ゴーティエ家の失われた重騎士   作:22の月

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一章 必然の邂逅

ゴーティエの家を追い出されてから既に三年は経っているだろう。

 

『灰の甲冑騎士』として、そこそこ名を知られている俺は今隠れ家で古びた鉄の槍を砥石で研いでいる。さすがに三年もの間傭兵としてやりくりしていては、度重なる戦闘にも耐えうる鋼鉄製の槍といえど、さすがに持つまい。ショートアクスも同じ憂き目にあってしまって、こちらはさらに酷い。修繕に必要なウーツ鋼は、狼の魔獣を殺さねば手に入らない、中々に希少な鉱石。鉄鋼の取れる鉱山は殆ど稼働していないから、実質的には金より価値がある。

 

「......はぁ......また修繕が滞る」

 

一人愚痴を零す。それ以外は、研磨剤で鉄の刃を研ぐ以外の音は聞こえない。と言うのに、普段は静かな我が隠れ家も今日ばかりは何故か少し騒がしい。なんだなんだと耳を澄ませば、よく響く足音が聞こえてくる。一人二人では無い、一小隊程の中規模の人数が隠れ家に入ってきたのだ。

舌打ちして槍を構える。ここまで大人数では、敵襲と思う他あるまい。幸いというべきか不幸というべきか、盗賊団を他の傭兵達と共に壊滅させた事も幾度があるので、心当たりがない訳では無い。

 

「へっへっへっ......見つけたぞ、橙の重騎士!」

「誰だか知らんが、ここは俺の仮の家だ。出てってもらおうか......さもなきゃあ、ここで死ね」

「すかした顔しやがって!おうおめぇら!やっちまえ!」

 

一、二...........数にして13人程だろう。腕が精々そこらのチンピラ程度だと推定するなら、この程度の数では相手にもならないだろう。所謂余裕の表情を浮かべて槍と盾を構えた。

 

「こいつ......この数で負けねぇとでも思ってんのか!?」

「来い!お前ら如き、俺様の敵じゃねえという事を、身をもって教えてやるよ!」

 

1対13の、傍から見ればおおよそ不利な、しかしマイクランにとっては全く驚異にもならない相手との戦闘が幕を開けた。

先手を取ったのはマイクランだった。槍を敵群の先頭にいた奴の胴に無理やり突き刺す。やがてそれは呻く事無く地面に斃れる。そのまま切り返すように二人目を盾で殴打し、そのまま槍の刃の重さに任せて突き上げ、胴から頭にかけて半分に割った。

盗賊が3人がかりで殴りかかってくる。斧によって多少の傷を受けるが、それだけかとばかりに後ろを囲もうとした一人を力任せに振り払った鉄の槍で吹き飛ばす。その死体に巻き込まれてもう一人が動けなくなる。

 

「てっ......てんめぇ!......ぐはっ!?」

「フンッ!」

 

仲間が飛ばされたのを見て激高し、斬りかかってくる剣士を返す矛でもう一度薙ぎ払う。先程動けなくなった盗賊の近くに行って槍を振り下ろし、刺し殺すと残った7人に向き直り、槍に着いた血を振り払って、もう一度聞いた。

 

「出てってもらおうか。さもなくば死ぬか。選べ」

「......クソッ!覚えていやがれ!」

 

そう言って生き残った運のいい7人は走り去っていった。仮初の平穏を取り戻したマイクランだったが、その表情はとても『よかった』などと言えるものではなく、よく見ると複雑そうな心境を表している。

 

「ここも捨てなきゃな。......ったく、あのストーカー共め」

 

そう。居場所がバレた以上、そこがどれほど暮らしやすい気候の元にあって手放したくなかったとしても、見つかった以上は捨てねばならないのだ。寝込みを襲われて死んでしまったら、たまったものではないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

甲冑を脱いだ姿は、少し屈強なだけの平民にも空目する。ただひとつ、滅多に見かけないような橙色の頭髪ばかりが目立つ。三節ともなれば、その戦ぶりを見た者が異名をつけてしまうことは、ここフォドラではよくある事である。

最初にぽつりと見かけた『橙色の甲冑騎士』が、無名だったマイクランに名付けられた異名である。彼的には名前が売れればどうでもよかったのだが、余裕を持てるようになってから改めて見ると、少しばかり格好がつかないなと感じる。

 

先の戦闘で傷付いた甲冑を治す為に、常に持ち歩いているものがある。種火と金槌である。種火といっても暖炉などで使われるような小さいものでは無い。大きい火、つまり鍛冶屋で良く用いられる強力な種火である。

石で作られた台の上に傷付いた鎧を乗せて金槌で溶けた鉄をあてがい、傷を修復していると、自分が元とはいえ貴族だったことをすっかり忘れそうになる。本来ならマイクランの名を冠した私兵部隊を作り、盗賊団を結成している頃合だろう。だが、それはしない。きっと間違えた道だと思ったからである。

 

「................」

 

言葉もなく、ただただ槌を振るう。傷の付いたプレート部位を修理し終わると、間もなく日が暮れようとしていた。もうこんな時間なのかと驚き、外に出て見れば、太陽は大きく傾き半身を山に隠して、今に暗闇が訪れると知覚させる。

 

「村を探すか」

 

独り言の通りに準備し、隠れ家にしていた小さい洞窟を抜ける。元々は放棄された鉱脈のひとつだったようで、苔むしたレンガの道が所々に散見される。

隠れ家を出れば、そこはもう暗闇の差し迫る空が場を支配していた。暗いのは好きではない。自分が魔獣と化したあの日を思い出すのだ。ブンブンと頭を横に振って、嫌なイメージを払拭する。そのまま暗い道をカンテラの光に沿って歩き始めた。

 

 

 

 

 

しばらく歩けば、辺りはもう暗闇ばかりが広がる空間となっていた。甲冑の背部から伸ばした木の棒の先に、カンテラを括りつけているので両手は空いている。その格好は、傍から見れば武装した行商人にも見えなくはない。いつか腰に括りつけていた麻袋は、今や背に背負わなければ支えきれないほどの大荷物を収納していた。

 

「......風が気持ちいいなぁ」

 

寒冷地で生活していたマイクランにとって、フォドラの中央部(場所で言えばおおよそセイロス聖教会の中央教会がある場所に近いだろう)はファーガスと比べて気候がかなり違う為、冬場に慣れた彼には、雪の殆ど降らないこの区域は、この季節は丁度よく感じるのである。

補導されていない道を歩いていると、ふと暗闇と木々の間から零れる光が見えた。明かりの具合から篝火を灯しているのだとわかった。近付いてみれば、そこには村があった。

 

更に近付けば、馬防柵や石造りの壁で囲まれた頑強な防御陣地としても機能するであろう、とても立派な防壁が見える。入り口は鉄製のフェンスで覆われており、外敵を近付けないというべきか、とても閉鎖的な様子だ。

 

「おーい!そこの人!ここに何しに来たんだー!?」

「俺はマイクラン!新しく住む場所を探している!良ければでいいんだが、少しの間俺を置いてくれないか!?」

 

そう返すと村人は暫く中に入っていってしまう。何かを話しているのだろう。途中、何人かがフェンス越しにマイクランを見る者がいた。更に時間が経って、一番偉そうな......恐らく村長が、マイクランがどんな人物かを見に来た。

 

「お前さんがマイクランだな?」

「そうだ。爺さんは?」

「儂はこのルミール村の村長を務めておるハイマンだ。『灰の甲冑騎士』の名前は我が村でも噂になっておる」

 

そうハイマンが暴露してくれると、村は一気に騒然となった。深夜だというのに、珍しいもの見たさの見物客がかなり多いとみえる。村の中でがやがやと騒ぐ音が、外にいるマイクランにもよく聞こえてくる。

 

「よし、入ってくれ、マイクラン」

「ありがとよ」

 

頑丈な入口を抜けた先は、農耕地や民家の広がる、豊かな村だ。道の近くは等間隔で篝火が灯されていて、燃料にも事欠かないとわかる。しばらく歩くと、質素な民家が目に入る。

 

「儂の家だ。狭い我が家だが、客室は一応備わっておる。良ければ、ここで泊まっていくと良い」

「ありがとうな、ハイマン......いや、ハイマンさんって呼ぶ方がいいか?」

「何とでも呼びなさい」

 

一通りの会話を済ませて、用意されていたベッドに転がる。

 

今日相手した盗賊との戦いを思い出す。襲って来たのは13人、殺したのは6人、生き残ったのは7人だ。そのうち殺した6人は統率が取れていなかった。恐らく、復讐という旗の元に集っただけの寄せ集めだろう。そこまで考えて、思考を止めた。

 

「はあ......くだらねぇ。死んだ奴なんかどうでもいいな」

 

とりあえず夜も遅いので、瞼を閉じる事にした。妙な事に、ここ最近は寝付けない日も多かったはずだが、気付いた時には既に眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルミール村の一員と認められるのは思ったよりも早かった。時折村を襲う山賊を撃退したり、そうでなければ普段は農作業を手伝ったりしていたおかげか、馴染むのも随分と早く感じる。

棒立ちで考え込んでいたマイクランの後ろから声をかける男がいた。その男は剣士の装いを見せているが、その顔は何度も顔を合わせた事のあった。村長宅の隣に住むルッツである。

 

「よっ、マイクランさん!まだ眠たいのかい?」

「......ん、ああ、ルッツさんか。いいや、少し考え事をな」

 

そして始まった他愛もない世間話を終え、隣人のルッツが剣を持って自警団の仕事に向かうのを見て、マイクランも何かやる事を見つけようと村長の家に踵を返した。

 

扉を開けば、卓上で何かの本を読んでいる村長の姿が目に入る。不意に感じた風に、村長が目を玄関の戸に向ければ、そこには先程送り出したマイクランが立っていた。

 

「おや、マイクランか。どうした?」

「ハイマンさん。俺は多分明日か明後日にでもこの村を出ていくと思う。構わないか?」

「掘り下げはせん。訳を聞かせてもらっても構わんか?」

 

ハイマンがマイクランにそう聞く。

マイクランは思っていた事を残らず話した。自分の武芸の腕が腐ってしまうかもしれないという危惧、新たな人生の道を探したいという欲、そして最早、そのふたつをどうにかする為にもここにいる理由は無いという事を。

 

「そうか。まあ、お前さんはまだまだ若い。見たところ27か、8か、その辺りだろう。未来ある若者をこんな辺鄙な村に止めてはおけんよな」

「......感謝する」

「良い、良い。また暇な時にでも訪ねてこいよ。今日は農作業も見回りもいい。明日に備えて休みなさい」

 

その言葉に甘えて、この日は休む事にした。

 

 

 

 

 

眠って二時間ほどが経過したくらいか。窓の外を見れば、夕日が差し迫る頃だった。何やら表が騒がしいので目が覚めてしまったのだが、どうかしたのだろうか。盗賊の襲撃だったとすれば何の用意もなく出るのは危険だと思い、重甲冑と槍を身に纏って家を飛び出す。

 

しかし、そこに見た光景は平和なものだった。来客とは言い難い、物騒なものを持つ者が大半を占めていたが、その中でも騎馬に乗った壮年の男性からは強者特有の威厳というか、余裕のようなものさえ感じ取れる。その隣を歩く深緑色の髪の色をした女性にも似た雰囲気を感じる。

そして、当の村人たちは彼らを歓迎しているようだった。近くによって、彼らが誰か聞かねばなるまい。

 

「なあ、ルッツさん」

「お?おお、マイクランさんじゃねぇか。どうした?」

「あの人たちは一体誰なんだ?」

「ああ、まだ説明してなかったな。あの人らは半年くらい前からルミール村に常駐してくれてた傭兵団なんだ。マイクランさんが来る前に依頼を受けて盗賊団を潰しに行っていたから、知らないのも仕方ない。名前を聞いて驚くなよ?かの()()()()()()()()さ」

 

顎髭を撫でながらルッツがマイクランに名前を教えたが、マイクランは名を聞いたことはあっても実物を見た事はなかったのか、初めて見るフォドラ一の凄腕傭兵団に驚いている様相を見せた。

 

「あれが、あのジェラルト傭兵団なのか?」

「へぇ。あんた程名の知れた傭兵だ、見た事あると思ったんだが、目にする機会は少ないのか?」

「独り立ちする前は他の傭兵団で戦ってたからな。名前はよく聞いていたんだが、移籍どころかついぞ顔を合わせる事もなかったよ」

 

そう言ってマイクランはジェラルト傭兵団に近付いていく。村人達の中で一人だけ重装備を身に付けていた男の格好は、彼らからすればさぞかし違和感を覚えさせるものだったのだろう。マイクランがその奇異の目に晒されていることに気が付くのにそう時間はかからなかった。

 

「おう、坊主。見ねぇ顔だな。名は?」

「マイクランだ。あんたがあの『壊刃』なのか?」

「おう、俺はジェラルトだ。こっちは娘のベレス」

「よろしく、マイクラン」

「どうも......ベレス?......っていうと、あの『灰色の悪魔』か?噂通りなら凄まじい剣の腕らしいっていうが」

 

そう言うとベレスはコクリと頷き、ジェラルトは豪快に笑う。そしてマイクランの肩に手を置いて告げた。

 

「やめとけ。こいつは槍も斧も得意じゃねぇが、剣だけは俺も敵わねぇ腕してやがる。誰に似たんだか......」

「ハハ......怖ぇな」

 

マイクランがちらりとベレスに視線を向けると、当のベレス本人は握りこぶしを作ってガッツポーズをしている。『いつでも申し出を受ける』とでも言っているのだろうか。余裕の表情を見せているのが、ジェラルトが言っていた事を本当の事なのではないかと感じさせた。

 

「しかし......」

 

ジェラルト傭兵団の人員や馬車を見て、ふと思った。

 

「......傭兵団には見えねぇな。どちらかというと、傭兵を雇った行商に見えてくるぞ」

「あぁ、まあ傭兵団の規模が他の奴らよりでかいってのもあるな。一番の理由は本当に行商人を抱えてるからな」

 

なんと、本当に行商人を抱えていたという。なるほど広い範囲で商売人であるという事が、数多の人間に頼りにされ好まれる理由であるということだろう。

 

「んじゃ、俺らは向こうだから、あばよ、マイクランよ」

「またね」

 

ジェラルトとベレスが手を振って村の外壁近くにある厩舎の隣、非常に大きな天幕の中に入っていった。

 

「...........ま、明日までの付き合いか。俺も寝よう」

 

マイクランは呟いて、村長の家に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の早朝は鳥が何やら騒がしかった。それだけではない。よく見えなかったが外が明るい。嫌な予感という物だろうか?とにかく感じの悪い目覚めだった。

起き上がって直ぐに鎧を着る。槍を持って外に出ると、謎の明るさの謎がわかった。燃えているのである。それもただ燃えているのではない。幾つか民家を巻き添えにしているのだ。それに気がついた村人達が家の外に飛び出して消火活動を行っているが、成果は好ましいものではなかった。走ってジェラルト達のいる天幕に向かうが、誰もいない。

その時だった。村の外から鉄と鉄の打ち合うような音が聞こえる。それは幻聴ではなかった。鬨の声も同時に聞こえるのだ。誰かが戦っている!そう思って直ぐに走り出した。

 

 

 

 

 

「はぁあっ!」

「ぐはっ!......ち、ちくしょう......!」

 

暗がりでもはっきりと見える。ジェラルト傭兵団が何者かと戦っていた。相手は剣や斧を持って傭兵団員に襲いかかり、それに傭兵たちが応じて鍔迫り合いや打ち合いに持ち込んでいたりと、この戦場は乱戦の様相を呈していた。

 

「ジェラルトさん!どこだ?!」

「......マイクランか!?ここは危ねぇぞ!」

 

叫んで呼びかけると、近くの森から血濡れの槍を持ったジェラルトが姿を見せた。どうやら既に広い範囲で戦闘が行われている様だった。

 

「俺も戦える!一体何が起こってんだ?!」

「わからねぇ......急にガキ共が村を訪ねてきたんだよ。んで、盗賊に狙われているから力を貸してほしいってな。多分だが、あの制服はガルグ=マクの士官学校のもんだな」

「ベレスは大丈夫そうなのか?」

「あいつの事だ、今頃森にでも隠れて敵を痛い目に合わせてるだろうよ。第一俺の娘だ」

 

壊刃ジェラルトの娘。そう聞けば確かにそこら辺の自称傭兵なんかよりかは余程その腕を推し量れるというものだ。剣の腕も相当なものだというし、彼女は簡単に敗れはしないだろう。

 

「俺も参戦しよう。どこにいる?」

「あの正面の風車が見えるか?あの近くの林で陣取ってた筈だ。村は俺が守る。敵を近付けるなよ!」

 

頷いて、ジェラルトの元を後にする。森の中に入り込んでしまえば、もうそこは燃え盛る炎の明かりが届かない暗闇となる。ここに潜んでいるのかと思うと、傭兵としての腕も確かなものだと実感させられる。

向こうで誰かが盗賊に襲われているのを見て、マイクランは急いで走る。着いた時にはその黄土色のマントが目立つ青年は、盗賊に斬られそうな所だった。

 

 

 

 

 

 

「......へへっ、甘い甘い」

「ちぃっ!ちょこまかと!」

 

何度も攻撃を避ける青年を前に腹を立てた盗賊の剣士は振り払いから突きに攻撃方法を変えた。

 

「いい加減死ね!貴族のボンボンが!」

「うおっ、やばい!」

「...........おらぁっ!」

 

その突きは、青年に届く事はなかった。今まさに襲いかからんとしていた盗賊を、どこからともなく現れた一閃が貫き、倒したからである。

 

「お前、無事か?」

「あ、ああ。......あんたは?」

「んな事今はいい!生き残る事を考えな!」

 

そう言ってその男はその場を後にし、敵のわんさかいる方向へ走っていった。

 

「うおっ。見たところアーマーナイトって所だけど......めちゃくちゃ足速いな。行軍の指輪でも持ってんのかな」

 

足早に去っていく男を見て、同盟領の次代盟主、クロードは目を細めて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エーデルガルトは森を基点に動き回って盗賊に遊撃!ディミトリは森に敵を入れないように抑えて!クロードは......あれ?クロード?」

 

「クロードの奴、どこに行ったんだ......うおっ!」

「おら、死ねや!」

「なっ!?......くっ!」

 

盗賊剣士がディミトリに斬りかかってくる。槍の柄で剣の腹を叩き、剣筋を逸らす。そのまま槍を払うが、森の中にいるせいで上手い事当てられず、避けられてしまう。剣士の連撃がディミトリを襲おうとしたところを、首筋に刺さる一本の鉄の矢が阻止した。

盗賊が苦しんで斃れた。矢の飛んできた方向を見れば、木の影に隠れてクロードが弓を構えていた。

 

「わかってるよ、王子サマの援護、だろ?」

「ならいい。みんな、焦らず行こう!」

 

戦場にて、四人がそれぞれの得物を振るって敵を薙いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらかた敵も倒し終えたかなという所で戦場となっていた平野の奥まで進めば、そこには白髪の少女を庇おうとしているベレスがいた。彼女を守ろうと身を呈して庇うベレスの背に、盗賊の斧が吸い寄せられていった......。

 

 

「そうじゃ、止めた時を巻き戻せば良いのじゃ!」

 

 

 

 

 

 

あらかた敵も倒し終えたかなという所で戦場となっていた平野の奥まで進めば、そこには白髪の少女を助けようとしているベレスがいた。盗賊の斧がベレスの剣を叩き、しかしベレスが剣を回転させる事で斧をその手から奪い取り、盗賊の胴を、鉄の剣の腹で思い切り殴り飛ばした。

それに怯んだ盗賊頭は逃げ出し、自軍の敗走を機に他の盗賊たちもしっぽを巻いて逃げていった。

 

結局、戦闘が終了する頃には夜は明け、太陽が出ていた。戦いが終わってからルミール村に戻ってみれば、先程共に戦っていたであろう三人の青年が、ジェラルトとベレスと会話していた。その中には、傭兵家業中に幾度か見かけた『セイロス聖教会の白銀の騎士』と呼ばれる騎士団員がジェラルトと会話しているのが見えた。近付くと、その中の一人が気が付いたのか、マイクランに話しかけてくる。

よく見ればその青年は、先程マイクランが助けた黄土色のマントを羽織った彼だった。

 

「あれ、あんた、無事だったんだな」

「そっちも無事そうでなによりだ。そっちのふたりは?」

「私は、ディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッドです」

「ディミトリ......まさか、王国の王位継承者か?」

 

そう言うと、ディミトリは少し笑って答えた。

 

「はい。まだ継承権は無いのですが、そうですね」

 

ブレーダッドと言えば、今から四年ほど前の『ダスカーの悲劇』の哀れな犠牲が有名な話だろう。幼少期から紋章が無いことを理由に社交界にも出られなかった俺でも知っている。それに、シルヴァンがよく『殿下』と遊んでいたということも良く耳にしていた記憶がある。

なるほど彼が、と思っていると、白髪の彼女が名乗る。

 

「私はエーデルガルト=フォン=フレスベルグ。アドラステア帝国の第一帝位継承者よ」

 

そう言って長い白髪を手で掻き分けて笑みを浮かべる。あれ、そういえばこのエーデルガルトという女性、どこかで見たことがあるなと思っていたが、漸く思い出せた。新たに生を受ける前のコナン塔で、あの教師......『ベレト』の指揮を受けていた貴族達の一人か。

 

「そうか。俺はマイクランだ。一応、傭兵をやっている」

「あら、そうだったの?腕が立つようなら是非我が帝国で雇いたいものね。そこの傭兵の方と一緒に」

「抜け駆けか、エーデルガルト?それなら我々のファーガス神聖王国の一騎士となって欲しいのだが......」

「おいおい、お前ら二人とも手が早いな。俺はしっぽりと関係を深めていきたいね。改めて、俺はクロード。よろしくな、マイクラン?」

「あー......まあ、よろしく」

 

少々面倒事に巻き込まれたかもしれない。そう思っていると、追いついてきた二人の傭兵......ジェラルトとベレスが、マイクランに話しかける。

 

「マイクラン?戦ってたのね。無事でよかった」

「おう、あんな盗賊ぐらいにはやられねえよ」

「ま、中々やるなって事だ。ガキ共も、お前もな。...........着いてこい、ガキ共。さっきアロイスの奴と話をしてな。俺達はガルグ=マクに行く事になった。マイクラン、お前も来るか?」

 

そうジェラルトが聞くと、その発言を聞きつけたのか、先程ジェラルトと話していた男が走りよってくる。ジェラルトの嫌そうな顔や視線から察するにあの男がアロイスで間違いなさそうだった。

 

「団長!無論、来てくれますな!?......おお?そちらの若い男性は......こちらも団長の子ですか?随分と、ベレス殿とは違うベクトルで似てませんなぁ!はっはっは!」

「バーカ違ぇよ。こいつは俺の子じゃねぇよ」

「初めまして。俺はマイクランだ」

「ありゃ、そうだったか。マイクラン殿だな?私はアロイス!セイロス聖教会で騎士を務めている!」

 

「......とまあ、こいつもうるせぇ奴でなぁ。悪ぃなマイクラン。あ、そうだ。ハイマンの爺さんから聞いたぞ。お前、人生どうすればいいか悩んでるんだってな。若造らしくて実にいいね、お前も道連れだ。セイロス聖教会で騎士になれ」

 

ジェラルトの突拍子の無い発言に少々動揺するが、答えは直ぐに固まったようで、その言葉に頷いてマイクランはアロイスに向き直り、こう続けた。

 

「俺を()()()()()()()()()()として雇ってくれ」

 

その言葉に、アロイスは喜色満面の笑みで頷いた。

 

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