濃緑色のパンツァージャケットに身を包んだ女子生徒ら、ライヒ学園の機甲科の学生達が背筋を伸ばし、精悍な顔つきで整列している。さながら、激戦をくぐり抜けた兵士のようだ。そして、その瞳はじっと、壇上に立つ小さな人影に注がれていた。
その小さな人影は、まばゆいばかりに輝く金髪を揺らし、凪いだ水面のような碧眼であたりを睥睨すると口を開いた。
「本日をもって貴様らは無価値なウジ虫を卒業する。これより、貴様らはライヒ学園機甲科である。戦友の絆で結ばれる貴様らのくたばるその日まで、機甲科は姉妹であり、戦友だ。映えあるライヒ学園機甲科として、なにより精強なる戦車乗りとして、私は貴様らに永遠の奮戦を期待する!」
「はっ」
揃えられた返事とともに、百十数名の戦車乗りが敬礼をする。その姿はさながら訓練された軍隊のようであった。
壇上の小さな人影、ターニャ・デグレチャフも敬礼を返すとともに、心の中で叫んだ。
(どうして、どうして、こうなったー!!)
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私こと、ターニャ・デグレチャフは天寿を全うしたはずだった。
203魔導大隊を率い、あの戦争を飛び回ったが、どうあがいても合州国の参戦で勝負は決まったようなものだった。連合王国軍と合州国軍と共和国残党によるヨッロッパ上陸作戦、そちらにただでさえ足りないリソースを割かざるをえなくなると、今度は東部戦線が崩壊した。遅滞戦闘を勤めつつそれでも食い破られ撤退する帝国軍と首都制圧を目指して東西から進撃する連合軍。モスクの奇襲でかなりの恨みを買っている203魔導大隊が連邦側に降った時に起こる事は想像力のかけるバカでもわかることだ。
だから、私はルーデルの真似をすることにした。今次大戦で生まれ、我ながら多大な戦果をあげた即応大隊という新たな魔導師の運用形態は、戦後世界で連邦に対してイニシアチブをとりたい合州国には魅力的だっただろう。上司であるゼートゥーア閣下もどう負けるか、ということを考えて頃合いだったこともあり、全力で東部の連邦軍を押しとどめつつ連合王国と合州国にたいして降伏のための根回しをした。閣下も共産主義はお嫌いだったらしい。取引材料には、我々の身柄引き渡しも条件にいれた。そして、全力で連邦軍に嫌がらせを、進軍する戦車や歩兵を吹き飛ばし、爆撃機を撃ち落とし、慌てて再編したらしい魔導師部隊を殲滅したりとしつつ、終戦、いや敗戦をまった。
そして敗戦後、我々は無事合州国に引き渡され、新たな戦闘教義の樹立に尽力しつつ、戦争から離れた人生を全うした。いろいろあって、世界経済の中心地で会社を設立できたのはいい思い出である。輸送会社の体をした民間軍事会社であることに目をつむればだが。
やがて、二つ名のように髪も白くなり、しわも増え、そして死んだ。死ぬのは2回目だが、寿命を全うして死ぬのは初めてだ。存在Xめ、貴様への信仰なくとも私は素晴らしい人生を全うしたぞ。ざまぁ、見ろ。
しかし、ここで問題が生じた。なぜか考えることができる。なぜだ。死後の世界か?存在Xが呼び出したのか?存在Xならば、その大仰な態度と自信もろとも貴様を粉々に打ち砕いてやる。
その時、体の違和感に、はたと気がついた。まて、なんだこの手は?なんだこの体は?
これでは、これでは……
次の瞬間、私を浮遊感が襲った。見上げると巨人のような人影。いや、違う。この状況は前と同じだ。
私は、私は……!
「オギャー(また転生したのかー! )」
「元気な赤ちゃんですね。」
こうして、私、ターニャ・デグレチャフの3回目の人生が幕を開けたのである。願わくば、文明的で経済的な生活を。せめて、戦争とは無縁の生活を。
画面の前の紳士淑女諸君、御機嫌よう。
不肖、ターニャ・デグレチャフの数奇で不幸な運命は、お楽しみいただけるでしょうかぁ?
いやはや、またもや転生とは困ったものです。できれば一度目の人生と同じ時代ならば良いのですが。
しばらくは情報を集めるのに専念しなくては。情報の大切さは前の人生で嫌という程学びましたからね。
では、また戦場で。