梁川豹馬という日本軍人がいる。
彼は30という若さで元帥になった鬼才。
防衛大学校艦娘指揮科を主席で卒業したのに、敢えて地方鎮守府へ着任した。
理由は唯一の家族である妹との生活のため、そして地方でも艦娘たちと一からその地を守るため。
これが伝説の始まり。
提督となって誰もが戦艦や正規空母といった強力な艦娘たちを着任させようと躍起になる中、梁川提督がはじめに着任させたのは軽巡洋艦と駆逐艦。
彼の能力であれば戦艦も正規空母も容易に着任させることは可能だったが、彼の着任地は地方の鎮守府であり彼自身も新米だった。
だからこそ梁川提督は先ずは水雷戦隊を育成したのである。
その方針は見事に功を奏し、その結果は多くの提督たちに『戦艦や正規空母に頼らなくてもいいのだ』ということを知らしめた。
当時、大本営は着任したばかりの提督たちがこぞって戦艦や正規空母を欲しがることに頭を悩ましていたこともあり、そんな中で梁川提督が出した功績は素晴らしいものであり、誰もが彼の功績を讃えた。
しかし意識改革だけで終わる梁川提督ではなかった。
彼の次なる功績は航空巡洋艦の有用性を知らしめたことである。
航空巡洋艦は多くの提督たちにとってどう扱うのがいいのか分からなかった。
端的に航空戦と砲雷撃戦が出来、しかしどれにおいてもそれぞれのスペシャリストである戦艦、空母、軽巡洋艦に駆逐艦からしてみたら火力が心許ないという評価。
それを梁川提督が航空巡洋艦を基幹にして防衛ラインを守ってきたことで、航空巡洋艦が如何に優れた艦種であるかを証明したのである。
彼がいなければ、今頃航空巡洋艦たちはこれまで通りの評価しかされなかっただろう。
そして極めつけは梁川提督の先を見通す聡明さだ。
いち早く深海棲艦の戦力増強に気が付き、艦隊の戦力を増強。
普通なら『何をいきなり』と首を傾げたくなるだろうが、この時点で彼は誰もが認める名将であった。
故に彼の行動を見て誰もが倣うように戦力を増強し、日本は安定した平和を維持出来たのである。
梁川豹馬という男がいなければ、今の日本は混乱と不安が渦巻く国になっていたことだろう。
―――――――――
――――――
―――
「なんて特集記事が組まれてる有名人がさぁ―――」
「うぅっ、陽和ぃ……ほんとにっ、うぐっ、おめで、おめ……うううぅぅぅっ!」
「―――まさか妹の結婚式でこんなに泣き崩れるだなんてねぇ」
本日は晴天なり。
豹馬が30歳を迎えた年、妹の陽和が結婚をすることになった。お相手は長年働く喫茶店の息子さんで歳は28。喫茶店を切り盛りする夫婦は遅くに子宝に恵まれ、陽和が喫茶店に就職した頃はバリスタ修行で本場イタリアで生活していた。
そして日本へ戻ってきた時に二人は出会い、今日めでたく結ばれたのである。
陽和の兄が町を守る有名人であったため喫茶店の息子はかなり恐縮してしまったが、今では二人で酒を飲み交わす仲で本当の兄弟みたいに過ごしていた。
しかしそんな義弟も義兄のこの号泣に苦笑いを禁じ得ない様子。
「義兄さん、泣き過ぎじゃないかな?」
「だよねぇ。まあ何も感じてもらえないよりはいいんだろうけど……」
新郎の言葉に花嫁である陽和は複雑そうに返す。
幸い結婚式は町の神社で両家親族のみで行っているため、周りの目はそこまででも無い。
しかしそれでもこの泣き崩れ様は流石に誰もが引いてしまう勢いであり、しかししかしそれだけ豹馬が妹を大切にしてきた証拠でもあった。
兄から妹へ向けた祝辞を読み上げている最中に泣き崩れはしなかったが、宴会に入った途端にこうなのだから誰もが苦笑いは浮かべる他なかったのである。
「提督、涙やら鼻水やらでお顔が大変なことになっていますよ……」
そんな彼を妻扶桑は世話を焼いて、今も甲斐甲斐しくハンカチやティッシュで旦那の顔を拭いてやっていた。
普段は凛々しい豹馬がここまでになるのは扶桑も初めて見たが、扶桑の場合は引くどころか逆に庇護欲を掻き立てられてうんと甘やかしている。日頃とは真逆な関係に陽和は少し新鮮さを感じた。
豹馬と扶桑は二年程前に入籍はしている。
しかし未だに同じ屋根の下では暮らしてはいない。
何故なら扶桑が豹馬と陽和の家族の時間を奪いたくなかったから。
それでも陽和が結婚し、アパートを去るのでそれと入れ替わるように扶桑がアパートで過ごすことになっている。
あのアパートならば鎮守府からも近いため、大本営からも艦娘宿舎外で暮らすことを了承したのだ。
「扶桑……陽和がぁ、陽和がぁぁぁっ!」
「はい。本当に素晴らしいことです」
えぐえぐと大泣きする豹馬を扶桑は子どもでもあやすかのように慰めている。
実は結婚式の前に陽和たちは鎮守府の正門前で提督の妹が結婚するから、と梁川艦隊の皆から17発の礼砲を空に打ち上げた。その時に既に豹馬は泣き崩れていた。
それからなんとか復活して結婚式に参加し今に至る。でも流石のお兄ちゃん子である陽和も今回ばかりは引き気味なのは仕方ないだろう。
「お兄ちゃん、そろそろ泣き止んでよ……私が悪者みたいじゃん」
「そうですよ、提督。せっかくのおめでたい席なのに、泣いてばかりいては思い出が涙だけになってしまいます」
二人からそう言われれば、豹馬もようやっと背筋を正した。
こういうところは流石は元帥になっただけのことはある。
すると、
「あの、せっかくのおめでたい席なので私からもご報告をしてもいいでしょうか?」
扶桑が神妙な面持ちですぐ側にいる三人だけに聞こえるように申し出た。
三人が『なんだろう?』と扶桑の言葉を待っていると、
「……実は、提督との赤ちゃんを授かったみたいなのです」
そんなことを言い出したので、三人はそれはもう仰天する。
本来、艦娘とは人間とは異なっているため、艦娘としての能力を取り除く解体を施さないと子は授からないのだ。
なのに扶桑は妊娠した。これはドック妖精たちが検査した結果なので誤診ではない。
「ど、どういうことだ?」
これには流石の豹馬も困惑。いくら前の人生の記憶があろうが、こんなことは初めてだったから。
「えぇと、なんでも妖精さんたちが言うには『いくら艦娘でもあれだけイチャイチャしてたら子どもだって宿っちゃうよ!』だそうで……」
赤面しつつも妖精らから聞いたことをそのまま告げると、陽和もそのお相手も『ああ……』とどこか納得し、豹馬は豹馬で「そうなのか……」と扶桑と妖精の話を信じるように頷いて見せる。
「……じゃあ、そのお腹に俺と扶桑の子が?」
「はい、そうです」
「……扶桑」
「はい?」
「……子どもには悪いけど、俺にとって世界一好きなのは扶桑だけだ。子どもは二番目になることを許してほしい」
「……ぴぃ」
唐突な甘い甘い告白に扶桑もこれには鳴くことしか出来なかった。
「えぇ、じゃあ私は三番目に降格〜?」
そこにどこか不服そうな陽和が割り込んでくる。
「仕方ないだろう? でも陽和のことは家族としてずっと好きだ。それに旦那にとって陽和は世界一だろう?」
な?―――と新郎の方へ豹馬が話題を振れば、新郎ははにかみながら頷いてみせた。
結局のところこの兄妹は周りに砂糖を撒き散らすスペシャリストだと言うことだろう。
「……扶桑、これからも愛してる」
「はい、私も提督を愛しております」
こうして梁川豹馬という男の伝説はこれからも扶桑と共に甘く続くのだ―――。
いきなりですが、これでこの作品を終わろうと思います。
本当ならばもっと色々と砂糖を投下したかったのですが、10月からリアルの方が色々と忙しくなり執筆活動が困難であるため、こうして最終回を迎える運びになりました。
それでもこうして読んで頂き、本当に本当にありがとうございました。
リアルが落ち着いたら、また何か新作を執筆しようかなと思います。
10月30日になったら活動報告の方で執筆活動を再開するかしないかのご報告をさせて頂きますので、何卒ご理解ください。
最後に、この作品をここまで読んでくれた方々
楽しみにしてくれた方々
評価をしてくれた方々
お気に入り登録してくれた方々
誤字脱字を報告してくれた方々
多くの方々に感謝を。
こうして完結出来たのは読んでくれる皆様方のお陰であります故、感謝の言葉しか御座いません。
そして此度は打ち切りみたいな終わり方で申し訳御座いませんでした。
もし機会があればまた私の作品を読んで頂けると幸いです!
あとがきが長くなりましたが、読んで頂き本当に本当にありがとうございました!