再召喚勇者は平穏を望む! ~前回魔王と相討ちになって死んだので、今回は勇者とか絶対にお断りです!~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「え!? パワードコングに襲われた!? だ、大丈夫だったんですかミユキちゃん!?」
「はい。なんとか」
ゴリラが討伐された後、僕は駆け出し三人組と一緒にA級ダンジョンの関所に連行され、まるで取り調べのようにゴリラと遭遇した時の状況を根掘り葉掘り聞かれ、夕方になってからようやく解放されて冒険者ギルドに戻ってきた。
いやー、ゴリラから逃げた時の事を誤魔化すのは大変だったなぁ……。
あのゴリラは特別アホな個体だったみたいで、攻撃を外しまくってくれたから奇跡的に生き残れましたって話はちょっと無理があった気がする。
でも実際、駆け出し三人組から見ればそうとしか言い様のない出来事だった訳で。
あの人達に話を合わせたおかげで、なんとか誤魔化しきれたよ。
それに、逃走劇の詳細なんて気にしてられない程の事態が起きた訳だしね。
関所の人達も、僕達にばかり構ってられない状況だったから助かった。
で、そんな表向きの事情を伝えると受付嬢さんは、
「はー……そんな事があったんですねぇ。とりあえず無事で良かったですが、私は怒ってますよ! 無茶な事しちゃいけません! 冒険者は命あっての物種なんですからね! わかりましたかミユキちゃん!」
「はい。ごめんなさい……」
結構真剣に怒ってくれた。
親身になってくれてるのがわかって嬉しい。
もし僕にお姉さんがいたら、こんな感じだったのかもしれない。
ちゃん付けが完全に定着してる事に関しては物申したいけど……。
この人、絶対僕の事を妹的な何かだと思ってるよ。
「それにしても、初心者ダンジョンにパワードコングですか……。今までになかった変化……。という事は、近日中にスタンピードが起こるかもしれませんね」
「ああ、それ関所の人達も言ってました」
スタンピード。
それは、ダンジョンにおいて魔物が大量発生し、一斉に外へと雪崩出す現象の事だ。
その予兆として、平時とは違った現象がダンジョンで発生する事が多い。
今回のパワードコング出現は、まさにその予兆と言うに相応しい出来事。
つまり、あの初心者ダンジョンにおいて、近い内にスタンピードが発生する可能性が高い……と、普通ならそうなるところなんだけど、どうもこの街周辺のダンジョンに関して言えば、もっと複雑な事情があるらしい。
なんでも、この街周辺にある三つのダンジョンは繋がってるという話だ。
正確には、一番凶悪で長く生き続けてるA級ダンジョンから派生した、言わば子供のような存在が他の二つのダンジョンなんだとか。
こういうダンジョンの増え方は稀にあるって聞いた事がある。
そして、この手のダンジョンは共鳴するというか、親が子に影響を与える事があるとかで。
つまりスタンピードの予兆を発してたのは、初心者ダンジョンではなく、その親に当たるA級ダンジョンである可能性があるって事だ。
しかも、今回出てきた魔物は危険度Bのパワードコング。
ランクとしてはE級でしかない初心者ダンジョンでは生み出せる筈のない強力な魔物。
それが出てきたという事は、A級ダンジョンが影響を与えてたって可能性が俄然高くなる。
だからこそ、関所の人達は僕達の逃走劇の詳細なんかに構ってられないくらいの大騒ぎになった訳だ。
A級ダンジョンのスタンピードというのは、それだけの大事なのだから。
元の世界で例えるなら、大型台風や巨大地震、大津波なんかに近い。
人類を滅ぼしかねない魔王に比べればマシだろうけど、それでも確実に多くの死人が出るレベルの大災害。
まあ、今回は僕がいるから誰も死なせるつもりはないけど。
さすがに、実力を出し渋って人死にを見過ごす訳にはいかないからね。
正体は全力で隠すけど、本気は出すつもりだ。
できれば目立たない程度の支援だけで全員生存してくれれば最高なんだけど、果たしてどうなる事か。
「怖いですねぇ……。まあ、先の不安より今は目の前の問題から片付けましょう。ミユキちゃん、この街での宿泊先は決まってますか?」
「え? いえ、まだですけど」
急に話が飛んだな。
宿泊先なんて、普通にそこら辺の宿屋に泊まるつもりだったんだけど。
冒険者の多い街なら、宿屋なんてそこら中にあるだろうし。
「なら、ちょうど良かった! 実は私の実家が宿屋を経営してましてですね。ミユキちゃん、そこに泊まりませんか? 料金は少し高めの宿ですけど、その分安全対策はキッチリしてますし、今なら私の紹介という事でお安くしときますよ」
「えぇ……それ贔屓ですよね? いいんですか?」
ギルド職員として、やっちゃいけない事な気がする。
「これはギルド職員としてではなく、私の個人的な支援だからいいんですぅ。何より、ミユキちゃんみたいな可愛い子を、駆け出し冒険者がよく利用するようなセキュリティガバガバの宿になんか泊まらせられませんよ!」
鼻息荒く力説する受付嬢さん。
完全に妹を心配する姉の思考である。
むしろ、年頃の娘を心配する母親のレベルかもしれない。
いったいどうして、この人はここまで僕を心配してくれるんだろう?
あれかな。
初対面で泣かせた負い目かな。
心配しなくても、後輩くんに抜かれるまで、僕は人類最強だと思うんだけど。
でも、ここまで心配してくれてるんだから、その好意を無下にするのも憚られるし……
「…………ありがたく、泊まらせて頂きます」
「よろしい! じゃあ、ささっと紹介の手紙書いちゃうので、ちょっと待っててくださいね」
そうして受付嬢さんは宣言通りささっと手紙を書き終え、ついでにお喋りのせいで後回しになってた今日の魔物討伐の実績を冒険者カードに記録し、手紙と一緒に報酬を渡してきた。
……思ったよりも報酬の額がかなり多い。
どういう事かと尋ねれば、一応冒険者カードにパワードコングの討伐記録が残ってたので、その討伐補助の分の報酬が加算されてるらしい。
更に、近日中に初心者ダンジョンとA級ダンジョンの関所に確認を取って、僕の今回の活躍をギルドにも報告するつもりらしく、上手くすればこれでD級に上がれるかもれないと言ってた。
この人、できる女だ……。
D級に上がるんだったら、今日の戦いでレベルが上がった事にして、鑑定妨害リングの情報を更新しておこうかな。
あと、この臨時収入で、明日もう少し良い剣を買いに行こう。
そんな事を思いながら冒険者ギルドを後にし、受付嬢さんの教えてくれた宿屋への道を歩いた。