本当は強いミリシアル帝国   作:スカツド

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本当は強いミリシアル帝国

中央暦1641年1月23日

 

 日本を訪れた神聖ミリシアル帝国の使節団は日本の進んだ科学技術に強い感銘を受けた。

 一方で日本も古の魔法帝国に関する脅威を直に伝えられ、魔法研究の重要性を痛感する。

 これを期にミリシアル、ムー、日本の三ヶ国代表は紆余曲折の末にラヴァーナル帝国復活に備えた防共協定を結んだ。

 その結果、魔法と科学の垣根を越えた交流が一気に加速する。これまでの常識では想像すら出来なかったような技術革新が進み、各国の軍事技術は飛躍的な進歩を遂げた。

 

 

 

中央暦1642年4月22日 神聖ミリシアル帝国 港街カルトアルパス

 

 先進十一ヵ国会議が始まって暫くするとエモールの竜人による占いの結果発表が行われる。

 だが、突如としてグラ・バルカスの女外交官シエリアが大笑いして会議が紛糾した。

 

「グラ・バルカス帝国、帝王グラルークス様の御名において宣言する。我らに従い我らと同化せよ。抵抗は無意味だ。従わぬ者には容赦せぬ。沈黙は反抗とみなす!」

「……」

 

 余りにも唐突なシエリアの発言に会議場に集った全員が全員、暫しの間ぽか~んと口を開けて呆ける。

 何だか妙な事になったなあ。とは言え、スルーするわけにもいかないか。議長は心の中で小さくため息をつくとシエリアに向き直った。

 

「いま『従わぬ者には容赦せぬ』と申されましたかな? これは要するに全世界に対する宣戦布告と受け取って宜しいか?」

「如何にも。そう受け取ってもらって結構だ」

 

 何が嬉しいのか知らんがシエリアは上機嫌といった顔で満面の笑みを浮かべている。

 議長は各国代表の顔をゆっくりと見回しながら小首を傾げた。

 

「みなさんの中でグラ・バルカスに従おうという奇特な方はいらっしゃいますか? いません? ですよねぇ~っ!」

 

 各国代表が大爆笑し、禿同といった顔で激しく頷いている。

 議長は再びシエリアに向き直ると愛想笑いを浮かべながら早口で捲し立てた。

 

「分かりました。それではグラ・バルカス帝国の宣戦布告、確かに受け取りました。ご苦労さま。お帰りはあちら」

 

 グラ・バルカス帝国の代表たちは逃げる様に立ち去って行った。

 

 

 

 港町カルトアルパスをグラ・バルカスの戦艦グレードアトラスターが慌ただしく出港する。

 その背後にぴったりと張り付くように追跡しているのは神聖ミリシアル帝国の巡洋艦八隻だ。

 宣戦布告がなされた以上、グラ・バルカス帝国と神聖ミリシアル帝国は既に交戦状態に入っている。いつ戦闘が始まっても不思議では無い。

 ミリシアル巡洋艦はグレードアトラスターにギリギリまで近付くと全ての砲門の狙いを付けていた。

 

 

 

 

 

 同時刻、西の群島で訓練を行っていた神聖ミリシアル帝国の第零式魔導艦隊にもグラ・バルカス帝国との開戦が知らされた。

 この辺りは群島というだけあって無数の小島が散在しているため見通しが効かない。

 艦隊司令は直ちに索敵機を発進させて敵艦隊の発見に全力を注ぐ。

 

 待つこと暫し。それほど広くもない艦橋に魔信員の叫び声が響いた。

 

「利根四号機より入電! 敵艦見ユ!」

「敵艦隊の規模は?」

「大型艦が二、中型艦が五、小型艦が五。合わせて…… 十二隻が接近中です。方位二六五、速度二十七ノット、距離百十海里」

 

 直ちに艦内各所のスピーカーから警報音が鳴り響いた。

 艦隊旗艦を務めるミスリル級戦艦エクスの広くもない艦橋で自席にちょこんと座った艦隊司令アルテマは鷹揚に頷く。

 

「総員戦闘配置。総員戦闘備配置。本艦隊はおよそ二時間で敵艦隊と交戦状態に入る。これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない」

「魔導レーダーに感あり! ベータ4と思しき友軍機隊が敵艦隊に向けて急行中。まもなく接触します。敵航空機の存在は確認されておりません」

「おいおいおい! 俺達の手柄を横取りする気かよ。勘弁して欲しいぞ、まったくもう……」

「流石に爆撃のみで全滅はせんでしょう。適度に戦闘力を奪ってくれるんじゃないですか? それに残り物には福があるとも言いますよ」

 

 艦長のインフィールが気休めの言葉を口にする。アルテマ司令は黙って唇を噛みしめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国の監査軍艦隊に属する十二隻の艦船は世界最強を自称する神聖ミリシアル帝国に力を誇示する目的で東へと向かっていた。

 

 敵艦隊はまだ水平線の遥か向こうだがレーダーは既に敵機の襲来を捉えている。

 艦隊司令アルテミスは戦艦ベテルの艦橋で遠くの水平線をぼぉ~っと眺めていた。

 隣の席にちょこんと座った艦長ビーグルが遠慮がちに話し掛けてくる。

 

「いきなり敵機が出てきましたよ。数は二十五機前後だそうです」

「参ったなあ…… 奇襲攻撃のつもりだったのに先制攻撃を受けなきゃならんのかよ。損害が出たら嫌だなあ。なんでこっちが先に航空機を出しちゃいかんのだ。わけが分からないよ……」

「しょうがないですよ。今回はそういう縛りプレイなんですから。でも、これで勝てたらそんだけ我々は凄いって事でしょう? 違いますか?」

「そうは言うがな、大佐。それは勝てたらの話だろ? もしも負けたら馬鹿みたいじゃんかよ」

「で、ですよねぇ~! とは言え、その場合はこんな馬鹿みたいな作戦を立てた人が悪いんですよ。私達は悪くない。絶対にです!」

 

 禿同といった表情の二人は互いに顔を見合わせて深いため息を付く。

 レーダー監視員が新たな報告の声を発した。

 

「敵機の速度と高度が判明しました。速度約四百ノット、高度約四万フィートです。約十分で艦隊上空に到達します」

「よ、よ、四百ノットだと? そんな馬鹿な事があって堪るか! どう考えてもレーダーの故障だろう?」

「そうかも知れませんね。そうじゃないかも知れませんけど。とは言え、ドップラーレーダーがそう言ってるんだからしょうがないでしょう? 信じようと信じまいと艦長の好きにして下さいな」

 

 取り付く島もないとはこの事か。レーダー監視員をそう言い切ると不機嫌そうに口を噤んでしまう。

 あんな言い方するんじゃなかったなあ。艦長ビーグルはちょっとだけ自責の念に駆られた。

 

 

 

 

 

 最新鋭戦闘機ベータ4を操縦する隊長オメガは眼下の大海原をぼぉ~っと見詰めていた。

 戦闘機という物は敵の戦闘機と戦うために存在するんじゃなかったっけかなあ。そのためだけに厳しい訓練にひたすら耐えて来た様な気がするんだけれど。

 ところが今日の任務と来たら爆弾を積んで超高空から落とすだけなんだとか。こんな馬鹿みたいな任務なら訓練生にだって簡単にこなせるんじゃなかろうか。それどころか輸送機や民間機のパイロットにすら務まりそうだぞ。

 敵の戦闘機が出て来たら良いのになあ。そうしたら思う存分に戦ってやるのに。

 とは言え、快晴の空のどこを見回しても敵機の影すら見えない。オメガは今日、何十回目かの深いため息を付いた。

 

「隊長、隊長! 起きてますか? 隊長ってば」

「な、な、何だ? どうかしたのか?」

「そろそろ爆弾を投下するタイミングですよ。もしかして寝てたんじゃないでしょうね?」

「寝てない寝てない。ちょっと考え事をしてただけだよ。そんじゃあ爆弾を投下すると致しましょうか。ポチっとな!」

 

 二十五機のベータ4は各々が一発ずつの誘導滑空爆弾を投下した。

 この徹甲爆弾は三十八センチ砲弾を改造した代物だ。先端には日本との技術交流で開発した魔導センサーが装備されている。敵艦の煙突から放射される遠赤外線を捉えて尾翼が動き、目標を自動追尾してくれるとっても賢い爆弾なのだ。

 

「そんじゃあとっとと帰るとしますか」

「あれ? 結果は見ていかないんですか?」

「見ていたからって当たるわけでもないだろ。俺たちに出来るのはここまで。後は爆弾任せなんだもん」

「ですよねぇ~!」

 

 二十五機のベータ4はゆっくり旋回すると来た方向へ帰って行った。

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国監査軍

 

 艦隊司令アルテミスは私物のポロプリズム十倍五十ミリ双眼鏡を覗いていた。遥か遠くの空に浮かぶ小さな点の数は二十五。

 

「何か投下したみたいだぞ。だけども空と同じ色に塗られているらしいからさぱ~り見えないな」

「それって本当ですか? レーダーには何も映っていないようですけど」

「いやいや、間違いなく見えたんだよ。信じてくれよん。ほんの一瞬だけど確かにキラッと光ったんだ。もしかして爆弾かも知れんぞ。念のため回避行動を取らせた方が良いじゃないかなあ? もしもってことがあるだろ? な? な? な?」

「しょうがないですねぇ。一つ貸しですよ」

 

 艦長は渋々といった顔で指示を出した。艦隊は一斉に回避行動に入る。だが、誘導爆弾のセンサーは熱源を捉えて離さない。一分後、一隻にほぼ二発ずつの爆弾が命中した。

 立て続けに大音響が轟くと同時に激しい衝撃が船を揺さぶる。少し遅れて警報音が鳴り響き艦橋が俄然と騒がしくなった。

 

「駆逐艦五隻轟沈! 巡洋艦五隻も大破の模様。ただ、本艦と戦艦ギウスの損害は軽微と思われます。ただ……」

「ただ? ただ、何だ? 早く言わんか!」

「本艦とギウスは艦橋付近に直撃弾を受けたと思われます。レーダーや測距儀、方位盤を破壊されました。予備の測距儀や方位盤も使えそうにありません。我々は遠距離砲戦能力を完全に喪失した模様です」

「あ、あのなあ…… それって軽微な損害とちゃうやん。えらいこっちゃど。もう縛りプレイなんかに構っちゃおれんわ。エアカバーを要請しろ。急げ急げ急げ!」

 

 直ちに通信士が機動部隊に救援要請を送る。だが、返って来たのは予想外の…… って言うか、ある意味では予想通りの答えだった。

 

「司令、返信です。『我に余剰戦力なし。現有戦力をもって己の職責を全うせよ。言いたいことがあれば、いずれヴァルハラで聞く』とのことです」

「ヴァルハラ? それって何じゃらほい」

「気になるのはそこですか? まあ、私も気にはなるんですけどね」

 

 艦隊司令アルテミスと艦長は顔を見合わせて小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 同時刻、グラ・バルカス帝国ご自慢の機動部隊は激しい攻撃を受けていた。

 超高空から投下された数十発の爆弾は正確無比に空母の飛行甲板を貫く。あっという間に航空機の運用能力を失った機動部隊はただ浮かんでいるだけの鉄の箱に成り下がってしまった。

 あらかじめ上げておいた少数の直援機は気付く間も無く落とされてしまったので今はもういない。

 

 だが、神聖ミリシアル帝国はそれくらいで許してくれるほど甘い奴らではなかったようだ。

 後から後から雲霞(うんか)の如くミリシアルの航空機が押し寄せて来る。奴らは信じられない様な高高度から次から次へと爆弾を投下した。その尽くが百発百中の命中精度で空母を護衛する戦艦や巡洋艦、駆逐艦の戦闘能力を奪って行く。

 小一時間の後、波間に漂っていたのは僅かな数の大型艦だけだった。

 

「まだだ、まだ終わらんよ!」

「いやいや、艦長。流石にもう終わりでしょう。二隻の戦艦だけは航行能力に支障はありません。ですが既に遠距離砲戦能力を喪失しています。重巡は辛うじて浮いていますが的にしかならんでしょうし。我々に残された選択肢は尻尾を巻いて逃げ帰るか降伏するかの二択ですよ」

「何を馬鹿げた事を言っとるんだ? この敗北主義者め! 我々に撤退の二文字は無いぞ! 七生報国だ! 七度生まれ変わって帝国の敵を討ち滅ぼすんだ!」

「はいはい、分かりましたよ。いまやろうと思ったのに言うんだもんなぁ~! まあ、今日は死ぬには良い日ですし。いっちょやったりますか……」

 

 捨て鉢的な覚悟を決めた副長は自棄糞気味に吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 ほぼ同じ頃、数十海里ほど東の空を巨大なリング状の物体が飛行していた。

 古の魔法帝国によって造られ、神聖ミリシアル帝国が発掘した空中戦艦パル・キマイラだ。

 その数はなんと十六隻。八隻ずつで単縦陣を組んだ二個艦隊が百十ノットで西に向かって意気揚々と進んで行く。

 まあ、本物の発掘兵器は二隻だけで残り十四隻は日本やムーの協力によって造られたレプリカなんだけれども。

 ちなみにオリジナルよりレプリカの方が性能が良いのは公然の秘密だ。

 

 第一艦隊のワールマン司令は第二艦隊のメテオスを相手に魔信で世間話に興じていた。

 

「こっちの敵の残存戦力は大型艦二隻と中型艦二隻みたいだな。手柄は仲良く半分こで良いかなあ?」

「ちょうど半分に割り切れるんだ。こっちはそれで文句はないぞ。聞いた話だと機動部隊の方には戦艦の他にも空母がまだ何隻か浮いてるらしいな。第三艦隊と第四艦隊は本当にラッキーだなあ。正直に言って物凄く羨ましいぞ」

「いやいや、他人の幸せを妬んでも虚しいだけだぞ。それに連中はただ単に運が良かっただけしな。皇帝陛下は偉大なお方だ。こんなことで我々より第三、第四艦隊が高い評価を受けたりする筈は無いだろう」

「だったら良いんだけどなあ。さて、そろそろ誘導滑空ジビルの投下位置だぞ。給料分は働くとしましょうか」

 

 それぞれの艦隊の一番艦と二番艦から一発ずつの超大型爆弾が投下される。真っ赤な炎と薄い白煙を吹き出しながら飛行した四発のジビルは戦艦と重巡の乗員を一人残らず残らず殺傷した。

 

 

 

 

 

 二時間後、第零式魔導艦隊はようやくグラ・バルカス艦隊と接触を果たした。果たしたのだが……

 真っ黒焦げやないかぁ~っ! たった二隻だけ残った戦艦は墨で塗り潰した様に真っ黒黒助になり、今にも沈もうとしている。

 

「うぅ~ん、手遅れだったか。やっぱ残り物に福なんてないんだな……」

 

 半泣き顔のアルテマ司令が深いため息をついた。

 だが、妙に覚めた顔の艦長のインフィールは諦観した様に吐き捨てる。

 

「だけども艦長。二時間もダッシュして来ていまさら手ぶらじゃ帰れませんよ。取り敢えずあの消し炭に砲撃だけでもしておきましょう」

「そうだな。たとえ遅くても何もしないよりはずっと良いって言うしな。やろうやろう」

「うちぃ~かた始め!」

 

 どうにかこうにか船が沈む直前に命中弾を出す事が出来た。まあ、命中させなくても沈んでいたのは間違いなさそうなんだけれども。

 まさに滑り込みセーフって奴だな。司令と艦長は顔を見合わせてにっこり微笑んだ。

 

 

 

 

 

 グラ・バルカス帝国の誇る巨大戦艦グレードアトラスターの戦闘室で艦長ラクスタルは頭を抱え込んでいた。

 ミリシアル巡洋艦八隻との戦闘が始まったのは今から三十分くらい前だっただろうか。

 後方にへばりつくように並走するミリシアル艦隊と互いに砲を向け合うという極度の緊張状態の中、兵士たちのストレスが限界に達したのかもしれない。どっちが先に発砲したのかは分からないがなし崩し的に戦闘が始まってしまったのだ。

 

 油断したつもりは露程もなかった。だが、そもそも至近距離に入り込ませたのが敗因だったんだろうか。今となっては悔やんでも悔やみきれん。

 戦闘開始と同時に八隻のミリシアル巡洋艦は八インチ砲を一斉射撃して来た。

 たった二十五ミリしか厚みの無い副砲塔、防御力など無きに等しい高角砲塔が第一撃で破壊される。

 続いてミリシアル巡洋艦は艦橋、煙突に狙いを変更した。

 当然の事ながらグレードアトラスターも反撃を試みる。試みたのだが……

 

 グレードアトラスターの四十六センチ砲の射程は仰角四十五度で発射すると四十二キロにも達する。一方で俯角はマイナス五度まで向けられる様に設計されていた。だが、仰角三度以下では発砲が出来ないようになっているのだ。

 敵が目の前にいるにも関わらず撃つことが出来ないとは堪らんなあ。艦長ラクスタルは今日、何十回目かの深いため息をつく。

 

「副長、何か良い考えは無いのかね?」

「無理ですね。完全に万策付きましたよ。既に艦尾の三番主砲は無論、艦首の一番、二番主砲も砲身に直撃弾を食らって無力化されています。速度も操舵性も敵の方が遥かに優れているため体当たりすら出来ません。アンテナが破壊されたため味方への救援要請も不可能。味方艦隊との合流を目指して西に向かって走り続けるしかないでしょうな」

 

 まるで他人事みたいに副長が気楽に言って退ける。

 もしかして副長は既に生きて帰る事を諦めているんだろうか。

 きっとそうなんだろう。だって自分もそうなんだもん。

 

 艦長ラクスタルは吹き出しそうになったが空気を読んで何とか我慢した。

 

 

 

 ミリシアル巡洋艦が次に取ったのは非バイタルパートを徹底的に破壊するという一見地味だが実に効果的な作戦だった。

 八隻の巡洋艦は合計すると毎分百発近いペースで八インチ砲弾を撃ち込んでくる。まるで機関砲に撃たれているみたいだ。艦長ラクスタルも副長も生きた心地がしない。

 みるみるうちに予備浮力が失われ、船足は二十ノットを切ってしまう。

 だが、ミリシアル艦隊は攻撃の手を緩めない。今度はバイタルパートへと攻撃目標を移したらしい。全艦が左舷に回ると艦中央の一箇所にひたすら八インチ砲弾を撃ち込んできた。

 

 グレードアトラスターの垂直装甲は傾斜角二十度で厚さ四百十ミリのVH鋼だ。たかが八インチ砲弾など蚊に刺された程のダメージもない。

 とは言え艦全体がモノコック構造をしているわけではない。大和の場合は高さ五百九十センチ、幅三百六十センチ、重さ六十八トンの装甲板を船体構造の外側に張り合わせてあるだけなのだ。

 装甲板同士はダブテイル嵌合継手という嵌め込み式になっていたり、キーと呼ばれる(つづみ)の様な形をした(くさび)を打ち込んで繋ぎ合わせてある。こうやって各々の装甲板の端っこが折れ曲がらないように隣の装甲板や船体構造で支えようとしているのだ。

 

 だが、装甲板と背後の船体構造を固定しているのはボルトだ。そのため装甲板に砲弾が命中すればボルトには大きな衝撃が加わる。一発で千切れなくても何度も力が加わればいずれは装甲板がめり込んで隙間が出来てしまうのだ。

 十分と経たないうちに一枚の装甲板が内側にめり込む。ミリシアル巡洋艦はそれを見逃さなかった。たちまち一点集中の様に八インチ砲弾が叩き込まれる。

 小さかった隙間はみるみるうちに広がり、ぽっかり空いた空間に新たな砲弾が次から次へと撃ち放たれた。

 缶室と機関室に大量の海水が流れ込み、グレードアトラスターは沈んだ。

 

 

 

神聖ミリシアル帝国 南方地方隊 魔導巡洋艦隊 旗艦アルミスの艦橋

 

 ほっと一息ついた艦隊司令のパテスは隣に座る艦長ニウムに話しかけた。

 

「ようやく終わったか。日が暮れちまうかと思ったぞ。それにしても無茶苦茶に硬い敵だったなあ。もう一回やれって言われたら勘弁して欲しくなる硬さだっただろ?」

「ですよねぇ~! そもそも我々は巡洋艦ですよ。八隻掛かりとは言え、普通あんな大型戦艦の相手をさせますか? 後で文句を言ってやりましょう。それにしても勝てたのは司令の名采配のお陰ですよ。司令の下で働ける私は幸せ者です」

「おいおい、俺を褒めたって何にも出ないぞ。まあ、司令部には諸君らの働きぶりもちゃんと報告するからそれなりの褒美を期待してもバチは当たらんかも知らんけどな」

「宜しくお願い致しますよ。神様、仏様、パテス様!」

 

 卑屈な愛想笑いを浮かべた艦長ニウムは米つきバッタのようにペコペコと頭を下げた。

 

 

 

 

 

 翌日、ミリシアル帝国の保有する空中戦艦パル・キマイラ八個艦隊が全力出撃した。その数はなんと六十四隻にも上る。

 各艦は過積載気味に誘導滑空ジビルを抱え込み、意気揚々とグラ・バルカスを目指して飛んで行った。

 

 その後、たったの数日間でグラ・バルカス帝国の帝都ラグナは徹底的に破壊され尽くした。

 皇帝グラ・ルークス以下、国家指導部は官邸地下壕で全員が焼死したんだそうな。

 それどころか主だった都市までもが尽く灰燼に帰してしまった。

 

 

 

 無事の帰還を果たしたパル・キマイラ艦隊は盛大な凱旋パレードを行う。国民は歓喜の声を持ってこれに応えた。

 皇前会議においてアグラ国防省長官はドヤ顔を浮かべながら勝利の報告を行う。

 

「…… 以上の様に我が軍はその持てる戦力を惜しみなく投入。彼の地に対して徹底的な爆撃を行った結果、その軍事力を徹底的に破壊することに成功いたしました。もはや生きておる者は一人としておりますまい」

 

 皇帝ミリシアル8世はそんな報告を右から左へと聞き流しながら一万キロ彼方に住んでいたであろうグラ・バルカス人たちのことに思いを馳せていた。

 

「あのへんないきものは、まだグラ・バルカスにいるのです。たぶん。」

 

 その呟きは誰の耳に届くこともなく、風に乗って消えていった。




 どうしてもミリシアルでグラ・バルカスをボコボコにしてやりたくて書いちゃいました。
 ムシャクシャして書きました。反省はしていますが後悔はしていません。

 それにしても召喚世界の国々って呆れるほど慎重さが足りませんよね。
 敵の国力も確かめずに全面戦争だなんてもしかしてお馬鹿さんなんでしょうか。とは言え、慎重勇者みたいな国ばっかりだと話が進みませんけど。

 閃いた! 『慎重国家~ この国が俺TUEEEくせに慎重すぎる』とか良いかも知れん。

「対艦ミサイルを量産しよう。訓練用、実戦用、予備戦力、そして予備戦力が無くなった時の予備戦力だ」

 みたいな?


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