二人の神風紡ぎし不世出の叙事譚   作:エリム

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第一話

♪~

 

 「・・・ん、」

 

 携帯の目覚ましを止め、天気の確認に窓を見る。

 

 今日も天気は晴れ。窓から差し込んでくる陽光は少し儚げながらも暖かく、そこまで太陽は好きではない僕でも、朝の春の陽気は良いものだと感じる。

 

 主に夏みたいな刺すような刺々しい日差しと違い、柔らかく包み込むような羽毛布団のような日差し。

 

 ある程度日が昇ってしまえば全てを暴くように空を照らすクセに、なんで明け方はこんないつまでも浴びていたいと思えるような優しい光なんだろうか。

 

 「・・・さて、朝ごはんを作りますかね。」

 

 曙光をそれなりに堪能し、布団から出る。出ます。出たいのですが、あの~天音さん?そんながっつりと右腕を抱き締めないでもらえます?地味に痺れてるんですが。

 

 「Zzz・・・うへへ・・・ユキ・・・美味そう・・・」

 

 いや、それ以前にどんな夢見てるの!?

 

 このまま腕を離してくれそうもないし、抜こうと引っ張ると逆にもっと抱き締めてくる。

 

 ああもう!ご飯出来てから起こそうと思ったけどいいや。ちょっと早いけど起こしてしまえ!

 

 「天音!朝だよ!起きないと朝ごはん無しにするよ!」

 

 できるだけ耳元で大声を出しつつ、足は自由だったので蹴りつける。

 

 一見ひどい絵面だが、こうでもしないと天音の拘束が緩むことすらまずない。

 

 どうせ大したダメージではないのだし。

 

 そうして格闘すること約3分。布団はもみくちゃになり、いい加減疲れ始め喉も痛くなってきて「もう朝ごはんはゼリー飲料でいいかな?」と諦めかけた時にやっと天音はごそごそし始め右腕の拘束を解いてくれた。

 

 「ぅん~後15分・・・」

 

 「別に構わないけど、疲れたからもう起こさないよ?いいの?後から文句言わない?」

 

 「ん~起きる」

 

 疲れたけど、こうして寝ぼけた天音を見るのは正直嫌じゃない。普段の少し粗暴だけどカッコいい天音も好きだが、こうして普通の女の子っぽいところもギャップ萌えする。

 

 言うと恥ずかしがるから弄る時にしか言わないけど。

 

 ただもう少し寝起きが良くなってくれないかな。

 

 「おはよーさん。ユキ」

 

 と、気付けばきちんと目が覚めたのか伸びをしながら天音が挨拶してきた。

 

 「おはよう天音。とりあえず僕は朝ごはんの支度をするから、先にシャワー浴びてきたら?」

 

 「ん?そうか。わかった・・・ってユキ!まだ6時過ぎじゃねーか!」

 

 時計を見て天音は起こすのが早すぎる!と怒りはじめたが、そんな言い分が通るか。

 

 「天音が僕の右腕を離してくれなかったんだから、仕方ないでしょ。ほら、僕の右腕と天音の腕、どっちもそんな感じで赤くなってるでしょ。まあ、たまには早起きは三文の得だと思って。」

 

 ムッとしつつ、自分の腕と僕の右腕を見比べた天音は苦い顔になった。

 

 「俺は三文より少しでも惰眠を貪りたいってーの。まぁ布団の惨状と腕の跡から見てその通りなんだろうな。自業自得か・・・すまん、ユキ。」

 

 まぁ、こんなことはよくあることなのでこっちは気にしてない。というより、熱くなりやすく冷めやすい天音と過ごす上でこんなの気にしていたらどうにもならない。

 

 「わかったらほら。シャワーを浴びに行くなり布団片付けるなりして。朝ごはん要らないの?」

 

 「本当にごめんな。」

 

 と布団を片付け始める天音。

 

 全く朝っぱらから。

 

 さて、気を取り直してごはんごはん。

 

 

 

 「えーと、卵にキュウリの塩揉み、ベーコン、ウインナー、牛乳か」

 

 台所にて冷蔵庫を確認するが、当たり前だが思った通りの品物しか入っていない。

 

 今日、買い物に行く予定だったから仕方ないけど少ない。

 

 ん~これで作るものか・・・とそうだ!前に買ったフランスパンがこっちに・・・とあったあった。よし、メープルシロップも残ってる。 

 

 「フレンチトーストに焼いたベーコンとソーセージ、あとはインスタントのコーンポタージュにキュウリの塩揉み、よし。野菜が少ないけど、フレンチトーストに味噌汁は違うだろうしこれでいこう。」

 

 まずボールに卵、牛乳、砂糖を入れて混ぜ、卵液をつくる。

 

 どうせ食べる時にメープルシロップをかけるから砂糖は少なめに入れてと。

 

 ちょっと味見、よし。

 

 フランスパンを切り、パットで卵液に浸しておく。

 

 ほんとはパットで卵液を作った方が効率良いんだけど、うちのパットそこが浅いからこぼれるんだよな。

 

 もう使わないからボールは洗って片して、次はソーセージどベーコンを炒めるんだけど・・・

 

 「天音~?ウインナーは切った方がい~い?それともそのまま炒める~?」

 

 「できればタコだと嬉しいんだが~」

 

 「りょーかーい。布団片したらシャワー浴びてきー」

 

 「ちょうど終わったから浴びてくるわー。そういうユキはー?」

 

 「食べてから浴びるー。」

 

 「えー!一緒に浴びようぜー!」

 

 「バカ言ってないで早く浴びてきなさい。今日手があまりかからないから、すぐできるよ!」

 

 寝室の天音に伺いをたてると、なぜかシャワー混浴に誘われた。一応未婚の男女なんだからやめなさい。

 

 「つまんねーの」と風呂場に向かう天音を横目に見つつ、タコさんウインナーの作業にかかる。

 

 とりあえずウインナー6本の12匹でいいか。ベーコンもあるし。

 

 半分に切って足状にするため、縦に十字に二回切れ込みを入れる。

 

 言葉にするとこれだけだが、主に二回目の十字切り込みが難しい。

 

 二匹ほど失敗しかけたがなんとか全て作り終え、ベーコンは三等分にする。

 

 油を薄く引いたフライパンとヤカンを火にかけ、ウインナーとベーコンを一緒に炒めていく。

 

 しばらくすると、パチパチという音ともになんともジャンキーで食欲をそそる匂いがたちのぼり、タコの足が開き、ベーコンにも少しの焦げ目がついたところで火から下ろし、皿に盛り付けよし一品完成!

 

 お湯が沸くまでテーブルのセッティングをし、それが終わればフレンチトーストを焼いていく。

 

 「ユキ、上がったぞー」

 

 残り4枚のところでどうやら天音がシャワーから上がったらしい。

 

 「もうすぐこっちも終わるから、テレビでも見て待っててー。」

 

 「ほいよー」

 

 【--では、次のニュースです。昨日、北茨木市にて行われた異獣殲滅に関して防衛省は】

 

 その返事とともに、テレビからは朝のニュースが流れ始めた。

 

 ん、表面はもうそろそろいい感じかな?

 

 【『確かに強力な異獣でしたが、我々の責務を果たしただけのことだす。これからも国民の皆様の期待に沿えるよう、各員一層奮励努力していきます。』今回の異獣殲滅の指揮官だった八泉幸三大佐は記者からの質問に対しこのように答え、この謙虚な姿勢にネット上では大きな反響を呼んでいるようです。】

 

 「おーおー、人気者は辛いねえ。」

 

 最後のフレンチトーストが焼き上がり、テーブルに向かうと天音がニュースに対してぼやいていた。

 

 「天音、出来たよ。」

 

 天音に一言声をかけ、僕は自分の座布団に座りお互いのコップにオレンジジュースを注いでいく。

 

 「お、今日はフレンチトーストかぁ。へへっ」

 

 天音もテレビからテーブルに向き直り、少し顔をニヤけさせながらに座り心地を整えている。

 

 「いつもありがとな。」

 

 「何をやぶからぼうに。」

 

 「いや、なんとなく。」

 

 「そうね。んじゃ食べようか。」

 

 「そやね」

 

 「「いただきます。」」

 

 

 

 「ユキ、今日は何時顔を出しに行くんだっけ?」

 

 ご飯を半分ほど食べた終えた時、天音はそういえばという感じで今日の出頭時間を訪ねてきた。

 

 あれ?そういえば僕も時間を聞いた覚えがない。

 

 「ちょっと待って。今確認してみる。リンドウ?聞いてたでしょ?」

 

『本体に照合。該当事項無し。長官殿のミスかそれとも何時でも良いのか。とりあえず0930に出頭面会のスケジュールをぶちこもうと考えるが、ご両人はそれで宜しいか?』

 

「僕は大丈夫。」

 

「俺も別に。」

 

 答えてくれたのは情報統合管理システム『竜胆』、その音声端末だ。僕たちが住んでいるのは情報庁の所有するセーフハウスの一つなので、盗聴機などの監視機器が至るところにある。

 

 それらの情報は『竜胆』に送られ、基本的に即時削除。最高位オペレーターですらサルベージは難しいらしい。

 

 しかし、それでもプライベートを侵しているのは変わらないと言って技研の人が作ってくれたのがこの音声端末と半式神式会話型UI『リンドウ』で,こうして仕事関係の確認にはよく利用させてもらっている。

 

 ちなみに情報庁系列職員に支給される職務用機器のデータは、全て『竜胆』に繋がっているので長官が予定を何かしらの端末に書き込んでいれば、例え伝え忘れていても僕たちが何時行けば良いのかすぐにわかるのだが・・・

 

 『了解した。では0930に長官室に言ってくだされ。まったく長官殿は・・・。出勤したら文句を言っておくでござる。』

 

 「まぁよくあることだしな。」

 

 「もしかしたら本当に何時でも良かったのかもしれないし、ほどほどにね。」

 

 『だとしても、人の上に立つものとしてもっとキチンとして欲しいでござる。それではまたご用がごさればお呼び下され。それでは。』

 

 「あんがとなー。」

 

 「ありがとね。」

 

 『御免。』

 

 静かになった音声端末をみやり、天音がポツリと呟いた。

 

 「『リンドウ』て『竜胆』の電子精霊のアバターでもあるんだよな。別に良いんだけど何であんな口調に設定したんだろうな。」

 

 「何でも自己成長型だから、誰かが職務用端末に入れた時代劇かなんかに影響されたんじゃないかって新見さんが言ってたよ。」

 

 「そうなんだ。」

 

 「そうなんよ。」

 

 二人して話す内容がなくなったので、残りの朝ごはんを食べるのを再開した。

 

 

 

 「「ごちそうさまでした。」」

 

 朝ごはんを食べ終え、腹ごなしがてらにさっきのことも含めて今日の予定を確認していく。

 

 「とりあえず9時半に長官室だから、8時には出ようか。」

 

 「おk。んじゃ片付けは俺がしとくから、ユキはシャワー浴びてきな。長官のところが終わったら買い物だよな。」

 

 「うん。冷蔵庫ほとんど使いきっちゃったからね。帰りにSコープとドン・プライスに寄ろう。他に寄りたいところとかある?」

 

 「んじゃ駅前の本屋に寄ってもいいか?確か読んでるやつの新刊が昨日発売だったはずだからな。昨日はアレで行けなかったし。」

 

 「わかった。帰りで大丈夫だよね?」

 

 「もちのろんだ。」

 

 「お昼ごはんはどうする?まぁ、お弁当はできないけど。」

 

 「いつものところでよくね?」

 

 「じゃあそうしようか。」

 

 決まり!という感じにパンッと手を叩き、僕は座布団から立ち上がる。勿論、自分の食器を持って。

 

 「じゃあお言葉に甘えてシャワー浴びてくるね。」

 

 「ああ、片付けは俺がやるからさっぱりしてこい。」

 

 「お願いね。」

 

  自分の分の食器を流しに置いて、一旦寝室に。

 

 下着を取ってお風呂場に向かう。

 

 脱衣所にはバスタオルとフェイスタオルが一枚ずつ、カゴに出してあった。

 

 「天音、出しといてくれたんだ。」

 

 別に大した手間ではないとはいえ、こういう気遣いは嬉しい。

 

 しかし、鏡に写った顔が緩んだ自分を見て少し恥ずかしくなってしまった。こんなの天音に見られたら半日ぐらい弄られるな。

 

 寝間着兼エプロンの浴衣を脱ぎ、バケツの中で中性洗剤に漬けてからお風呂場に入る。上がったらバスタオルも加えて1日分の洗濯機を回すのだ。

 

 

 

 お風呂から上がり、使ったバスタオルと浴衣を加えて洗濯乾燥機を回せばもう時計は7時半になろうとしていた。

 

 「お、上がったか。食器は食器乾燥機に入れておいたぜ。」

 

 リビングでは、天音がもう出掛ける準備を整えて録画のドラマを見ていた。

 

 「ありがとう。すぐに準備するから少し待ってて。」

 

 「そんなに急がなくて大丈夫だかんな。俺もこの回の結末まで見てから出たいしな。」

 

 「ごめんね。」

 

 とは言っても、服を着て髪の手入れ&ドライヤー、肌の手入れに髪を結ぶのに結局15分以上かかってしまった。

 

 「お待たせ!」

 

 「こっちももう少しで終わるから待ってくれ。」

 

 「わかった。」

 

 見るとどうやら丁度終盤で、その回の事件の謎解きを主人公の弁護士がやっていた。うん、確かにそこならもう全部見るよね。

 

 ついでにどうせならと僕も座布団に座り、その謎解きを見てみる。こういうドラマって終盤だけ見ればあらすじは分かるから、こういう時でも置いていかれずに楽しめるからいいよね。

 

 ドラマが終わったのはそれから10分後。時間も7時55分でなんだかんだちょうどいい。

 

 「いやー、確かに少し怪しいとは思ったけど、それでも不倫相手の奥さんが真犯人とは。」

 

 「ある意味、最初の痴情のもつれていうのは合ってたね。」

 

 「確かにそーだな。」

 

 お互いにドラマの感想を言いつつ、よっこいしょと立ち上がった。

 

 「リビングの戸締まりは?」

 

 「片付けた後にやったぜ。」

 

 「了解。それじゃあ行こうか。」 

 

  戸締まりを確認し、二人で玄関に向かう。

 

 「そもそも、ここに盗みに入るとか命知らずだろ。」

 

 「そうだけど、コソドロはそんなの分からずに入るし、伝説クラスも腕試しに来るかもしれないからね。」

 

 「腕試しなら戸締まりなんかしたら、余計燃えるんじゃね?」

 

 「まあ、気持ちの問題だよ。」

 

 冗談を言い合いながら靴を履き、外に出る。

 

 オートロックが作動したのを確認し、二人して扉に一言。

 

 「「行ってきます。」」

 

 駅行きのバス停に向かい歩き始めた。

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