

 大学生となった僕は、変わらずおぴゃんさんの小説を読み込んでいる。いつ読んでも、おぴゃんさんの小説は、僕の心をつかんで離さない。

 

 

「はぁー、この描写かっこいいなぁ、やっぱりおぴゃんさんはすごい人だー」

 

 

 ベットでゴロゴロと身もだえしながら、僕はスマホに映る小説を読み込む。今読んでいるのはおぴゃんさんの新作小説、その最新話だ。鬼となった少女と、その仲間たちによる掛け合いが面白いうえに、バトル描写も見ごたえがある作品だ。初めて見たその日から、僕は更新があるときは欠かさずチェックしている。

 

 

「……よし、今日も面白かった」

 

 

 一度ブラウザを閉じてから、僕は大きく伸びをする。時計を見れば、午後7時半。タイミングよく、ぐぅとお腹が鳴った。

 

 

「あー……お腹減った。帰ってきてからご飯食べてないからなー」

 

 

 両親二人が共働きの弊害故か、こんな風にご飯時を見誤ることなんてしょっちゅうある。今日は弟も帰ってきていないし、ずぼらになる事は確定的だ。

 僕はむくりと起き上がって、リビングに置いてある夕飯を電子レンジに入れた。今日の晩ご飯は煮込みハンバーグである。

 

 

「さて……温め終わる前に感想だけ書いておくか」

 

 

 僕はそのままツイッターを開き、今日の小説の感想をタカタカと打ち込む。『今日も面白かったです』と投稿したところで、温め終えた電子レンジの音が高らかに響いた。

 

 

「……よし、それじゃあ食べよっと」

 

 

 テーブルにハンバーグを置き、席に腰掛けて頂きますと手を合わせる。口に運べばデミグラスソースの濃厚な味わいと、ひき肉のジューシーな肉汁が口一杯に広がった。美味い。

 

 

「……そうだ」

 

 

 僕は箸を置いてスマホを取り出すと、メモ帳を開いた。そこに、今食べたハンバーグの味を自分なりに表現して書き込んでみる。

 この二年の間で、大きく変わった事が二つある。

 一つは、僕も小説を書き始めた事。

 おぴゃんさんみたいな小説を、自分も書いてみたいと思うようになったのが発端で、冬休みの暇な時にアカウントを取得したのだ。活動場所は、おんなじ小説投稿サイト。まだまだおぴゃんさんには遠く及ばないが、それでもツイッターなどで自発的に宣伝しているうちに、ファンの方やフォロワーも増えてきた。素直に嬉しいと思う反面、おぴゃんさんのそれと比べてどうなんだろうと言う疑問もある。

 とはいえ、こうして見てもらえる事はやっぱり嬉しいし、モチベーションにも繋がる。褒められて伸びるタイプだと改めて思うようにしている。

 もう一つ、変わった事といえば──

 

 

「あっ! おぴゃんさんからリプ来てる!」

 

 

 スマホの通知を確認すると、さっきの感想ツイートにおぴゃんさんがリプライを送っていた。『ありがとうございます! テルくんの小説も楽しみにしてますね!』という嬉しい一文も載せられて。

 大きな点二つ目。なんと憧れのおぴゃんさんとツイッターで繋がったのだ。

 なんでも、ふと読んでみた僕の小説がとても面白かったらしく、プロフに貼ってあったツイッターにすぐ飛んだのだという。そこで自分のファンだという事を知り、恐れ多くもリプライを送って頂いたのだ。

 僕の小説を読んでいると知ったときはそれはそれは嬉しかった。これはもう両思いではないかなんて舞い上がりもした。今でもこれは夢なのではないかと疑う時もある。けど、何度ほっぺをつねって見ても痛い。つまり、これは現実という事である。

 

 

「『今日の九時にあげますので少し待っててください!』……っと」

 

 

 ぽちりとリプライボタンを押して返信すると、はぁ〜と幸せな溜息をつく。

 まさか自分が小説を書き始めるなんて思っても見なかった。何より、小説を書くのがこんなに楽しい事だとは思わなかった。それもこれも、おぴゃんさんと出会った事が大きい。何にもする事がなく、つまんないひと時を送っていた自分に、大きな光を当ててくれた。あの人には感謝してもしきれない。

 

 

「……よーし! 食べ終わったら小説書こ!」

 

 

 誰にともなく呟いて、僕はご飯を書き込んだ。少し冷めたハンバーグが、何故だかちょっとだけ美味しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 それは、小説の投稿を終えて、ツイッターでのハッシュタグ遊びに興じていた時の事だった。

 

 

『へー、テル君ってT県出身なんですかー』

 

 

 そうおぴゃんさんからリプライをいただいた。思わず『はい! いいとこですよT県!』とリプライを返す。

 

 

『実は僕、T県の隣のY県に住んでるんですよー』

 

 

「へぇー、そうなんだ。意外と近いんだなー」

 

 

 そうつぶやきながら、『おぉー、そうなんですね!』返信する。『時期が合えばオフ会したいですねー』とも。

 

 

『実はですねー、仕事の都合で夏あたりにT県に越してくるんですよ』

 

 

『え!? そうなんですか!?』

 

 

『そうなんですよ。社会人になるとこういう時大変だからねー。今のうちからテル君も学んでおきなよー』

 

 

『アハハ、そうですねー、しっかり学んでおきます! そっかーでもおぴゃんさんが近くに来るのかー。もし忙しくなかったら、本当に遊んじゃいます?』

 

 

『いいですねー、じゃあこの日とこの日は空いてると思うんですよねー』

 

 

「……あれ? この日とこの日って……」

 

 

 僕は机に置いてあったカレンダーを夏の日付を見る。丁度テストが終わってから三日後と一週間後であり、サークルの活動も親の用事もない日だった。

 冗談でつぶやいたことが、まさか本当に遊べる……? あの、憧れていたおぴゃんさんと、一緒に遊べる日が来る……? 

 

 

『え! 丁度その日僕何にも用事ないですよ! 遊びに行けちゃいますよ!』

 

 

『マジですか! じゃあ遊びに行っちゃいましょう!』

 

 

『はい! じゃあ待ち合わせ場所は……』

 

 

 などと色々話しているうちに、トントン拍子で待ち合わせ場所が決まってしまった。瓢箪から駒が出るなんて言うけど、これがそうなのだろうか? 

 

 

「……うわぁ~今から緊張してきたなぁ」

 

 

 おぴゃんさんって一体どんな人なんだろう。ツイッターの感じを見る限りだと男の人っぽいんだよなー。いやでもまさか女の人かもしれないし……

 もし女の人だったらどうしよう。僕アクセサリーとか洋服とか全く分からないし……あーでも、男の人だったら男の人だったでめちゃくちゃオシャレな人だったらだったらどうしよう……

 大学生男子の妄想はすさまじく、遊べるという衝撃と喜びも相まって、その日は眠ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 そうしてテストも乗り越え、いよいよおぴゃんさんに会える日になった。

 今日までずっと生きた心地がしなかった。というか生きてなかったのかもしれない。今日までずーっとボケっとして過ごしていた気がする。

 待ち合わせ場所の駅前で、僕は胸を押さえながらおぴゃんさんを待っていた。一体どんな人なんだろう。きっと素敵な人なんろうな……

 

 

「……あ、もしかして、テル君ですか?」

 

 

 声を掛けられた方を見ると、そこにいたのは透き通る金髪のショートに白いパーカーを着こなした、中性的な女の人が立っていた。

 少しボーイッシュな感じを残しながらも、透き通る肌は女性を思わせ、薄ピンクに光る唇は、かわいらしさの中にどこか男を誘うような妖艶さも兼ね備えていた。ぶかぶかのパーカーに隠れてしまうショートパンツは、のびやかで健康的な肢体をよりいっそう強調させ、それを更に黒いタイツが引き立てている。

 体や服のどれもが魅力的で、その全てが蠱惑的だった。

 

 

「あ、は、はい! あの……貴方がおぴゃんさんですか?」

 

 

 恐る恐る声を掛けてみる。おぴゃんさんと思わしき人に声を掛けてみる。

 

 

「はい。初めましてテルさん。お会いできて光栄ですよ」

 

 

 にこりと笑いかけて発せられた言葉は、()()()()()()()()()

 

 

「え……お、おぴゃんさんって……」

 

 

「うん、男だよ。この格好は趣味でやってるんだ」

 

 

「しゅ、趣味……」

 

 

 あらゆる意味で衝撃的だった。あんなにすごい小説を書く人が女装癖を持っていることも、女装のクオリティが高いことも、女装のまま平然と街へ出ていくことも、その姿のままで僕に会うことも。

 前々からすごい人だとは思っていた。けど、ここまで突き抜けた人だとは思ってもみなかった。

 

 

「驚かせちゃったかな? ごめんね、これで出かけるの癖みたいなものでさ。嫌だったかな?」

 

 

「い、いえ! その……とても似合ってます……可愛いです」

 

 

 絞りだした声で伝えたのは、僕の本心。一目見たときは本当に女性かと思ったし、正直言って一目惚れしそうだった。それくらい、おぴゃんさんの女装のクオリティは高かった。

 

 

「……そっか。ならよかった。じゃあ気を取り直して、さっそく遊びに行こう!」

 

 

「はい! 案内は任せてください!」

 

 

 そう言うと、僕とおぴゃんさんは町へと繰り出していった。

 オフ会は、僕の案内の下でいろいろな場所へ行った。カラオケに行ってデュエットしたし、ちょっとおしゃれなカフェでパフェを頼んだり、そこで苦いコーヒーに驚いておぴゃんさんに笑われたり、おぴゃんさんの要望でデパートで新作の服やコスメを見たり……

 おぴゃんさんが女装していることを忘れてしまうくらい楽しかった。おぴゃんさんも、僕と同じくらい楽しそうに笑っていたし、今日のオフ会を開いてよかったと思う。

 

 

「いやー、楽しかったねぇ」

 

 

 すっかり夜になった駅を歩きながら、おぴゃんさんはひとり呟く。

 

 

「そうですねー、僕もおぴゃんさんと遊べて楽しかったですよ」

 

 

 合わせるように僕も言葉を続ける。

 

 

「夕ご飯も食べたし、今日はここらへんで解散っすかね?」

 

 

「うーん……それもいいんだけど……」

 

 

 何か考え込むように言葉を濁した後、おぴゃんさんは思いついたようにいたずらな笑みを浮かべた。

 

 

「もしよかったら、僕の家に来ない?」

 

 

 一瞬、思考が止まる。

 一体何故、しかもこんなタイミングで僕を家に誘おうとしたんだ? それ以前に会って一日しかたってない唯の知り合い相手にいきなり家に誘うとか、何か企んでいるのか? もしかしておぴゃんさんは意外と悪い人なのかな。僕のことをなんかそういう悪い人に売っちゃったりするのかな……

 

 

「あはは、大丈夫。テル君に危害を加えたりはしないよ。ちょっと見てほしいものがあるだけだよ」

 

 

 そんな僕の考えを察したのか、おぴゃんさんはまた不敵な笑みを浮かべて答えた。

 

 

「み、見てほしいもの……?」

 

 

「そう。ちょっとだけだからさ、見せたらすぐに帰すからさ」

 

 

「はぁ……す、少しだけなら……」

 

 

「やった。じゃあ、さっそく案内するよ。あっ、でもその前にお酒だけ買わせてね」

 

 

 まるで本物の女性みたいな笑顔を向けると、おぴゃんさんは近くのコンビニに駆け込んでいった。その場に一人、僕だけが取り残される。

 さっきの表情……本当にかわいかったな……もしおぴゃんさんが女性だったらこのまま付き合ったりとか……いやいや、僕は一体何を考えているんだ。おぴゃんさんは男性なんだぞ。付き合えるわけないじゃないか。でも……あの笑顔は彼女が彼氏にしか向けないような笑顔で……もしおぴゃんさんが女性だったら……

 

 

「おまたせー」

 

 

「ひゃあ!?」

 

 

「どうしたの?」 

 

 

「い、いえ……なにも……」

 

 

 僕の思いを知ってか知らずか、おぴゃんさんはくすくすと笑う。

 

 

「それじゃあ、行こうか」

 

 

「は、はい……」

 

 

 そのまま僕とおぴゃんさんは、いまだ輝く夜の街を抜けて、真っ暗な闇の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 今、僕は会って一日しかたってない人の家に来ている。

 それも、僕の憧れた作家の家に、だ。

 

 

「これがおぴゃんさんの家……」

 

 

 部屋をきょろきょろと見渡しながら、僕は静かに呟く。

 白壁のシンプルなマンションの部屋は引っ越しの荷物が残っているであろう段ボール以外は綺麗に片付けられていた。

 

 

「はい。飲み物オレンジジュースでよかったかな?」

 

 

「は、はい……」

 

 

「じゃあ、二人の出会いにカンパーイ!」

 

 

 おぴゃんさんの音頭に合わせてコップとアルミ缶がカチンとなった。そのままグッと一気にお酒をのどに流しこみ、「うーんおいしい!」とため息を流す。

 

 

「いやー、やっぱり夜のお酒はおいしいね。テル君も大人になったら飲んでみてね」

 

 

「あっ、はい……」

 

 

 陽気に語り掛けてくるおぴゃんさんとは違い、僕は遠慮したままだった。やっぱり何を見せられるか不安だったし、この後どうなるか本当に予想がつかなかったからだ。

 

 

「おうおうどうしたー? テンション低いぞ若人ー」

 

 

 既に酔いが回っているのか、このこのーと上気した顔で僕をつついてくる。しかも遊んだ時そのままの服装だから、余計にたちが悪い。

 

 

「そ、それで……僕に見せたいものって、一体なんですか……?」

 

 

 恐る恐る尋ねてみると、おぴゃんさんは「ん~?」ととぼけたような声を出し、にやりと妖しく笑った。

 

 

「そうだねー、どうしてもって言うなら今見せてあげてもいいけどー……」

 

 

 どうする? と意地悪気に目で聞いてくる。

 

 

「み……見たいです」

 

 

 ここは強気に突っ張った。さっきからおぴゃんさんのペースだし、ここで自分のペースに戻したい。

 

 

「了解。じゃあちょっと待っててね」

 

 

 不敵な笑みのまま、おぴゃんさんは立ち上がって別の部屋に行ってしまった。

 

 

「……何が始まるんだろう……」

 

 

 独り言ちながら、改めて部屋を見渡してみる。

 赤いちゃぶ台と、男性らしいタオルケットが敷かれたベット以外、本当に引っ越し立てって感じだった。家具もプラスチック製の収納箪笥以外は最低限といった感じ。ここから荷解きをして、整理していくんだろう。

 女装のおぴゃんさんには驚いたが、普段のおぴゃんさんは相当かっこいいんだろうなと思う。結構身長も高かったし、化粧とかウィッグとか脱いで、普通の服を着ればかっこいいんだろうけど……どうして女装なんて……

 

 

「……うん?」

 

 

 ふと、収納箪笥の端に何か黒いものがはみ出ているのが見えた。見るからにポリエステル製のそれは、何故か僕の目を釘づけにした。

 

 

「……今おぴゃんさん……向こうに行ってるよな……」

 

 

 これが魔が差した、というのだろう。

 僕は別室にいるおぴゃんさんに気づかれないようにしながら箪笥に近づき、はみ出ている黒いそれを、静かに、そっと取り出した。

 

 

「……え? これって……」

 

 

 するりと手に入ってきたそれに、僕は息をのんだ。

 夏にしか見たことのないそれは、妙に布面積が小さく、乳首の部分しか隠せなさそうなほど細かった。紐の部分も、布を支える最低限だけしか用意されておらず、体のラインがもろに浮き出るような代物だった。

 今まで写真や画像でしか見たことなかったが、これは間違いなく……

 

 

「マイクロビキニだよ」

 

 

 耳元に感じられる、甘い囁き声。思わずひゃう!? と声が出る。

 

 

「お、おおおおおおぴゃんさん!? いたんなら声掛けて────」

 

 

 振り返ってハッと、僕は息を呑んだ。

 目の前のおぴゃんさんは、青い導師服に身を包んでいた。キョンシーとかが着ていそうな、そんな感じの服だったが、丈が異様なほど短かった。股をぎりぎり隠せるだけしかなく、肩も腰も丸見え状態で、僕にとっては目の毒だった。程よく肉がついた足には、扇情的な衣装とは裏腹に清楚な白のタイツ。

 まるで僕を誘惑するように用意されたそれを、おぴゃんさんは何のためらいもなく着こなしていた。

 

「お、おぴゃんさん……それ……」

 

 

「次にツイッターにあげる女装なんだけど、テル君こういうの好きかなーって思って。着てみちゃった」

 

 

「着てみちゃったって……」

 

 

 そんな軽い調子で言われても、僕はどうすればいいか分からない。けど、目の前にいるおぴゃんさんは、男とは思えないほど綺麗で、可愛くて、それで……

 

 

「あーちょっと目がエロくなってるー。やらしー」

 

 

「なっ……!」

 

 

 見透かされたかのように意地悪くおぴゃんさんは笑った。思わず「違いますよ!」と否定し立ち上がる。

 それでもなお、おぴゃんさんはくすくすと笑ったまま僕を見つめた。

 

 

「でもー、そのマイクロビキニを持ったまま言われても説得力がないなー」

 

 

 

「ふえ……?」

 

 

 近づきながら揶揄うおぴゃんさんにつられて自分の手を見ると、確かにそこにはおぴゃんさんのマイクロビキニ。ひゃあとまた情けない声を上げて、僕はマイクロビキニを放り投げた。

 

 

「ち、違うんです! これは、その……」

 

 

「何が違うの? お兄さんに説明してみてよ」

 

 

「え……ええと……」

 

 

 尚もおぴゃんさんは近づいてくる。僕も同じように後ずさるが、それすら計算ずくだと言わんばかりにベットに追い詰められた。

 

 

「説明できないんじゃやっぱりテル君はやらしいんだー」

 

 

「ひぅ……そ、そんなんじゃ……」

 

 

 怖い。ただひたすらおぴゃんさんが怖い。何されるか分かんないし、昼のすごく楽しそうなおぴゃんさんとは全然雰囲気が違う。そのギャップが怖かった。

 

 

「……あー、もう我慢できない……」

 

 

「ふぇ……?」

 

 

 おぴゃんさんが何か言いかけた途端、ドンッ、といきなり壁ドンして来た。思わずベットの上にしりもちをつく。

 

 

「……テル君が悪いんだよ」

 

 

「へ……?」

 

 

「テル君が無邪気に笑ったり、そういう初心な所を見せつけてくるから……」

 

 

 ほら……とおぴゃんさんが前掛けをめくった。

 

 

「うわ……これ……」

 

 

「もうこんなになっちゃったよ……ねぇ……シよう……?」

 

 

「な、なに言ってるんですか! ぼ、僕たちは、その……男同士なんですよ!?」

 

 

「関係ないよ……ねぇ、だめ?」

 

 

 瞳を潤ませ、おぴゃんさんは顔を近づけてくる。だめだ。ここではっきりとノーと言わないと、僕はこのまま帰ってこられなくなる。

 だけど、期待と羞恥に潤む瞳と、酒で赤く染まった頬は、まるで夜に輝く誘蛾灯のように美しく魅力的で、その光に魅入られた蛾は、一匹残らずその光にやられてしまうだろう。

 僕も、そんな憐れな蛾の一匹だったらしい。口ではどんなに否定していても、吸い込まれそうなおぴゃんさんの瞳から、逃げることが出来なかった。

 おぴゃんさんの距離が縮まっていく。

 あと三センチ……

 あと二センチ……

 あと一センチ……

 その手が肩に触れた。

 ああ、もう僕は焦がされたんだなと、心の中で悟った。 

 


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