死に戻り提督のセカンドライフ《完結》   作:室賀小史郎

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再び始まる提督ライフ

 

「ここが、今日から俺が過ごす鎮守府か……」

 

 豹馬が任された鎮守府はまだ出来たばかりの小さなものだった。しかし外観は純日本家屋で風景から悪目立ちしていない。

 場所は二人が生まれ育った街から電車で二時間の海の町。深海棲艦が出現するまでは港町として賑わっていたが、今は衰退してしまっている。

 なので鎮守府全体が新しく建てられたばかりで一際立派に見える。埠頭にある桟橋もどこも傷んでいない。車で四十分程の場所には移転した卸売市場もあり、今後の豹馬の働きによって訪れる人も増えるだろう。

 

 正門を潜ればすぐに鎮守府本館で、その裏には工廠・倉庫・食堂・宿舎・酒保と並ぶ。

 各所はそれぞれ妖精たちが管理しており、今後の豹馬の働き次第で間宮や伊良湖、明石といった専門的な能力を持つ艦娘を着任させることが叶うだろう。

 一際大きな建物である艦娘たちの宿舎は100人まで入ることが出来るが、豹馬の構想としては100人もいらない。ここの鎮守府の役割は深海棲艦の艦隊を叩くのではなく、主に鎮守府正面海域に重なる輸送線の死守であるから。

 主要泊地の鎮守府ではない地方の鎮守府の役割とはそういうものだ。

 よって規模は本当に小さくなる。しかし豹馬にとってそれで十分だった。華やかな戦果が望めないとしても、決して軽視されていない重要な役割だと上は常々分かっているから。

 

 それに―――

 

「ここが今日からお兄ちゃんがお仕事する場所?」

「そうだよ、陽和。お仕事というか、任務だけど」

 

 ―――何より妹の陽和も一緒だというのは、豹馬にとってこの上ない幸せである。

 

 今の豹馬は22歳で陽和は18歳。陽和は前の人生では高校を卒業してから孤児院近くのスーパーに就職していた。

 

 豹馬はあの面接時に大元帥にこう申し出たのだ―――

 

『自分は成績だけが取り柄の新米であります。故に泊地も規模も何も希望しません。一から艦娘と共に成長出来、その地域の人々をしっかりと守れる艦隊を作りたい……それだけであります』

 

 ―――と。

 

 これには大元帥も彼を推していた教諭たちも驚いた。

 これまでの成績優秀者たちは皆例外なく高い志で最も重要泊地の着任を希望する。

 よって彼みたいに志が高い男はきっと誉れ高い着任地を望むと思っていたのだ。

 

 しかし彼の目に偽りはない。なので教諭たちは本当に素晴らしい人間だと改めて思った。

 対して大元帥殿は『分かった。でも本当に何も希望は無いのか?』と訊ねる。

 すると豹馬は―――

 

『ではお言葉に甘えて……。たった一人の家族である妹も着任地へ連れて行きたいので、通えるように鎮守府の近くにアパートがあると嬉しいです』

 

 ―――と願った。

 

 彼ら兄妹の境遇はその場にいた全員が知っている。

 故に大元帥殿は『妹思いだ』と感動し、大きく頷いて豹馬の希望に合う鎮守府を用意するのだった。

 

 それがここである。

 

 因みに前の人生で豹馬へ嫌がらせをしていたグループは今回の豹馬の決意を『身の程を弁えた賢い選択』と評価していて、特に何か仕掛けてくることは無いだろう。そもそも配属された泊地も違うので関わることは限られてくるのだ。

 この時点で豹馬としては心底胸を撫で下ろしている。もう前のように殺伐とした日々は過ごしたくないから。

 

 鎮守府から徒歩で三十分程のところにアパートがあり、提督業が終われば豹馬は陽和が待つそこで共に寝泊まりする。

 場所的に深海棲艦から襲撃を受けた場合に巻き込まれそうではあるが、アパートの地下に避難出来る防空壕が備わっているし、豹馬がこれから鎮守府を艦娘たちと盛り立てていけばグッと地理的安全は確保される。

 今の時代、海に面した各市町村は鎮守府が出来ることを心待ちにしており、鎮守府が出来るとなったら一気に地域が活性化するのだ。それだけ生活面の安全性は大切だということと、国民が海軍と艦娘を頼りにしているということ。

 加えて海の安全が確保出来れば陸軍と空軍も基地を作れるようになるため、より安全性は高くなる。よって海辺の市町村にとっては鎮守府があるかないかで経済力や人や物の動きが大きく変わってくるのだ。

 

「ごめんな、そっちの残りの荷解きとか手伝ってやれなくて」

「ううん。お兄ちゃんとまた過ごせるから、それだけで嬉しいよ?」

 

 陽和は屈託の無い満面の笑みでそう言った。

 豹馬は軍人、陽和は一般人。なので正門から向こうへは陽和は立ち入り禁止なのだが、彼女はわざわざここまでくっついて来たのだ。妹として兄がどんな職場に身を置くのか見ておきたかったのだろう。

 

 防衛大学校は全寮制で本当のたまにしか会えない日々が続いていた。

 それがまた前のように一緒に暮らせる。陽和はそれがただただ嬉しかった。幸いこちらでもすぐに仕事は見つかり、アパートからそう遠くない喫茶店で働くのだ。そこのマスターも奥さんも初老のいい夫婦である。

 加えて町では豹馬が鎮守府の提督だと知れ渡っていたので、引っ越してきた昨日は道行く人々に温かい言葉を多くもらった。陽和はそれが嬉しかった。何よりも大切な兄がこれ程までに人々の希望であることが。そんな兄の妹である自分はとても幸せだ、と。

 

「それにお兄ちゃんの私物ってあんまり無いからね! エッチな本も無いし、妹としてはホモじゃないかと心配です!」

「余計な心配すんなよ。俺は……まあ自分のことより陽和がいれば幸せなんだよ」

「おお! なら私はいつも幸せだから万々歳だね!」

「お調子者め……。帰りは気を付けろよな? 俺の方は今日早速艦娘が着任するし、中のことを把握する必要があるから帰りは遅くなる。戸締まりはしとけよ?」

「はーい! ご飯の用意はしとく?」

「いや大丈夫だ。今日はこっちの食堂で済ませるから」

「分かった。じゃあ頑張ってねっ、お兄ちゃん!」

「おう。何かあったらすぐに連絡してくれ」

「アイアイサー♪」

 

 見様見真似の敬礼をした陽和はパタパタとアパートへ駆けていく。高校の頃は女子バレー部でその部長もしていただけあってかなり活発だ。

 豹馬はそんな妹の背中を見送りつつ、提督としての一歩を踏み出した。

 

 ―――――――――

 

 艦娘は大本営が各提督たちの要望で建造する。

 要望したらその全てが通る訳ではなく、ちゃんとその提督の能力が認められていないとどんなに要望をしたところで却下されるのだ。また特定の艦娘を着任させたい場合も同様。

 

 豹馬は先ず誰でもいいから軽巡洋艦一隻、あわよくば二隻と駆逐艦の八隻を要望した。

 一部の提督らの中にはいきなり戦艦と正規空母の両方を着任させようとする者もいる。

 豹馬も前の人生ではそうだった。実力があったためにすんなりその要望は通ったが、今生での豹馬の目標は「穏やかな生活」であり、現状はこの要望で十分であった。

 

 ただ大本営も忙しいため、すぐにこちらが希望した数の艦娘が着任することはない。なので今日はどの提督にも与えられる駆逐艦一人とこれから初対面する。

 初対面と言っても、豹馬にとっては初ではないので何とも言えぬ不思議な感覚の方が強いが……。

 

 一階建てで縦長の本館ではあるが、狭くも広くもなく把握しやすい。

 正面玄関から入ってすぐに右側に応接室があり、その隣がトイレ、伝達室と並び、入って左側に作戦会議室と仮眠室。そして一番奥が執務室だ。

 外観は和風であるが中は洋風でどの部屋にも土足のまま行ける。いい意味での和洋折衷だ。

 鎮守府全体の間取り図によるとどの施設にも地下に避難所が設けられており、最悪の場合はそこで凌げるように設計されている。

 

 時刻は既に一〇〇〇前。艦娘はもう執務室で提督の着任を待っているので、豹馬は深呼吸して執務室の扉を開けた。

 

 ―――

 

 扉を開けたと同時にサッと中にいた艦娘が敬礼をする。

 豹馬はそれに敬礼を返しながら執務机の前に立ち、彼が彼女に向き直ると彼女も再び気を付けの姿勢に戻った。

 

「遥々我が鎮守府へ来てくれて感謝する。俺がここを任された提督の梁川豹馬だ。見ての通り新米で、鎮守府も出来たばかりだが、この地域を共に守っていけたらと思う。よろしく頼む」

 

「はいっ」

 

 返事をする艦娘に相変わらず真面目でしっかりしている印象を抱く豹馬。

 前の人生では本当に彼女だけでなく、艦娘たちには悪いことをしてしまった。

 彼女たち一人ひとりのコンディション等関係なく、性能や効率を重視してコミュニケーションもおざなりにしていた。

 だから今生では出来るだけコミュニケーションを大切にしよう、と豹馬は改めて思う。

 

「ではそちらの、自己紹介を頼みたい」

 

 豹馬がそう促すと―――

 

「は、はい! えっと、暁型駆逐艦の四番艦、電ですっ……あの、よ、よろしくお願いしますっ!」

 

 ―――電は声を震わせながら自己紹介し、深々と頭を下げた。

 前の時と全く同じ反応の彼女を見て、豹馬は思わず吹き出しそうになるのをグッと堪える。

 

「っ……まあ、そんなに緊張するな。お互い新米。一つ一つをしっかりとこなしていこう」

「は、はいっ」

 

 電は提督が優しい人で良かった、と胸を撫で下ろした。

 

 艦娘は着任する前に自分が着任予定の提督の大まかな人物の調査報告書と評価を大本営から教わる。

 電はそこで豹馬のことをある程度理解はしていたが、人間誰しも会って話してみるまではどんな人間なのかは分からないのだ。

 だから電はそこでやっと安心することが出来た。

 

「まあ、とりあえず今日はお互いこの鎮守府に慣れる日、だな。任務にしても電一人じゃ危ないから」

「分かりました」

「それじゃあ、施設を見て回ろう。妖精さんたちにも挨拶しないとだし」

「はい」

 

 ―――

 

 二人は本館内をある程度見て回り、次に本館裏にある工廠へとやってきた。

 妖精たちは豹馬や電の手のひらに乗る小さな存在だが、妖精たちがいなければ艦娘の艤装開発も艦娘の修復も出来ない。

 お菓子が大好物なので豹馬は昨日買っておいた菓子折りを渡すと、妖精たちはワラワラと豹馬の肩まで乗って、彼の頬や額に感謝のキスをしてくる。

 前の人生では無かった経験に豹馬は「うわぁ」と驚き、そんな提督を電は可笑しそうに笑った。

 

 艦娘が現れたばかりの頃は各鎮守府で艦娘の建造も行われていたが、無計画に資材を使って任務に支障をきたす事案が発生したために建造は全て大本営が行うことになったそうだ。

 

「ま、まあまた何か良いものがあったら贈る。これから末永くよろしく頼むよ」

 

 豹馬が妖精たちにそう言うと、妖精たちは『はーい!』と言うように揃って愛くるしい笑みで敬礼した。

 

 ―――――――――

 

「まさか妖精たちにキスされるとは思わなかった……」

「ふふふ、司令官さんの心が綺麗で優しいから、妖精さんたちは態度で示してくれたのかもしれませんね」

 

 電がそう言えば、豹馬は「そうなのかな」と苦笑いする。

 倉庫、食堂、宿舎、酒保と回り、どの施設でも妖精たちに豹馬は菓子折りを渡し、その都度キスされた。

 前の人生では本当に無かったことであるし、そもそもキスされることすら初めて。

 

「こほん。とまあこうして回った訳だけど、何か質問はあるか?」

「えっと……あの……そのぅ……」

 

 もじもじして言い淀む電に豹馬は首を傾げる。

 

「どうした? 何でもいいぞ?」

 

 豹馬が安心させるように言うと、電は恥ずかしそうに、

 

「……こんな広いところに電一人なのは怖いのです……」

 

 と消え入りそうな声で訴えた。

 

「ああ、確かにな」

「司令官さん、夜にはお家に帰るんですよね?」

「うん、そうだ」

「すると今夜は電一人ぼっちなのです!」

 

 そんなの怖いのです!と電は目に涙をいっぱい溜めて豹馬の手を握る。

 

「そういうことなら今夜は俺もここに泊まるよ。宿舎に空きはいっぱいあるし、陽和には連絡すればいい」

「いいのです?」

「陽和ももう社会人だからね。留守番くらい出来るさ」

「……ごめんなさいなのです」

「気にするな気にするな。素直に自分の気持ちを吐露するのはいいことだ」

 

 そう言って豹馬は電の頭を妹にいつもしてやっていたみたいにポンポンと軽く叩くように撫でる。

 すると電ははにかんで「はい」と明るい声で返事をするのだった―――。




ヒロイン登場まではまだ掛かります。
次回から投稿までに暫し時間が掛かります。
何卒ご了承ください。

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