「あー、もう!しつこい!」
後ろからギャアギャアと煩いイーオスたちの声がする。
本当なら今頃帰れていたのだ。なのに……今日は運が悪かった。
今日、私が地底火山に来たのは燃石炭と呼ばれる石炭を納品するクエストを受けたからだ。説明では、何者の出現も確認していないとの事だった。なのに。
さっさと終わらせようと採取ポイントに向かうと、そこは砕竜ブラキディオスが占領していて、採掘しようにも出来ず、今の私では到底太刀打ち出来ない相手に威嚇され、そのプレッシャーに当てられた私は大急ぎで逃げていた。すると今度は道に迷い、運悪くイーオスたちの巣に迷い込んでしまった。
簡単なクエストだから。とネコ飯を適当に頼んで酒とチーズだけにしたのがダメだった。おかげで今日の運勢は最悪だ。何度か転んで身体は煤だらけだし、何より火山の熱で汗が止まらない。すぐに終わると支給品もろくに取らず、準備を怠った結果がこれだ。自分でも何をしているんだと呆れてしまうほどに馬鹿だと思う。だけど、今更嘆いてもどうにもならない。今はとにかく後ろのイーオスたちを撒いて一度キャンプに帰らねば。
そう思ってポーチに意識を集中し過ぎたのがダメだった。足元の変化に気付けず転んでしまったのだ。
ただ転んだだけならまだ良かった。また立って走れば良いから。だがしかし。今回は少し違った。そこには糸が張り巡らされていた。彼女は転んだ衝撃で糸が身体にくっ付き、身動きがまともに取れなくなってしまったのだ。そして、その隙を見逃すイーオスたちではなかった。
迎撃しようにも、糸のせいでまともに動けず、太刀が上手く鞘から抜けない。熱さと焦りによる汗で手が滑る。その様子を嘲笑うかのようにゆっくりと迫るイーオスたち。思わず自分の死を悟る。
その時、不意に上から糸が飛んできてイーオスを絡めとっていった。何が起きたかよくわからず呆けていると、上から糸の主が跳び降りて来た。糸の主の名はネルスキュラ。猛毒を持つ大型モンスターである。
突如現れたネルスキュラに、イーオスたちは当然ながら警戒し、彼女そっちのけでネルスキュラを取り囲む。ネルスキュラも複眼でイーオスたちを監視し、いつでも対処出来る様にしていた。拮抗するモンスターたち。その拮抗はイーオスたちのヌシ、ドスイーオスが部下のイーオスたちに指令を下した事で火蓋が切って落とされた。
一斉にネルスキュラに飛び掛かるイーオスたちとそれを指揮するドスイーオス。相対するは猛毒の大蜘蛛ネルスキュラ。背に乗るイーオスたちを振り落としながら、糸に絡まったり、攻撃を当てられるものから一匹ずつ確実に殺そうとするネルスキュラに対し、ヒット&アウェイ戦法で無理なく攻めるイーオスたち。双方ともに毒を持つ者。されど方や糸で絡め取り殺す者。方や群れで獲物を狩る者。
戦況は群れで攻めるイーオスたちが有利。だがしかし。ネルスキュラは糸を操る蜘蛛型のモンスターだ。イーオスたちと抗戦しつつもその目は常にドスイーオスへと向いており、狙いを定め、糸を確実に当てられるタイミングを伺っていた。
そうこうしているうちに痺れが切れたのか。面倒だと言わんばかりに大きく一声鳴くと、指揮官であるドスイーオス自らネルスキュラに飛び掛かったのである。しかし、それはネルスキュラがもう瀕死だと思い込んだドスイーオスの悪手であった。彼は瀕死だったのではなくただチャンスを待っていただけなのだから。
ネルスキュラは、飛び掛かるドスイーオスを華麗に躱すと、カウンターの前脚でドスイーオスを抑え付け、その喉元に噛み付き、たったひと噛みでドスイーオスの命を奪ってみせた。
群れの指揮官であるドスイーオスを失った事により戦線は崩壊、イーオスたちは統制が取れなくなり散り散りになって去って行った。
その様子を最後の一匹がいなくなるまで見た後、不意に彼女に振り向くが、ネルスキュラは動けずにいる彼女をつまらない獲物だと一瞥判断したのか。彼女の事を特に気にした様子もなく、そのまま物言わぬ骸となったドスイーオスを糸で包んで何処かへと立ち去った。
残されたのは、火山の熱気を含んだ風とその様子を茫然と見守っていた彼女だけだった。暫くして正気を取り戻すと、彼女はまたモンスターに襲われないように。と、キャンプへ向けて逃げるように撤退して行った。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
デビュー作と言う事もあり、色々と指摘される部分は多々ありますがそう言った部分はどんどん指摘していただけると助かります。
今後ともどうかよろしくお願いします。