the abyss of despair   作:佐谷莢

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第百七唱——「黙秘権を行使します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体誰に、旦那の暗殺なんか命じられたんだ?」

「収監されていた時に紙切れ貰っただけなので、何とも。それも牢番が燃やしていたので、証拠はないですよ。渡された首桶は僕が燃やしちゃいましたし」

「何でそんなことを……」

「大佐に安心してもらうために、目の前で焚き火にくべた」

「お父様はこのことをご存知なのかしら……」

「でも、僕は一度ナタリアを誘拐未遂して、今度はルークの誘拐に加担したことになってたわけで。もう情状酌量の余地はないってことで、成功見込み無しの、ただの死刑宣告だったかもしれないよ」

「もっと重大ではありませんか! 何故そのような、平然としていられるのです⁉︎」

「直接処刑されるよりはずっとマシ」

「……」

「か、カンタビレ教官と、知り合いだったのね……」

「知り合いてほどでもないけどね。僕は少なくとも、彼女のことは知ってたよ」

「ねえ、ママはなんでシアに……スィンにそんなこと頼んだの?」

「アニスが可愛かったからでしょ。ちゃんとした理由は聞かなかったけど」

「……モースに売ったとか、ないよね?」

「お給金には文句なかったし、その頃の僕は『大詠師様』と対等に話せる身分じゃなかったよ。主席総長を通じてトリトハイム詠師に話がいったはずなんだけど、どこから割り込まれたのかはわかんないや」

 

 アルビオールに戻ってから、問われるまま疑問に答えていくスィンではあったが──何もかもを答えたわけではなかった。

 

「じゃあジェイ「黙秘します」

「ええっと「違うことでお願いします」

「いや、だから──「お話しできることはありません」

「あの、スィ「黙秘ー」

 

 取り付く島もない。これでは、違う質問に移らない限り彼女は「黙秘ー」の一言しか語らないだろう。

 ため息をついて、ガイは違う質問をすることにした。

 

「俺にも、話せんか?」

「ガイラルディア様だからこそ、お話できません。コレを聞かせてお耳を汚したくないのです」

「そこまで言うか……?」

 

 ちらりとジェイドに視線を走らせ──眼をまともに合わせてしまったことを後悔しながら、彼はスィンに視線を戻している。

 一方で、膨れているのはアニスだった。

 

「ぶ~。気になるよぅ、スィンってばなんでそんなに大佐のこと憎ったらしいの~?」

 

 以前キムラスカより下された密命、ピオニー陛下と謁見したこともない、民間人でしかないスィンがなぜ彼と知り合い、確執を生んだのか。

 それに至る経緯を余すことなく、時にナタリアを気遣いながら話した彼女であったが、肝心要の、「スィンとジェイドの間にあった出来事」だけは、彼女は未だに話そうとしていない。

 

「もしかして、大佐に気を使ってる?」

「まさかあ」

 

 カマをかけるような問いであったが、スィンは即座に否定していた。

 

「ならいいじゃない、教えてよ~」

「……じゃあアニス。話してる間に僕が大佐を殺したくなったら、全力で大佐を守ってくれる?」

 

 唐突に発せられたその一言に、アニスのみならず一同がぎょっとしてスィンの顔を見つめている。

 真顔で、更に眼が笑っていないところを見ると、どうやら本気のようだった。

 

「ふとしたことで殺意は湧いても、みんなが知る通り大佐とは普通に接することができる。この場合、日常生活に支障をきたさないという意味でね。でも、確執を話すことで殺意が明確に形となったら……僕、簡単に暴走するよ。それこそカースロット発動中のガイ様のように」

 

 頑なに説明を拒むスィンに、ティアが首を傾げている。

 

「そこまで憎んでて、どうして今まで……」

「死なれても、いなくなられても、役立たずになられても、困る。大佐が有能すぎるんだもの。それこそ憎ったらしいほどに」

 

 そう言って、彼女は自分の荷袋をあさり始めた。取り出されたのは、一本の酒瓶である。

 小さなナイフで小器用に口をこじ開けるその所作を見咎めたのはナタリアだった。

 

「スィン、大丈夫なのですか? 今その状態でお酒を飲むのは……」

「今はとにかく呑みたい。止めないで」

 

 ナタリアを説得するそばから、直接口をつけてぐびりと呑む。

 一口飲んで、スィンは少しばかり驚いたように唇を拭った。

 

「どうしたんですか?」

「いや……辛いカレーが食べられないくらいだったから、味覚や粘膜も退行起こしていて呑めないんじゃないかと思ったんですけど。お酒は大丈夫みたいです」

 

 イオンの疑問に答えつつ、ごくごくっ、と煽る。

 ふうっ、と息をつき、その眼がアニスを見た。

 

「で、どうよアニス? 小さい僕なら、大佐護りきれそ?」

「うーん……その前に、ここで暴れたらノエルがキレると思う」

 

 考えてみれば、今はアルビオールでダアトに向けて航海中だ。

 スィンがジェイドに襲いかかっても、ジェイドがそれに応戦しても、アニスが戦闘状態に移行しても、どの道アルビオールはただではすまない。

 それもそうだね、と気楽に返しつつ、ぐいーっと酒瓶を傾ける。

 頬が赤くなっていくのを意識しながらあることを尋ねた。

 

「……ところでさ、質問が」

「なんだ?」

「謁見の間で、僕がしていたことを見たと言っていましたね。方法はさておき、一部始終を洩らさずご覧になっていたのですか?」

 

 それにガイが頷けば、彼女は更に頬の朱を濃くして「……そうですか」と返している。

 そのまま何かを考えるようにじっとしていたが、やがて酒瓶を抱えて椅子から飛び降りた。

 

「お、おい。スィン?」

「──酔っ払ったみたいです。頭を冷やしてきます」

 

 酔ったにしてはひどく明確な口調、そしてしっかりとした足取りで、彼女は歩き去っていった。

 困ったのは、残された彼らである。

 

「え、えーと。これは──」

「居づらくなったんでしょうね。端的に」

 

 何がどうなったのか、それをアニスが口に出して整理しようとしたその時、今の今まで口を開こうとしなかったジェイドがそう、呟いた。

 一同の視線が、あっという間に彼に集中する。

 

「あの、その。ジェイド──」

「無理に口をきこうとなさらずとも結構ですよ、イオン様。先に言っておきますが、私は答えません」

「いえ、そうではないんです」

 

 この場において唯一、ジェイドの威嚇が向けられないイオンの言葉を、彼は素直に耳を傾けた。

 

「なんですか?」

「大丈夫、ですか? スィンに敵意を向けられて」

「……あんなもの、敵意の内にも入りませんよ」

 

 そう言い捨てて、彼は仮眠スペースへと向かっている。

 スィンが向かった先とは、正反対の方角だ。

 

「ジェイド!」

 

 珍しく強い調子で彼を呼び止めるも、反応すらしない。

 追いかけるイオンについていこうか迷って、アニスはガイに呼び止められた。

 

「やめといたほうがいい。旦那がいかに不機嫌でも、イオンを傷つけるような真似はしないはずだ」

「……うん」

 

 こちらもやはり珍しく素直に助言に従い、その場に座り込む。

 その彼女が、ふぅっと息を吐いた。

 

「なんか……大変なことになっちゃったね」

「今まで何となく二人は不仲でしたが、ここへきて一気に表面化した、と考えたほうが自然でしょうか?」

「ピオニー陛下のお話を思い出すと、ずいぶん昔のことのようね。尋常じゃないとか、殺気とか……」

 

 話し合っても仕方がないことではあるが、それでも愚痴は言いたくなる。

 女性陣三人による井戸端会議じみた議論がなされる中、ガイが立ち上がって伸びをした。

 

「ガイ?」

「このままほっとくわけにもいかないからな。ちょっくら行って、事情のひとつでも聞き出してくるわ」

 

 言わずもがな、スィンのことである。

 軽く頭をかきながらスィンの後を追おうとするガイを、ルークが呼び止めた。

 

「な、なあ、ガイ!」

「ん? なんだ?」

「あ、あのさ……俺、ガイの代わりに行っちゃ駄目か?」

 

 思いもかけないルークの提案に、ガイの目が丸くなる。

 う~ん、と首をひねりながらも、彼は苦笑いを浮かべた。

 

「……ややこしくなりそうだなー」

「や、だって、ほら。前の態度のこともまだ謝ってなかったし、それに……」

 

 あせあせと言い募るルークを微笑ましく見守りながらも、ガイは彼の肩にぽんっ、と手を置いている。

 

「──頼むわ。俺が行けば気を使わせるだけかもしれないからな」

「あ、ああ!」

 

 たたた、と小走りに駆け去っていくルークの背中を見送り、ガイは小さく息をついた。

 

「あのルークが、スィンのことを気にかけるようになるなんてな──」

「長所は家柄しかなかった、我侭放題高慢ちき坊ちゃんから成長した証じゃないの?」

 

 明らかな揶揄をもってアニスが口を出す。

 しかし、ガイは首を振って驚くべき過去の話を始めた。

 

「いやな、ルークの奴初めてスィンの顔を見たときに、『目の色が違うなんて気持ちが悪い』って言ってたんだよ」

「え?」

「正確には『こいつ片方だけ目の色違うぞ!? きっもちわりぃな~』だったかな。『あんな奴を傍仕えにするなんてナタリアももの好きだ』とか、『あんな奴が妹だなんて、ガイも肩身が狭いだろ』とか……自分の子守役だったこと、完全に忘れちまったんだな、くらいにしか思ってなかったが、まあ、知り合って間もなかったから外見だけで判断してたんだろうよ」

 

 ガイやナタリアを通じて交流を重ねるうちにルークの偏見はいつしか消えて失せたが、それはあくまで表面的なものに限定されている。

 事実、ルークはヴァンと親しげに会話を交わすスィンを幾度か『給料泥棒』『雌猫』と罵って追い払ったことが幾度かあるのだ。

 単に師匠(せんせい)を独り占めしていた彼女に、嫉妬しただけかもしれないが。

 

「そんな感じで、少なくともルークはスィンにあんまりいい感情を持っていなかった。過去邪険に扱ったことを多少は悪かったと思ってるのかなと……」

「で、でもそれってさあ。反対にスィンが、ルークのことをすごーくすごーく嫌ってるんじゃない? そんなこと言われて、親善大使の時もこき使われて」

 

 もっともなアニスの言い分に、ガイは軽く嘆息した。

 

「こう言っちゃあなんだが……ガキのほざいたことをいつまでも気にする奴じゃねーよ、スィンは」

 

 

 

 アニスどころかガイにまで散々なじられているなどとは露知らず。

 ルークは幼児化したスィンの姿を捜して通路を歩いていた。

 

「……どこ行ったんだ?」

 

 アルビオールの内部は、構造上けして広いとは言えない。

 スィンが去ったのは入り口側の通路で、一人黄昏ることができる場所といえば旅荷を置く倉庫くらいなものである。

 しかし、ルークがいくら眼をこらしても、倉庫内にそれらしい人影を見つけることができなかった。

 ふと、海上に停泊中のアルビオールが揺れ、ゴロゴロという音が聞こえる。

 つられて足元を見れば、そこには先ほどスィンが抱えていった酒瓶が空の状態で転がっていた。

 倉庫にいない。通路にはもちろんいない。

 それでいて、ここにいた証拠がある。そこから導き出される彼女の居場所は。

 目前の扉に手をかけ、ルークは手動で扉を開いた。

 手動で開閉される場合、アルビオールに備え付けられたタラップは作動せず、扉だけが開いた状態になる。

 その先は、一面に広がる大海原だ。

 しかしルークは、その光景を一瞥しただけで、入り口のすぐ傍に備えつけられている整備用の梯子に手をかけた。

 短い梯子を上りきった、その時。

 

「……ルーク。トイレは奥を曲がって左だよ」

 

 気だるげな、そんな声がした。

 まるで幼児に言うような響きを持つその声に反発して、ルークの呼気が荒くなる。

 

「アホか! 別にトイレ探してきたわけじゃ──」

「そうなの? 僕はてっきり、アルビオールの屋根から放物線を描きたくなったのかと」

「さらりと下品なことを口にすんな! んなわけねーじゃねーか!」

「じゃあ、戻りなよ。風が結構冷たいから、あんまり当たってると風邪引くよ」

「……だったら、お前も降りてこいよ。風邪ひくだろ」

「生憎、酒飲んだから体はぽっかぽか」

 

 今のルークには絶対真似できない暖の取り方だった。

 いつになく馬鹿にするようなスィンの言葉にムッとして、ルークは梯子を上りきる。

 スィンは、アルビオールの翼に腰かけるようにして夜空を見つめていた。

 その体勢のまま、ルークを見ぬまま。スィンは再三の退去を勧告した。

 

「危ないよ、戻りなって。足滑らせても助けてあげられるか、わかんないよ。こんな体だし」

「お前こそ、そんなフリフリのビラビラじゃ落ちたとき大変だろ」

「好きでこんなカッコしてるわけじゃないやい」

 

 どこかで聞いたような台詞を口にしつつ、ふわわわ、と大きな欠伸をする。

 言動もさながら、ただの子供にしか見えないスィンの隣に、ルークは腰掛けた。

 潮風は重く、波間は穏やかだ。

 満天の夜空は独り占めしたくなるほど見事なもので、スィンがなかなか起き上がらない理由もよくわかる。

 そのまま、ルークは長い間口を開こうとしなかった。スィンもまた、彼に何を尋ねるでもなく引き続き天体観測へとしゃれこんでいる。

 

 ガイが語っていた通り──ルークはスィンのことを好きではなかった。

 

 いくら親友の妹として紹介されても、幼い彼には珍しさより奇抜さ、自分とは明らかに違うモノに対する恐怖というものもある。

 それ以上に、自分の尊敬するヴァンに対して人目を忍んでは親しげに触れ合っていたのだ。それだけでなく、幾度か共に城下町を歩いていたと、メイドからも聞いたことがある。

 何より許せなかったのは、普段は(いかめ)しいヴァンの顔が、彼女を見かけただけで和らぐことだった。それだけヴァンが彼女に心を許していると、子供心は極めて敏感に察知したのだ。

 あらかたの事情を知った今なら、説明はつく。

 誰であれ、表面的な姿が変わっていようと、愛しい妻の姿を見れば誰であれ心が安らぐだろう、と。

 

「……スィン」

「んー?」

「──ごめん」

 

 気のない返事が一転。小さな嘆息と共に、スィンはむっくりと起き上がった。

 幼かったルークが嫌悪を抱いたその眼は、遠い水平線をじっと見つめている。

 

「何が」

「俺……今までずっとスィンにひどいことしてきたのに、一度も謝らなかった」

 

 数え上げればキリがない。この旅が始まってからも、それ以前も。

 謝らなければならない事柄は天空に浮かぶ星の数ほど存在した。

 

「……全部ひっくるめて、今清算したい?」

「そういう意味じゃないけど、バチカルでお前がシンク追っかけていなかったときに、言われたんだ。そのときに、ちゃんと謝りたいって……」

「あのさあルーク」

 

 不意に口を開いたスィンが、ルークの懺悔を断ち切る。

 これまで呑んだくれて、ぐでぐでしていたとは思えないほどしっかりとした言葉で、彼女は言った。

 

「今日あったこと、今さっきのことで僕は正直機嫌が悪い。簡単に言うと全然余裕がない。だから、ルークのことを気遣ってやれない」

 

 遠まわしに、彼女が何を言おうとしているのか。何となく、分かった気がした。

 

「聞かなかったことにするから日を改めて。今は、あなたを傷つけるだけだから」

「違う!」

 

 自分の望むこととは百八十度反対のことを言われ、思わすルークは声を荒げた。

 その必死な声に、スィンは黙りこくる形で彼の続く言葉を待っている。

 

「許してほしくて言ったんじゃない」

「──そりゃ、例外を除いて偽りの許しなんかいらないでしょう」

 

 まぜっかえすような一言を黙殺して、ルークは続けた。

 

「スィンの本音が聞きたかったんだ。たとえ許してくれなくても、俺に恨みつらみをぶつければ少しは──」

「ふざけないで」

 

 ぴしゃりと鼻先で扉を閉じられたように、拒絶される。

 時間がたつにつれてどんどん苛立ちのこもる声は、敵意にも似た口撃と化した。

 

「自分が怒りの捌け口になる? 人を馬鹿にするもの大概にしてよ。確かに今はすごく腹が立ってるから、ちょっと気を抜いたらルークの思うようになりそうだよ。だけどそれであなたが傷ついても意味がないよ? 事態が泥沼化、もともと雰囲気ただれまくりなのに更に悪化させたいの?」

 

 一気にまくし立てて、ふとスィンの言葉が途切れる。

 どうしたのかとルークが見やれば、スィンは頭を抱えていた。

 苦悩に満ち満ちた声で、ぼそりと呟く。

 

「……ごめんね、これは八つ当たり」

 

 その声を耳にして、「気にするな」の一言が発せられることなく消えた。

 スィンは、ともすれば一気に溢れそうな憤怒を抱えてここにいる。

 思いを殺して、どうにかして押さえ込もうとしている彼女の姿を見て、ルークは自分の企みがひどく安易なもののように感じた。

 その努力を、踏みにじっているかのような錯覚に陥る。

 

「……」

 

 それでも、彼女を一人にしてやるという選択は取れなかった。

 こんなにも平静を欠いている彼女を、一人にはできない。

 だからというわけではない、と思うのだが。

 

「ル、ルーク?」

 

 いきなり引き寄せられて眼を白黒させているスィンを尻目に、ルークは退行したその体を腕の中に閉じ込めた。

 

「……嘘つき」

「は?」

「すっげぇ冷えてるじゃねーか。何が体ぽっかぽかだよ。ガイが言ってたぞ、女は体を冷やしちゃいけないって」

「……」

 

 その言葉を聞き、固まってなすがままにされていたスィンは、顔を上げて彼の顔を覗き込むようにした。

 

「紳士ぶるのもいいけどね。そろそろ君が寒くなる頃」

 

 まるで示し合わせたかのように、一陣の風が吹く。

 重く湿った潮風は、確かにルークの首筋をまんべんなく冷やしていった。

 

「うわさむっ」

「それ見ろ」

 

 悪寒に身を震わせたそのとき、ふとスィンの両腕がルークの首周りに通った。

 

「……スィン?」

「ティア、悪いね」

 

 なぜかティアに謝罪して、スィンはルークに体を寄せる。

 

「な、なんでそこでティアが出てくるんだよ」

「あ、なんだかちょっとあったかくなったよ」

 

 質問には答えず、まるでそこが赤いよと言わんばかりに耳を撫でた。

 真っ赤になったルークに控えめな笑声を零して、スィンはそろそろと身を離そうとする。

 そのままルークの胸の中から出ようとするスィンを、ルークは腕を狭めて拘束した。

 

「……ルーク。もう十分あったまったから。君は」

「いや確かにあったかい通り越して暑いけどな!」

 

 漫才じみたやりとりが、暗い海原のど真ん中に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

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