再召喚勇者は平穏を望む! ~前回魔王と相討ちになって死んだので、今回は勇者とか絶対にお断りです!~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「……どういう事ですか?」
ルドルフさんの言葉に質問を返す。
今回のスタンピードはA級ダンジョン氾濫の可能性が極めて高い危険なものだ。
厳しい戦いなんて最初から想定されてた。
でも、ルドルフさんの今の言い方だと、元々の想定ですら甘い程の激戦が起きると言ってるように聞こえる。
そして多分、それは僕の思い違いじゃないんだろう。
「聖女の持つ特別な力の事は知っていますか?」
急に話が飛んだ、って訳じゃないんだろうな。
という事は、ルドルフさんの発言には聖女の力とやらが関係してるって事か。
「確か、神の声を聞き、勇者の旅路に導を示すと聞いた事がありますが……」
とりあえず、聞いた事のある聖女の力についての知識を話してみた。
とはいえ、僕の時代の聖女は僕の召喚前に戦死してたから会った事がないし、当代の聖女さんとも一方的な顔見知りとしての関係しかないから、聖女の力についての詳細なんて一切知らない。
僕のこの知識は、昔大変お世話になった占い師さんからの受け売りだ。
その占い師さんは、自称聖女の超超超劣化版の力を持つというおばあさんで、ほんの僅かに神の声を聞けると言ってた。
胡散臭い事この上なかったけど、当時伝説の武器の在り処に見当もつかず途方に暮れていた僕は、藁にもすがる思いで「伝説の武器は、深く険しい迷宮の奥底に眠っているであろう」という占い師さんの言葉を信じ、超高難度ダンジョンに潜り続けた。
そうしたら、本当にあったんだから驚いたよ。
それ以来、あの人は本物だったんだと信じるようになった。
まあ、その占い師さんは僕を占ってくれた数日後に寿命がきたとかでポックリ逝っちゃったから、会ったのは一回だけなんだけどね。
でも、あの人がいなければ伝説の武器も手に入らず、魔王も倒せなかった訳だから、地味に影の英雄だと思うんだ。
「ほう。一般人の間ではあまり有名な話ではないのによく知っていますね。ですが、少しでも知っているのであれば話が早い。その聖女の力ですが、我らエルフや各国の王族に伝えられている内容は少し違います。聖女は、正確には『神』ではなく『世界』の声を聞き、勇者が魔王を倒して世界を救う為に必要な情報を神託として授けられると言われているんです」
「んん?」
ちょっとよくわからない。
神じゃなくて世界?
どっちもピンと来ないから、何がどう違うのか全くわからないんですけど。
「まあ、簡単に言うと、聖女に神託を授けている世界とは、神というイメージに反して、意思など持たない存在という話ですよ。ただ機械的に情報を聖女に渡し、魔王という世界を滅ぼし得る存在を排除しようとするだけ。意思がないから質問も受け付けず、その神託はいつでも一方通行。当然、人間側の都合など一切考慮されず、神託は突然に降りて来ます。しかし、神託を授けているのが世界その物である以上、その情報が間違っているという事だけはあり得ない」
えーと……つまり、ここで言う世界っていうのは、魔王という世界にとってのウイルスを駆除する為のウイルスバスターみたいなものって事かな?
この
それを受信できるのが聖女で、アプリを起動する代わりに、戦力を動かしてウイルスを駆除しないといけない。
ただ、そのウイルスバスターは信頼度が凄いので、通知内容が間違ってるような事だけはないと。
こういう認識で合ってるかな?
正直、自信ないけど……。
「まあ、無理に理解する必要はありません。要するに、聖女に授けられる神託は決して間違う事がない。これだけわかっていれば問題ないので。……問題は、その神託がつい先日授けられたという事です。内容は、近日中に魔王軍幹部『十二天魔』の一角がこの街周辺に現れるというものでした」
「え!?」
魔王軍幹部!?
魔王軍との戦場からかなり離れたこの街に、なんでそんなのが!?
いや、でも、魔物の思考回路って意味不明だからなぁ。
幹部ともなれば知性を持ってるんだろうけど、人間とは考え方が違うから、戦場を放り出して気分とかで襲撃先を選んでも不思議じゃない。
傍迷惑極まりないけど、それが魔物というものだ。
「十二天魔は魔王軍の最精鋭であり、当代魔王が現れてから今まで一体として討伐できなかった脅威。それがよりにもよって、このタイミングで襲来してくるというのです。今日呼び出された案件は、十二天魔討伐に私達『天勇の使徒』の力を貸してほしいというものでした。この依頼は断れません。スタンピードにしろ十二天魔にしろ、どちらも放っておけば街を滅ぼしてしまいますからね」
まあ、そりゃそうだろうね。
「つまり最悪、十二天魔の襲来とスタンピードの発生が同時に起こり、私達は十二天魔の対処にかかりきりになって、スタンピードの制圧に参加できなくなるかもしれません。想定より遥かに厳しい戦いになるというのはそういう事です。……本当に、神託というものは融通が効かない。もう少し早く伝えてくれていれば色々と手の打ちようがあっというのに」
「……なるほど」
本当に大変な事態だ……。
最悪に近いじゃないか。
ルドルフさんが愚痴ってしまう気持ちもわかる。
僕だって愚痴りたい。
勇者としての使命から逃げたくてこの街に来たのに、まさかこんな事になるなんて。
前々から思ってたけど、僕の運勢ってマイナス方向にカンストしてるんじゃないかな。
「この話を聞き、ハナくんは少しでも強くなる為にダンジョンに潜りに行きました。ボヴァンくんが付き添ってくれてるのでA級ダンジョンに突撃する事はないでしょうが。ミーナくんはいつも通り寝てます」
「ああ、それで今日は三人ともいなかったんですね」
謎は解けた。
「さて、この話を聞いて、君はどうしますか?」
「別にどうもしませんよ。自分にできる事をやるだけです」
とりあえず、こっそりA級ダンジョンに入ってダンジョンコアを壊して来ようかな?
もう正体バレとか言ってる場合じゃなさそうだし。
ああ、でも、そうしてダンジョンに潜ってる間に十二天魔が来ちゃったらアウトか。
なら、今やってる準備をより入念にする事くらいしかできる事がないな。
「逃げるとは言わないんですね。言っておきますが、勇者様がいるから絶対大丈夫なんて事はありませんよ?」
「わかってますよ」
後輩くんはレイさんに幻滅されるくらい頼りないみたいだしね。
多分、ゲーム感覚が抜けてないんだろうなぁ。
この世界、レベルとかステータスとかあって妙にゲームっぽい上に、魔物は光の粒子になって消えるから血生臭さとかもあんまり感じなくて、最初の頃はゲームやってるような気持ちになっちゃうんだよね。
僕は召喚初日にスライムのタックルであばら折られた時に、あまりの激痛でゲーム感覚なんて一瞬で吹き飛んだけど。
後輩くんは順風満帆すぎて、まだそういうの経験してないんだと思うんだ。
まあ、後輩くんの話はともかく。
「性分なんですよ。目の前で悲劇が起きそうになってると、逃げるに逃げられず、見て見ぬふりもできずに首を突っ込んじゃう。自分でも損な性格だと思ってるんですけどね」
今の僕には力があるから少しは気楽に言えるけど、たとえ力がなかった頃でも僕の選択は変わらなかったと思う。
というか、前にもこういう事は多々あったし。
子犬だの子猫だの助けた時とか、勇者時代の初期に魔王軍幹部に支配されてる村を見ちゃった時とか。
あの時も考える前に体が動いて、無謀な行動に出てしまった。
今考えると、こんな向こう見ずな行動ばっかで、よく魔王まで辿り着けたもんだと思うよ。
「……そうですか。本当に君はそっくりなんですね」
ルドルフさんは小声でそんな事を呟いた後、真剣だった顔を崩して笑顔を浮かべ、
「やはり、君こそがレイくんの運命の相手だと思うんですけどねぇ。どうです? 戦いに参加するのなら君もレイくんも死ぬかもしれませんし、その前に今生の思い出作りだと思って一発ヤッておいては。あの子はもちろん生娘ですし、私の勘が正しければ君も童て……」
「余計なお世話ですッ!」
いきなり、なんて事を言い出すんだこの人は!?
場を和ませようとしたのかもしれないけど、あまりにも下世話すぎる!
さっきまでのシリアスを返せ!
「もういいです! 僕は出掛けてきます!」
「ふふ、どうぞごゆっくり」
ちょうど外に行く用事が出来たので席を立つ。
そんな僕を、ルドルフさんはずっとニコニコしながら見送っていた。
なんか腹立つ。