母にスタジアムにつれられてきたが、選手の姿はない。その代わりに巨大なスクリーンが鎮座している。
そして最も奇妙なのは、画面に浮かぶ文字。
【サンダース大学付属校・知波単学園戦車道親善練習試合】
戦車道?
あれか? 古代地中海沿岸やローマで使われていたチャリオットか? いや、それでも充分おかしいのだが。
道中で見た「発砲可能区域」という立て看板を思い出した。まさか……
スクリーンが切り替わり、アナウンスが流れた。
「サンダース大学付属高校と知波単学園の戦車道親善練習試合がもうまもなく始まります。今試合は10vs10、ルールは殲滅戦を適用し、先に相手の車両を全て撃破した方が勝利となります。つづきまして、両校の戦車の紹介に移ります。
サンダース大学付属校はM4シャーマン戦車9両、シャーマンファイアフライ1両。
知波単学園は97式中戦車チハ、旧砲塔5両、新砲塔5両を使用します」
スクリーンにはそれぞれの戦車の特徴やら、デモ映像やらが流れているが、私はそれどころではなかった。
スポーツに戦車だと!?
しかも乗るのは学生。高校生に殺し合いをさせるつもりなのか?
なるほど、第二次大戦時に使用された戦車ばかり、骨董とも言えるような代物ばかりだが、やはりあくまで兵器だ。擬似的な戦争にしろ、民衆のカタストロフを求める心を埋める剣闘場のようなショーにしろ、すぎた代物だ。
「もう少しお待ちください」というアナウンスが流れた後、スクリーンの映像が変わった。
大きく「日本戦車道連盟監修」と描かれた画面が現れたかと思うと、今度は戦車をデフォルメしたキャラクターが2台、いや2匹? 飛び跳ねながら現れた。モデルはティガー戦車となんらかの自走砲だろうか。ああ、キャラクターの下に「たいがーくん」「えれふぁんちゃん」とかいてある。
「ぼく、たいがー! 僕といっしょに戦車道を学ぼう!」
「わたし、えれふぁんと! 私と一緒に楽しみましょう!」
戦車道啓発アニメか、周りをそれとなく見渡すと、意外にも家族連れが多い。戦車道を知らない子供に配慮したものか。ちょうどいい。この世界について持っていた常識が役に立たないことがわかったからな。
「戦車道は女の子のためのスポーツとして昔からあるんだ!」
「へぇー、女の子の健やかな成長のために今も続けられているんだね」
これは、子供向けでなく親に向けてか。女の子のためのスポーツとして昔から? そういうことが常識なのか、この世界では。度し難いが受け入れるしかないか。
「むかしにつくられた戦車をつかって、たたかうんだ」
「あたらしい戦車はでてこれないのね」
学生だからではなく、そういう縛りがあるのか。
「戦車はものすごい速さでほうだんをうつんだ」
「うわー、あぶない! 大丈夫なの?」
戦車に砲弾があたるアニメーションが流される。やはり危険という認識か。
「大丈夫! 『特殊カーボン』っていう素材で戦車の中は絶対安全なんだ!」
「えー、ほんとー?」
えれふぁんとよ、私も全く同じ気持ちだ。「絶対」という言葉への不信感もそうだが、『特殊カーボン』とは一体なんだ? 特殊という言葉で濁されている気がする。
「ほんとだよ! 日本国内での死亡事故は0件! きびしい品質チェックと整備チェックの賜物だね! 詳しくはこの表をみて!」
「すごーい」
死亡事故0件。表には、「※戦車道の事故による怪我を起因とした死亡事例を含む」と書いてあるが、期間は書いていない。ただ、即死を防げるだけでもその「特殊カーボン」はすごいな。材料科学が発達しているなら学園艦なんて途方もないものを作れたのも納得だ。
その後は、殲滅戦やらフラッグ戦の説明、世界大会があること、そして「戦車道っておもしろそう!」「みんなも始めてみよう!」というお決まりの締めで終わった。
学園艦に戦車道、私の立つ常識は木っ端微塵に粉砕されたが、考えてみれば魔法があった前世も同じようなものであった。ローマに入るならばローマ人を真似ろ。私もこの世界のやり方という奴に慣れねばならん。
「これより、サンダース付属大学と知波単学園の試合を開始します」
しばらくして、試合開始のアナウンスが流れた。シャーマンとチハ、性能差は歴然、チハではまともにやってはシャーマンの正面装甲を抜けない。だが、無策とは考えづらい。それに砲弾が欧米製の徹甲弾と同じようにレアメタルを使えるのなら、いい勝負になるのではないか。
たしか、合州国も秋津洲との戦争の際には誘因と待ち伏せを主体にした戦法をとられ、性能で上回るはずの戦車が大量に撃破されたというレポートがあったな。カモフラージュが非常にうまく、上空からの航空機どころか、魔導師でさえ確認が困難だったとか。結局、念入りに火力を投射したのちに上陸し、数で押し切ったそうだが、今回は10vs10。案外チハが勝つやもしれんな。
突然ですが、スポ根漫画というものはご存知ですか。弱小校が強豪校に挑み、勝利を収める、よくある美談ですが、漫画だからこそ起こりえるもの。
ご挨拶が遅れました。谷野碧です。
衝撃的な出来事が続いておりますが、この世界にも徐々に慣れいけそうです。サンダースと知波単、アメリカと日本、合州国と秋津洲を彷彿させる対戦カードですが、どうなるのやら。
では、また戦場で。