それでも、俺は───。   作:新郷遊佐海

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 遂に始まる八幡の異世界生活を日記にしてみました。
 どうぞお楽しみください。


Mission 01 思い出 ダイアリー①

西暦2065年

 

 6月26日 晴れ

 

 あれから二週間が経過して明日退院することが決定した。

 退院のことをアラドさんに連絡したら夕方ごろにやって来て、肩にかけていた大きめのボストンバッグを俺に渡してきた。

 中身を覗くと、普段着とその着替え、ケイオスの制服、洗面用具といった大量の生活必需品と戸籍情報入りのデジタル端末が入っていた。

 

 夢見る少年の気持ちのようにケイオスの制服を見て胸を踊らせていると、アラドさんからこの日記を受け取った。

 

 渡してきた理由を聞いたら、「此処での日々をこれに書いておけば、元いた世界に帰った時思い出にできるだろ?」と言われた。

 

 折角の厚意を無駄にすることはしたくないので書ける範囲で書いていこうと思う。

 

 

ーーー

 

 

 6月27日 晴天

 

 退院当日。

 貰った普段着に着替えて、アラドさんと共に病院の外を出ると俺の常識なんて軽く越えてくるような光景を見て驚愕した。

 

 

 約30年前に入植してきた地球人が先住民と共に高度な技術で発展させた港湾都市“バレッタシティ”。

 

 陸地との連絡路や港などを設置して沖合で停泊している都市型移民船“アイランド・ジャックポット”。

 

 ロープウェイで繋がれた丘上で静かに佇んでいるマクロス級戦艦“マクロス・エリシオン”。

 全高は830mあり、平時は人型の姿で駐留しているが宇宙空間へ進出する際には要塞艦への変形を行う。更に両腕は個別の宇宙空母として分離・単独行動ができる。

 左腕部は俺がお世話になるΔ小隊の母艦でありワルキューレと共同作戦を遂行する空母艦“アイテール”。

 右腕部は別隊のα、β、γ小隊の母艦でマクロス・エリシオンの主砲へ変形する空母艦“ヘーメラー”。

 

 

 以上の事がアラドさんにバレッタシティの案内されながら話してくれた事で他にも各地の名所や老舗を紹介してくれた。

 

 アラドさんに案内されている内に日も暮れてきたので最後に海岸沿いに碇泊する飲食店船に案内してくれた。

 名前は“裸喰娘娘(らぐにゃんにゃん)”。

 一階を飲食店として経営しており、多くのケイオス職員が利用している。それと二階はΔ小隊男子寮となっている。アラドさんの奢りで夕食を摂ることになり、メニューを見ながら料理を決めていると半魚人の男性が話しかけてきた。

 

 

 名前は“チャック・マスタング”

 階級は少尉

 Δ小隊隊員で、コールサインはΔ3。

 

 

 浅黒い肌に縮れた髪を一つに纏めたラグナ人の男性。

 その最大の特徴として、首のエラ、肘にひれ、指の間の水掻きが目立つ。初めて見た異種族人に戸惑いつつも日本語で挨拶を交わせることができて安心した。チャックは料理が得意で、自身の店である裸喰娘娘(らぐにゃんにゃん)を四人の弟妹たちと一緒に切り盛りしているそうだ。

 

 また、お兄ちゃんという共通点で意気投合して呼び捨てで言い合うような仲になれた。

 

 

ーーー

 

 

 6月 28日 晴れ

 

 今日は“裸喰娘娘(らぐにゃんにゃん)”でケイオス・ラグナ支部流の歓迎会をしてくれた。様々な種族が交流し賑わう光景を見て、改めて異世界に来たことを実感した。

 

 歓迎会も終わりに差し掛かろうとした時アラドさんから俺の訓練教官を紹介してくれた。

 

 

 名前は“メッサー・イーレフェルト”さん。

 階級は少尉。

 Δ小隊隊員で、コールサインはΔ2。

 

 

 整った顔に鋭い目付きのモヒカンの男性だ。口調はややキツイが穏やかな人らしい。だが怒らせるとかなり怖いと聞いた(アラドさん情報)。

 

 明日から本格的な訓練を開始するとアラドさんから言い渡された。死ぬなよとも言われた。

 

 …………大丈夫、だよな。

 

 

ーーー

 

 

 6月 29日 晴天

 

 地獄を見た。

 早朝にメッサー教官に叩き起こされてラグナ支部の敷地にあるグラウンドへ連れて行かれた。

 到着してすぐ“EX(エクス)ギア”というものを着させられシステムの電源を切った状態で走らされた、というか重すぎて走れなかった。何だよアレ。

 一時間以上かけて漸くトラックを一周したんだけど。

 

 どうしてこんな事をしたのか理由を聞いたら、「アラド隊長から、お前を二月(ふたつき)で使えるようにしろと言われた。しかし一般人のお前には体力と気力が無に等しい。そんな状態で戦場に出れば5秒と持たず死ぬ。そうならないためにも今から二週間。勤務開始時から終了時までソレ(EXギア)を着て走ってもらう。期間が終わり次第座学に入るが、死にたくなければ毎朝ランニングは欠かずにやることだ」と言われた。

 

 正論過ぎて言葉もでないが、取り敢えず明日の俺よ。

 

 

 ……どうか生きててくれ。

 

 

ーーー

 

 

 7月4日 晴天

 

 今日モ、イッパイ、走ッテキマシタ。

 

 

ーーー

 

 

 7月9日 晴れ

 

 ここ一週間の記憶がないのが不思議だか、何時ものようにEXギアを着てグラウンドへ赴いたら先客がいた。ピンク髪のツインテールがトレードマークのゆるふわ系少女。

 彼女は俺の姿を見ると元気に駆け寄ってきて自己紹介してくれた。

 

 

 名前は“マキナ・中島”。

 カナメさんや美雲さんと同じワルキューレメンバーでもあり、兼任でメカニックも担当している。

 

 

 どうやら彼女の家系は代々メカニックで、特に曾祖叔父は可変戦闘機(バリアブルファイター)、通称“VF(ブイエフ)”。

 数ある全てのVFの基礎となる機体“VF-1”。

 その試作機として造られた“VF-0”という機体の整備をしていたというのだ。イマイチ凄さが伝わらないが、歴史に名を残すような偉人に負けず劣らず、彼女の腕前は他の整備スタッフから見ても目を見張るものらしい。

 

 それとその、本来言ってはいけないことだが、敢えて言わせてくれ。

 

 …………デカイ(直球)。

 

 何処とは言わないが、アレで16歳なんだよ?

 凄いを通り越して恐怖すら感じる。尚本人から年の近い異性はあまりいないので気軽に名前で呼んでほしいと頼まれてしまった。ホント此処(ケイオス)の人って名前呼びが当たり前なのね。

 

 お兄ちゃんちょっと頭痛くなってきたよ。

 

 それと彼女はどうやらお気に入りのメカや知人に愛称を付けて可愛がる一風変わった趣味を持っており、俺はマキナから“ハチハチ”と呼ばれることになった。

 

 …………しかし何故だろう。

 

 マキナが異様に暖かい目で見てきていたな。

 

 

ーーー

 

 

 7月11日 晴れ

 

 最近やけに人に会う回数が増えた気がする。

 勤務終了時間まで訓練をやった後、特別にアーネスト艦長直伝の柔道の稽古をつけてもらうことになった。稽古中に小柄で左の髪を結ってアシンメトリーにした緑髪の少女が道場の隅で座って此方をじっと見ているのに気がつくと、アーネスト艦長が気を利かせて紹介してくれた。

 

 

 名前は“レイナ・プラウナー”。

 ワルキューレメンバーであり、凄腕ハッカーとしての一面も持ち、電子技術者としてVFの機体調整や情報収集・解析などチームを支えているそうだ。

 

 

 口数が少なく、あまり感情を表に出さない寡黙な性格みたいな感じだが、昼休憩の時に気になって買っておいた“クラゲチップス(塩)”を物欲しそうな目で見てくるもんだから、小休憩の時間に全部あげてみると、なんとも幸せそうな顔で食べるなど可愛らしい一面を見せてくれた。

 

 それから二時間に渡る稽古も終わって、かいた汗を流しにシャワールームへ向かおうとしたら、プラウナーが袖を掴んで何か言いたげな顔でチラチラと顔を伺ってきた。

 

 普段見せなさそうな顔を初対面の俺が見てしまったから罵倒でもされるのか? と思って待っていたら、「さっきはありがと………美味しかった」と言って彼女は道場から出ていってしまった。

 

 フッ、レイナ・プラウナー。

 全く中々良い妹属性(こぶし)持ってるじゃねーか……。

 

 久し振りに萌えちまったぜ(強者の笑み)。

 

 

ーーー

 

 

 7月13日 曇り

 

 予定通り二週間で其なりの体力が付いたことにより、次は飛行座学を教えてもらうことになった。

 昼過ぎにメッサー教官に指定された講義室に行くよう指示を受けて向かうことにした。講義室に到着して扉を開け、中に入ると其処には、これでもかと机の上に置かれた大量の教材があった。

 

 気になって一つ手に取って中を覗いてみると数式(あくま)を目の当たりしてしまった。すぐ教材を閉じて部屋から退散しようとしたら鬼の形相の(メッサー)教官に凄い握力で頭を掴まれた。

 

 手を離してもらえると頭を抱えて悶えている俺に、「敵を前にして逃げるなど、貴様はそれでもΔ小隊の候補生か」とキツイ一言を貰い、みっちりシバかれました。今でもあの顔と痛みが頭を過ってくる。

 

 オーバーテクノロジー、大スキ……。

 

 

ーーー

 

 

8月3日 晴れ

 

 メッサー教官が三週間付きっきりで教えてくれた甲斐もあり、飛行座学と歴史の殆どが身に付いてきた。

 

 体力も最初の時より三倍近く付いてきて、ランニングも毎朝欠かさずやってる。本当毎日が絶好調、と思ってたのも束の間。

 

 体調を崩した。

 

 医者に診てもらったら、オーバーワークによる過労だと診断された。体調管理は一番気を使ってたのに仕事のやり過ぎで体を壊すとは、社畜の鏡だな俺。

 アラドさんにその事を伝えたら、今日を含めた3日間のお休みを貰った。最初は遠慮したが「休むのも仕事の内だ」と言われ追い返された。ホワイト企業万歳。

 

 久しぶりに、何も考えず寝るとしよう。

 

 

ーーー

 

 

 8月4日 晴れ

 

 寝床で怠惰に休んでいたら、アラドさんとメッサー教官が見舞いに来てくれた。

 アラドさんは「その後の体調はどうだ」とか「ワルキューレの面々も心配してたぞ」だったりと親戚の叔父さんみたく接してくれて少しだけ心がホワホワした。

 メッサー教官は「お前はよく頑張っている」とだけ言って帰ってしまったが、教官からそんなこと言われて嬉しくない訳がない。泣きそうになったのはここだけの話だ。

 

 それとアラドさんから見舞い品としてラグナ特産のバレッタクラゲのスルメを貰った。

 

 食べてみると案外美味しかった。また食べてみたい。

 

 

ーーー

 

 

 8月5日 晴天

 

 外に出てランニングしていたら美雲さんと出くわした。

 どうやら本人曰く、レッスン中に脱け出して町へ繰り出したとの事だ。美雲さんはそう言って去ったので俺もランニングに戻ろうとした時、流石にそれは不味くないか? と気付いてカナメさんに連絡をしておいた。

 

 その数十分後に青筋を立てたカナメさんに、引き摺られる美雲さんを見かけた。

 

 

ーーー

 

 

 8月6日 晴れ

 

 三日ぶりの訓練に体がついていけるか不安だったが何とかやることができた。そしてメッサー教官に今から一週間後にフライトテストを行うことを教えられた。

 

 諦めず、自分のベストを尽くそう。

 

 

ーーー

 

 

 8月8日 晴天

 

 定時になったので寮に戻ろうとしたらチャックに呼び止められ、買い出しをお願いされた。最初は面倒くさかったがチャックの慌て様を見て、他に外せない用事が入ったのだろうと仕方なく承諾した。

 

 メモに書いてあった食材を買い揃え、楽喰娘娘へ向かうと明かりは消えており、周囲を警戒しながら中に入った瞬間。

 

 クラッカーと大人数からのお祝いの声。

 

 部屋の明かりが点くと、目の前には様々なフルーツで彩られたホールケーキがあった。そう、今日は俺の誕生日だ。

 だが毎日が忙しかったのと元の世界では小町以外に祝われたことがなかったので、すっかり忘れていた。それを伝えると皆に呆れられた。解せぬ。

 

 取り敢えず火を吹き消して18歳になった。

 

 でもまあ……。大人数に祝われるのも、悪くはなかった。

 

 

ーーー

 

 

 8月12 日 晴天

 

 一週間シミュレーションルームで缶詰してた甲斐もあり、フライトテストは難なく合格した。しかしこれで気を緩めてはいけない。

 

 

 最終試験内容、ドッグファイト。

 対戦相手、メッサー・イーレフェルト。

 

 

 これからのカリキュラムは最終試験に合わせてVF-1EXを使った飛行訓練が多くなる。

 

 大丈夫、怖がるな。胸を張れ。

 

 

ーーー

 

 

 8月16日 曇り

 

 飛行訓練を終えてロッカールームで着替えていたらアラドさんから呼び出しを受けた。急いで向かったら新しいΔ小隊メンバーを紹介された。

 

 

 名前は“ミラージュ・ファリーナ・ジーナス”。

 階級は少尉。

 コールサインはΔ4。

 

 

 アラドさんが新統合軍からスカウトしてきた女性パイロット。祖父母共に凄腕パイロットと聞いた時は凄いの一言に尽きたが、ミラージュは素直で女の子らしい趣味を持ち合わせている反面、絵に書いたような真っ直ぐ堅物っぷりだった。それを隣で聞いてたアラドさんも苦笑しても否定しなかった。

 

 因みに名字で呼ばれるのは好きじゃないと本人から言われて呼び捨てで呼ぶことになった(慣れって怖いよね)。

 

 それと今後Δ小隊は、アラドさん、メッサー教官、チャック、ミラージュの四人体制でやっていくそうだ。まあ、当然の結果だろう。元一般人よりも元軍人の方がなにかと動きやすい。俺が隊長でもそうする。

 

 

ーーー

 

 

 8月25日 曇り

 

 最終試験まで残り4日。

 今日はいつも以上にコンディションが良くシミュレーションルームで籠ってしまった。

 

 整備スタッフのハリーさんとガイさんに心配されたので大丈夫だと伝えておいた。

 

 前みたいなドジはもう踏まない。

 

 

ーーー

 

 

 8月26日 雨

 

 最終試験まで残り3日。

 今日は雨だったので、ひたすらシミュレーションルームに籠って練習していた。一度は経験しておこうと思って難易度を最大まで上げてやってみたら10秒と待たずに撃墜された。

 

 何だよアレ、速すぎるだろ。照準合わせて撃っても当たらないし動きが奇怪的すぎて全く先が読めない。それで気付いたら後ろにいて被弾させられるんだぞ?

 

 どうしろって言うんだよ。

 

 えっと、確か機体の名前は……YF-19E、だったか?

 ガイさんたちにその事を伝えたら「あのバケモノに一度だけ勝てたのはただ一人、メッサーだけだ」と言われた。そしてそれは今後の目標をあの機体に一発叩き込むと決めた瞬間でもあった。

 

 

ーーー

 

 

 8月27日 晴天

 

 最終試験まで残り2日。

 飛行訓練では、対戦相手がメッサー教官なのでアラドさんに見てもらうことになった。YF-19Eのような奇怪的な動きを見せてくれた。とても参考になった。

 

 昼過ぎにミラージュも加わって、三人で飛行訓練に勤しんだ。だが途中から味方だった筈のミラージュが敵に変わり二対一の理不尽な闘いが始まって粉微塵に叩きのめされた。

 

 ハチマン、泣きそう……。

 

 

ーーー

 

 

 8月28日 晴天

 

 最終試験前日。

 事務作業を一通り終わらせて食堂に向かっていると通路でミラージュとチャックに出会うと応援してくれた。すれ違う職員にも応援され、何だか擽ったく感じていたらメッサー教官とバッタリ会った。

 

 メッサー教官はじっと此方を睨んで通り過ぎていった。

 

 明らかに獲物を潰す目。一瞬の殺気に体を震わせたがここで怯んではいけないと両頬を叩いて自分に活を入れ直して午後からやるアラドさんとの飛行訓練を励んだ。

 

 この二ヶ月近く血反吐を吐く思いを何度もしてきた。

 辛いこと全部飲み込んで力をつけてきた。後はそれを全部メッサー教官にぶつけるだけだ。

 

 




♪それ俺裏話♪

 実は八幡が恥ずかしそうにマキナのお胸様を見てるとき、マキナはその視線に気づいていながらも面白がって許していた。


次回  Mission 02 激烈 ドッグファイト

日記はこれからこんな感じで書くけど良き?

  • 良いと思う
  • 止まるんじゃねーぞ!
  • 待ちくたびれたぞ少年!!
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