再召喚勇者は平穏を望む! ~前回魔王と相討ちになって死んだので、今回は勇者とか絶対にお断りです!~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
「皆、今まで世話になった」
レイさんと一線を越えてから一週間後。
僕達は宿屋の前で、旅立つ『天勇の使徒』のメンバーを見送っていた。
あの後、天勇の使徒はスタンピードで多くの魔物を吐き出し、一時的に弱体化したA級ダンジョンを速攻で攻略した。
なお、後輩くん達は新しい神託が下ったとかで、手伝わずにどっか行っちゃった模様。
去り際にちょっとすれ違ったけど、「俺もまだまだだな」とか言って、聖女さんに慰められてた。
自分の弱さを反省してるみたいで何よりなんだけど、まだ必死さが足りないというか、死にかけたという自覚がないように見えたのがちょっと心配。
負けイベントとでも思って、まだゲーム感覚が抜けてない可能性がある。
でもまあ、それはこれからの戦いで自然と払拭されていくだろう。
それはともかく。
A級ダンジョンを攻略した天勇の使徒はこの街に留まる理由がなくなり、本日旅立ちとなった訳だ。
ちなみに、その攻略には僕も参加した。
交流を深める為というか、レイさんを任せるに足る男かどうか確かめられたというか、そんな感じで。
その試験に無事合格判定を出され、ついでにこの功績でC級冒険者になった僕は、レイさんを娶る事を許されて正式に結婚。
レイさんは僕と一緒にこの街に留まり、天勇の使徒を脱退する事となった。
てっきり、僕はレイさんが脱退するんじゃなくて、僕が天勇の使徒に入る事になると思ってたんだけど、それをレイさん本人が断った形だ。
「魔王と相討ちになって一度死んだ君を、またしても戦いの日々に駆り出そうとは思わないよ。君には穏やかに暮らす権利がある」
と、レイさんは言っていた。
「それに、そろそろ私も引退したかったし」とも。
そこまで言われたら、その気遣いを無駄にする訳にはいかない。
幸いと言うべきか、レイさんは常々冒険者からお嫁さんに転職したいと仲間にも漏らしてたらしいので、いい機会だったのだろう。
「レイぜんばいぃ! 寂じぐなるっずぅ!」
「よしよし、落ち着けハナ。別に今生の別れではないぞ」
それでも別れを惜しむ人は当然いて、ハナさんは号泣しながらレイさんにすがり付いてる。
ジュラゾーマ戦やA級ダンジョン攻略でレベルを上げた今、ハナさんは立派なレイさんの後継者だ。
これからも頑張ってほしい。
ミーナさんとボヴァンさんもレイさんの所へ行って、思い思いの別れの言葉をかけていた。
僕はそれを温かい目で眺めてたんだけど、ただ一人、ルドルフさんだけは僕の方にやって来る。
「ミユキくん。何度も言いましたが、最後にもう一度だけ言わせてください。レイくんを頼みましたよ」
「はい。絶対に幸せにしてみせます。命懸けで」
「よろしい。とても頼もしい言葉です」
ルドルフさんはそうして微笑んだ後、何故かちょいちょいと手招きしてきた。
不思議に思いながらも近づくと、ルドルフさんは僕の耳元に口を近づけて、小さな声で内緒話を始める。
「それと、言い忘れていたので、この場でお礼を言っておきます。……その節はどうもありがとうございました、ファントムブレイブさん」
「ぶっ!?」
突然の名推理に思わず吹いてしまった。
でも、これはよく考えれば予想できた事態だ。
「あー……やっぱり、バレてましたか」
「ええ。レイくんがあそこまで露骨にニヤニヤしていればさすがにね」
「ですよねー……」
レイさんはあの中二の塊こと、ファントムブレイブを見てからキラキラした目で仲間達にその素晴らしさを語り続けていたという。
それが次の日の朝には、真っ赤な顔でニマニマしながら、僕と手を繋いで結婚報告だもの。
むしろ、バレない方がおかしい。
「やっぱり、皆さんにバレてますよね、そりゃ……」
「いえ、ミーナくんとボヴァンくんは察してるでしょうが、ハナくんはわかりませんよ。あの子はなんというか、頭の出来が少々アレな子なので」
「あー……」
それは、なんとコメントしていいやら。
「ちなみに、私は君が先代勇者様だとも思っているのですが、当たっていますか?」
ああ、しかもそこまでバレてるのか。
どうしよう?
ここは素直に認めるべきなのかな?
「えっと、その……」
「ああ、答えづらい質問でしょうから、答えなくて結構ですよ。ただ、君が本当に先代勇者様なのであれば、いずれで構いませんので、エルフの総本山『エルドランド精霊国』にお越しください。そこにあなたを待っている人がいます」
「え? それって……」
「リーダー!」
「おっと、時間切れのようですね」
詳しい話を聞く前に、ルドルフさんはレイさんに呼ばれてあっちへ行ってしまった。
これは、元々そんなに詳しく話す気もなかったのかもしれない。
行ってみてからのお楽しみとか、そういう事なのかも。
まあ、それはそれとして。
「ルドルフさん、ちょっと待ってください。これを」
僕はルドルフさんを呼び止め、袖の下を渡す感覚である物を手渡した。
正体がバレたついでみたいなものだ。
「これは?」
「お守りみたいな物です。ダンジョン攻略を続けるのなら、もしかしたら役に立つかもしれません」
「いいんですか?」
「ええ。多分、僕にはもう必要ない物ですから」
「……そうですか。そういう事であれば、ありがたく頂戴しておきます」
そう言って、ルドルフさんは渡したブツをアイテムボックスに仕舞い、改めてレイさんの所へ向かった。
「お待たせしました。なんですか、レイくん」
「その、リーダーには改めてお礼を言っておこうと思ってな。……リーダーと師匠は私を拾ってくれた恩人だ。今まで、本当にありがとうございました!」
レイさんが深々と頭を下げる。
その言葉には、本当に本気の感謝の気持ちが込もっているように感じた。
ルドルフさんはちょっと涙ぐんで少し迷った後、そんなレイさんの頭に手を置いた。
「レイくん……体にだけは気をつけて、どうか幸せになってくださいね」
「はい。……師匠にもよろしく伝えてほしい」
「それは自分で伝えなさい。生活が安定してきて、新婚旅行でもする気になったらでいいので、自分の足で伝えに行きなさい」
「……わかった」
「よろしい。私もたまにテレポートで様子を見に来るので、今度は君の子供の顔でも見せてくださいね」
「ああ! もちろんだ!」
「ふふ、よろしい。では、また」
そうして穏やかに別れを済ませ、ルドルフさん達は旅立った。
それぞれの言葉を残しながら。
「レイ先輩! お達者で!」
「末永く爆発しやがれ、こんちくしょう!」
「ふぁぁ……せいぜい仲良くやんなさい、バカップル」
「ああ! 皆も元気でな!」
「またお会いしましょう!」
彼らの姿が見えなくなるまで、僕達は手を振り続けた。
そして、完全に姿が見えなくなった後、レイさんは少し寂しそうな顔をして……
「さあ、これからは二人での新生活だ! 忙しくなるぞ、ミユキ!」
それを振り切るように、明るい笑顔を浮かべた。
この人は、仲間との冒険より僕を選んでくれたんだ。
その気持ちには必ず応える。
ルドルフさんにも言ったけど、絶対に幸せにしてみせるよ。
「ええ、頑張りましょう、レイさん!」
「ああ!」
こうしてレイさんの冒険は終わり、僕達の新婚生活が始まったのだった。
第一部 完!
ストックも尽きたので、毎日更新もこれにて終わりです。
これからは、息抜きらしく気ままに投稿させて頂きます。
エタったと思って、気長にお待ちください。