「はぁっ!!」
気合いの込められた掛け声と共に振るわれる雪片弐型を黒鉄で受けつつ反撃へと転ずる……と見せ掛けて、背後から迫っていた青龍刀をその場に身を屈ませて避けた。
「嘘!? 今のが避けられるの!?」
「鈴! 後ろだ!」
「えっ? うひゃあっ!?」
悲鳴と共に慌てて横へと身体を倒した鈴の直ぐ横をレーザーが凄まじい速さで横切る。
「あら? 今のが避けられるなんて、流石は鈴さんです」
「くっ……! な、舐めんじゃ無いわよ! 私だって伊達に代表候補生やってないんだからね!」
「ふふっ、それもそうですわね……でしたら、更に増やしても問題は無いという事で宜しくて?」
「いっ!? ビットは違うでしょビットは!?」
「大丈夫ですわ、当たっても怪我はしませんから」
「そういう問題じゃ……ひゃあああああ!?」
セシリアのライフルとビットによる猛攻により悲鳴を上げながら逃げ回る鈴を横目に、目の前に立つ一夏へと視線を戻す。
「さて、じゃあ続きと行くか」
「お、おう! 来い、悠斗!」
雪片弐型を構える一夏へと、俺も黒鉄を構え互いに向かい合う。
ボーデヴィッヒが謝罪し、シャルロットが女子として改めて学園生活を迎える事となったあの日から早くも一週間が経過した。
それまでの言動が嘘の様にボーデヴィッヒは変わった。
あの日、ボーデヴィッヒは放課後に言葉通り以前巻込み掛けた生徒へと謝罪しに向かい、心配だからとセシリアに俺も連れられ一緒に着いて行ったのだが心配は無用だったらしく、誠心誠意伝えた謝罪の言葉を二人の生徒は受け入れてくれていた……本人は聞き入れられると思っていなかった様で戸惑っていたが。
恐らくは一緒にいた当事者であるセシリアの存在が大きかったのもある、二人はボーデヴィッヒの隣に立ちボーデヴィッヒを許して欲しいと懇願するセシリアを見て驚いた様に目を見開き、やがて慌てた様に謝罪を受け入れた。
そしてクラスの奴らもあの謝罪の言葉とセシリアとのやり取りによってボーデヴィッヒへの態度が変わり、まるでマスコット扱いの如く毎日の様に弄られている。
……時折セシリアと一緒にいる時に娘やら二人目やらと口にする奴が増えたが、何を言った所で無駄である為に気にしない様にしている。
そしてシャルロット、初めは対応に困っている奴が大半だったが持ち前のコミュニケーション能力で直ぐに全員と打ち解けた様だった。
そして女子として改めて編入した事で一夏との相部屋から変わり、ボーデヴィッヒと相部屋になったとの事。
軍属で一般常識が著しく欠如しているボーデヴィッヒの世話役として日々奮闘している。
未だに俺の事を兄と呼ぶのは変わらず、好奇の目を向けられるのは釈然としないが。
そして今、連日でアリーナの使用許可が取れた為に専用機持ち全員と訓練機を借りた篠ノ之の六人で試合形式で模擬戦をしている。
初めは参加する面子を聞いた織斑千冬が凄まじい顔をしていたが、代表候補生と模擬戦をする事で技術や知識を得られる事のメリット、また模擬戦の様子を映像データで残し他の生徒への教材として使用する事を提案した結果渋々といった様子だったが許可が降りた。
「そこだ!!」
相変わらず一夏の戦闘での勘は目を張るものがある、不意を突いた筈の攻撃を避けると下段から雪片弐型による一撃を繰り出して来た……が、その攻撃を黒鉄の柄で受け止める。
「げっ!? 嘘だろ!?」
驚愕の表情となる一夏へとカウンターの一撃を繰り出し、体勢が崩れた所を追撃として攻撃を繰り出せばそのままシールドエネルギーを全て刈り取った。
「また俺の勝ちだな?」
「だ〜くっそ〜! 今のは行けると思ったのに!」
「いや、今のはかなり良い攻撃だったぞ? 普通なら確実に一撃を入れられる筈だ」
「悠斗に当てられないと意味無いって……」
心底悔しそうに宙を仰ぎ見る一夏、だが実際に今のはかなりギリギリだった。
もし黒狼以外のISだったら間違い無く一撃喰らっていただろう。
『……私以外の、IS……? 私以外の何処の馬の骨とも分からない様な機体に、主様が乗る……?』
何やら黒狼が今まで聞いた事の無い様な無機質な電子音声を発している、というより何処の馬の骨って……。
黒狼、今のは例え話であって俺はお前以外のISに乗るつもりは無いが?
『ほ、本当でございますか!?』
あぁ、第一今更になって他の機体、訓練機だろうが別の専用機だろうが、最新の第4世代機を用意されようが俺はお前以外に乗る事は絶対に無い。
お前は俺にとっての相棒、身体の一部、そんなお前を差し置いて乗る筈が無いしお前も俺以外を乗せるつもりは無いだろう?
『主様……! えぇ、えぇ! 勿論でございます! この黒狼、決して主様以外の者を搭乗者としては認めません!』
……ふっ、そうか。
『それに主様が私以外に乗る事は無いとこの黒狼、分かっておりま……あ、いえ、勿論機体としてでありまして、奥様であれば勿論私は構いません!』
……おい待て、やめろ。
何やら雲行きが怪しくなって来た。
『勿論、私は乗って頂くだけでございますが、主様に乗る事が出来るのも奥様唯一人でございますので!』
……やめろ、本当にやめてくれ、頼むから黙ってくれ……!
「悠斗さん? どうかなさったのですか?」
いつの間にか直ぐ傍にやって来ていたセシリアが首を傾げながら覗き込む様に見上げていた。
先程の黒狼の言葉により一瞬だけセシリアの今とは違う姿が頭を過ぎってしまった為、頭を振って急ぎ思考を切り替える。
「……すまない、少し黒狼が変な事を言って来ただけだ」
「黒狼さんが? ふふっ、ユーモアのある方ですから仕方無いですわね」
……ユーモア、で済ませて良いのか? いや、絶対に駄目だと思うんだが。
「う〜……あれは反則よ〜……」
後ろからふらつきながら鈴もやって来た。
此方の結果は見た通りか、セシリアのビットによる猛攻に鈴が耐えられなかった様だ。
「機体の性能を生かしただけですわ、それに先程の攻撃はまだ納得出来ていません。 もっと精進しなければ……」
そう言ってその美しい瞳に強い闘志を燃やすセシリア、先日話を聞いたがブルー・ティアーズの機体性能によれば機体を自在に動かしレーザーライフルを使いながらもビット兵装の同時展開が可能となるらしい。
以前まではどちらか一方を動かす際にもう一方の動きが疎かになってしまう事を悩んでいたのだが、何かしら掴んだものがあったのか同時使用が可能となっている。
しかしセシリア曰く、まだどちらか一方だけを使った時の動きに到底及ばない為にここ最近のアリーナでの気迫は凄まじいものだった。
「大丈夫だ、セシリアならきっと出来るさ」
「悠斗さん……はい、ありがとうございます……」
そう言って寄り添って来るセシリアをそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でてやれば途端に柔らかい笑みを浮かべる。
「はいはいはいはい、一々イチャイチャすんじゃ無いわよ、準備出来たら次があるんだから」
「何だ鈴、邪魔をするな」
「邪魔じゃ無いわい! 前も言ってたけどこれは当たり前の反応なの! 次に待ってる三人だってそう言いたいに決まって……」
そう言って後ろを振り返る。
「わぁ……わぁ……!」
「シャルロット、余り騒ぐな」
「でも箒! やっぱりお兄ちゃんとセシリアはお似合いだよ!?」
「そ、それはそうだが」
「なぁシャルロット、やはり二人は夫婦というものなのか?」
「その通りだよラウラ!」
「ふむ……ならばやはり"ゴシューギ"なる物を用意するべきなのか?」
「ゴシューギ?」
「御祝儀の事か? 海外ではわからないが日本では結婚する二人にお祝いとしてお金や品物を渡す風習があるんだ。 ほとんどはお金の場合が多いが」
「そうなんだ……なら用意しないと!」
「うむ、私も軍で金は貰っているからな、幾らでも用意出来るぞ!」
「うーん、とりあえず一軒家が買えるくらいの……あ、でもセシリアはイギリスに家がもうあるから……」
「むぅ……ならば別荘か、それとも車か……」
「ま、待て待て! そんな大金では無い! 普通は日本円で三万か五万、ある程度収入を得ている身内であれば十万、それが一般的であってそんな大金を渡す事はしない!」
「へぇ、なら僕にとってはお兄ちゃんだから十万円用意すれば良いんだね?」
「それならば私だって皆から娘と言われているぞ!」
「なら二人で同じ金額で大丈夫だね!」
「うむ!」
「む……な、ならば、私も姉さんが悠斗は家族と言っていたな……むぅ、流石に二人と違って十万円を直ぐに用意は……」
「……え、何で? 何でこの場にツッコミが私しかいないの? 何で皆ボケに回ってるの? 天然でやってる? 無理に決まってるじゃない、こんな天然記念物共の相手を私一人でやれって言うの?」
鈴が何やら口にしている。
その表情は何やら絶望に染まっている……何と無くだが、以前の無人機襲撃やボーデヴィッヒの機体暴走の時よりもその絶望の色は濃い様に見えるな。
「鈴さん? どうしましたの?」
「もうやだぁ……ツッコミやぁ……ボケ恐い……恐いのぉ……!」
「よしよし、大丈夫ですわよ〜」
「うぅ……うっ……うぅ〜……!」
何やらセシリアにあやされながら泣き出す鈴、いつにも増して小さく見えるその姿で泣く様はとても弱々しい。
アリーナの隅へと移動させると座るセシリアの膝へと顔を埋め、時折泣き声とも呻き声とも言える声を発しながらセシリアに頭を撫でられていた。
……何をしているんだろうか?
「鈴はどうしたのだ?」
その光景を眺めていると、いつの間にやら隣にやって来ていたボーデヴィッヒが尋ねて来る。
「わからないが、暫くは離脱だろうな」
「そうか? ならば次は篠ノ之の訓練をしても良いだろうか?」
「あぁ、構わない」
そう答えればボーデヴィッヒは頷き、篠ノ之の元へと向かう。
篠ノ之は使用する機体が訓練機ではあるものの、長年やっていたと言う剣道の経験がある為か戦闘での動きは目を張るものがあった。
特訓を見て貰っていた一夏のあの動きを見れば納得だが、剣術だけで言えばこの面子の中で頭一つずば抜けているだろう。
本人曰く、遠距離武装や空中戦というISならではの戦闘に慣れていないからまだ皆に遠く及ばないとの事だが、逆に言えばそれに慣れさえすればかなりの実力となる筈だ。
かくいう俺も、今までの戦闘で使っていた剣術と呼ぶにも烏滸がましいものはあくまでも黒狼の性能と高められた知覚補佐と反射神経で無理矢理善戦している様に見えているだけ。
そもそも剣術なんてものを誰かから教わった訳では無いのだから当然ではあるが。
その為、今の様に専用機持ち全員での訓練をする際には篠ノ之から剣術のノウハウを教えて貰い、勿論剣術以外にもセシリアとシャルロットから狙撃を、鈴とボーデヴィッヒからは近接武器と遠距離武器の両方を用いる所謂中距離戦のノウハウをそれぞれ教えて貰っている。
……何故か最初にそれを頼んだ際、鈴とボーデヴィッヒが渋い顔をしていたのが気にはなったが。
『恐らく、主様に手も足も出なかった為に教授する事が無いと感じた為かと』
そんな事無い、確かにボーデヴィッヒに戦闘で勝ちはしたが軍属で訓練を受けて来たボーデヴィッヒから教授するものは多い。
それに鈴も、勿論セシリアとシャルロットも、代表候補生として訓練をして来たんだ。
全員に教えを乞うのは当然だろ?
『確かにそうではありますが……』
特にボーデヴィッヒから教わる事は多いな、護身術や対人格闘戦はISが使えない状況下になった場合に有用、ISにも応用出来る。
『……失礼ながら、主様は何処を目指しておられるのですか?』
ん?
『あ、いえ、何でもございません』
言葉を濁した黒狼、特におかしな事は無いと思うんだがな……まぁ、良いか。
それから特訓はアリーナの使用可能時間ギリギリまで行い、その日は解散となった。
そしてその翌日、教室でのHRでそれは伝えられた。
「既に知っている者もそうでは無い者もいるだろうが、来月から臨海学校が始まる」
織斑千冬の発した言葉に教室にいる大半の奴らが歓声をあげて浮き足立つ。
……臨海、学校?
『主様、臨海学校とは学校行事の一つ、主に海での活動を目的としたものでございます』
海、か……それだけ聞くと遊びの様に聞こえるがここはあくまでIS学園、遊びでは無く何かしらの訓練をするのだろう。
「当然IS学園として行く為に遊びでは無い……が、お前達はまだ遊びたい盛りの子供、二泊三日の日程全てを訓練にするのは酷だろう? 初日は自由時間として二日目から課外授業としてISの訓練を行う」