それでも、俺は───。   作:新郷遊佐海

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忘れた頃にやってくる! どうも遊佐海です!(*`・ω・)ゞ
久しぶりに力いれて書きました。

※尚作者はいつも通り深夜テンションで書いております。

俺ガイル-完-第四話のガハマちゃん………見てて辛かったよぉ( TДT)


Mission 00 始動 プロローグ

 修学旅行から帰ってきて数日。

 あの嘘告白(一件)以降、雪ノ下とは会っていない。

 由比ヶ浜ともすれ違いで終わっている。

 季節は秋。

 二年生は既に修学旅行気分も抜けて間近に控えた期末テストに向け、勉学に集中している。

 そんな(なか)、俺はというと学校の図書室でひっそりと(ラノベ)を漁っていた。

 いや待て、決してサボっているわけではない。休憩がてら探してただけだ。

 うん、大事。休憩ちょー大事。

 こんな調子で本を探していたら背高い本棚の向かい側で集団が話しているのに気がついた。

 放課後に勉強会でも開いているんだろうと聞き流しながらその場から離れようとしたが、聞こえてきた内容に思わず脚が止まった。

 

 「ヒキタニって男が戸部の告白を邪魔した」と。

 

 この日を境にこの話と噂が出回り、更には俺が文化祭で相模を攻めた話もぶり返してきた。

 当然のように、俺へのヘイトは集まるわけだか、そこら先は酷いものだ。

 ある時はカッターで教科書やノートをズタボロにされ、またある時は下駄箱に生ゴミを入れられた事もあった。

 ここら辺までは小学生の時に経験しているからまだ良い。

 それに人の噂も七十五日というし、無視しておけば次第に事は収まる…………なんて旨い話がある訳もなく。

 俺の悪評は二週間も経たない内に何重にも尾ひれが付いてしまった。

 

「オラッ!」

「ッ……」

 

 その結果、こうして名も知らない同級生であろう三人組に(眼鏡男、チャラ男、筋肉ダルマ)に体育館裏に呼び出され、暴行を受けている。

 

「お前さ、あんま調子に乗んなよヒキタニ」

「そうそう。戸部の告白邪魔したり、文実だった相模を攻めたりよお」

「テメーは教室の端で大人しくしてればいいんだ、よッ!」

「ぐッ!」

 

 チャラ男が倒れてた俺の腹目掛けて蹴りを入れてきた。今の一撃で内蔵が悲鳴を上げて、息を吸うのも辛い。

 

「ていうか、こんなクソザコ(いん)キャに時間使ってるの勿体ねーし。もう帰ろうぜ」

「了解~。あ、じゃあさ。この後ス◯バ寄ってかね?」

「それは別にいいけど、コイツどうする?」

 

 筋肉ダルマは横たわる俺を指差して他二人に聞いた。

 

「ほっとけ、どうせ残りの学校生活死んだようなもんだろ」

 

 眼鏡男がそう言い残して歩き出すと他二人もそれに続いて去っていった。彼奴らの姿が見えなくなるのを確認した後俺はゆっくりと体を起こす。

 

「ぐっ……。起きるのも一苦労だな」

 

 腹の痛みに耐えながら愚痴を溢し、壁に沿って立ち上がって静かに空を仰いだ。

 

 

 

〈──すまない〉

〈──あ?〉

〈──君は、そういうやり方しか知らないんだと分かっていたのに……すまない〉

〈──……謝るんじゃねーよ〉

 

 

 

 こんなときに限って修学旅行での葉山との会話を思い出しちまった。

 はぁ……あのやり方が一番よかった。グループも壊れてない。誰も傷つかない。それでいいじゃ──。

 

 

 

〈──あなたのやり方、嫌いだわ。うまく説明出来なくて、もどかしいのだけれど、あなたのそのやり方、とても嫌い〉

 

 

 

 ッ……どうした、雪ノ下。いつもならキリッとした目で罵倒してくるだろーが。

 

 

 

〈──人の気持ち、考えてよ……! 何でいろんなことわかるのに、それがわからないの……?! そーゆーの、やだよ〉

 

 

 

 由比ヶ浜……、もういいんだ。声だって震えてるぞ。

 無理に声をかけなくていい。

 

 あの時から何度も何度も聞こえてくる二人の言葉に、胸が苦しくなる。

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせてもまた苦しくなる。

 そうしてやっとの思いで落ち着かせることで幻聴も治まった。

 息を吐いて目を開けて前を向くと、雪ノ下と由比ヶ浜が此方を見つめて佇んでいた。

 何だよ、今度は幻覚かよ。追い込まれすぎだろ、まずい、動悸が。落ち着かせないと。

 そこにいる二人は幻影だ。自分が追い込まれて脳が勝手に見せてるだけだ。

 だけど、例えそれが幻影でも。

 

「違う、違うんだ。頼む、やめてくれ」

 

 悲しい(そんな)目で俺を見ないでくれ。

 俺が勝手にやったことだ。お前たちがそんな顔する必要無いんだ。

 

 だから、だから────。

 

 ────大丈夫。喉の奥で止まったその言葉がどす黒い何かへ沈むたびに一歩、また一歩後ろへと足が引いていった。

 

 そして俺は、逃げ出した。

 

 そこから先はあまり覚えていない。

 きっと何度か電車を乗り継いで来たのだろう。

 目の前には切り立った崖と緋色に染まる海。

 風に乗ってやってくる仄かな磯の香りが鼻腔を刺激する。

 水平線に沈む夕日をじっと眺めていると、下の方から強い風が吹き上げてきた。

 

「……」

 

 視線を下ろした先には、波によって削れた鋭い岩場と荒れる白波が見えた。

 一歩踏み出せば死ぬ。なんて考えて見ていると、()()()()()()()()()()()()()()で自然と足が動き出して崖から身を投げ出した。

 転がり落ちるように、何度も、何度も崖にぶつかる。骨は砕かれ岩肌が制服を破って肉を切り裂き、最後は水飛沫を立てながら白波の中に落ちた。

 衝撃で肺の中の空気は全て吐き出され、海水が流れ込んでくる。苦しくて踠こうとしても体が動かない。

 次第に意識が遠退き、視界も霞みぼやけてもう終わりだと思った瞬間、たった一つの走馬灯が見えた。

 

  “()の満ちる奉仕部(あの部屋)”で三人で笑い合ってる光景。

 

 その光景を見て脈打つように指先が動いた。腕が挙がり、離れていく水面に向かって力の限り手を伸ばした。届くはずもないのに必死に伸ばして、思ってしまった。

 

 死にたくないと。

 

 その思いが体中を駆け巡った時、“歌”が聞こえた。

 

 

 

 

暖かく甘美な歌。

 

 

 

 だけど、それ以上に感じたのは……

 

 

 

 

深い哀しみと苦しみ、憎悪だった。

 

 

 

 感情の波が体を弄び呑み込んでいく。

 

 

 

 

薄れ行く意識の中で。

 

 

 

 

 最後に瞳が映したものは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無限に広がる“銀河(ほし)”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦2065年 6月

 

「────ッ!!誰……私を呼ぶのは」

 

 静かな波打ち際で、海風(うみかぜ)に吹かれながら輝く星を眺めていたのは紫髪の美女 “美雲(みくも)・ギンヌメール” 。

 彼女は自身で感じ取った強烈な違和感に、唇に指を添わせ呟いた。

 

「……星の音」

 

 囁きは波打ちの音に搔き消され、彼女は視線の先に何かあると信じ、歩き出した。

 

「これは……」

 

 美雲(みくも)が違和感を辿ってやってきた場所は、少し外れた市街地付近の浜辺。

 そこには美雲が険しい顔をするほどの光景が広がっていた。

 全身に深傷を負い、傷口から大量の血を流す青年“比企谷八幡”が仰向けで倒れていた。

 彼の周囲は流れた血によって赤く染め上げられ、今もそれは広がり続けている。

 美雲は八幡の元まで駆け寄り、膝を着くと首元に指を当てる。弱々しくも僅かに脈打ち生きている。

 それだけでも知れた美雲は携帯していた通信デバイスを取り出し、起動する。

 端末が動き出し、ホログラムディスプレイが投影されて数秒も経たないまま、赤髪の女性 “カナメ・バッカニア” が表示される。

 

『どうしたの美雲? 緊急通信を受けて出たけど……』

「要救助者を発見。意識不明の重体。救護班の手配をお願い」

『──ッ! 了解、すぐに送るわ』

「座標はもう送ってある。それを救護班に回して」

『助かる』

 

 早急に会話を終わらせた美雲は通信を切って端末を仕舞うと、スカートの裾を引き千切って止血処置を施していく。処置が終わって一息吐いた美雲は再度八幡の顔を覗き込むように近付けた。

 

「……貴方を見てると何故、こんなにも胸が痛いの?」

 

 美雲の指は八幡の頬を添って胸元まで辿り着くとその手を自身の胸に当てた。

 胸に走るその痛みが一体何なのか。

 それは夜空に輝く星にも、彼女自身にも解らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼に光が差し込み目を開けると、並んで前を歩く雪ノ下と由比ヶ浜がいた。回りの景色を見ても至って変わりない道。

 

 でも俺、確か海に飛び降りてそれで……。

 

「ヒッキー聞いてる? これからゆきのんと猫カフェ行くんだけど、一緒にどう?」

「ん?あ、あぁ猫か……。折角だし行ってみるか」

「ホント!? じゃあ、皆で一緒に行こう!!」

「仕方ないわね。猫に免じて貴方の同行を許可するわ」

「もぉ~、ゆきのんまたそんなこと言って~」

 

 我が物顔でそう言ってきた雪ノ下は静かに歩き出し、その後を由比ヶ浜は追いかけるように歩き出した。久し振りに見た光景に自然と笑みを溢した俺も後を追いかけようと、一歩踏み出した瞬間。

 カチリと全身が動かなくなる。咄嗟の事で雪ノ下たちに助けを求めようとするが、喉の奥で押し止められて肺の中の空気が次第に抜けていく。あの時(海の中)と同じだ。

 

 

〈──ヒッキー! 早く早く~!〉

〈──何をグズグズしているの。比企谷くん、早く行きましょ〉

 

 

 振り返って手を振る由比ヶ浜と呆れた顔で此方を見る雪ノ下。二人との距離が離れていく。

 頼む、行かないでくれ由比ヶ浜、雪ノ下!

 

「待っ、──ッ!!」

 

 声が出たと思ったら、全身が引き裂かれそうなほどの激痛が襲いかかり声にならない悲鳴をあげた。

 なんだよコレ……痛すぎる。

 

「……元気なのはいいけど、傷口が開くわよ」

 

 激痛に悶えていると綺麗な声が聞こえてきた。

 無理やり横目で見ると、窓の隅に紫髪の女性が腕を組みながら寄りかかって此方を見ていた。

 

「あ、あの。あなたは……」

「名前を聞くときは、まず自分から名乗るんじゃない?」

「え? あ、ひきぎゃ……比企谷、八幡でしゅ」

 

 おい誰だ噛んだヤツ、コミュ症も大概にしろよ。

 

「ヒキガヤ? 変わった名前……。私は美雲。戦術音楽ユニットワルキューレの“美雲・ギンヌメール”よ。覚えておきなさい」

「あ、はい。それとその、“比企谷”は名字で、“八幡”が名前なんです」

「そう。ならハチマンと呼ぶわ」

「は、はい」

 

 おっふ……。名前呼びですかそうですか。

 

「それでハチマン。これ押して良いかしら?」

 

 ギンヌメールさんはそう言って手に持っている呼び出しボタンを見せてきた。

 というか何でそんなに目キラキラしてるんだ。

 ボタンあったら押したくなる症候群なの? その気持ちわかる。

 

「……お願い、します」

 

 お願いされたギンヌメールさんは颯爽と呼び出しボタンを押した。

 一分も経たない内に白衣を着た医者と付き添いの看護師が病室に入って来て、俺の体をゆっくり起こすと、軽い検査と質問をしてとっとと出ていってしまった。

 それと検査中に医者に聞いたことだが浜辺で瀕死になっている所を此処にいるギンヌメールさんが助けてくれ、四日間眠り続けていたそうだ。

 それにしてもまた病院か、小町になんて謝ろう……。

 

「あの、ギンヌメールさん。家族に連絡したいんですけど」

「……少し待ってちょうだい。カナメに聞いてみる」

 

 ギンヌメールさんはそう言うと右手の親指を口元に近づけた。って、え?

 

「カナメ、彼が起きた。家族に連絡したいそうよ。…………そう、なら伝えておく」

 

 どういう事だッテばよ。爪に向かって話しかけてる様にしか見えないんだが、A〇pleもうそこまで進んだの…?

 

「ハチマン。今カナ、私の仲間からの伝言で、此方に向かってるから少し待ってほしいそうよ」

「あ、はい。それはいんですけど。ギンヌメールさん、今どうやって話してたんですか」

「……」

 

 え、無視?ボッチは視線に敏感なだけで無視には体勢がないんですよ。分かっててやってる?

 

「あ、あの「美雲」…………はい?」

「美雲と呼びなさい。メンバーからはそう呼ばれてる。敬語も不要よ」

 

 そう言われてもな…。まともに話した事ある女子なんて由比ヶ浜と雪ノ下以外いないんだぞ? そりゃ緊張だってするだろ。さては貴様、(いん)キャ特攻持ちだな? 

 俺は負けんぞ!エリートボッチの俺に不覚はないッ!

 

「えっと……美雲さん」

 

 ハイ駄目でした。

 この人の気迫に負けました。ちくしょーめ!!

 

「呼び捨てで結構よ」

「いや無理だから。女子を名前で呼ぶだけでも俺にはハードルが高いのに、その上呼び捨てとか心臓抉れちゃうからこれで勘弁してくださいお願いします」

「あら、それが貴方の素? 良いじゃない、結構好きよ」

「……そうかよ」

 

 そんな簡単に好きとか言わないでください。

 俺じゃなかったら勘違いしちまうぞ。

 そうやって男は「こいつ、俺の事好きなんじゃね?」とか言って勘違いした挙げ句、女子に告白してフラれて次の日には笑い者にされるんだ。

 ソースは俺。

 

「どうしたのハチマン、目が腐ってるわ」

「ほっとけ、目はデフォだ」 

「そう…………貴方も大変ね。友人はいるの?」

「おい、ストレートに友人いるとか聞くな。こんな見た目でも友人と呼べる奴は何人かいる」

「あら、意外ね」

 

 全く失礼なやつだな。いるに決まってるだろ?

 それは勿論、大天使トツカエル様だよ。守りたいあの笑顔。(使命感)

 材木座?そんな奴知らん、森に帰しときなさい。

 

「フフッ、貴方は表情が分かりやすいわね。見ていてとても退屈しないわ」

「……そっすか」

「ほら、今度は照れちゃって」

 

 そう言いながらニヤリと笑う美雲さんに青筋を立てるのは仕方ないことだと思う、うん。

 け、決して笑ってる顔が綺麗だとか、そんなチョロインみたいな考えしてないんだからね!

 

「……その辺にしなさい、美雲」

 

 美雲さんとは違う声。

 病室の出入り口付近に頭を抱えた赤髪の女性が立っていた。

 

「来たわね、カナメ」

「私だけじゃないわ」

 

 そう言ってカナメという人が扉の脇に退くと、今度は茶髪で髭を顎まで伸ばした男が現れた。

 

「どうも美雲さん。そっちの坊主は初めましてだな」

「あ、はい。初めまして……」

 

 二人は俺のベッドの側に寄ってくると徐に自己紹介を始めた。

 

「改めて、民間軍事企業ケイオス・ラグナ支部所属、Δ小隊隊長“アラド・メルダース”だ。アラドと呼んでくれ」

「そして私が戦術音楽ユニットワルキューレリーダー、“カナメ・バッカニア”です。カナメと呼んでね」

「あ、はい。えっと、比企谷八幡です。比企谷が名字で、八幡が名前です」

 

 俺が二人に習おうと自己紹介すると不思議そうに此方を見て言った。

 

「あら、珍しいわね。名字と名前が反対なんて、どこの出身なの?」

「えっと日本の千葉出身ですけど……」

「ニホン? チバ? 聞いたことない()()ね。アラド隊長知ってますか?」

「いや、聞いたことありませんね。美雲さんは?」

「私も知らないわ」

 

 三人は首を横に振って知らないと答えた。

 いくら外国人でも、日本ぐらいは知っているはずだ。

 でもバッカニアさん、さっき惑星って言ってたよな……。

 いや、いやいやいや。そんな典型的な二次創作じゃあるまいし。

 何かの冗談だよな。でもそんなふざけたことするような人たちに見えないし、もしかしたら本当に。

 

「あの、アラドさん。此処は一体何処なんですか?」

「何処って、此処は惑星ラグナ、バレッタシティにある病院だが、それがどうかしたのか?」

「──」

 

 アラドさんの話を聞いて俺は目を見開いて絶句した。しかしそんなの現実的に考えてあり得るわけがないんだ。

 

「どうしたの、ヒキガヤくん。そんなに目を大きくしてそれに何だか顔色も悪くなってきてるし、今日のところはお(いとま)しょうか?」

「あっいえ、大丈夫です。何でも───」

「ねえ」

 

 誤魔化そうとしたら、いきなり両頬を捕まれて、ぐいっと美雲さんの顔の方に向けられた。目線の先にいる美雲さんの目は何かを見透すような鋭い目になっていた。

 

「貴方、何か隠してるわね?」

「ッ!!」

 

 瞬間、その言葉を聞いて体が跳ねてしまった。

 酷い緊張感に見舞われ冷や汗が止まらない。

 

「………今しがた貴方の名前を調べても、経歴は疎か、戸籍、それに属する系譜も存在しなかった。加えてその慌て様にあの大怪我。不確定要素が多すぎてスパイかどうか断定するに至らないけど、正直に話してほしいの、貴方は何者?」

 

 カナメさんの言葉に周りを見渡す。アラドさんも真剣にこちらを見てくる。俺は三人の真剣な眼差しに当てられ正直に話すことにした。

 

「えっと、その、今から言うこと信じられないかもしれないですけど、聞いてくれませんか」

 

 俺の雰囲気の変わり様に気づいてくれたのかアラドさんは腕を組むのを止めて聞く姿勢をとった。

 

「ああ、話してくれ。それにどうしてお前が浜辺で瀕死の状態で倒れてたのかをな」

「はい…。色々聞かないと分からない事がありますけど、まず言えることは。どうやら俺はこの世界の人間ではないみたいです。───」

 

 それから先は包み隠さず、全てを話した。

 奉仕部に入ったあの日の事。

 奉仕部として解決してきた数々の依頼。

 文化祭で相模が起こした問題の後始末。

 それから部長の雪ノ下と部員の由比ヶ浜の事。

 葉山たちの噛み合わない無理難題な依頼。

 修学旅行で行った俺の嘘告白、数日後から毎日のように受けた俺へのイジメ。

 最終的に崖から身を投げ出して自殺してどういうわけかこの世界に来てしまった事を。

 

「───、これが全てです」

「「「…………」」」

 

 俺の話が終わると三人は口を開けて唖然としていた。

 

「…経歴がないもの頷けます。時空を越えるのも、過去に一例だけバジュラと共に消えたSMS隊員がいると記録だけ残っています。しかし、俄には信じがたい話です」

 

 カナメさんの言葉も最もだ。そんなこと言われて、はいそうですか。と言える方が可笑しい。

 

「しかし、ハチマンが嘘を言っているようにも思えん」

「私も同感よ」

 

 しかしアラドさんとそう言いながら腕を組み直し、美雲さんもアラドさんの意見に賛成する。

 それから幾つか議論を重ねる三人を見て、俺は仕方ない事だと何処か諦めているとアラドさんがこちらを向いてきた。

 

「だがハチマン。一言だけ言える事がある」

「え?」

 

 詰め寄ってきたアラドさんは睨みを利かせる。その声色は明らかに怒りを表していた。

 

「命を粗末にするな」

「──!」

 

 非常に短く、とても重い言葉。そしてアラドさんは真っ直ぐに手を伸ばして頭を撫でてきた。

 

「お前の話を聞いて、辛い思いをしてきたのは分かった。けどな、誰かを救うためにお前が犠牲になる必要も、何処にもないんだ。それにお前の事を心配してくれる仲間はちゃんといるだろ?」

「そ、そんなのいるわけ……」

「いるさ。もう分かってるんだろ?」

「────ッ!!」

 

 アラドさんの言葉に雪ノ下と由比ヶ浜(ふたり)の影が頭を過る。

 奉仕部(あの場所)で二人に出会ってすべてが始まった。

 

「おれ、は……」

 溢れ出す感情が頬を伝っていく。

 暗く、寒い、閉ざされた部屋にいつの日にかやって来た暖かい一筋の光が差し込んだような感覚だ。

 

「俺、俺は……」

 その光の正体が何なのか分からなかった。

 分からないことが、とても怖かった。

 怖くて無意識に由比ヶ浜の優しさに、雪ノ下の言葉に、甘えていたんだ。そんなの俺が求めていたものじゃない。

 不確かで、曖昧で、言葉じゃ伝わらないかもしれない。だけどッ。

 

「俺は、あいつらに傷ついてほしくなかった……! 本物をくれたあの二人に!」

 

 あの場所には、確かにそれがあった。

 本物と言える居場所を守りたかった。だけど、間違えた。

 なんで間違えたのかもわからなくなって、怖くなって、また逃げた。

 それが今後悔となって出てきやがって、クソっ。

 

 あの二人に、会いたい。

 

 会ってこの気持ちをきちんと伝えたい。

 

 

 

 それから俺は、暫く泣き続けた。

 

 

 

 泣き続けて数十分。漸く落ち着いた俺は羞恥心に刈られていた……。

 

「いやあ、結構ぶちまけたな」

「そうね。それに盛大に泣いたわ」

「ふふ、案外子供っぽいが所があるのね、ヒキガヤくん」

 

 んんがぁああーー!! 恥ずかしいぃい! 恥ずかしいぃいよぉおおーーー! 

 バカじゃねーのバカじゃねー!? バーカバーカ!! 

 もうやだぁ、土に還りたい……。

 のたうち回りたいのに、体が痛すぎで動けない! 顔が隠せない! 恥ずかしいぃい!!!

 

「こ、殺してくれぇ」

「……ダメよ」

 

 なら肩震わせながら拒否しないでもらえますかね、美雲さん。

 他二人も苦笑いしないで美雲さんを注意して。八幡的にポイント低いよ…全く。

 

「さて、そろそろ面会時間も終わりそうだし、最後にお前に聞いておきたい話がある」

 

 手を叩いて話を切り出したアラドさんが尋ねてきた。

 

「帰り方は分かるか?」

「分かってたらこんな事一々言わないでしょ」

「ハハッ違いねーな。が、そこでた」

 

 先程まで和らいだ空気が一気に針積めた空気に変わった。その変わりように思わず生唾を飲み込んだ。

 

Δ小隊(ウチ)に入る気はないか?」

「アラド隊長、それはあまりにも…!」

「分かってます。ですがこれは俺が必要だと判断して言っているんです」

 

 カナメさんはすぐ異議を唱えようとするが、それすらもアラドさんは押しきるともう一度俺に顔を向けた。

 

「いいか、ハチマン。ケイオスは星間企業複合体。様々な部門があり、軍事部門にあたる俺たちΔ小隊の任務は、ワルキューレの護衛と支援。それに伴い直接戦闘も起こる。生き残れる可能性は保証しない」

「死ぬかもしれない、ですか」

「ああ、そうだ」

 

 死。黒くてドロついた何かに包まれる感覚。

 そう考えただけで手が震えた。

 

「何も無理に火種に突っ込む必要はない。ハチマンの事情を話すことになるが、艦長に……俺の上司に頼めば戸籍や住所は用意してくれるだろう。どうするハチマン、これは()()()()()()()()()

 

 アラドさんの問いかけに胸が跳ねた。

 お前が決めること。

 その言葉を聞いて俺は覚悟を決めた。

 間違ってるかもしれない。それでもお前らに会えるなら。

 由比ヶ浜、雪ノ下、小町。少しだけ、待っててくれ。

 

「………戻れる可能性が一つでもあるのなら、怖くても、会って伝えたい。アラドさん。俺を、俺をΔ小隊に入れてください」

 

 俺が覚悟を決めて入隊を志願するとアラドさんは喜び、カナメさんは呆れていた。

 そんな二人を余所に無言で立ち去る美雲さんが見えた。

 彼女は去り際に俺を見て軽く手を振ると病室から出ていった。

 クールビューティーというか、ミステリアスというか、色々と分からない人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡の病室を後にしたアラドとカナメは、マクロス・エリシオン艦長“アーネスト・ジョンソン”に八幡の事情を話した。

 付け加えて監視という名目で戸籍の準備とΔ小隊への仮入隊を頼み込み、アーネストは考え込んだものの、快く了承し、八幡の仮入隊が決まった。

 彼らは今、その帰りである。

 

「いやあ、我ながら無茶なことを言った」

「本当ですよ、全く……。民間人をケイオスに、それもΔ小隊に入れるなんて。それに、彼に肝心な()()()を伝えなくて良かったんですか?」

 

 それを聞いてアラドは立ち止まって夜空に見上げた。カナメも少し遅れて立ち止まり、振り返って彼を見る。

 

「………まだ言うべきじゃないと判断しただけですよ」

「時空を越えて異世界からきた青年……。この事は、本部に報告しないでおきましょう」

「そうですね。今は、余計ないざこざは起こしたくありませんから」

 

 互いの言葉に苦笑するアラドたちは再び街明かりで照らされた道を歩き出した。




ご清聴ありがとうございました。
久しぶりに長文書いたせいで一人称の地の文とか酷いことになってないと良いな。確認はしてるけど自分では気づかないところがあるので誤字報告とかよろしくお願いしますね(丸投げ)。


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