無彩色の灯籠   作:つきうさぎ


原作:羅小黒戦記
タグ:
 映画のあとの洛竹を、バックグラウンドがばがばで、捏造してみた。

 ※公式が出した风息公園の設定を知る前に書いたので、有料になってしまってます。本当は無料。

1 / 1
無彩色の灯籠

 あの日から何年か経った。

 まだ監房から出されず勾留されるはずが、更生の為にヒト社会で仕事をしろ、と命令が下った。とは言え、まだ警戒対象のようで、人類の街へ赴く際は、必ず監視が付く。そうして近年の人間社会と関わりが深くなればなるほど、あの住処が恋しい、と何度も何度も思った。空が遠く狭い。空気が悪く息苦しい。喧しい。そして〝更生〟という言葉が、気持ちをささくれ立たせた。

「ふう……」

「洛竹。それが終わったら、上がって良いよ」

「わかった」

 少し目を細めて口角を上げれば、上機嫌で反応をする人類たち。自分の容姿は、人類社会で好感を与えるようだ。むやみやたらと敵対心を芽生えさせて自分が相手をするなど、もう疲れたので、心にもない笑顔を浮かべて、館に属した花妖精が働いている花屋で働く日々は、色が無い。きっと、この花たちは鮮やかに素晴らしい色彩をしているだろうに。

「美しいって言ってやれなくて、ごめんな……」

 仕事着だという前掛けを店長へ返して、夕暮れの街を進む。

 自然を――『家』を壊す人類と共存することは、中々に難しい。許しがたいという感情が、消えるにはあと何年、何百年必要になるのか、または己の身が果てるまで燻り続けるのか、自分のことだというのに、感情を管理できないままでいる。风息への不満も、残ったままだ。彼を尊敬をしていた。否、いまでも尊敬している。それ故に殊更憎しみも強い。何故、新しい家族を殺しかけてまで、あの時に実行しようとしたのか。何故、自分に説得させてくれなかったのか。何故という感情から憎しみを抱いた相手は、もうふたりいる。体は冷たくとも温かい存在だったはずの虚准。何故、自分の行く手を阻んだのか。彼は随分年上で、小黑の体質だと、能力を奪われたらどうなるか知っていただろうに。空間系は能力を奪われたら死に至るだなんて、自分は後から聞いて知った。もうひとりは、天虎。何故、一緒に止めてくれなかったのか。どうであれ、無理矢理奪うことは好きじゃない。だって、そんなの、人類がしてきてる行動と一緒だ。説得して、あの子自ら楽園を作り上げてくれていたら――。なあ? 风息……。

 館へ帰る為の合流地点へ向かっているはずが、

「入りますか?」

 同道巡りの思考から引っ張り上げられて、周りをよく見た。嗚呼――……無意識に公園(ここ)へ来てしまったらしい。入口の受付をしている人類に、入らないという意思を見せるため首を横に振った。家族と会うのに、人類の通貨を払うだなんて、馬鹿げている。

 人類の街のはずれを目指して、ひた歩いた。あんなに心地よかった日差しでさえ、街では火に炙られてるように不快だ。

「あ! 洛竹! おつかれっ」

 ずいぶん大声で名前を呼ばれて、遠くの前を見れば、花妖精が人類が作った乗り物に乗って近付いてきた。同族へは見繕う気も起きず、足も止めずただ無言で片手を上げる。そんな対応で不愉快になる相手でもない。

「次って、明後日だっけ?」

「そうだよ」

「そっか! じゃあ、また明後日ね」

 すれ違いざまの短い会話。彼女からは、人類の街の暮らしが長いという割には濃い木々の気配が漂い、それだけに、乗り物で空気を(けが)して去る姿は、ちぐはぐだ。

 館の監房へ戻って、横になった。元々食事は要らない。ただ、家族と口にした物が美味しいと感じて、楽しかったから、摂取してただけのこと。起こされた時は二日後、花屋での勤務の日。花を求める人類には、少しだけ、ほんの少しだけ、好感がある。かつて、自分たちの『家』を破壊し始めた彼らは、破壊しながらも『家』に感謝し、木々花々を愛で、食料となる命もその日必要な分だけを浸食していた。そんな彼らとこの店に来る人類は、花を愛でるところが似ている。されど、たったそれだけ。花をその手に迎えた人類が、空気を汚染する車に乗って去って行くのを見ると、やるせない。

「洛竹」

 焼けつく日差しの午後、さいきん聞いていなかった声に、名前を呼ばれた。

 あの時分、気持ちが混沌としたまま館の監房に投獄されて、ひと眠りしたら、次に目が覚めたのが何年か後だった。目が覚めてからも、この子には会いにくくて、こっちから面会を希望することもなく、向こうも訪ねてくることはなく、人づての会話であの執行人に正式に弟子入りして、あの子自身も執行人として動いてると知った。それ故に会いにくさが増して、それからさらに数年。再会は、今この時。記憶の中の子と、だいぶん変わっていて、時の流れを感じた。

「小黑。背が伸びた?」

「そうかな。ちょっと伸びたかも。あのねあのね、洛竹。これ、贈り物」

 持っていた紙袋を、差し出してくる。困った。せっかくの小黑からの贈り物だというのに、いまは、水折りをしていて手が水浸しだ。すると小黑は、仕事中だったね、どこに置いておこうか、と頭を掻いた。トレードマークの猫耳は、今は被る帽子で見えない。きっと、その中でへたれてることだろう。

「あらまあ、坊や、ひさしぶりだね」

「おばさん! こんにちは」

 ――尻尾が見当たらない。もしかして、変化術が上達したのかな。耳も無いのか? 可愛かったのに。

「なんだい、洛竹に用かい?」

「そう」

「知り合いだったんだねえ。あんた、坊やといっしょに昼飯食っちゃいな」

 本来の休憩より、四十分ほど早い。

 この子に対して気後れが大きくて「受け取るだけにする」と口にする前に、小黑が飛び跳ねて喜んでしまったから、指示通り、昼休憩を取る事にした。食べた後に渡すね、と笑う小黑は、あの歓迎会で見せてくれた笑顔。

 あの時が続けばよかったのに――……。

「小白と山新がね、おもしろいとこ連れてってくれてさ」

 小黑のお気に入りだという料理店で食事をしながら、近状を聞く。友人関係になったという人類の娘の話、その娘の兄が妖精だという話、自分と同時期に館に捕縛された人食い妖精の話。特に、娘との話題は多く、すっかり共存しているようだった。彼も『家』を奪われ、自然の力の弱い人類の街で、正体を隠して住まわざるを得ないというのに、何故、自分とこうも違うのだろう?

「洛竹?」

「ん?」

 笑みを返す。

「洛竹、笑わなくなったね」

 いま、笑いを浮かべたじゃないか。そう言うと、小黑の顔に影が差した。気後れを隠しているけれど、この子は、距離感を察知したのかもしれない。

「許せてないの?」

「……うん」

「もういいんだよ?」

「きみは、殺されかけたのに」

 すると、小黑は食後の皿も食べかけの皿も、机の端に除けて、例の紙袋を置いた。可愛い眉は、ぎゅっと寄っていかにも不機嫌さを表している。強い眼差しが突き刺さり、次いで、開けて、と命令が飛んできた。その姿は、対峙した執行人のようで、好かない。それでも、小黑からの贈り物は嬉しい。紙袋をそっと引き寄せて膝の上に乗せる。中身は、竹だった。ちゃんと取り出して、と更に命令が飛ぶ。一節間(ひとふしかん)分の竹を取り出せば、周りがなにかの輪郭を(かたど)って彫られていた。落として割らないよう、両手でくるりと一周。そして、はっと気づいた。

「风息……」

「そうだよ」

「虚准」

「実はそれ、三個目なんだ。彫る時、角、折っちゃって」

「天虎」

「いちばん彫りやすかった」

 残るこの姿は、自分だ。

「山新がね、日本って国の物が気に入ってて、竹灯籠(とうろう)っていうのが綺麗だって話してくれたんだ。ロウソクを入れると、――洛竹が見せてくれた花みたいな色になるよ」

 ギクリ。

 少し前のこと(・・・・・・)なのに、自分がどんな()を見せたか、思い出せなくて、体が固まる。ぼくはやっぱり风息を、悪い奴だと思えない。動きを忘れた自分に、小黑は言った。

「洛竹たちのことも、酷いことした相手って思ってない。これ(竹灯籠)聞いた時、みんなに贈りたいって思ったんだよ。……洛竹が笑わないの、すごく悲しいよ」

 それこそ、曖昧に笑って有難うと言って、手の中の灯籠を眺めた。

 館の周りはいつだって、太陽と月が交互に顔を見せるものだから、監房の中の電気とやらを点けなくても、月明かりで充分の明るさだ。

「あれ?」

 袋の中は竹灯籠だけではなかった。確かこれが、蝋。小黑の説明だと、この蝋に火を点けてを竹の中に入れると、あの花のようになるらしい。しかし、種火がない。扉を開けて、半身だけ廊下に出す。看守が、ああ、いた。

「火、持ってる? ――なにも企ててない。ただ、蝋燭に火を点けたいんだ」

 竹灯籠を見せると、この監房へ歩いてくる。確認するみたいだ。

「……外から持ち込めたという事は、危険物ではないようだな」

「小黑からの贈り物」

「――小黑様から。いいだろう」

 小さい蝋燭に、看守が灯を燈す。それを竹灯籠の底へ、置――はは、気付かなかったな、底に(シャオ)(マオ)姿で彫られた小黑がいた――置くと、筒を薄く削られて輪郭を模られた家族の姿が透かされて見えた。

「火を、ありがとう」

「……」

 ベッドの横に、灯籠を置いて横になって眺める。燈火は赤い筈なのに、灰色と薄い灰色にしか見えない。瞼を閉じれば、『家』の翠色も、天虎の柿色の毛皮も、虚准の青白磁(せいはくじ)色の髪も、风息の桑の実色の髪も、ぜんぶぜんぶ、見える(・・・)から、白黒の今が、夢の中なのではないかと疑いたくなる。だけども、灯籠から微かに放たれる火の温もりが、これは現実だと突き付けてくる。灯籠の风息に手を伸ばす。届かなくて、寝転がる位置を変えた。あの時も、あと一歩、強気になれたなら、今でも家族で暮らせていたんだろうか?

 ……やっぱり、家族が愛しい。憎しみがあっても、愛しい想いが強いや。

「天虎。虚准。……风息」

 『家』に帰れたら、小黑の言う()を思い出せて、見せてあげられるはずなのに。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。