灰原哀がある決断をするまでの話。
コ哀風味。


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Revive

 

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 頭が割れるような、胸が張り裂けるような、骨が溶けていくような、そんな痛み。

 声を漏らすとその振動だけで身体中の骨が痛むのに、それでも叫ばずにはいられないほどの激痛は数十秒ほどで弱まって、宮野志保はまだ治まらないでいる胸の動悸を落ち着かせようと、荒い呼吸をくり返した。

 さっきまで着ていた子供用の服は、肉体の膨張に耐えきれずところどころが張り裂けているものの、なんとか被覆程度の役割は果たせている。

 言うまでもないが、今の姿態を恥じらう余裕は彼女にない。志保はまだ軋む身体を動かして、彼の容態を確認する。

 頭部からの多量の出血、痙攣、そして混濁した意識。顔には窓ガラスの細かい破片が無数に刺さっていて痛ましい。そして胴部から下が、爆発した建物の一部の下敷きになっている。その瓦礫をなんとか取り除こうと試みるが動く気配はない。

 一錠だけ残していた解毒剤を、一縷の望みにかけて服用したのに状況は好転しない。志保は目に見えて生気を失っていく彼の姿に、表面上は平静を装ってはいたがすっかり動揺し、パニックに陥っていた。彼は焦点の合わない瞳をただ虚空へと向けながら、視線にいない彼女に向かって口を開く。自分を置いて逃げろと言う。

 やっぱりこの人は馬鹿だ、と志保は思った。自分が死にそうなくせに、他人のことを心配している。

 かつてないほどの激情を覚えている。この激情は、怒りか悲しみか、その両方なのかは彼女にもわからない。でも、そうは言うけれど、以前あなたは私に逃げるなと言ったでしょう、と彼女は言う。私も馬鹿だから、あなたという運命から逃げる選択肢なんて最初からない、と言う。

 彼が口を開く。実に不思議なことだったが、彼の言葉がよどみなく紡がれているように志保には聞こえてきた。それが不吉なことだとは思いたくなくて、だけど彼との最後の時間を少しでも遅延させようと、彼女は時間を押し広げる。言葉と言葉の空間を押し広げる。

(お前が死んだら、子供たちが悲しむだろ)

「あなたが死んでも一緒でしょ? それに彼女がどれだけ悲しむと思ってるの」

(蘭は、強いから大丈夫さ……)

「それ、本気で言ってる?」

(……悪いとは思ってる。灰原、蘭にごめんなって、伝えてくれるか)

「……悪いと思ってるなら自分で伝えなさいよ」

(はは……そりゃそうだな)

 いよいよ彼の意識が朦朧としだした。強く握りしめた志保の掌から、血が流れている。

(……灰原)

「っ……なに?」

(……ありがとな)

「……馬鹿」

 声を震わせて、彼の弱音を詰る。おかしい、私はこんなことを伝えたいんじゃないのに、そう思っているけれど、彼女は自分の激情を制御できない。

「馬鹿、馬鹿!工藤君、あなたどれだけお人好しなの?どうして私を庇ったりなんかしたの?」

(……誰かを助けるのに、理由なんていらないだろ)

 だったら、自分がいま彼を助けようとしているのは、理由もなくやっていることだとでもいうのか?

 志保には分かっている。例え瓦礫をどかせたとしても、すぐに助けが来なければ彼は助からないということは。

 こういうとき毛利蘭だったら、得意の空手でこの瓦礫をどかして、最後まで彼の生存を信じて助けようとするのだろう。だから志保は、自分の医学の知識が恨めしかったし、自分の弱さが恨めしかった。

「馬鹿ね」

 馬鹿な彼に馬鹿な彼女が伝えたいこと。

「私は、あなたのいない世界でなんて生きていられないわ」

 その言葉が届いたのかわからない。なぜならもう彼は彼女を見てはいなかったのだから。いや、最初から志保を透かして蘭の姿を幻視していたのかもしれない。そしていまその小さな身体から、生気が消えていくのがわかった。私が好きになった人間はみんな死ぬ。そんなことを思った。

 彼は最後の力を振り絞って、口元を歪めた。笑みを浮かべているのだ。美しい炎の笑みを。

(無事で良かった)

「工藤君!」

 しばらくの間、ただ放心して立ち尽くしていた彼女の身体を、ふいに熱気が襲った。その痛みと悲しみの激しさで、涙が溢れてくる。

「工藤君、ごめんなさい」

 同時にまた何かに引火して爆発がおこり、二人の身体に炎が迫ってくる。

「でも、あなたとここで死ぬのも、悪くないわね」

 身体全体が収縮していく感覚と、炎が皮膚をじりじり焦がしていくような感覚とが交互に襲ってきて、志保の意識は徐々に薄れていった。彼女は沈んでいく。志保の世界は消えていく。

 遠くから、とても懐かしい声が聞こえた気がした。

 次に目覚めたなら、姉のもとへ行けたらいい。

 

 

 

 

 

 

 薄暗い、灰色の部屋にいる。

「ここは……?」

 意識を失う前に誰かの声が聞こえたから、自分は間一髪のところで助けられたのだろう。だから生きていること自体は理解できなくはない。身体が幼児化しているのも想定内だ。問題はここがどこなのか、皆目見当がつかないことだった。

 灰原哀はまだ薄ぼんやりとした意識で、あたりを見渡してみた。薄暗い、何もない部屋だった。頭が重くて吐き気がする。

 立ち上がろうとして、左手に違和を感じ、視線を向けてみる。そこにあったのは手枷だった。

(私は、拘束されたのね……)

 なんだかとても懐かしい気分になった。

 そう、あの運命の日、姉を理由もなく殺害したことと、研究段階の薬を殺人の道具がわりに使ったことに反抗して、ジンたちに連行されて、個室に監禁されたあの日。

 奇しくも、今の状況はそれと瓜二つだった。

 彼はもういないのに。

 だがそれにしても……

(ここって、まさかあの時と同じ部屋?)

 もしそうだとしたら、同じ場所から脱出できるはずだった。

 幼児化したことで外れた手枷から手首をするりと抜いて、重たい足取りでダストシュートへと向かった。その扉を開こうと手をかけて、哀は一瞬思いとどまる。

 彼が死んだ世界では生きていけないのではなかったのか? だが彼女はここから外の世界へと向かおうとしている。彼のいない世界へ。

(そうだ、工藤君との約束……)

 約束、というよりも彼の願いか。彼女への謝罪を哀に託していったから。彼の謝罪は、もう二度と会えないことに対してなのか、正体を隠し続けてきたことに対してなのか、その両方に対してなのかはわからない。

 ぎい、と鈍色の音をたてて、外の世界への扉が開いた。哀は小さくなった身体をさらに縮こませて、埃に塗れた隘路を進んでいく。

 

 ダストシュートを抜け出して外界の空気を吸った哀は、鈍色に光るアスファルトに手をついて、身体の強張りをほどいていた。雨が降りしきっている。

 後ろを振り返ってみると、灯りのない建物がまるで威圧するように佇立している。見覚えがある場所だった。

(やっぱりここは、私の……)

 かつて宮野志保がAPTX4869の研究をしていた施設。しかし、考えてみるとここは組織が証拠隠滅のために燃やしたはずの場所だった。

 これは一体どういうことだろう。まだ見当識が定まらないような感覚。何かを見落としている。

 いずれにせよ、行く場所は博士の家と決まっていた。携帯電話の類もあの事故で紛失したか、それとも組織の誰かに没収されたのか哀の手元にない。とにかく大通りに出て、何か目印を見つけなければならなかった。ここから脱出して、博士と合流して状況を把握しなければ。幸い雨音が足音を隠してくれるから、走っても気づかれる心配は薄い。

 米花町周辺の地図はおおよそ哀の脳内にインプットされていた。こういう時は、彼や子供たち、博士に感謝しないといけない。部屋に篭りがちの哀をいろんな場所へと連れ出してくれたのだが、その行く先々で事件が起きてしまう。米花町内でも犯人を追いかけたり、手がかりを求めてあちこち調査したりしていたから、自然と覚えてしまったのだった。そのおかげで迷わず阿笠邸にたどり着くことができた哀だったが、そこで今まで張りつめていた集中が切れて、ふっとその場に倒れこんだ。

 物音に気付いたのか博士が駆けつけてきてくれるのを見て、極度の疲労と緊張から解放された彼女は深い安堵の息をもらしつつ、慌てふためく博士の姿を尻目に、自然と意識を沈ませていく。

 

 工藤新一が、ついに組織を壊滅させた。

 その連絡を彼から受けたとき、一番最初に哀の頭を過ぎったのは、これで自分たちの関係が終わってしまうのではないかという不安だった。

 完全な解毒剤の開発はまだ難航していたが、組織が崩壊したことで、例え工藤新一へと戻れなかったとしても、毛利蘭に正体を隠す理由は薄れる。大人が子供になるなんて、普通は信じてもらえる話ではないから、彼は限られた人にしか正体を打ち明けないだろう。それでも哀は彼と秘密を共有していることで彼の最大の理解者のつもりでいたし、またそうであることが嬉しかった。

 二人は今まで、お互いの領分を守ってきた。

 だから哀は彼が毛利蘭に告白したり、修学旅行に行きたいという理由で解毒剤を求めてきたときも、苦言を呈しはしたけれど、それを止めることまではしなかった。彼も哀が解毒剤を完成させることを信じて待ってくれていたし、それを急かすようなことはしないでいてくれた。

 ことのほか反応の薄い哀を怪訝に思ったのか、電話口から不満の声が漏れてきた。

「なんだよ灰原、嬉しくないのかよ?」

「……いえ、ただ、驚いただけ」

 そう言いながらも、嘘をついていることを哀は自覚していた。彼も哀の様子に思うところがあるのか口を噤んだ。気まずい思いのまま電話は切られる。

 失敗した、と思った。灰原哀ならば、得意の憎まれ口で彼の偉業を祝福するべきだったし、彼もそれを期待する口振りだったのに。

(……だけど)

 嬉しいなんて思っていない。

 私たちはあるべき場所に還っていく。

 

 

 

 2

「おお、目が覚めたのかね?」

 目が覚めた哀は、阿笠博士の声を聞いて心を落ち着かせた。博士はいつだって哀に優しい。

「ええ。博士、今何時かしら」

「今は夜の9時前じゃよ。まだ君が倒れてから1時間と経っておらんよ」

 浅い眠りだったのは頭痛のせいでなんとなくわかる。

「そう……博士、あれから工藤くんは、どうなったの?」

 聞きたくないことではあったが、耳を背けていてもいつかは分かることだ。もしかして生きているかもしれないという淡い期待を声に滲ませて、恐る恐る聞いてみる。だが博士は逆に質問を返してきた。

「新一君? 新一君がどうかしたのかね? 君は彼の知り合いか?」

(どうかしたのか、って……)

「だって……工藤君は組織の残党に襲われて」

「組織、じゃと? 君はいったい、何を知っておる」

 博士の視線と語気が心なしか強まる。

 何かがおかしい。二人の間に何か大きな齟齬がある。

 呆然とした哀に見つめられても、博士はますます怪訝そうな顔を浮かべるだけだった。

 やがてその緊張が伝わったのか、博士はそれを解きほぐすように頬を緩めて、幼い子供を諭すような柔らかい声色で哀に問いかけた。

「君のお名前は?」

「え……何を言ってるのよ、博士」

「変じゃの。君はワシのことを知っておるようじゃが、ワシは君を知らんぞ」

 さっきから博士の言葉の意味がまるで分からない。宙に浮いたまま、どこにも着地できないでいるような、何かとてつもない恐怖がこみ上げてくるのを感じて、哀はそれを振り払うため、叫ぶように言葉を発した。

「そんな、私は灰原哀よ、あなたとつけた名前なのよ! 知らないはずないでしょ!」

「灰原……?ワシがつけた名前?」

(まさか、本当に博士は私のことがわからないとでもいうの?)

 何が何だかわからなくなる。おかしいのは自分の方なのか。

 彼女は口調だけでも冷静になろうと、自らの立ち位置を振り返るように「灰原哀」のことを話してみる。

「私の名前は灰原哀、本名は宮野志保。組織でのコードネームはシェリー。工藤君の身体を幼児化させた薬の開発者よ」

「な、なんじゃと!?」

「……その様子だと博士、本当に私のことがわからないのね」

「うむ……どうやら、君とはもう少し話をしなければいけないようじゃな、お互いに」

「ええ」

 

 博士と話を摺り合わせていった結果として、受け容れなければならない事実。どうやら自分は過去に戻ってきてしまったのだと、哀はそう結論せざるをえなかった。だが、人間の身体が幼児化するという現象を信じた博士でも、流石にタイムスリップは信じていない。もっとも、哀自身が未だ自分を信じられないでいるのだから仕方ない。

 博士は、彼女の素性については信じてくれたが、未来のことについては、姉が殺害されたことや、組織から監禁されていたという精神的ショックに加え、幼児化に伴って脳内も影響を受けてしまい、神経伝達物質が一時的に過剰に分泌したことなどが重なって、異常にリアルな記憶が作り出されたのではないかという仮説を立ててはいるが、あの薬は神経組織に影響を与えることはない。しかしそんなことを話しても意味がないと思って哀は反論はしなかった。これからどうするべきかの方が重要だった。

 博士は前回同様に、行くあてのない哀に対してここに住むようにと言ってくれた。これは彼女にとってはとてもありがたいことで、博士はやっぱり自分の知っている博士のままだと分かって哀は嬉しかった。それと同時に博士は小学校にも通うように勧めてきた。前回はあまり気に留めなかったけれど、コナンにしても哀にしても、博士はいったいどんな方法を使って入学させたのか不思議だった。家庭裁判所に就籍許可の申請をした形跡もないので、無戸籍者を私立小学校に入れたことになる。もっとも、実際のところ日本という国は存外甘いところがあるから、無戸籍者であっても就学している児童はいるにはいる。いずれにしても、見ず知らずの哀に対してここまでよくしてくれる博士の存在が彼女の心の安らぎになった。

 

 そういう経緯を回想しつつ、灰原哀はいま、担任の小林澄子に手を引かれながら、慣れ親しんだ帝丹小学校1年B組の教室へと足を踏み入れている。転校生、それも容姿にすぐれた女子ということもあって歓声があがっていた。

 哀の名前が黒板に書かれているあいだ席を見渡していると、小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美らの見知った姿があった。そして、江戸川コナンがいる。

「今日からみんなと勉強することになった灰原哀さんです。みんな仲良くしてあげてね」

(生きてる)

 目の前で死んだと思った人が生きていた。彼は哀には興味を示さずに、退屈そうに目を細めて頬杖をついている。きっと昨日も夜更けまで推理小説を読んでいたのだろうと思われた。

(生きてる)

 涙ぐみそうになるのを堪えるように、目をしばたたかせる。何度見ても、江戸川コナンは間違いなく生きていた。

 むずがゆい想いに駆られて、彼との距離を縮めようと、哀は早歩きで彼のもとへ向かった。彼の隣はやっぱり空席で、哀は自分の身体をその空間にはめ込むように席へと座った。それだけで、今までずっと押し殺してきたものが胸いっぱいに溢れてくる。

「……よろしく」

 彼から返ってきたのは、困惑したような生返事だけだった。  

 

 哀を加えたばかりの少年探偵団のもとに、行方不明になった兄を捜索してほしいという依頼が舞い込んだ。依頼人の俊也の兄の部屋に行ってみると、財布や通学定期が残されていたため、誘拐などの事件に巻き込まれたと思われたが、俊也の兄に黒ずくめの女が接触していたと聞いたことで、コナンは語気を荒げた。この事件が黒ずくめの男たちと関係があるのではないかと推測したのだろう。

 もちろん哀は犯人たちが単なる偽札グループでしかなく、組織とはまったくの無関係な事件だと知ってはいる。しかし、哀はこの少年が本当に自分の知る江戸川コナンなのか否か、確かめたいという思いがあった。とはいえそのためだけに、子供たちを危険な目に合わせるわけにはいかない。そのため哀は歩美たちと別れ、その姿が夕陽の沈む方向へと遠く消えていくのを確認してから、そっと踵を返して、米花駅へと向かったのだった。

 大渡間駅近くにやってきた哀は、駅前に店を構えている小さな不動産屋を覗いてみた。案の定見知った少年が、何やら店員から話を聞いているのが見えた。最初はこのまま尾行を続けようと思っていた哀だったが、ふとあることに気付いた。そう、確かコナンが例の新聞社を特定したのは、俊也から兄の言葉を聞いたからではなかっただろうか。このままではコナンの捜査が遅延してしまうかもしれない。そう思い、哀は店に入ることにした。

「は、灰原さん? どうしてここが?」

「……江戸川君が一人で追跡を続ける気だって思ったから、跡をつけてきたのよ」

「へー……」

「それと、依頼主からの伝言。お兄さんは漱石みたいな人といっしょにいるって、電話口で言ったそうよ」

「漱石みたいな人……?」

「ええ。声は震えていて、途中で電話は切られたらしいけど。何かの手がかりになるんじゃないかしら?」

 哀はどんな口調で話せばいいか分からず若干戸惑いつつも、いつも通り話せばいいと割り切ることにした。どのみちこの事件が解決されればコナンに正体を明かすのだ。

 交番の真横にある小さな新聞社が、過日新しい印刷機を導入していたという情報を不動産屋の店員から聞いて、コナンが推理を組み立てていった。俊也の兄の言った言葉は、夏目漱石のペンネームの由来となった偏屈を意味する故事のことを指していて、警察の盲点を潜るために、あえて駅前の交番の真横に偽札製造の拠点を置いていることを伝えたかったのだと哀に語ってみせる。間違いなく、彼と同じ推理力を持っていた。

 コナンを試す必要がなくなったと判断した哀は、警察に通報したならばあとは警察に任せればいいと制止したが、コナンはそれを聞かずに新聞社に乗り込んでいく。警察に先んじて調査して、あわよくば組織の情報を手に入れたいのだろう。哀もその跡を追って中に入った。

 危険だからついてくるな、という言葉を哀も聞き流す。口論の末に、哀がどうしても折れないのを見て説得を断念したようすだった。そのかわり絶対俺のそばから離れるな、と念を押して言うコナンに、言われなくとも、と哀は返した。

 

 威嚇射撃とはいえ、犯人に向かって発砲したことを目暮警部に咎められた哀は、コナンと共に帰路に就いていた。前回は泣き真似をした記憶があるが、そんなことまで忠実に再現することもないだろう。

 住所を聞かれて隠す必要がなかったから、哀は阿笠博士の家に少し前から居候しているのだと伝えた。コナンは最初驚いた様子だったが、今は黙々と哀を送り届けている。組織の情報が手に入るかもしれないという淡い期待が空振りに終わって、落胆しているのが見てとれた。

 話の接ぎ穂を失った二人はしばらく無言のまま歩いていたが、やがて阿笠邸が見えてきた。

 じゃあまた明日な、そう言って立ち去ろうとするコナンに向かって、哀は、自分が研究してきた、彼に災いをもたらすことになった薬の名前を呟いた。

「APTX4869」

「へ?」

「これ、何だか分かる? あなたが飲まされた薬の名称よ」

 困惑を隠せないでいるコナンを余所に、夜風に赤銅色の髪をたなびかせ、薄く笑みを浮かべながら哀は告げる。組織に命じられて薬を作ったこと。その薬を自身も服用したこと。困惑が驚愕に変わり、コナンはその場に縫い付けられたように動かないでいる。

「シェリー……これが私のコードネームよ。どう、驚いた? 工藤新一君?」

(……あなたは私に、そんな目を向けたのね)

 わかっていたことだったが、コナンから敵を見るような険しい視線を投げられるのは胸が痛んだ。二人の間には、何か途方もない懸隔が横たわっていて、きっとその距離に耐えられないだろうと哀は思った。

「それじゃあ、お前は奴らの仲間……っておい!」

 コナンが驚きのあまり動けないでいるのを尻目に、哀は門を開けて敷地に入っていた。コナンは慌てて走りだし、玄関のドアに手をかけようとする哀の肩に手をかける。哀はその手に目をやりながら、坦々と言った。

「入らないの? 話がしたいんでしょ?」

 コナンは気勢を削がれた表情で、渋々その言葉に従った。

 

 前回とまったく同じ光景が、眼前に広がっていた。

 本棚に身体を挟まれ、後頭部から血を流して広田教授が息絶えている。

 事件の概況もすべて同じで、コナンが解明したトリックも寸分違わぬものだった。

 違ったのは解決までかかった時間。コナンや少年探偵団とともに事件のことで多少の意見をすることがあった哀は、ついその癖で初対面の横溝刑事にも接してしまい、横溝やコナンが目を丸くするのをみて自分の失態に気付いたのだった。

 哀は記憶力に自信がないわけではなかったが、特別推理が好きなわけではなかったためか、事件の細部は覚えていなかった。しかし、チェスの駒と留守番電話を使ったトリックだったことは覚えていたので、コナンに助言する形で事件に協力した。阿笠博士の声で事件を解決したコナンだったが、哀に推理で遅れをとったとでも思っているのか若干の悔しさを滲ませていて、哀はなんだかコナンに少し申し訳ない気持ちがした。

 博士の声でコナンが推理を披露しているのをぼんやりと聞きながら、哀は広田教授の死は未然に防げなかっただろうかと自問する。だが、哀と広田教授との接点は、姉の宮野明美に誤送してしまった薬のフロッピーディスクの件以外にはなかったし、犯人の白倉陽の犯行は衝動的なものだった。白倉に殺されると伝えたところで、その理由を筋道たてて説明することはできないし、広田教授が殺害された時刻など当然覚えているはずもない。

 だいたい、実際に広田教授が殺害されているのを発見するまで、哀は前回通りに事件が起きるかについてまだ半信半疑だった。自分のことを考えるのだけで精一杯で、見ず知らずの他人を助けようという余裕など哀にはなかった。

(それでも……)

 それでも、コナンがもし同じ状況下にあったならば、必ず広田教授を救おうとしただろう。そう考えていくと途端に自分が浅ましい存在に思えてしまう。

 どうして彼は自分を犠牲にしてまで、他人を救おうとするのだろう。どうして自分なんかのために、彼は死んでしまったのだろう。そんなことばかり考えていたせいか、意図せず言葉が口をついてしまっていた。

「どうして……」

 気付けば犯人は連行されたあとで、博士もコナンも帰ろうとしていた。そういえば、姉のことで彼を責めたのはこのタイミングだったと思い返す。一瞬、このまま同じように、姉のことを打ち明けようかという考えが哀の脳裏をかすめる。

「お前、泣いてるのか?」

「え?」

 言われてみてはじめて自分の涙の浪費に気付く。博士も、横溝刑事も心配そうに見ている。この場を収めなければならない。

「なんでもないわ、帰りましょう」

 急いで涙を拭い去って、笑みを浮かべようとする。心を見透かされないように、視線を合わせない。

 そうしなければ、きっとまた寄りかかってしまうとわかっている。

 

「ちょっと、姉のことを思い出していたのよ」

 帰りの車中で、涙のわけをコナンに問われた哀はそう言って誤魔化した。まさか、あなたが死んだことを悼んでいたからだ、などと言うわけにもいかない。

「お姉ちゃんは広田教授を慕っていたらしくてね。教授の名前に肖って、自分の偽名にしたのよ。それが広田雅美。あなたも聞き覚えがあるでしょうけど」

「まさか、あの十億円強奪犯の広田雅美って……」

「ええ。お姉ちゃんのことよ」

「そうだったのか……」

 博士は運転に集中している体裁で、じっと押し黙っている。きっと、自分は口を出さないほうがいいと考えているのだろう。

 コナンはどこかばつが悪そうに切り出す。

「その、俺さ。お前のお姉さんを……」

「お姉ちゃんの最期を、あなたが看取ったこと?」

「……知っていたのか?」

「ええ。姉の死を報じた新聞の写真に、あなたの姿が写っていたのを見たからね。でも、別に工藤君が気に病む必要はないわ。もちろん、どうして姉を助けてくれなかったのかって、あなたを責める気持ちがなかったと言えば嘘になる。でも……」

「……でも?」

「あなたはあなたの正義に忠実だったまでのこと。そんなあなたを恨むのはお門違いじゃない?」

「そりゃあ、そうかもしれねーけど……」

 まだコナンは何か言いたそうにしてはいたが、哀は会話を打ち切った。しばらく車内に重たい沈黙が続いていたが、その物憂い空気を打ち消そうとするように、博士が話題を変えて言った。

「そうじゃ哀くん、学校はどうじゃった? まだ詳しく聞けとらんぞ」

「さっきも言ったけど……まあまあ楽しめたわ。友達も、できたしね」

「友達って、歩美たちのことか? あいつらガキじゃねーか」

「あら、私こう見えても工藤君より年上だから、私から見たらあなただってお子ちゃまなのよ?」

「へ? お前本当は何歳なんだよ。つーか、その割に歩美とよく意気投合できるよな」

「吉田さん純真で可愛いじゃない。工藤君に気があるみたいだけど、手は出しちゃ駄目よ?」

「バーロ、出すわけねーだろ!」

「二人とも打ち解けたようで安心したわい、最初はどうなることかと思ったが」

 夜闇の中、三人を乗せたビートルのヘッドライトが耀って、数瞬先の未来に向かって皓白の光を投げている。

 

 

 

 3

 一般に、人間は死に際に人生を回顧する走馬灯を見るものと言われるが、走馬灯の中の人生にも死があった場合、その死の中にも走馬灯があって、ということが延々と繰り返されているのかもしれない。

 もしそうだとしたら、人間は精神の死を迎えることはできない。つまり自分は過去に戻っているのではなく、死の直前のイメージが無限に広がっているにすぎないのだという考えが哀の首をもたげた。目覚めたときの、夢と現実が混同するような感覚。それが四六時中、ひっきりなしに続いているような感じがする。飛び飛びになった二つの記憶が混同している……。

 

 ある朝、いつもの時間に目が覚めた哀は、洗顔を終えて何気なく鏡を覗いてみた。鏡の前の少女は血の気の失せたような表情で、じっとこちらを見つめている。この少女はいったい誰なんだろう。

 唐突に、彼や子供たちと一緒に行った映画館の事件のことを思い出す。まだ自分が灰原哀に慣れないでいた日。容疑者の一人が不審な行動をとった女子トイレの洗面台から、何か手がかりがないかと黙考を続けていた彼に、哀は似たようなことを言ったのを思い出す。真実を追い求めている彼の姿を、鏡ですら写してはくれない……と。

 だがもう一つの記憶に目を遣ると、事件は未然に防がれていた。あの映画館に嫌がらせをしていた柄の悪い男を威力業務妨害に問えないかと通報し、すでに哀が目暮たちから一定の信頼を得ていたこともあって対処も早く、男が経営していた不動産会社にも警察の強制捜査の手が及んだらしい。

 もっとも嫌がらせがなくなっても失った観客は戻ってくるかはわからないし、もしかしたらあの映画館は時代の波にのまれて早晩潰れるのかもしれない。終幕をほんの少し早めたにすぎない。だから記憶の中の哀の行為はただの自己満足でしかないのだと自嘲した。

 全部の事件を覚えてなどいないから、防げない事件の方が多い。しかし、哀は正義感や義憤に駆られたりとかいう考えはなかったものの、起きると分かっている事件から目を背けて、見ず知らずの他人とはいえ誰かの死を放置できるほど冷酷なわけではない。

 以前経験した事件と再び遭遇することに次第に慣れていった哀を、コナンは次第に頼ってくるようになった。カンニングをしてテストで満点をとった子供が親に褒められて、居た堪れない思いをするようなこそばゆさを感じる。

 哀はコナンに頼られるのは決して嫌ではなかったが、その成長の機会を、もしかしたら自分が奪っているのかもしれない、と思うことがないわけではなかった。彼は向こう見ずで、無鉄砲で、無邪気で、いつも自分の知的好奇心と正義にたいする献身を忘れないでいた。そんな人間には、哀はこれまで一度も出会ったことがなくて、だからこそ惹かれていったのかとも思われた。

 だが、いまやコナンは哀を自分と同等ないしそれ以上の推理力を持っていると思っているようで、哀はまた一つ、また一つと、記憶のシークエンスの中で見せていた彼の表情が、新しいものへと更新されて消えていくのを感じて、それがどうにも不快であった。

 そう、重要なことは、彼の表情を思い出せないことにあった。火の光に照り映えて、あれほど美しかったはずなのに。炎に照らされた彼の表情を一生涯忘れないと誓ったはずなのに。

 もっともコナンに変化があるとすれば、それは自分のせいにほかならない。

 哀は彼との過去の感傷に浸っているに過ぎない。たとえ一瞬間でも蘭のことでなく哀のことを思ってくれたことを。そこにはイメージが繰り返し喚起されているだけで生産的なものなど何もない。

 理知的な彼女は自らの感情が、特異な境遇がもたらした防衛反応の一種だと理解していた。彼女は彼の心に触れたくはあったが、自分が歩き続ける彼の道を遮るのが耐えがたくて、無理くり彼に歩調を合わせてきたのだ。だが同じ場所を歩いているように見えても、目に見えない薄い透明な膜が、いつも二人が繋がるのを拒んでいた。

 繋がらない記憶。哀は過去と未来を行き来する。一日の大半を思索にあてている。そう、解毒剤の研究を進めないといけないのにもかかわらず。杯戸シティホテルで、ピスコのノートパソコンからコピーしてきた、APTX4869のデータの入ったMOが手元にはある。でも、いったい何のために? 彼と同じ名前をした、彼と同じ推理力をもっているだけのあの少年のために? 

 さまざまないつわりの情景が、ほんものの記憶を塗り替えていく。

 哀はその映像の中に干渉できず、ただ舞台を眺めるだけでいる。映像の中の灰原哀という少女が、バスジャックの事件で江戸川コナンに助けられた謝意を微笑で返したとき、頬を赤らめていたあの少年は誰なのか? 哀は過去を思うがまま都合よく改変し、あるいは破壊して偽善に浸っているだけなのに、そんな哀を毛利蘭という、彼が愛した女性と天秤にかけて揺れているあの少年は誰なのか?

 哀くん、哀くんという博士の呼びかけが、かろうじて哀の意識を繋ぎ戻した。洗面台の前でどれだけ芒洋としていたのかわからない。水を出しっぱなしにしていた蛇口に気付いてそれを閉める哀に、学校はどうするのかと博士が聞いてくる。ごめんなさい、少し体調が悪いから、休ませてもらえるかしら、と返す。

 自分が二人の人間に分離していく感覚。今の私が本当の私だ、と哀は考える。それでも、コナンの信頼と好意を勝ち得るもう一人の自分に、あさましく羨望を抱いている。

 まるで早送りされた映像を見ているように、時間が加速していく。

 ふいにある瞬間で時間の流れが正常に戻った。

人けのない夜の埠頭に、遠くの船の汽笛と、低空飛行する飛行機のエンジン音が流れ込んでいる。FBIのジョディが銃撃を受けた脇腹を抑えながらうずくまり、その横でコナンが静かに眠っている。

 哀は今、ベルモットの銃口の前にその身をさらしていた。

「ただ死にに来たんじゃないわ、すべてを終わらせに来たのよ。たとえあなたが捕まっても、私が生きている限りあなたたちの追跡は途絶えそうにないから」

 そう、あんなことになるくらいなら素直にここで死んでおけばよかった。ベルモットの目的はあくまでもシェリーの殺害であり、コナンのことはなるだけ遠ざけようとしていた。

 彼は以前、周囲を巻き込むまいと爆弾の仕掛けられたバスに一人残った哀を叱咤して、運命から逃げるなと言ってきた。哀はその言いつけを忠実に守っているからこそこの場所にいる。

「そのかわり約束してくれる? 私以外、誰にも手をかけないって」

「いいわ、FBIのこの女以外は助けてあげる。でもまずはシェリー、貴女。恨むのならこんな愚かな研究を引き継いだ貴女の両親を……」

 ベルモットがそう言いかけたところで、トランクから毛利蘭が飛び出てくる。蘭が哀を両腕で包み込むようにして庇う。ベルモットは発砲を躊躇している。

 もう少しの辛抱だから、お願い動かないでと言う蘭に、哀は姉の宮野明美の姿を重ね合わせる。

 そこで蘭の顔が歪み、哀の意識だけがそこに取り残されて、背景が目まぐるしく変化していき、やがて視認できなくなっていった。

 今までよりもずっと長い時間、記憶の海を航海している。次の記憶は寄港地ではないのだろう。

 そして私は最初の記憶に辿り着く。

 

 

 

 いま、哀は姉の腕に抱かれている。

 辺りは一面火の海が広がっていた。それにもかかわらず、姉妹は髪も皮膚も服でさえも燃えていない。

 明美は微笑を湛えながら、困惑する哀に穏やかな瞳を注いでいる。

 そのとき、明美の腕に触れている皮膚がひんやりと冷たいことに気づいた。ふと見ると影さえも落としていない。哀がかすかに肩を震えさせたのを見て明美は一瞬悲しげな顔をしたが、すぐにそれを取り下げて哀の良く知る快活な表情をつくった。最愛の姉にそんなことをさせた身を恥じながら、哀は状況を打開しようと口を開く。

 

 本当にお姉ちゃん、なの?

 そうよ。

 生きていたのね。

 そうじゃないわ。あなたにはわかってる。

 どういうこと?

 さあね。

 私は、あの世にでもいるのかしら?

 どうしてそう思うの?

 だってお姉ちゃんがいるじゃない。

 お姉ちゃんはずっと志保と一緒にいたわよ。

 嘘ばっかり。

 本当なのに。

 それにしても、やっぱり天国も地獄も存在しないのね。

 どうして?

 だってもしそんなものがあるなら、私たちが死後に会えるはずがない。

 そんなことないわ。志保は優しい子だもの。

 私のせいで、多くの罪のない人が死んだ。

 それは、あなたのせいじゃないわ。

 私のせいよ。

 相変わらず強情ね。でもそれなら、十億円を一緒に強奪した仲間を殺してしまった私だっておあいこよ。

 お姉ちゃんは、薬の中身を知らなかったじゃない。睡眠薬と聞かされていたんでしょ?

 志保だって毒なんて作ってるつもりなかったんでしょう?

 私そんなことお姉ちゃんに話したかしら?

 彼にそう言ったじゃない。

 彼?

 そう、工藤新一君に。

 どうして知っているの?

 ずっと志保と一緒だったって言ったじゃない。

 そんなこと……ありえない。

 ずっと見てきたの。志保が苦しい思いをしているところをずっと。

 やめてよ。

 工藤君に会って、彼に惹かれていくのも見てきた。

 やめてってば。

 優しい人たちに囲まれて、志保はよく笑うようになった。

 お姉ちゃん……

 それなのに、こんなことってない。

 それって……

 私は志保に幸せになってほしかった。

 じゃあ、私にとって都合のいいあの記憶は…… 

 私の空想を見ていたのね。

 ……そんなことだろうと思った。

 残念そうね?

 ……別に。どうしてあんなこと考えたの?

 志保と工藤君が結ばれてほしかったんだもの。

 駄目よ。工藤君には彼女がいるんだから。

 何言ってるの、工藤君が小さい今のうちにあなたが寝取ってやればいいのよ。恋人の一人でも作りなさいって言ったでしょ?

 はいはい……ねえお姉ちゃん。

 何?

 私ね、ずっと彼女が羨ましかった。

 うん。

 工藤君の想いを独占する彼女が妬ましかった。

 うん。

 なのに彼女は私に優しいの。

 うん。

 もっと素直に接していればよかった。

 うん。

 ……私、やっぱり死にたくない。

 ……大丈夫。志保は生きているよ。工藤君も。

 本当?

 本当よ。

 ありがとう。お姉ちゃんが助けてくれたのね。

 半分正解、かな。

 半分?

 そう、半分。あ、

 お姉ちゃんの身体が……

 志保が素直になって、お姉ちゃん心残りがなくなったのね。

 そんな……やっとこうして話せたのに。

 また会えるわ。ほら見て、志保。

 何? わあ……

 綺麗な夕陽ね。あなたが好きな色……

 ええ。今まで見た中で一番綺麗……

 ……ねぇ志保、大君のこと、許してあげてね。本当はとても優しい人だから。

 ええ、わかったわ……お姉ちゃんの声、なんだか聞き取り辛いわ。

 志保の声も、ほとんど聞こえないよ。

 お姉ちゃん、愛してる。

 志保、愛してる。

 

 

 

 4

 何か聞こえてくる。その言葉はぐにゃりと歪みながら溶けていこうとする。それを懸命にすくい上げて、言葉の断片を繋ぎあわせていく。

 別の国の言語を聞いているように意味の通らなかった言葉が単語になり、やがて文章にかわった。それが、深く沈潜していた意識が徐々に引き上げられていく感覚だった。

 哀は半身を起こして、あたりを窺った。部屋は採光がよくて白い輝きに包まれている。消毒液と芳香剤の匂いが鼻先をかすめる。

 左腕は点滴を受けていて不自由だが痛みはない。右手の窓側の床頭台には、クラスメートの子供たちが入院した哀に書いたであろうメッセージカードが束ねられて置いてある。どれくらい意識を失っていたのかは分からないが、哀の入院を博士が隠しきれない程度の時間が経っていたのだろうか?

(そうだ、私のことよりも、工藤君は……)

 哀が生きているのならば、もしかしたら彼も生き延びているかもしれない。思い返してみると悪運の強い男で、洞窟で子供たちを庇って拳銃で腹部を撃たれた時も死ななかったし、大阪で沼淵己一郎から包丁で刺された時も、偶然預かっていた御守りのおかげで大した怪我も負わずに済んだらしい。高木刑事とともに東都タワーのエレベーターに閉じ込められた時も、残り時間ぎりぎりで爆弾犯のヒントの意味を解読して死を回避した。組織との闘いは常に死と隣り合わせだったけれど、その全てに打ち勝ってきた男だった。

 哀の思考は入口のドアが開く音で中断された。

 病室に入ってきた看護師は、起きている哀を見て一瞬固まったが、すぐに慌てたようすで走り去っていった。医者を呼びに行ったのだろう。

 しばらく待っていると、まだ若い女医が看護師を連れて病室に入ってきた。眼鏡をかけていて、目元は明るく丸顔の、どこか愛嬌を感じさせるような、やわらかい顔立ちだ。

 彼女は哀を安心させようと、微笑みを崩さないでいる。看護師が点滴パックを取り替えていて、その間に軽く問診を受けた。それが終わって、女医が哀の瞳孔の反応を観察していると、阿笠博士がやってきた。最初は心配そうだった博士の表情は、彼女から説明を受けるうちに喜色に変わった。どうやら哀は比較的軽症で済んだらしい。

 説明を終えて女医が看護師と去っていくと、一瞬空気が重苦しいものに変わった。哀から口を開いた。

「博士、工藤君は……」

「彼は発見された時、君と違って重傷を負っていての。まあなんとか一命は取り留めたわい」

「よかった……」

「術後の容体は比較的安定しておるらしいが、まだ意識が戻らないんじゃ」

「……そう」

「なに、そう心配せんでも新一なら大丈夫じゃよ。それに……」

 博士は哀の不安を取り払うように朗らかな声で言い、何か続けようとした時、再び扉が開く音がした。二人は音の方へ目を向ける。

「哀ちゃん!」

 毛利蘭だった。見舞いに来たというよりか、哀が目覚めたという連絡を受けて、慌ててやって来たという雰囲気だった。

「おお、蘭くんも来たのか」

 蘭は哀を見つめたまま立ち尽くしている。やがて、

「ねぇ博士。ちょっとだけ哀ちゃんと二人でお話させてもらってもいい?」

「それは構わんが……」

 博士が席を外してからも、変わらず蘭は立ち尽くしたままでいる。なんだかその様子に哀はきまりが悪くなった。

「あの、座って?」

「あ、うん……」

 言われて蘭は床頭台の横に立て掛けてあったパイプ椅子を開いて、そこに腰を下ろした。逆光のために顔が上手く判別できなくて、哀はその姿を一瞬明美と見間違えた。なんとも言えず神々しい雰囲気がある。

 蘭が先に口を開く。

「コナンくんは、新一なんだよね」

「……え?」

 その言葉の衝撃で、鼓動が一瞬止まり、呼吸すら失われた気がした。体の自由が戻ると今度は身震いがとめられない。蘭はその様子を注意深く観察している。

「隠さなくていいのよ、哀ちゃん。それとも、本当の名前は違うのかな?」

「どうし、て?」

「あなたが小さくなるところを見たのよ」

「そう……」

 薄々感じていたことだったけれど、つまり、あの時二人を助けたのは蘭だったということだろう。

「本当は何歳なの?」

「十八歳よ」

「私より年上……だったんですね」

「そうね。けどいまさら敬語は不要だわ。本当の名前は、宮野志保」

「だったら、志保さんって呼んでもいい?」

「ええ、それでいいわ」

 会話が途切れ、二人はまた押し黙る。

 哀は蘭の表情を窺う。驚いたのは、蘭が表情を凍らせて、無色の瞳で哀を見ていたことだった。

 そこで脈絡なく、蘭が言った。

「最初に私の心に萌したのは、変だよね。嫉妬なの。新一がどうして私に話してくれなかったんだろうっていうことよりも、あなたへの嫉妬の方がまさったの」

「嫉妬?」

「どうしてあなたなんだろうって。あなたは知っていて、私は知らない。それが、私にとってはこの上ない侮辱に感じたのよ。笑わないでよね、志保さん。あの時私、今まさに炎に包まれようとしていたあなたを見て、心の底から綺麗な人だなって思ったの。あなたがあまりにも美しかったから、私はあなたに嫉妬したの」

 哀は、もちろん彼女から恨まれることは予想していたが、自分自身が嫉妬の対象になるとは思っていなかった。嫉妬しているのは常に哀の側だと、どこかで思い込んでいたのかもしれない。

「気絶した志保さんが哀ちゃんになったのを見て、ああそういうことだったんだなって。二人と一緒に救急車に乗っていて、救急隊員の人たちがストレッチャーに横たわって意識のないコナンくんの応急処置をしているその真横で、心配そうな顔を作っていたけれど、頭の中ではずっと私の知らない顔をした新一が、志保さんと一緒にいたの」

「ええ」

「二人がとても遠くに行っちゃって、だんだん救急隊員の人の声とか、救急車のサイレンとか、そういう周囲のノイズから切り離されて、私だけひとりぼっちになっちゃって。あんなに綺麗な人になら、取られちゃうのも仕方ないなって思ったときに、突然暗い声が心の底のほうから響いてきたの」

「ええ」

「それが自分の声なんだって気付いた時ぞっとしたけれど、私は抗えなかった。哀ちゃんに、今まで口に出したこともないような酷いことを言ってやりたい衝動が抑えられなくて。哀ちゃんが目覚めたって聞いて、いてもたってもいられなくなった」

 機械的に相槌をうつことが、彼女の望みだと分かる。そしていま、蘭の心の弱い部分に初めて触れることができた気がした。ずっと蘭の強さを盲目的に信じこんできたけれども、それは違った。彼女は私に嫉妬する弱さを持っていたんだ、と哀は思った。

 自分はもしかするとこれまで、蘭の本当の姿を見てきていなかったのではないか。今までは蘭ではなくその後ろにいる姉を重ね見ていただけなのではないか。蘭を「許した」のも彼女が姉だったからではないか。

「でも不思議よね。いざあなたを見たら途端に、その憎しみが跡形もなく浄化されちゃったの。ううん、それどころか、前よりも親しみがわいてきたくらい」

 長く続いた独白が区切られる。気付けば陽が傾きだしていて、白かった世界に赤いグラデーションを敷いている。

「話していたら汗かいてきちゃった。哀ちゃん、ちょっとここ開けてもいい?」

「どうぞ」

 蘭が窓を開けると、時折やわらかい風が部屋にはいってきて、二人の髪を揺すぶった。言葉のない穏やかな空間に、微風だけが断続的に音を奏でている。二人の影法師が伸びていき、やがて重なっていく。今こそ想いを投げ返す時だと哀は思った。

「……私もあなたにずっとずっと嫉妬してきた。あなたと工藤君が、心の底から相手を思っていることが、私には手にとるように分かった。私は工藤君に救われて、私にはもう彼しかいなかった。それなのに、彼は決して私を振り向いてはくれないのよ」

 沈黙。蘭と哀は、会話をしているのではなく、想いをぶつけ合っている。重要なのは耳を澄ますこと。そっと、息を殺して、静かな二人だけの場所で。時宜をはかること。

「いつか私が銃口を向けられたとき、あなたに助けられたことがあったけど、あの時、私ではあなたの強さには絶対にかなわないって分かって、自分の想いを閉じ込めたの。私はただ工藤君の側にいられるだけでいい。そう思っていたけれど、彼が追っていた組織を壊滅させたことで、私たちの関係は終わるんだなって思った。そうしたら、もう止まらなかった」

 間髪入れずに、

「あの日、彼が私を命がけで庇ってくれたとき、私たち二人で死ぬことは存外悪くないと思ってしまった。私は持っていた薬を飲んで元の身体に戻って彼を助けようとしたけれど、実際は、彼の最後に自分の本当の姿を見せつけたかったのかもしれない。それで彼が意識を失ったことで、私は彼の死を信じ込んだ。そんなとき、あなたの声が聞こえてきた。薄れていく意識の中で、本当はあなたが来たことに気付いていた。でも、死んだ姉が迎えに来てくれたってことにしたの」

「お姉さん、いたんだね。それも亡くなったって……」

「ええ。姉はあなたによく似た人だったのよ。ずっと姉のような明るくて優しい人になりたかった……多分私はあなたを通して姉の幽霊を追い続けていた……だから姉は私をたしなめるために、あんな夢を見せたのね」

「夢?」

「そう。優しい夢……」

 お互いの顔を剥がしていく。姉の面影と、灰原哀という少女の仮面を剥がしていく。哀が言う。

「私もあなたのこと、名前で呼んでもいい?」

 長い沈黙が続いたあと、蘭が笑みを溢してこう言った。

「もちろん。私たち、きっといいお友達になれるわ」

 

 

 5

「お前、もう消灯時間過ぎてんじゃねーか?」

 それが、目が覚めたコナンが哀にかけた第一声だった。

 彼は自分が一命をとりとめて入院しているのだとすぐに状況を理解したようだった。真っ暗に消灯しているコナンの病室にいる哀。

「あなたが目覚めるのをずっと待っていたのよ」

「ずっと?」

「ええ。伝えたいことがあったから」

 暗闇に順応して、少しずつ輪郭を帯びてくる哀は、何かとても強い眼をしている。

「覚えてる? 以前工藤君が私に逃げるなって言ったこと」

「あ、ああ」

「私は勘違いをしてきたのかもしれない。逃げることと後退することはイコールじゃないのね。より高いハードルを飛び越えるために、後退は助走の準備でもある」

 一拍置いてから、

「私、蘭さんといろんなことを話したの」

「蘭と?」

「ええ。私、もっともっと彼女のことを好きになれるわ。あなたの時のように」

「オレの?」

「そう。私はあなたのことが好きだから」

「好きって……お前が? オレを?」

「やっぱり気付いていなかったのね……ああ、別に返事とかはいらないから」

「そ、そうかよ。でもなんで突然?」

「……証人保護プログラムを受けてアメリカに行くことにしたから、その前に言っておこうと思って」

 組織の残党に襲われたことで、FBIが再び証人保護プログラムを要請してきた。数日前、哀はそれを受け入れたのである。

「なんでそんな! 一人で思いつめて、勝手に決めてんじゃねーよ!」

「受け入れるかわりに、最高の環境で薬の開発をさせてくれるように頼んだ。その取引を彼らは受け入れたのよ」

「薬って、解毒剤かよ?」

「ええ。今のままではあなたを完全に元の身体に戻すのは難しいからね。あなただって薬のデータがあれば即解毒剤を作れるなんて思ってはいないでしょ?」

「それは……」

「私が両親の焼け残った資料をかき集めてあの薬を復活させた時だって、私一人じゃなくて、組織のバックアップのもとで、何人もの研究員の協力があった。私が作った解毒剤の試作品に耐性がついた今のあなたを、完全に元の身体に戻すには、一人で博士の部屋で研究を続けるよりは、FBIの協力で最高の環境のもと研究した方が効率的。工藤君も一日も早く元の身体に戻りたいんでしょ?」

「それはそうかもしれねーけど……お前はそれでいいのかよ? 博士や子供たちとも会えなくなるんだぞ」

「学校には灰原哀は海外に転校するって言ってあるから。どのみち私たちが元の身体に戻ったら、あの子たちが知る灰原哀は消えるのだから、早いか遅いかの違いだけよ。それに、前回と違って組織自体は壊滅しているから、証人保護プログラムと言っても限定的なものになるらしいわ」

「限定的?」

「例えば工藤君は被験者なのだから、作った薬を定期的に飲んでもらう必要があるから、直接もしくはビデオ通話を通してあなたと話す機会はあるわね。博士も、場合によっては手伝ってもらうかもしれない。FBIが組織の残党を掃討して、解毒剤の完成品ができたら元の生活に戻ることもできる。割と融通が効くのね」

「それで? いつ行くんだよ?」

「明日」

「明日だと!?」

「言ったでしょ? あなたが目覚めるのを待っていたって。彼らは退院したらすぐにでもって感じだったのを引き延ばしたのよ」

「わかったよ。今までホントありがとな」

「お礼を言うのは私の方よ。またあなたに助けられたのだし。それに……」

「それに?」

「あなたのおかげで、私は自分の罪と向き合える。私が作った薬で死んでしまった人がいることを、忘れないでいられるのはあなたがいるから」

「バーロ。灰原のおかげでオレは生きているんだぜ? 考えてもみろよ。もし例の薬がなかったら、ジンの奴はもっと確実な方法でオレを殺しただろ。少なくともお前はオレを助けたんだ」

「そんなこと……」

「いや、そうだよ。名探偵だとかおだてられて、オレが調子に乗ってたのが悪いんだ。それに小さくなったことで、見えるようになったこともあるんだ」

 真実は一つとは限らないこと。

 月影島の公民館で、犯人の麻生成実が炎々たる焔に飲み込まれながら、ただ一人のちいさな聴衆に感謝の思いを捧げるためだけに引いていたピアノの旋律。それが今でも時折、思い出したかのようにどこかから鳴り響いてくるのだと言う。工藤新一は多くの真実の中の一側面を証明してきただけだと、彼に自戒させ続ける記憶……。

「オレさ、お前がいなくなるの淋しいよ」

 愛とも恋とも違う。

 私たちは、お互いが後ろに倒れそうになるのを支え合うために手を繋いだんだ、と哀は考える。そして彼に身をゆだねてみた。この小さな肩に、数えきれないほどの人々の苦難が降りかかっていたのだ。

 哀は彼の肩にしずしず触れ、そこに顔を沈めて声を上げずに泣いた。彼は拒まなかった。赤みががった茶髪。ウェーブ。哀の頭部が彼の肩の窪みに乗って、不完全だった場所が埋まる。吐息が髪を波立たせているのがわかる。

 彼は変わるだろう。私もまた変わるだろう。

 

 

 

 6

 成田空港のラウンジは平日でも搭乗アナウンスを待つ人の波であふれ返っている。哀にとっての特別なその日は、他の誰にとっても清々しい、あるいは少しだけ厄介な、普通の一日にすぎない。

 事情を知っている博士と蘭の二人と待ち合わせた午前十時を数分過ぎていたところだった。

 搭乗手続きは同行するFBIのジョディが済ませてあるが、そこまで時間に余裕を持たせているわけではない。そのジョディは席を外し、話し相手もいない哀はすっかり手持ち無沙汰になっていた。

 雑踏の奥を見澄ましていると、見知った少女がこちらに駆け寄ってきて、哀は驚きに目を瞠った。

 少女、吉田歩美がその瞳いっぱいに涙を浮かべて、哀に飛びついてきた。

「行かないで哀ちゃん、行っちゃやだ!」

「吉田さん……博士。どうして彼女がここにいるのよ」

「す、すまんな哀くん。蘭くんと二人で来るつもりだったんじゃが……」

 博士の言葉を繋いで蘭が言う。

「なんか、この子たちが車のトランクの中に隠れてたみたいで……」

「小嶋君、円谷君、あなたたちも……三人とも学校はどうしたのよ?」

「僕たち、どうしても灰原さんのお見送りをしたくて……」

「サボったのね……」

「わりーかよ! 俺たち少年探偵団の仲間だろ!」

 哀は勢いに押されていたが、やがて口元を緩めて、

「来てくれてありがとう、うれしいわ」

「哀ちゃん、家庭の都合なら歩美たちが止めることはできないけど……どうして何も言ってくれなかったの!」

「そうですよ、僕たちそんなに頼りないですか?」

「水臭いぞ!」

「ごめんなさい、どうしても言い出せなくて……」

 哀が謝ると、三人は一様に驚いて心配そうな表情に変わった。歩美が言う。

「泣かないで、哀ちゃん。ごめんね、哀ちゃんだってつらいのに、歩美たちのことばっかり言って」

「え? 私、泣いてる?」

「うん、泣いてるよ……」

「そっか、私哀しいんだ……」

 哀がそう言うと、子供たちもつられて泣きはじめた。哀の悲しみを吸い取って、子供たちは自分の悲しみと同化させている。そこに救われた気がした。

 泣いている子供たちには聞こえないように、蘭がポーチから何か取り出して、哀に言った。

「あ、忘れないうちに渡しておかなきゃ。はい、これ新一から」

「手紙?」

「うん。灰原に渡してくれってさ」

「ありがとう」

「志保さん、研究頑張って。帰ってきたらまたいろいろ話そうね」

「ええ、蘭さんも元気で。博士もいままで本当にありがとう。私がいないからって甘いものや肉類を摂りすぎないこと」

「わかっておるわい……哀くんも元気でやるんじゃぞ」

 哀が博士と蘭と話していると、ジョディが姿を現して、それと同時に搭乗を呼びかけるアナウンスが流れてきた。

「それじゃあ、もう時間だから」

 哀の言葉に、収まりかけていた子供たちの泣き声が再び大きくなった。

「大丈夫。またいつか会えるから」

「本当に?」

「本当よ。私たち少年探偵団なんでしょ?」

 それは理屈も理論も何もなかったが、哀がかけられる言葉は他になかった。

 

 こうして哀はいま機上の人となっている。

 泣きじゃくっていたあの子たちも、成長して、大人になっていくにつれて、灰原哀のことを忘れるのだろうか。覚えているのだろうか。

 哀は彼の手紙を読んでいて、一つ確かだと感じたことは、前夜の彼のぬくもりに関して言うならば、近づいたままでいたらいつか忘れてしまう類いのものだということだ。いったん離れてみることでしか触れられないものがある。

 この抑えがたく狂おしい感情が、いつまでも続くとは思っていなかった。そして、世界はいつも不条理で満ち溢れている。哀は、いつしか彼を愛さなくなる自分を想像してみた。思いのほかしっくりきて、それは身を切り刻まれるように哀しくて、もしかしたら彼が死んでしまうよりもつらいことだろうと思われた。

 それでも、と哀は呟く。

 次に会う日は、彼を愛していても愛していなくても。

 きっと笑っていよう。

 飛行機が離陸する。轟音が感傷を慰めるように吹き飛ばしてくれる。

 ターミナルビルから五人が振っている手が、見る間に小さくなっていくのがわかる。それでも、哀はまだ手を振っている。たぶん子供たちも、博士も、蘭も、そして離れた場所から彼もそうしてくれているだろうから。見えなくなったとしても、消えたわけではないのだから。

 私はいま、過去と未来の間を飛翔している。

 

 

 



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