死に戻り提督のセカンドライフ《完結》   作:室賀小史郎

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幸せな日常

 

 梁川提督が鎮守府に着任し、一年が過ぎた。

 町の人々からすればこの一年はとても大きな年となった。

 鎮守府が設けられたことで主要産業である漁業が再開出来たこと。深海棲艦からの空爆も無く、観光客も徐々に増えて、町にも若者たちが戻ってきたことで商店街もかつての賑わいが戻ってきたこと。

 

 それもこれも梁川提督と梁川艦隊の艦娘たちの功績。

 故に町の人々も大本営も彼らを高く評価している。

 しかし当の本人たちは至って謙虚だ。自分たちが任務に臨めるのは町の人々と大本営があってこそ、だと。

 まさに理想の関係を築けていると言えよう。

 

 ただし豹馬にとっては何とも言えない気持ちもある。

 何故なら自分には前の人生での記憶と経験があるから。

 それを活かしての今であるのだから、豹馬としては何か狡いことをしている気がしてならないのだ。

 しかしながら今の人生が悪いものだとは思わない。

 妹の陽和も元気だし、その上自分にはケッコンカッコカリをした扶桑と頼もしい部下の電たちまでいる。

 ならばこの幸せを少しでも長く感じられるよう努力しよう……と、豹馬は今日も軍服の上着に袖を通した。

 

 ―――――――――

 

「おはよう、お兄ちゃん!」

 

「おはよう、陽和」

 

 豹馬の朝は早い。なのに陽和は豹馬がアパートに帰っていれば必ず朝食の用意をして待っている。

 

「いつもありがとな」

「ううん、私に出来るのってこれくらいだもん。気にしないで! お兄ちゃんと艦娘さんたちが頑張ってくれてるから私は毎日安心して過ごせるんだから!」

「……そっか」

 

 屈託の無い笑みで返されれば豹馬はもう言うことはない。

 

 行儀良く二人で『頂きます』をして朝食を食べ始める。

 ワカメと大根の味噌汁に豚バラ肉の生姜焼き。

 しかしメインはこの生姜焼きではない。

 

「陽和、あれくれあれ」

「あはは、はい! 昨日漬けておいたから味はしっかり染みてるはずだよ♪」

「ナイス。もうこれだけで丼飯が食えるよ」

「美味しいもんねー♪」

 

 豹馬も陽和も大好物なメイン……それはエノキタケを特別ソースで漬けた『エノキタケ漬け』である。

 

 作り方は至ってシンプル。

 エノキタケの石づきを切り落とし、軸の部分を食べやすい大きさに解しながら耐熱容器に敷き詰めていく。

 ラップをして電子レンジで2分間から3分間加熱。

 加熱し終えたらエノキタケを取り出し、空になった耐熱容器に砂糖大匙1、みりん大匙3を入れて電子レンジで1分加熱し、アルコールを飛ばして砂糖を溶かし合わせる。

 砂糖が溶けたらそこへコチュジャン大匙1(この時辛い物が苦手な場合は大匙1/2でもいい)、醤油大匙1、ケチャップ大匙1、ごま油大匙1、水大匙3、炒りごま大匙2、すりおろしにんにく小匙1を加え、細ネギを細かく小口切りしたものを加えてしっかりと混ぜ合わせていく。

 調味料が合わさったらそこへ加熱しておいたエノキタケを加えてタレと和え、蓋をして冷蔵庫で寝かせる。

 因みに1時間から2時間程で味は染み込む。

 

 豹馬と陽和は孤児院にいた頃、食事の際にこれが一番の好物だった。

 なので二人して孤児院を出る際に料理担当のおばさんにレシピを聞いて、今もこうして再現しているのだ。

 

 豹馬はエノキタケ漬けをご飯の上にサークル状にして乗せ、中央に生卵を乗せてご飯を掻き込む。

 一方で陽和は辛党であるためそこへ更に七味唐辛子を追加して食べるのが好きだ。

 

 また多く作り過ぎた場合は豚肉や鶏肉と共に焼くとまた違った料理として生まれ変わる。

 

「うん、美味いっ」

「んっ、美味しいね」

「……そんな真っ赤なのを俺は美味そうとは思えないけどな」

「美味しいよ? 食べてみる?」

「やめろ。前に試して死ぬかと思ったからな」

「お兄ちゃん辛いの駄目だもんねー」

「カレーなら多少辛くても大丈夫なんだけどな。そういういかにもなヤツは無理だ」

「美味しいのに〜」

 

 陽和はそう言いながらまたそれを頬張って幸せそうに声を漏らす。彼女は筋金入りの辛党で青唐辛子だけで丼飯を平らげるのだ。ただいくら好きでも取り過ぎには注意している。

 豹馬は苦笑いしながら妹を見、こういうところは兄妹でも違うもんだ、と思うのだった。

 

「そういえばお兄ちゃん」

「ん?」

「前から気になってたんだけど、ケッコンカッコカリしてても普通の結婚って出来るの?」

「何だ急に?」

「だってお兄ちゃんもいつかは扶桑さんと本当の結婚しなきゃでしょ?」

「何で扶桑が出てくる?」

「だってケッコンカッコカリってその名の通り仮なんでしょ? 女の子にとって結婚ってとっても大切なことだもん。仮で終わるのは可哀想だよ」

「……まあ艦娘と普通の人間が結婚出来ないってことはない。ただケッコンカッコカリってのは名前だけだとそう取られるけど、実のところは指輪を渡した艦娘が更に能力を上げるための装備品なんだ」

 

 実際に普通の人間である提督と艦娘が籍を入れることはある。

 ただその名称のせいで一般人からしてみると『不純』だと思われがちなのだ。

 大本営としては提督が艦娘は互いに命を預けている関係から、末永く互いを支え合える仲と表して命名したのである。

 しかし実際に艦娘は女性。女性である以上、名称がケッコンであれば意識してしまう。

 そしてこれであればジュウコンなんかも可能であるため、重婚が認められていない日本では違和感が強い。

 だからこそ提督と艦娘が本当に信頼関係を上げないと成立しないシステムとも言えるのだ。

 

「お兄ちゃんは男の人だからそう割り切れるかもしれないけどさぁ。女の子は違うからね?」

「……まあ俺のところは今のところ扶桑一人とケッコンカッコカリをすれば戦力は問題無い。でも戦争ってのはどう転ぶか分からないから、もしまた指輪を渡さなきゃいけない時は扶桑にも渡す相手にもちゃんと説明するさ」

「…………そういうことじゃないんだなぁ」

「は?」

 

 陽和の呆れた様子に豹馬が首を傾げる。

 すると陽和は、

 

「そういう軍事?的なお話じゃなくて、一般的なお話だよ。お兄ちゃんって扶桑さんって人が好きなんでしょ?」

 

 ズバッと言った。

 これには流石の豹馬も思わず目を見開いてしまう。

 

「……そう、だな。俺は確かに扶桑のことが好きだ。だからこそ指輪を贈ったんだ」

「ならそういうお話じゃなくて、ちゃんと本当の結婚も考えようよ。お互い大事だよ、そういうの」

「……確かにな」

「まあお兄ちゃんがちゃんと恋をして仮でも結婚したのは妹としても嬉しいけどね」

「そういう陽和はいい人いるのか?」

「う〜〜〜ん……」

 

 豹馬の問い掛けに陽和は唸って考えた。

 そんな妹を見て、兄は『そこまでか』と苦笑いする。

 

「暫くはそういうの私はいいかな。恋愛してるより、やっとお兄ちゃんと暮らせるようになった今のが幸せだから」

 

 実際、陽和は豹馬のお陰もあって中学高校は比較的自由な学生生活を謳歌出来た。

 豹馬が『俺の青春は味気無いものになったから、陽和は俺の分まで謳歌してほしい』と言い聞かせ、アルバイトで稼いだ給料から定期的にお小遣いを渡してきたから。

 なので陽和はその中で恋愛もしたし、学生らしい思い出も沢山出来た。一方の豹馬はといえば参加しなくてはいけない学校行事以外は基本的にアルバイトばかりであった。文化祭ですら生活を優先してアルバイトで不参加したくらい。因みに豹馬を狙っていた同級生や先輩後輩の女子生徒は豹馬が参加しないと分かった時点で、全員が泣き崩れたそうな。

 

 だから陽和にとって自分が学生らしく過ごせたのは兄のお陰だ。それを十分に理解している。

 そんな兄と普通の家族らしく暮らせる今が幸せなのは心からの言葉だった。孤児院にいた頃もそれはそれで幸せだったが、『普通の家族』というのは陽和にとってはとても幸せなことなのである。

 

「まあ陽和は19だもんな。好きなだけ俺と暮らしてくれ。好きに遊んで、好きに選んで、好きに人生を謳歌したらいい」

「うんっ、そうするよ! でもお兄ちゃん、そのセリフおじさんくさい♪」

「んだと?」

「えへへへ♪」

 

 陽和のその笑顔が豹馬は眩しく見え、この先もその笑顔が続くことを心から祈るのだった。

 

 ―――――――――

 

 豹馬はいつも必ず決まった時間に鎮守府へ到着する。

 でないと任務が滞るし、業務にも支障が出るからだ。

 そして、

 

「おはようございます、提督」

 

 正門前ではいつものように扶桑が待ち、豹馬を出迎えてくれる。

 扶桑とケッコンカッコカリをする前は時間が空いている艦娘たちが揃って出迎えてくれていたが、今ではこの時間は豹馬と扶桑だけの時間となるよう他のみんなが配慮しているのだ。

 

「……おはよう、扶桑。今日も綺麗だね」

「ありがとうございます♪」

 

 前は『綺麗だ』と言われるだけで赤面して狼狽えていた扶桑も、流石に慣れてきた。

 しかし慣れたきたと言ってもどうしても声は弾んでしまうらしく、扶桑は嬉しさを隠し切れていないことでほんのりと頬を赤く染めてしまう。

 

「まだ照れが見えるね。そういうところも可愛い」

「もう、提督……」

 

 眉尻を下げながら提督に褒めるのを止めるように告げる扶桑であるが、そんなことで豹馬が扶桑を愛すことを止めたりしない。

 

「どうして嫌がるんだよ? 好きな相手には常に甘い言葉を送りたいじゃないか」

「……心が保ちません」

「慣れてくれよ。俺、扶桑に恋をして、自分がこんなに気障な性格でロマンチストだとは思ってなかったんだから」

「慣れるなんて無理です……」

「ならもっと甘くするしかないね」

 

 そう言って豹馬は扶桑との距離を詰め、

 

「? 提督何を……きゃあっ!?」

 

 扶桑を軽々とお姫様抱っこした。

 

 扶桑は167センチで体重は平均体重よりも軽め。よって日頃デスクワークがメインの豹馬でも、普段からのトレーニングに加えて日頃の艦娘たちへのナデナデによって鍛えられた筋力があれば、扶桑を持ち上げることなど容易いのである。

 

「嬉しい、扶桑?」

「……ぴぃ」

「嬉しいんだね。なら俺も嬉しいな。今日はこのまま執務室まで行こうね」

「……ぴぅ」

 

 山城の教えによって扶桑の鳴き声がどんなものなのか理解度が深まった豹馬にとって、今の扶桑は喜んでいると判断した。

 

「そんな顔をされるとキスしたくなるんだけど?」

「…………」

「無言はしていいって受け取るけど?」

「…………ぴぃ」

 

 こんなところでは駄目です、と扶桑は言いたいが鳴き声を出すので精一杯。

 豹馬はその鳴き声の意味も理解出来たが、好きな女性が自分の腕の中で潤んだ目のまま上目遣いで見つめているのに辛抱出来なかった。

 よって豹馬はすぐに扶桑の唇を吸い上げる。

 

「んっ、んんっ……てい、ほふ……んぅっ」

「……っはぁ、やっぱ朝イチはこれがないと」

 

 ご満悦な豹馬がふわりと微笑むと、扶桑もそれにつられてふにゃりと微笑んだ。

 しかしそれが愛らしくて、扶桑はその後も何度も何度も何度も……電が呼びに来るまで正門前でキスの弾幕の中に晒され続けたという―――。




扶桑の身長はTwitterで流れてきた『√(艦の全長(メートル))×4.7+100』という数式で出しました。
何気に私が想像していたのと近い高さとなったので^^;
ただ大鳳の身長をこの数式で出すと175センチになります。個人的に大鳳は160センチいくかいかないかくらいのイメージなんですよね。
結局のところ艦娘の身長は自由にご想像してくださいって感じなので、身長をどうしようか悩んだら使う数式にしようかなと。

あとお知らせで、新しく連載……というか、この作品のR-18の話を書いた物をアップし始めました!
梁川提督と扶桑の甘々しかないお話なので、純愛なえちち物が好きな方は覗いてもらえたら幸いです!
R-18なので苦手な方、18歳以下の方はスルーでお願いします。

読んで頂き本当にありがとうございました!
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