再召喚勇者は平穏を望む! ~前回魔王と相討ちになって死んだので、今回は勇者とか絶対にお断りです!~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「レイさん!」
「……少年か」
宿屋を飛び出した僕は、その足でレイさんを追いかけた。
ルドルフさんと話してる間に落ち着く時間はあっただろうし、落ち着いたのなら、今度は愚痴を吐ける相手がいると思ったんだ。
まあ、それは僕じゃなくてもいいんだろうけど……今日のところは僕が真っ先に駆けつけちゃったみたいだし、僕で我慢してもらおう。
そして、レイさんは街の外れの広場で木剣を振り回していた。
ストレス発散に体を動かしてたらしい。
「よくこの場所がわかったな。フラフラとさ迷って偶然見つけただけの場所なのに」
「へ!? それは、あの、あれですよ……勘です!」
「勘か」
「はい!」
自分で言うのもなんだけど、苦しい言い訳だなぁ……。
実際は感知のスキルでレイさんの気配を追ってきた。
スキルレベルがカンストした『感知:Lv10』を持つ僕なら、ダンジョンの壁で遮断でもされない限り、見知った人の気配は街のどこにいても感じ取れる。
プライバシーの侵害だから、普段はそんな事しないけど。
それに、受付嬢さんがホストクラブに入るところとかうっかり感知しちゃったら、翌日以降どんな顔して会えって話だし。
でも、果たしてこんな苦しい言い訳でレイさんを誤魔化せるのだろか……。
「まあ、いいか。せっかく来たんだ。ちょっと付き合ってくれ」
誤魔化せたー!
内心ホッとした気持ちでいっぱいの僕に、レイさんは腰のポーチから取り出したもう一本の木剣を投げて寄越した。
明らかに物理法則を無視したサイズの物が出てきたって事は、あのポーチ、アイテムボックスの効果がある魔道具か。
「では、行くぞ!」
そう宣言して、レイさんはかなり加減した力で地面を蹴り、僕に向かってきた。
全力には程遠いけど、普通の駆け出し冒険者じゃ対処が難しいくらいの速度で、レイさんは木剣を振り下ろす。
それを正面から受け止め、レイさんのストレス発散に付き合う。
「リーダーからどこまで聞いたんだ?」
剣撃を繰り返しながら、レイさんが口を開く。
「今日呼び出された理由や、十二天魔の事に関しては聞きました」
「……私の事については聞かなかったのか? リーダーの事だから話そうとするかと思ったんだが」
「ええ、聞いてません。そういうのはレイさん本人から聞くべきだと思ったので」
レイさんの突きを、木剣を斜めに構えながら前に踏み込む事でいなす。
手首を返し、がら空きになった頭へと、駆け出しを卒業したばかりのD級冒険者に相応しい剣速でカウンター。
当然、そんなものがレイさんに通じる筈もなく、即座にいなされた剣を引き戻してガードした。
「そうか……。なら聞くか? 私の過去バナを」
「レイさんが聞かせてくれるのなら」
レイさんが互いに打ち合わせた剣を大きく振るい、僕はその力に抗わずに後ろに飛んで距離を取る。
そこでレイさんは構えを解き、会話の態勢に入った。
それを見て、僕も構えを解く。
「私はな、元々親のいない孤児だったんだ。物心ついた時から家もなく、食べる物もなく、ゴミを漁る生活をしていた」
……そうだったのか。
今のレイさんからは想像できない。
今の彼女は、孤児というイメージからは最も遠い、強く気高く美しくを体現するような女性だ。
性癖以外は。
「辛い、とても辛い生活だった。誰か助けてくれと思わない日はなかったよ。そんな日常を送っていたある日、ふと街中で演奏していた吟遊詩人の歌が聞こえてきてね」
吟遊詩人。
元の世界で言うところの、ストリートミュージシャンだ。
ただし、この世界の人達の唄う歌は、音楽というより物語に近い。
例えるなら、小型のミュージカルといったところかな。
「その歌は、囚われのお姫様を救い出す勇者様の物語だった。今思えばありふれた題材だが、子供心には酷く響いてね。魔王に囚われ、辛い思いをしてきたお姫様に自分を重ね、いつかこのお姫様のように、私もこの辛い生活から勇者様に救い出される事を夢見るようになった。これが私の憧れと理想の始まりという訳だ」
魔王に囚われたお姫様を救い出す勇者の話……身に覚えが全く……いや言うまい。
きっと、僕より前の勇者さんの話なんだよ。
そう思っておこう。
「結局、私を救ってくれる勇者様は現れず、私は最低限仕事ができるくらいにまで成長すると、食い扶持を求めて冒険者になった。その頃には幼き日の憧憬なんて胸の底に沈んでいたんだが……E級に昇格して少しした頃、その想いを強制的に思い出させてくるような人に出会ってな。その人は私を『天勇の使徒』に勧誘した前のパーティーリーダーで、先代勇者様と直接会って話した事があるというエルフの人だった」
「ぶっ!?」
ま、まさかの知り合い!?
確かに、僕は伝説の武器を求めて世界中と言える程の広範囲を旅したから、その途中でエルフの人と会った事も当然ある。
というか、エルフの総本山みたいな国である『エルドランド精霊国』には、近くにあったSS級ダンジョン攻略の為と、後の旅をかなり楽にしてくれた空間魔法を教わる為に結構長く滞在したし、仲良くなった人も多い。
その中の一人がレイさんの知り合いだったのか。
エルフの寿命は数百年っていうし、あの世紀末時代から現代まで生きてる人もいるんだね。
不思議な縁だ。
「何故そこで吹き出すんだ?」
「……いえ、気にしないでください。こっちの事です」
「そうか。とにかく、その人は先代勇者様の熱狂的なファンみたいな人でね。数々の逸話や、自らの目で直接見た先代勇者様の姿を熱心に私に語って聞かせてくれた」
レイさんは大事な思い出を語るように、どこか遠くを見ながら語り出した。
気のせいかもしれないけど、若干頬が赤くなって、目もトロンとしてる気がするんですけど。
あ、なんか嫌な予感が。
「歴代最悪の時代と言われた地獄を駆け抜け、見事に救ってみせたその勇姿。救世の勇者として相応しい圧倒的な力と、そんな奇跡の力を振るうに足る気高い精神。ふとした瞬間に見せた、等身大の人間としての弱音や本音。そのどれもが私の胸を打ち、いつしか幼い頃の憧憬に出てきた勇者様の姿は、先代勇者様の姿に上書きされていた。この国の首都にある先代勇者様の像を見て、何度妄想に耽った事か……あ、いや! なんでもない!」
レイさんは最後に自爆して赤面したけど、赤くなりたいのはこっちの方だ。
何その美化されまくった僕の姿!?
気高い精神って何!?
割としょっちゅうビクビクしてましたけど!
戦い続けた理由だって、命の恩を踏み倒せなかったせいだし、あとは「助けてくれて、ありがとう」って感謝してもらえるのが嬉しくて頑張ってただけだ。
元の世界では、頑張っても褒めてくれる人がいなかったから舞い上がっちゃって……。
僕はそこまで立派な人間じゃない。
今だって身勝手な理由で正体隠してる奴だ。
なのに、こんな美化して語られたら、褒め殺しもいいところだよ!
あの銅像といい、今回といい!
やめて!
羞恥責めやめて!
「つ、つまり、それが私の初恋という訳だ。そして、叶う筈のない想いを拗らせて、理想ばかりが高くなり、仲間達に婚期の心配をされるようになってしまった。挙げ句、当代勇者に勝手に期待して勝手に失望し、別に悪い事をした訳でもないのに口汚く罵る始末。……ダメだな、私は」
「あー……まあ、そうですねぇ」
「あれ!? 慰めてくれないのか!? この流れで!?」
「ええ、まあ」
いや、だって事実だし。
そんな事ないですよって言ってあげたいけど、まごうことなき事実だし。
「でも、大丈夫ですよ。そのくらいの欠点じゃ霞まないくらい、レイさんはいい人ですから」
「……ほーう。この短い付き合いで私の何を知ったというんだ?」
「まあ、確かにそうですね。僕が知ってるレイさんの姿はそんなに多くない」
だけど。
「パワードコングの時、真っ先に助けに来てくれました。カッコよかったです。ボヴァンさんが酔って絡んでた時も、実は全力疾走で駆けつけてくれた事知ってます。ルドルフさんに心から気にかけられて、ハナさんに凄い尊敬されて。ボヴァンさんは首トンされても怒ってなかったし、ミーナさんは気軽にからかってくるし、それだけ仲間に信頼されてて仲がいい。うん。やっぱりいい人だ」
「! そ、そうか……」
「はい!」
それに笑顔も可愛いし、と心の中で付け加える。
今の若干照れてる姿も、もちろん可愛い。
恋愛対象外とはいえ、好みの顔に褒められるのはやっぱり少し恥ずかしいのかもしれない。
さっきの羞恥責めの仕返しがちょっとできたみたいで、なんか謎の快感が湧き上がってくる。
「少年」
「はい……!?」
呼ばれたと思ったら、レイさんはいきなり、さっきとは比べ物にならない速度で木剣を僕に向けて振るってきた。
どんな照れ隠し!?
驚きながらもしっかりとガードする。
すると、今の僕達の力に耐えきれなかったのか、お互いの木剣が衝突部分から砕け散り、へし折れた。
あ……。
「……やっぱり、君は強いな」
レイさんはなんだか嬉しそうな顔で微笑んだ後、クルリと後ろを向いて、
「今度の戦い、背中は君に任せる。期待してるぞ」
そんな事を言い出した。
なら、僕の答えは決まっている。
「はい!」
「ふふ、よろしい。では、帰るとしよう」
僕の返事に満足したみたいで、レイさんは宿屋に向けて歩き始めた。
その様子に食堂で叫んだ時の不機嫌さはなく、むしろ、鼻唄でも歌い出しそうなくらい機嫌が良さそうに見える。
まあ、何はともあれ、レイさんの鬱憤が晴れたのならよかった。
ついでに、そのご機嫌な顔を見られて役得だ。
そんなやり取りがあった数日後。
十二天魔対策で地上待機となった『天勇の使徒』に代わってダンジョンの偵察を行っていたパーティーが、地上に向けて猛ダッシュしてくる魔物の軍勢を発見し、遂にスタンピードが始まった。