再召喚勇者は平穏を望む! ~前回魔王と相討ちになって死んだので、今回は勇者とか絶対にお断りです!~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「ふぁぁ……」
戦いの後。
報酬は後日、活躍に応じた分を用意されるという事になり、その仕事に駆り出される受付嬢さん(無事でよかったぁ! って泣いてた)に挨拶してからギルドを去って、家で寝る事数時間。
外はすっかり夜になっており、月明かりと星明かりだけが夜空を照らしている。
そんな時間に僕は目覚めた。
……いくら身代わりゴーレムとかのやり慣れてない事したからって、あの程度の戦いで疲れてこんなに寝ちゃうなんて。
いや、体力的には余裕なんだけど、精神的に疲れたというか。
遠距離からの感知、ゴーレムの遠隔操作、空間魔法の連続発動、それをしながらの戦闘。
並列処理でこれだけ同時にやれば疲れもするか。
でも、これからもやる機会があるかもしれないし、慣れる為に練習とかしとこうかな。
そんな事を思ってた時、コンコンと扉がノックされた。
部屋の外には知ってる気配。
「はーい」
不審者じゃないので、僕は返事をしながらベッドから降りて扉を開けた。
「やあ。こんばんは、少年」
「こんばんは、レイさん」
そこにいたのは、パジャマみたいな服を着たレイさんだった。
シンプルだけど装飾がある女の子っぽいパジャマで可愛い。
だが、ちょっと待ってほしい。
パジャマ姿で男の部屋を訪れる事もそうなんだけど、パジャマが、その、思ったより布地が薄いというか……お胸が……。
「よっと」
煩悩に耐える僕の事なんかお構い無しに、レイさんはさっきまで僕が寝てたベッドに座った。
やめてください。
誘ってるんじゃないかと勘違いしそうになる行動はやめてください。
童貞には効果抜群です!
「少年、君もこっちに座ってくれ。早く」
そう言いながら、自分の隣をポンポンと叩くレイさん。
だからやめて!
童貞には効果抜群だから!
「い、いやー、さすがに恋人でもない男女が同じベッドの上に並んで座るというのは……」
「私の誘いが受けられないと?」
「とんでもないです!」
なんかやけにドスの利いた声がレイさんから出てきた!
その迫力に屈してレイさんの隣に座る。
と同時に、レイさんから僅かに漂ってくるアルコールの匂い。
この人、ちょっと酔ってる!
「そ、それで、どうしたんですか? こんな夜中に?」
「ちょっとな。それと、ミーナとハナに部屋を追い出された」
「え!?」
ミーナさんはともかく、レイさんを慕ってるハナさんにまで追い出されたの!?
異常事態だよ!
「……何やったんですか?」
「それがさっぱりわからないんだ。ただ戦いが終わってからずっと、ファントムブレイブ様の事を語り続けていただけなんだが」
「あー……」
レイさん、なんかキラキラした目であの中二の塊の事見てたからね。
様とか付けちゃってるし。
しかも戦いが終わってからずっとって事は、帰り道でも帰ってからもずっとって事でしょ?
何時間話してたんですか……。
しかも、最終的には酔いながら。
そりゃ追い出されるよ。
好きなキャラを語り出したら止まらないオタクか!
とか思ってたら、突如レイさんの目の焦点がブレて、どこか遠くを見始めた。
僕は思った。
ああ、スイッチ入っちゃったか。
「あの人はまさに私の理想だ! 私達をあっさりを蹂躙した、それこそ千人規模の軍隊でもなければ対抗できないような化け物を一撃で倒してみせた圧倒的な強さ! 尊大に振る舞ってはいたが、所々で滲み出る優しさ! 聞けば今回の戦いは戦死者が0だったそうじゃないか! きっとファントムブレイブ様が陰ながら助けてくれたからに違いない! 最高だ!」
「ソ、ソウデスネー」
「あのファッションも凄くカッコよかった! 謎に包まれた最強の戦士……いい! きっと、あの仮面の下は何らかの手段で生きていた先代勇者様ご本人じゃないかと思うんだ! そうでもなければ、あの強さは説明できない! それを隠し、見返りなどいらないとばかりに無償で私達を助けてくれた! まるでそれが当然の事であるかのように! ああ、本当に素晴らしいお方だ! 君もそう思わないか!?」
「デスネー」
「それから、それから……」
その後、レイさんは何度か会話がループしながら、実に一時間に渡って語り続けた。
ただ相槌を打つだけじゃ足りず、たまに「聞いてるのか!?」と言ってくるのが実に鬱陶し可愛い。
これを何時間も聞かされ続ければ、そりゃ部屋から追い出したくもなるだろう。
この人、もしかしなくても話し足りなかったんだろうなぁ。
それで聞いてくれる相手を求めて僕の部屋まで来るとか相当だよ。
これは、更にレイさんの性癖を拗らせてしまった気がしてならない。
下手したら、もう手遅れなんじゃ……。
ごめんなさい、ルドルフさん。
僕があんな黒歴史を晒したばっかりに。
「ふぅ」
僕が内心でルドルフさんに土下座していた時、一通り語って満足したのか、レイさんは一息吐いた。
そして、やっと焦点の合ってきた目で僕の事を見る。
「少年、君はどうだった? 今日の戦い」
「僕ですか? うーん、まあ、必死って感じでしたね。がむしゃらに目の前の敵を倒してたって感じでした」
「ああ、受付嬢さんから聞いたよ。大活躍だったそうじゃないか。戦いが終わった後、疲れ果ててすぐに帰ってしまうくらい頑張ってくれたとか」
「ええ、まあ」
「……そうか。くくっ、やはりそうか」
その瞬間、何故かレイさんは突如獲物を見定めた猛禽類のような鋭い目付きになり、僕の背筋に悪寒が走った。
な、何事!?
「今の言葉で最後の確信を得たよ。……単刀直入に言おう」
そう言ってレイさんはベッドから立ち上がり、未だベッドに腰掛けた僕を見下ろしながら、ビシッと名探偵のように僕を指差して言った。
「ファントムブレイブ様の正体……それは君だ!」
「なっ!?」
な、なんでバレたの!?
しかも、こんな酔っぱらいに!
まさに核心を突いたレイさんの言葉を前に、ただ僕は驚く事しかできなかった。