再召喚勇者は平穏を望む! ~前回魔王と相討ちになって死んだので、今回は勇者とか絶対にお断りです!~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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9 恋の予兆

「しかし、危険度Bの魔物を相手に、傷の一つも負う事なく、見事にここまで誘導してみせるとはな……」

 

 レイさんがジロジロと僕を観察しながらそう呟く。

 ま、マズイ……さすがに怪しまれたかな?

 僕達があのゴリラを誘導してきた場所は、街の周辺にあると言われたA級ダンジョンだ。

 初心者ダンジョンからA級ダンジョンまでの距離は大して離れてないとはいえ、駆け出しがあのゴリラを誘導しながら辿り着けるかと言われると、難しいを通り越してほぼ不可能だろう。

 しかも、そこにきて、明らかに観察力に優れてそうなレイさんと遭遇してしまった。

 これは誤魔化すのが大変そうだぞー……。

 それでも、あのゴリラの相手をした事に後悔はないけど。

 野放しにしてたら、駆け出し三人組を含めて確実に何人か死んでただろうし。

 疑われるのは覚悟の上だ。

 全力で誤魔化かしてやる!

 

「うん。あとレベルを50も上げれば、私好みの素敵な男性になりそうだ。励めよ少年」

「………………へ?」

 

 しかし、レイさんから飛び出してきた台詞は予想外のものだった。

 え? 疑ってたんじゃないの?

 というか今、凄く嬉しい事言われたような気がする。

 

「あの……僕みたいなのが好みなんですか?」

「ん? ああ、顔は結構好みだな。だが、悪いが私は私より強い男性しか恋愛対象として見られないんだ。恥ずかしい話だが、初恋と理想と憧れを拗らせていてね……。だから、もし私を口説きたくなったら、私より強くなってから口説きに来てくれ」

 

 そう言って、またしてもお茶目にウィンクするレイさん。

 うわ、可愛い。

 どうしよう。

 ここで正体明かしてもいいような気がしてきた。

 伝説の武器もないし、一年も戦いから離れて鈍りきってるとはいえ、それでもまだレイさんよりも強い自信はあるし。

 

 どうしよう。

 下駄箱にラブレターでも置いて、人気のない場所に呼び出して、そこで試合でもして強さを証明しつつ、正体明かしちゃおうかな?

 そして、僕とお付き合いしてくださいと告白を……いやいやいや、待て待て待て、落ち着け!

 僕は今、初めて訪れたチャンスに舞い上がり過ぎて混乱している!

 冷静になるんだ。

 この世界に下駄箱なんてないぞ。

 いや、違う、大事なのはそこじゃない。

 

 まず最初に、僕はレイさんの事が好きなのか?

 少なくとも嫌いではないし、可愛い人だとは思うけど、まだ恋愛感情には至ってない……と思う。

 そりゃそうだ。

 知り合ってまだ数時間だし。

 そんな状態で告白するなんて、チャラ男のようで大変失礼だろう。

 

 それに、正体明かして強さを証明しても、それだけで惚れてくれる訳がない。

 むしろ、利己的な理由で力を隠してるんだから、軽蔑されるのがオチだ。

 レイさんの台詞から考えるに、強くなる事は恋愛対象として見られる為の最低限の条件みたいだし、そこから先は普通に人間的な魅力で頑張らないといけないんだろうから。

 うん。

 考えれば考える程、ここで正体明かして告白は下策だね。

 

 もし僕がレイさんを口説くような事になるとしたら。

 いや、レイさん以外でも、僕がちゃんと女の人を好きになって、告白したいと思う時がきたら。

 その時は、できる限り真摯に誠実に、この秘密すらも打ち明けて当たって砕けよう。

 そう心に決めた。

 

 だって、好きな人に嘘を吐き続けて生きるのは、とっても辛いだろうからね。

 いつか、僕のこの秘密ごと受け入れて愛してくれるような、そういう女性に出会えたらいいなぁ。

 そういう人と人生を一緒にできたら、どれだけ幸せだろうかと、そう思わずにはいられない。

 

 

 

 

 

 この時の僕は知らなかった。

 僕の覚悟が、まさかあんな形で木っ端微塵に砕け散る事になるなんて。

 それが不幸な事だったかと聞かれれば、間違いなく幸せな事だったと断言できるんだけど……。

 なんというか、人生は思いがけない事が起こって予想外の方向に転がるものなんだなぁと、改めて思う事になる事件が、割と近くにまで迫っていた。


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