死に戻り提督のセカンドライフ《完結》   作:室賀小史郎

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過保護な彼と寂しがり屋な彼女

 

 梁川艦隊発足から早三年の月日が経った。

 安定して防衛ラインを維持し、町への空爆も発足から一度も受けていない。

 加えて町は今や安全な場所として日本国内でもその名が知れ渡った。

 

 最近は町に移住する人も増え、活気が溢れている。

 それを支えているのは梁川提督と梁川艦隊で、彼らは町の自慢だ。

 

 大本営も梁川提督を高く評価しており、彼の昇進スピードもかなり早い。

 梁川提督本人は昇進に興味がなく、寧ろしなくていいとまで言う。しかし大本営……大元帥の三木里としてはこうした有望株を昇進させるのは当たり前なので、異例であっても何も躊躇わず昇進させている。

 その甲斐あってか、梁川提督はこの三年で少将になってしまった。

 

 当然それを妬む同期がいる。

 そして前の人生では丁度この頃に陽和に不幸が降りかかった。

 あの時とは状況が違うとはいえ、豹馬にとっては気が気じゃない。

 当然陽和の身にも、その周りにもそういった脅威は微塵も無いし、問題の同期たちは大本営に睨まれてそれどころではないので、嫉妬したところで梁川提督に何も出来ない状態である。

 

 それでも豹馬は心配で、近頃は定時になるとすぐに陽和が働く喫茶店まで迎えに行く程であった。

 陽和に至っては兄の行動が少し気になったが、過保護なのは前からなので兄の好きにさせている。

 問題なのは扶桑の方。

 何故なら―――

 

「…………提督がもう帰ってしまわれたわ」

 

 ―――提督との時間が前に比べたら格段に少なくなってしまったからだ。

 

 ケッコンカッコカリをする前から梁川提督と扶桑は常にハッピーセットの如く一緒だったので、確かに扶桑が寂しがりるのも理解は出来る。

 しかし豹馬は鎮守府にいる間、相変わらず扶桑に甘い言葉を囁やき愛でているので、仲間たちから見れば『何を大袈裟な』と呆れられている始末。

 

「姉様、仕方ありませんよ。提督にとって妹さんは唯一の家族なのですから」

 

 山城も懸命にそんな扶桑を慰める。こんなにも姉を寂しがらせる梁川提督を山城は一発くらいは殴りたいとも思うが、彼の家族を思う気持ちも分からなくはない。

 それに彼が常に扶桑を第一に考えているのは理解しているし、妹を大切にしているだけでここで自分が憤慨するのは違うと思っている。

 

「そうね……あぁ、私って提督のことがこんなにも好きなのね。提督が近頃早く帰ってしまわれるのが寂しくて悲しいだなんて、自分が情けないわ」

「恋とはそういうものだと小説でありました。私には分かりませんが、好きな人と離れているこういう時も相手のことを想えれば、それが愛に繋がるかと」

「山城は本当に優しいのね。ありがとう、いつも私を支えてくれて」

「姉様を支えるのは妹の務めですし、私の生き甲斐ですから」

 

 ふふんと鼻を鳴らして胸を張る山城に、扶桑はやっといつものように微笑むことが出来た。

 

「陽和さんも近々21歳のお誕生日を迎えますし、それまでは私や仲間たちと過ごしましょう。実は初春から夜のお茶会に誘われているんですよ」

「まあそうなの?」

「はい。姉様も行きますよね?」

「ええ、是非」

 

 こうして二人は宿舎を出て、初春がお茶会を開く埠頭の桟橋へと向かうのであった。

 

 ―――――――――

 

「おお、二人共、良く来てくれたのぅ。ささ、遠慮せずに好きな場所へ座って良いぞ」

 

 桟橋には既に初春型姉妹の面々や明日の朝に任務が無い者たちが集まり、初春が点てたお茶を飲みながら月夜を眺めたり、お喋りに興じたりと思い思いに過ごしている。

 初春はお茶を点てるのが趣味であるため、良くこうしてお茶会をしているのだ。

 少人数なら宿舎の談話室でしたりするが、天候がいい日には今回のように野点をしたりもする。

 野点の場合は基本的にみんな桟橋に腰掛けるのがお馴染みだ。

 

「あ、扶桑さんと山城さん来たっぽい!」

「いらっしゃーい♪」

 

 夕立と江風が扶桑たちの元へパタパタと寄ってくると、二人に手を引かれて桟橋へと連れられ、あっという間に包囲される。

 扶桑も山城も艦隊の中ではみんなのお姉さんポジ。扶桑に至ってはそれに加えて梁川提督の妻カッコカリであるためお母さんポジにもいたりする。山城は何だかんだ言いながら面倒見のいいツンデレお姉さんなのだ。

 

「えへへ、夕立は山城さんの隣っぽい!」

「じゃあその反対は江風様だな♪」

「二人はこの前もそう言って私の両サイド陣取ってたでしょ。今回は春雨と山風よ。二人共いらっしゃい」

「わぁ、お邪魔しまーす」

「お、お邪魔します」

 

 山城が覚えていてくれたのが嬉しくて春雨も山風もはにかみながら山城の両サイドへ腰掛ける。

 一方で夕立と江風は膨れっ面になりつつも仕方ないと諦めて第二のお姉さん日進の両サイドへと移って、『山城さんにふられた〜』と言いながら構って攻撃に入った。そんな二人を日進は「よしよし」と宥めながら、初春の点てたお茶に日本酒を加えて月見酒と洒落込んでいる。

 

「なら扶桑の隣は僕かな」

「僕も扶桑の隣がいいな」

 

 扶桑の両サイドには時雨と初月の僕っ娘ズが陣取った。二人共普段はクールだが、甘える時は甘えるし、扶桑に対しては甘えん坊スイッチがオンになるようだ。

 

「ええ、私の隣でいいならいらっしゃい」

 

 そんな二人を扶桑は優しく迎えると、初霜が点てたお茶とお茶菓子が乗ったお盆を持ってきた。

 

「扶桑さん、いらっしゃいませ。お茶とお茶菓子のどら焼きをどうぞ」

「ありがとう」

 

 ―――

 

 静かな月夜の下。桟橋では少々賑やかな声が広がっている。

 

「なぁなぁ、夜の海って怖いよな?」

「そうだな。夜は静か過ぎるし、真っ暗だからな」

 

 今宵集まったみんなの前に立ってそんなただの雑談をするのは有明と若葉だ。

 どうしてこんな状況になっているかと言うと、初春が『この二人は普通に喋っているだけで漫才みたいなのじゃ』と言ったから。

 だったらいつものように話してみよう、と今に至る。

 

「夜間任務の時とかめっちゃドキドキするよな」

「そうだな。我々は常に深海棲艦の動きに対して警戒していないといけない。特に潜水艦なんかには」

「だよなぁ。知らぬ間に背後を取られて、肩とんとーんってされたりしたら……」

「うわー……ってそんな優しい深海棲艦の潜水艦がいるか普通?」

 

 有明の言葉に若葉は棒読みで驚いた声をあげ、すぐに冷静にツッコミを入れた。

 その流れが本当に漫才のようなので、それを聞いている仲間たちはクスクスと笑い出す。

 

「あ、それか背後からほっぺぷにってして、こんばんはーなんつって」

「そんなほんわかした深海棲艦がいるか普通?」

 

 ここまで綺麗な流れを披露されればみんなはドッと笑い声をあげた。

 中でも白露と海風にはどストライクらしく、白露はお腹を抱え、海風は涙を拭っている。

 

「本当に二人の会話って面白いわ」

「そうですね、姉様」

 

 扶桑も可笑しそうに笑い、そんな姉を山城は穏やかに見つめるのだった。

 こうして鎮守府の夜は今宵も平和に更けていくのだ。

 

 ―――――――――

 

 一方その頃、豹馬は陽和と共にアパートから少し離れたファミリーレストランで食事を終えてアパートへ帰っているところ。

 今日は陽和の仕事が終わったあとで少なくなってきた食材を買いに大型スーパーに行き、ついでだからと帰り道にあるレストランに入って、食事をしたのだ。

 

「たまには外食もいいもんだな」

「ご馳走様、お兄ちゃん♪」

「兄ちゃんだからな」

 

 買い物バッグの持ち手を片方ずつ持ち、仲良く明るい夜道を歩く梁川兄妹。

 今回は陽和が奢ろうとしたが、何だかんだ豹馬に押し切られて奢ってもらった。

 今も昔も兄は変わらない。プロポーズして扶桑という婚約者が出来たのは確かな変化だが、過保護なところは相変わらず健在だ。

 

「お兄ちゃん、最近私のことばっかり構ってくれるけど、扶桑さんが寂しがってない?」

「大丈夫……とまでは言えないけど、扶桑にはちゃんと素直に言ってくれるよう伝えてある」

「ならいいんだけど……そもそもどうして最近こんなに構ってくれるの?」

 

 私は嬉しいけどさ……とはにかんで頬を掻く陽和に、豹馬はどう説明しようか考えながら夜空を見上げる。

 

(前の人生で陽和がこの年の誕生日に暴漢に襲われた……なんて言えないしな)

 

 さて、どうしよう……と思案していると、隣からクスクスと笑い声が聞こえた。

 その主は当然陽和だ。豹馬は訳が分からず首を傾げると、陽和は「お兄ちゃんってお兄ちゃんだよね」なんて可笑しそうに言ってくるので、余計に困惑してしまう。

 

「どういう意味だよ、それ?」

「そのまんまだよ! お兄ちゃんはいつになっても私のお兄ちゃんだな、ってそう思ったの!」

「意味が分からないぞ……」

「へへへ、お兄ちゃんって私に何か言えないことがあると上を向く癖があるから。気付いてなかったでしょ? ちっちゃい頃からいつもそうなんだよ、私のお兄ちゃんって」

「……そうか」

「うん。だから別に言いたくないなら言わなくていい。お兄ちゃんはいつも通りな私のお兄ちゃんだもん」

 

 傍から聞いていると陽和が何を言っているか分からないだろうが、豹馬にとっては今度はちゃんと陽和の言いたいことが伝わった。

 陽和にとっての兄……それは絶対的存在であり、世界一の家族である。だから言えないことがあったとしても、それは兄なりの考えで言えないのだろうと分かっているのだ。

 加えて言えば陽和も陽和で兄に秘密にしていることがある。

 それは兄の帰りが遅い時にこっそりとスイーツを食べていたり、実は扶桑と連絡先を交換してあってメールのやり取りをしていること、等多々あるから。

 

 自分にだって秘密はあるのだから、兄にもあって当然。だから言ってくれるその時を陽和は待つのだ。

 

「それよりねぇ、お兄ちゃん?」

「んー?」

「私さぁ〜、そろそろ誕生日だよねぇ〜?」

 

 わざとらしく猫なで声で言ってくる陽和に、豹馬は何か欲しい物でもあるのかと思いながらただ「そうだな」と頷いて見せる。

 

「じゃあさじゃあさ、お願いがあるんだけどぉ〜……ダメ?」

「お願いの内容によるな」

「お兄ちゃんにとって困る内容じゃないから安心してよ。だからお願い。内容を聞く前に『いいよ』って言って」

「…………いいよ」

「間がある〜!」

「はぁ、いいよ」

「余計なため息が出てる〜!」

「いいよ」

 

 陽和には敵わないな、と内心思いながら豹馬が承諾すると陽和は目を爛々に輝かせた。

 何故なら、

 

「やった! じゃあ、私の誕生日はアパートで扶桑さんも呼んでお祝いしてね!」

 

 これが目的だったからだ。陽和としてはもう扶桑は赤の他人にではないので、交流出来るきっかけが欲しかった。

 流石の豹馬もこの妹の願いには「はぁ!?」と素っ頓狂な声をあげてしまう。

 

「艦娘って別に鎮守府の外に出ちゃいけないって法律無いよね?」

「無いな」

「じゃあいいよね?」

 

 豹馬には内緒だが、実は扶桑には陽和が既に打診していてかなり前向きな返事をもらっている。

 よってあとは豹馬から承諾してもらえればいいのだ。

 

「何だって扶桑を呼ぶんだ?」

「だって私のお義姉ちゃんになる人でしょ? なのに交流の機会が少な過ぎるんだもん」

「……それは任務があるから」

「だとしても、たまには会って食事するくらいあってもいいでしょ? 家族が増えるんだよ?」

 

 上目遣いでおねだりする妹のその仕草は小さい頃から何も変わらない。

 その上、豹馬は陽和からお願いされるのは弱いのだ。それに家族が増える、というのは二人にとってとても大きなことである。

 

 なので豹馬はただただ頷くことしか出来なかった。

 しかし豹馬としてはこういう機会も大切だ、と思って前向きに日程を調整することにしたのだった―――。




次回は陽和ちゃんと扶桑が姉妹のように過ごすところが書けたらな、と思います♪

読んで頂き本当にありがとうございました!
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