死に戻り提督のセカンドライフ《完結》   作:室賀小史郎

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幸せってのは突然にやってくるよね?


幸せは突然に

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 

 鎮守府に響き渡る乙女の悲鳴。

 しかしそれに鎮守府の誰もが無反応で、すぐ目の前で見聞きしている者たちですら悲鳴の主を無視して『今日も空が青いね』等とほんわかムード。

 

「姉様、落ち着いてください。ただ時雨とゴーヤさんが変装しているだけですよ」

 

 山城は至って冷静に姉の扶桑の肩を抱いて落ち着かせている。

 扶桑たちの目の前には傷んでしまったベッドシーツを被る時雨とゴーヤが佇んでおり、扶桑はそれに大いに驚いて腰を抜かしたのだ。

 

 何故時雨たちがそんなことをしているのか。

 それは明後日に町でお祭りがあり、時雨たちはそれに参加するからだ。

 

 町のそのお祭りはこの地域に古くからある神話から来ているもの。

 悪さをする妖怪が跋扈していたこの地に見兼ねた神様が村人たちと共に妖怪たちのねぐらへ訪れ、美酒を振る舞って仲良くなった……という神話でこれにあやかって町の神社も海に近い位置で拝殿の背後に海があるように建てられたという。

 神話によると「神は船に乗ってやってきた」ということで神社から神輿を出し、神輿を住民たちが町中を練り歩くように運び、その行く先々でハロウィンみたいにお化けの仮装をした子どもたちを連れて、最後には大行列をなして神社に戻る……といった町をあげての一大イベントだ。

 深海棲艦の脅威が増していた頃は中止されいたこのお祭りも、梁川艦隊のお陰で今年は開催されることとなり、神輿は鎮守府の正門前にも来る予定。

 その際に子どもたちに混ざって駆逐艦や潜水艦の中から数名が仮装して参加するのだ。

 因みに参加するのは響、子日、時雨、秋月、伊58ことゴーヤの五名で、梁川提督に至っては神輿の担ぎ手として神社から鎮守府の正門前まで借り出される予定である。

 これも地域交流の一環であり、現に梁川提督も数カ月前から神輿の踏み足練習に参加していたりするのだ。

 

「ほ、本当なの、山城……? お化けじゃないの?」

「寧ろお化けがなんでこんなに堂々といるんですか。しかも今までいなかったのに急に」

「そ、それもそうよね……」

 

「えへへ、驚かせてごめんなさいでち♪」

「僕らとしてはこれでも可愛い方だと思って試しにやってみたんだけどね。扶桑がここまで驚くとは思わなかったな」

 

 安堵する扶桑にゴーヤは笑い、時雨は苦笑いで告げる。

 

「もう心臓が爆発するかと思ったわ……」

「扶桑ってホラー系ダメだったっけ?」

「いえ、映画とかなら作り物だって分かってるからそんなに怖くないの。でも実際に現れられると、ついね」

 

 苦笑いで時雨の質問に答える扶桑。ついでに山城が「姉様は純粋なのよ」と付け加えれば、時雨もゴーヤも何となく納得した。

 何故なら、

 

「まあ普段から提督に愛の集中砲火されて狼狽してるもんね、扶桑は」

「普通は慣れていくものなのに、扶桑さんはそうじゃなくて余計に狼狽えるようになってるもんねー」

 

 純粋が服を着て歩いている、それが扶桑だからだ。

 この二人だけでなく、梁川艦隊の誰もが扶桑を純粋乙女だと思っている。

 それもこれも梁川提督と扶桑の普段の茶番を見続けてきたが故。

 

「……そ、そんなこと言われても……提督に囁かれると、ほ、火照ってしまうんだもの……」

 

 ほんのりと赤くなった頬を両手で押さえ、掠れ声を漏らす扶桑。

 山城は『姉様が可愛い』とほっこりするが、時雨もゴーヤも『乙女だなぁ』と呆れた。

 

「そ、それより、仮装するのは二人だけなの? 他にも参加する子はいるのよね?」

 

 扶桑が話題を変えると、

 

「あぁ、今は僕たちだけ。響は……シベリアンヒビキーになるとかで、今妖精さんたちに犬耳と尻尾を作ってもらってて、子日は初春が気合を入れて当日に何かのゲームの青行灯っていうキャラクターの格好をさせるらしいよ。秋月は僕らと同じだけど、今はどのシーツなら使ってもいいか厳選してるね。古くても傷んでも使えるって精神が強いから」

 

 時雨が答える。

 

「……それはそれでいいかもしれないけど、暑い日にシーツ被るって自殺行為じゃない?」

 

 そこで山城が感じたままを時雨たちにぶつけた。

 九月頭とは言え、まだまだ暑い時期。艦娘は普通の人間と丈夫さが違うと言えど、山城としては可愛い妹分や仲間たちが心配なのだ。

 

「やっぱり山城もそう思う?」

「実はてーとくにも言われたんでち」

 

 でも今更何の仮装をすればいいか分からないんだよ……と二人が零せば、

 

「なら私と山城に任せてくれない?」

 

 扶桑がそう言ってきた。

 時雨たちが揃って姉妹を見れば、姉妹は『任せなさい』と言わんばかりに頷いている。

 なので二人は大きく頷いて、秋月も連れて艦娘宿舎の扶桑の部屋へと向かった。

 

 ―――――――――

 

 お祭り当日となり、梁川艦隊は普段の漁船護衛任務に加えて町の警護にも着く。

 町の警護に着く艦娘たちは朝早くから梁川提督と共に出発した。

 お祭りとは言え普段の防衛任務もあるので、そちらは普段通り行われているのだ。

 最悪な事態になった場合は梁川提督へ指示を仰ぐが、扶桑と山城が防衛任務に着いているので大きな混乱には陥らないだろう。

 

 なのでお祭りは予定通り進行し、鎮守府の正門前まで神輿がやってきた。

 

「わっしょい!」「うーら!」「わっしょい!」「そーりゃ!」「わっしょい!」「こーりゃ!」

 

 威勢の良い掛け声と共に神輿が正門前へとやってくる。

 正門前に並んで待っていた艦娘たちは手拍子をして神輿を出迎えた。電の隣にはちゃっかりと陽和の姿もあり、豹馬は豹馬で一番前で担がされて照れ臭そうにしているが、それに構わず陽和がスマートフォンで撮影していた。

 

 拍子木がカンカンカンカンと鳴らされると、足踏みが終わる。

 カンと鳴らされると神輿が人々の肩から降ろされ、前後に台が置かれ、カンと鳴らされるとみんなでそっと神輿を丁寧に台へ乗せた。

 暑い中での神輿担ぎであるため、正門前で休憩なのだ。

 

「いやぁ、提督さん、やっぱり若いだけあって気持ちのいい担ぎっぷりでしたよ!」

「来年も出来るように頼んますよ!」

「みんなで待ってますから!」

 

「こうして参加させて頂きありがとうございました。自分はここで抜けて、あとは警護に専念させて頂きます。飲み物とつまめる物をご用意致しましたので、遠慮なく休憩していってください」

 

 豹馬がそう言うと、人々は大きな拍手を送る。

 そして艦娘たちから冷たい飲み物や冷えた漬物、子どもたちにはお菓子が配られた。

 

「お疲れ様、お兄ちゃん♪」

 

 すかさず陽和が麦茶を持って声をかけると、豹馬は「サンキュ」と言って麦茶を受け取り、それを一気に飲み干す。

 

「練習でも重いと思ったけど、本番となるとやっぱり違うな。お神輿が重い重い」

「そりゃあ神様が乗ってるんだもん。重いはずだよ」

 

 陽和の言うことに豹馬は苦笑いで頷きながらいると、

 

「お疲れ様です、提督」

 

 任務から戻った扶桑がやってきた。

 因みに扶桑と陽和は初めて顔を合わせる。

 

「あっ、お兄ちゃんのお嫁さんだっ!」

「っ」

「こら、陽和―――」

 

 豹馬が陽和を注意しようとしたが、

 

「おお、この方が梁川さんの奥方ですかい!」

「こりゃあ、またとんでもないべっぴんさんだ!」

「提督さんが頑張るのも無理ねぇですなぁ♪」

「よっ、ご両人! お似合いですよ!」

 

 早速その声を聞いた人々に囲まれてしまった。

 豹馬はまだいいが、扶桑に至っては赤面して狼狽えている。

 何しろ仲間たち以外から『お似合い』等と言われたことが無かったので、どう返していいか分からないからだ。

 

「ええ、皆さん、こちらの艦娘が私の艦隊の旗艦であることはご存知でしょう。そして私とこの扶桑はケッコンカッコカリをしました。行く行くは本当の夫婦になりたいと思っています。この町の安全は私たちがこれからも誠心誠意維持していきますが、どうか私と扶桑のことも見守って頂けると幸いです」

 

 豹馬が扶桑の手を取り、そのまま軽く掲げて告げると人々は『こりゃめでたい!』とばかりに拍手喝采する。

 中には祝杯ということで豹馬の頭にビールを掛ける者たちもいたが、それはそれで幸せな光景であった。

 ただ、扶桑はプロポーズされたことが何度も何度も頭の中で駆け巡り、その後は自分の記憶が曖昧で何と受け答えしたか覚えていられなかったという。

 

 ―――――――――

 

 神輿が人々によって再び運ばれて行き、豹馬もお祭りの衣装からいつもの制服に着替えた。

 陽和に至っては仮装をしてしなくても参列は自由とのことで響たちと一緒になって練り歩きに参加していった。

 因みに扶桑と山城の案で時雨と秋月とゴーヤの三人は白装束で参加することになったとか。それは二人の古くなった寝間着で、更に妖精たちによる特殊メイクで怖可愛いクオリティに仕上がった。

 

 あの陽和の言葉で大事にしてしまったことを陽和は凄く反省して豹馬と扶桑に謝りはしたが、とても笑顔だった。

 何せちゃんと兄が扶桑のことを考えているが分かったから。

 しかし扶桑に至っては夢見心地でふわふわとしたまま。

 

「……う」

 

「…………」

 

「……そう?」

 

「………………」

 

「扶桑っ」

 

 豹馬の大声で我に返る扶桑。

 扶桑が辺りを見回せば町の神社の境内で、豹馬は警護と書かれた提灯を手にしてすぐ隣に立っている。

 

 あれから豹馬は艦娘たちに午後からの任務の指示を出し、警邏艦隊を率いて海岸沿いを歩き、神輿が神社に戻る時間になる前に警邏艦隊と別れ、旗艦を山城に移し、扶桑と共に鎮守府を代表して神社へとやってきた次第。

 

 幸い深海棲艦が防衛ラインを越えることはなく、午前と午後の交代制のお陰で艦娘たちもお祭りに行くことが出来た。

 皆共に両手に思い思いの屋台の物をぶら下げて満面の笑みで帰ってきたが、扶桑は今の今まで天国にいるような心地で豹馬の隣にいたのだ。

 それなのに何の問題も無いのが流石である。

 

「……疲れた?」

「い、いえ、そのようなことは……」

「なら神主さんとお祭りの責任者の人たちとの挨拶が終わったら、ちょっと付き合ってほしいんだ」

「は、はい、分かりました」

「大丈夫。山城にはちゃんと伝えてあるから」

 

 君は安心して俺の隣で夢を見てて……なんて耳元で甘く囁かれて、扶桑は全身がブワッと茹で上がった。

 

 ―――――――――

 

「……提督、これって……」

「地元では結構有名な場所らしい。でも今夜はお祭りで遅くまで盛り上がってるだろうし、今は貸し切りみたいだね」

 

 豹馬が扶桑を連れてきた場所。

 それは地元でも有名なホタルの群生地である林の中の綺麗な池だ。地元にある神話にも深く関わっている池でもあり、何でも神様がこの池の水を使って酒を用意したそうだ。なので町は酒造業も盛んである。

 普通ホタルというのは早くて五月下旬から七月中旬頃とされているが、この町は夏場でも比較的涼しいため本格的にホタルが飛翔するのは八月になってからなのだとか。

 九月の頭となっている今がギリギリセーフといったところで、ピーク時よりは少ないが十分なくらい多くのホタルが二人の前に広がっていた。

 

「これを扶桑と二人きりで見たくてね。来年は陽和や山城たちも誘って見に来よう」

「…………」

「扶桑?」

 

 何の反応もしない扶桑に豹馬が声をかけると、扶桑は感極まったように彼の胸に飛び込んだ。

 

「ホタルの前なのに扶桑は大胆だね」

「…………提督、大好きです」

「俺も、扶桑が大好きだ。だからいつか、本当に俺のお嫁さんになってね?」

 

 豹馬は甘く囁いてから扶桑の唇を優しく奪う。

 扶桑はそれを涙で頬を濡らしながら、幸せそうに受け入れるのであった―――。




おまけ

山城「それでこんなに夜遅くまでホタルの前でイチャラブチュッチュしてきた、と?」

豹馬「そうだね」
扶桑「…………ええ」

山城「一番の被害者はホタルでしょうね。姉様たちのイチャラブを間近で見せつけられたのですから」

豹馬「? あの場所ではキスしかしてないぞ」
扶桑「」コクコク

山城「キスだけで何時間してるですか!?」

 今は日付を跨いで午前一時。

豹馬「誤解するな。キスしてホタルを見て、鎮守府に戻って、こうして山城の元まで贈り届けたんだ」
扶桑「…………ぴぃ」テレリテレリ

山城「私はてっきり……」

豹馬「んな訳あるか。あのままそこで致してしまったら美しい扶桑の血がヤブカたちに吸われまくるじゃないか。許せないだろ、そんなの。血の一滴たりともヤブカにくれてやることはない」
扶桑「……提督」テレリ

山城「そうですね。確かに提督の言う通りです」

扶桑「山城っ!?」

山城「ではいつものように執務室で?」

扶桑「山城っ!」
豹馬「そうだよ」
扶桑「提督っ!?」
豹馬「何をそんなに声を荒げてるのさ? 俺たちは何も恥ずかしい行為はしてない。寧ろ愛を育んでいたんだから、それは尊いことだよ」

山城「姉様が幸せで何よりです。提督、これからも扶桑姉様をお砂糖漬けにしてあげてください。義理の妹からの心からの願いです」

豹馬「任せろ。世界一幸せな艦娘にすることを誓おう」
扶桑「…………ぴぅ」

 扶桑は恥ずかしさのあまり気絶した。

山城「あらあら姉様ったら。幸せでもう夢の中へ行ってしまわれたのですね」

豹馬「可愛い限りだね。それじゃ山城、扶桑のこと頼んだよ。俺も急いで陽和のとこにこの幸せを報告しに帰るから」

山城「ええ、おやすみなさいませ、義兄様」

 ―――――――――

ということで扶桑に本当のプロポーズをしたお話でした!
あとホタルの時期は完全に私のご都合主義の創作ですので、ご了承を。

読んで頂き本当にありがとうございました!
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