楽しんでもらえるように頑張ります!
最初の方は暗い話となりますが、ご了承ください。
◆
世界は突如として現れた深海棲艦の侵略により地獄と化した。
海洋国家である日本はシーレーンを絶たれ、孤立。
後に誕生する艦娘がシーレーンを奪還するまで、国民は疲弊し深海棲艦からの攻撃からも経済的にも多くの犠牲者を出した。
深海棲艦の侵略は日本国内で結果的に所謂『お花畑』と揶揄される派閥も『過激』と揶揄される派閥もその考えを改めることになる。
日本が『深海棲艦に負けない』ことこそが国民の第一目標となった。
自衛隊は名を変え体制を変え、国防軍として新しく生まれ変わり、国民はそんな国防軍と艦娘を支え、この苦難を乗り越えようと団結した。
何もすることが出来なかった地獄の日々を国防軍と艦娘が押し返し、六年の月日を掛けてやっと深海棲艦との力の差を無くしたのだ。
◇
深海棲艦に対抗出来る唯一の希望、艦娘。
それはまさに八百万神がいるとされる日本国でしか起こせない奇跡によって生み出された。
燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイト
たったこれだけで人を超えた人類《艦娘》が誕生するのだから、これを奇跡と言う他に何と言い表すことが出来ようか。
また艦娘を誕生させるのに欠かせない妖精たちの存在。
まるでお伽話のようでいて、しかしこれが今ある現実である。
艦娘と日本海軍のお陰で世界は立ち上がることが出来、今では日本なくして世界は纏まらない。
多くの国が日本を頼り尊敬し、日本もそれに驕ることなく誠実に各国と手を携えている。
全ては艦娘が生まれた日本があるから、今の世界は深海棲艦に負けていないのだ。
―――――――――
あれから世界は長い間、深海棲艦と戦っている。
大変なことではあるが、その足を止めると国が滅びてしまう。
だから各国は海軍を中心に戦力を高め、国民はそんな軍や艦娘たちを支えているのだ。
それは日本も同じだが、この日は軍内部で大きな出来事が幕を下ろすところであった。
―――
「君には本当にがっかりした」
日本海軍の長、大元帥:
三木里はかの地獄の日々を艦娘と共に押し返した英雄であり、70近くになった今でも何も陰りを見せない生ける伝説。
そんな英雄の声色には大きな悲しみが含まれている。それだけ三木里もこの男を高く買っており、期待していたのだ。
大罪人は元帥である。
まだ若く、勇猛果敢で怖いもの知らず。
提督という肩書を得て、邁進してきた男の名は―――
"
―――30歳という若さで元帥にまで登りつめた鬼才。
見た目はとても罪を犯すようには見えない甘やかながらも賢さを感じさせる黒い瞳を持った、美丈夫。
身長175センチで体型もスリムながら、肉体は軍人らしい筋肉質な鎧を纏う。
艶のある藍色掛かった黒髪。サイドを刈り上げるショートスタイルヘアは白の軍服が実に似合うし、軍帽も邪魔にならない。
―――
豹馬は深海戦争孤児であり、父と母を深海棲艦の空襲によって彼がまだ8つの時に失っている。
幸い4つ下の妹:
豹馬と陽和に親戚はいたが、戦時下で経済状況が悪く、等しくどの家庭もとても育ち盛りの子どもを二人も養える程の余裕がなく、豹馬と陽和は戦争孤児を専門に受け入れている政府管轄の孤児院に身を寄せた。
同じ境遇の子どもたちがいる上、管理人も責任者も慈愛深かったため、豹馬たちの性根が明るかったものあってすぐに孤児院に馴染んでいった。
豹馬が公立高校を卒業すると、彼は防衛大学校艦娘指揮科へ進学する。
彼の高校生活は勉学とアルバイトだけで消えていった。
しかしそれも己と妹の夢のため。
まだ自分が誰かに頼らないと生きていけなかった子どもの頃、両親を亡くして泣いていても誰もその手を取ってはくれなかった。
妹は泣くことしか出来ず、自分はただそんな妹を抱きしめてやることしか出来ない無力感でいっぱいだった。
その時に豹馬は決めたのだ―――
―――そのために提督になろう、と。
結果、彼は努力と天賦の才で防衛大学校をトップの成績で卒業した。
卒業と同時に呉泊地の大きな鎮守府を任せられたが、そこから梁川豹馬という男の栄光を辿る道が茨の道へと化し、彼を『悪』に変えていく。
初めは彼のことを妬んだ心の狭い一部の同期たちの嫌がらせからだ。
妬んだ理由もその器の如く小さなもので、孤児のくせに何でも出来て気に入らない、というだけ。
今の時代の鎮守府は各所に点在し、鎮守府に提督は一人で局所的緊急事態時は連絡網で決まった順に通達が来る。
そこで豹馬の鎮守府を包囲するように着任したその同期たちが、敢えて彼の鎮守府には連絡をしなかった。
連絡をしなければ彼は連絡が来なかったと真実を述べるが、不運にもこの時は深海棲艦によって連絡基地や電波塔を破壊されたこともあって連絡をしてないという確かな証拠を出せなかったのだ。
よって同期たちは口裏を合わせ、そうすれば彼の責任問題として上で処理される。
こうしたことが日常茶飯事であったが、豹馬の信念は固く、彼は決して折れなかった。
だから惨劇が起きた。
唯一の家族、妹の陽和がある日何者かに集団強姦されたのだ。
警察がどんなに調べても犯行組織は見つからない。しかし真実は豹馬を快く思わない同期たちがその手の者たちに情報を流して、金で襲わせたのである。
陽和は兄と同じく美しい黒髪を腰辺りまで伸ばしたストレートヘアに、両目尻にある小さなほくろがチャームポイント。背は162センチでスタイルも良く、ファッション誌のモデルや芸能事務所なんかにスカウトされる程だ。
それが悲しいことにそんな女性が標的だとなれば、その手の屑は喜んで餌食とする。
結果、陽和は心に消えることのない大きな傷を負い、そのせいで病室で帰らぬ人となった。死因は病室の天井に吊り下げられた点滴用のフックを使っての首吊り。
その第一発見者が見舞いにやってきた兄の豹馬だった。
陽和の葬儀が終わると、豹馬はもう今までの豹馬ではなかった。
悪に心を支配されてしまったのである。
何故なら妹の葬儀に豹馬を遥々嘲笑いに来た同期たちが陰で―――
妹さんを殺したのは兄なんだよなぁ
兄貴が世間知らずの無能だから
兄貴が優秀過ぎて身の程知らずだったから
―――等と嬉々としながら囁いていたから。
それで豹馬は決心したのだ。
必ず地獄を見せてやる、と。
―――
そして今日この日、豹馬は横領罪、強要罪、恐喝罪等々で大元帥から断罪された。
復讐を果たした豹馬の表情はとても清々しく、大元帥にも自分は当然のことをした、と何の弁明もしなかった。
自分のこれまでの一連の行動は世間一般からすれば罪だと理解している。
警察や何かに相談すれば良かったのに、と思う者もいるだろう。しかし自分しか屑共が犯してきた罪を証言出来ないとなれば、屑共はいくらでも言い逃れられることが可能となり、ならば自分の手で裁きを下す以外ないではないか。
憎しみは憎しみしか生まない等と聖人みたいなことを言われたところで、豹馬にとっては先に憎しみを与えてきた屑共に憎しみを返しただけ、としか言えないのだから。
そもそも過ぎてしまったことを、自分の身に起こってないことを、誰が熱心に解決しようと動いてくれるのか。豹馬にとってそんな存在はいない。誰も信用出来なかったのだ。
自分が神様でも菩薩様でもお釈迦様でもないのは十分分かっている。でも自分でしか裁けないのであれば裁くしかないではないか。
だから豹馬は彼らと同じ方法で自分がされたことをやり返し、最後には妹が受けた苦しみのほんの数パーセントを試しに返してみた。
なのに、たった数パーセント返しただけで彼らは泣きながら、謝りながら自分の目の前で死んでいった。自分はまだ何も手を出していないのにもかかわらず、自害したのだ。
そこに達成感など無く、虚しかった。床に転がる人の形をした屑に自害させてしまうという失態だけは悔やんだものの、あまりにも呆気なくて虚しさの方が勝っていた。妹はそれくらいつまらない屑たちに勝手な理由で標的とされ、自ら命を断ってしまった。
何も出来なかった自分が豹馬は情けなくて、ただただ笑えた。でもやれることはやった。
もう何も思い残すことはない。
だから罪を犯した軍人だけが入る刑務所へ移送されるトラックの中で、豹馬は自らの舌を噛み切った。
これで梁川豹馬という男の人生は幕を閉じた―――
―――はずだった。
◆◆◆◆◆◆
『――るのだ、豹馬よ』
誰かの声がする。
『起きるのだ、豹馬よ』
今度は鮮明に聞こえた声に、豹馬はハッとして目を覚ます。
高い天井、広く何もない空間。体を起こそうとしたが、力が入らずにただ天井を見上げた。
そんな空間にぽつんと横たわっている豹馬の目の前に、名も知らない顔が迫ってくる。
白装束の人間の顔は大変整っているが、顔からも声からもそれが男なのか女なのか判断するのは難しかった。
『起きたな』
「……はい」
豹馬が返事をすると、白装束の人はその笑みを深くする。
自分は死んだはず……そう思っている豹馬の思考を読んだかのように白装束の人は『そなたは死んだ』と語りかけてきた。
「……ここはあの世、ですか?」
『あの世ではある。でもここはまた特殊な場所でもある』
その言葉に豹馬が訝しむと、白装束の人は豹馬を安心させるように微笑んで、説明を始めてくれる。
白装束の人は人ではなく、神だという。
それもタケミカヅチだと。
何故、タケミカヅチが豹馬の目の前にいるのか……それは彼に天賦の才を与えたのがこのタケミカヅチだという。
タケミカヅチの自己紹介等の次は豹馬が今置かれている立場の説明をしてくれた。
このまま進むと梁川豹馬という人間は地獄に落ちる。
豹馬はそれでいい、その覚悟を持ってやってきたと言うが、タケミカヅチを含めた多くの神たちが『彼は地獄に落ちるべき人間ではない』と言っているのだとか。
その筆頭が豹馬に才能を与えたタケミカヅチであり、『彼にもう一度チャンスを!』と多くの神々を連れて十王たちに頼みに行ったのだという。
結果、十王はその願いを聞き入れることにした。
十王もこれだけ多くの神々に愛されている亡者を審理するのは難しいため、特例でもう一度同じ時間軸を過ごしてもらおうということになったのだ。
因みにこの特例には前例があるため特に問題は無いのだという。前例があるとは言うが、そう頻繁に特例措置を行う訳ではない。
ただいくら特例で再び現世に戻っても、倶生神が変わらずしっかりとその者の行動を見ている。
よって戻っても悪行を繰り返せば地獄行きに変わりはないということだ。
また神々が自分たちがそうあれとして作った人の理に反して干渉することは容易いことではないので、十王が定めた時から再出発となる、のだとか。
『―――ということだが、あとはそなたが決めることだ』
説明を終えたタケミカヅチがそう言うと、豹馬は―――
「今度は穏やかに過ごしたいです」
―――と言う。
それにはタケミカヅチも思わず吹き出して笑った。
『それはそなた次第。ふははっ、やはりそなたは我が見込んだ人の子だ』
「…………?」
言っていることが分からない豹馬だったが、自身に光が集まって来たことでそれ以上考えてはいられなかった。
『我や多くの神々がそなたを愛している。今度は長生きしてくれることを祈っているぞ』
タケミカヅチがそう言うと、豹馬の意識は再び遠退いた―――
◇◇◇◇◇◇
―――眩しい。
豹馬は強くそう感じて瞼を開ける。
するとどうだろう。
目の前にはあの大元帥がいた。それも最後に会った時よりも若い。
「では君の面談を始める。希望の泊地、または鎮守府の規模はあるかな?」
唐突な質問。しかし豹馬はその言葉でこの生が二度目だと強く実感する。
そして両親と再会することは出来なかったが、妹とはまた会えることに豹馬は内心歓喜した。
これは艦娘指揮科の最終面談。
成績が高ければ高い程、本人の希望通りに配属してもらえる成績上位者の特権みたいな物だ。
普通ならば成績優秀者の配属先は上で勝手に決めそうなものだが、日本国防海軍は敢えて本人たちの希望制にすることで希望者が長くその地に留まれるようにしているのだ。
結果退役率もガクッと減り、深海棲艦の脅威にも対抗出来ている。
豹馬は提督にとって一番大切な指揮能力だけでなく、艦娘とのコミュニケーション能力も高く評価されており、大元帥も有望な人材としてその名を良く知っていた。
なので豹馬が何を望むのか興味深く待っている。
「……自分は―――」
こうして梁川豹馬の再スタートの幕が開けたのだ―――。
梁川豹馬提督がセカンドライフをどう過ごすのか、お楽しみに!
二話目は早めにアップします!
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