the abyss of despair   作:佐谷莢

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第十一唱——合流ならずして行く道は険しく

 

 

 

 断続的に、誰かが咳をしている。

 ぜいぜい、と苦しげな呼吸と止まる気配を見せない重そうな咳を聞き、ルークは眼を開けた。

 太陽はもう顔を出しており、起きるにはちょうどいい時間なのかもしれない。

 むくりと起き上がると、咳をしていた人物はあわてたように外套をかぶった。

 

「おはようございます、ルーク様。起こしてしまいましたか?」

「……そうだけどな。別にいいよ」

 

 スィンとルーク以外の面々はまだ眠っている。彼らより早めに起きたことに僅かな優越感を抱きながら、ルークは水をしぼった厚手の布で顔を拭いた。

 見れば、スィンの服装が乱れている。少し慌てた様子で直しているあたり、体でも拭いていたのだろうか。

 ううーん、と伸びをして眠っていた体をほぐしていると、ジェイド、ティア、ガイ、イオンといった順でそれぞれが起き上がってきた。

 

「おやルーク、早いですねえ。スィンに起こしてもらったんですか?」

「年寄りは朝早いってよく言うけど、大佐はまだまだお若いですね」

 

 朝っぱらから好調なジェイドの嫌味を──スィンの服装が乱れていたことに彼は気づいている──聞きようによっては何かを揶揄しているその言葉をスィンが応酬し、その間に全員が出立の準備を整える。

 と、それを目前にしてジェイドは突拍子もないことを言い出した。

 

腕相撲(アームレスリング)?」

「ええ」

「朝っぱらから何をおっしゃるんですか……」

 

 別にいいですけれども、と言いながらもスィンは余っている布を手に巻きつけている。

 握手すら嫌なのに、素手を握り合うなど御免こうむった。

 

「負傷しているほうでお願いします」

「……ちぇ」

 

 彼の目的など察するにあまりあるものだが、素直に応じられない。

 子供じみた反抗心に自己嫌悪しながら、反対の手のひらに布を巻きつける。

 

「悪質な反則行為が認められ次第、抱き潰します」

「……」

 

 その声音に普段の冗長な風情はなく、スィンは無言で巻きつけられた布から太いマチ針と画鋲を取り出していた。

 いつのまにか仕込まれていた小道具の数々に、他の面々は苦笑いを浮かべるしかない。

 

「お前、いつになく狡いな……」

「歴史は勝者が綴るものなんで。勝てば官軍、誇りなき戦いならば勝利こそがすべてです」

 

 ガイからの苦情も、このときばかりはなんのその。

 そんな紆余曲折を経て、二人はようやく対峙した。

 地べたに寝そべる形をとることで腕力だけの行使、肘の角度を同じように調整することで公平性を保つ。

 とはいえ、純粋な力比べでは言うまでもなく、昨日負傷が認められたその腕で勝利することは厳しい。が。

 

「なんで俺がこんなこと……」

 

 ぶつくさ言いながらも、ルークが二人の手を合わさっているのを確認して、審判役として押さえる。

 瞬間、スィンの手はぶるりと大きく震えた。ジェイドは気づいただろうか。

 ルークの手で手元が見えなくなった瞬間、ジェイドの親指、第一関節の辺りを握りなおすようにしたことに。

 

「んじゃいくぞー……はじ「そもさん!」

「せっぱ」

「どっせい!」

 

 審判役の手が離れた瞬間、スィンは気合と共にそれを発した。

 手首を捻るのではなく、掴んだ親指を吊り上げるようにしながら倒しにかかる。

 そのままジェイドの手の甲は地面に激突するかと思われたが……彼は純粋な筋力だけでそれを制止した。

 勢いのまま可能な限り力を振り絞っても、びくともしない。しかし、押し返されるわけでもない。

 

「ふむ」

「うぅっ……」

 

 わずか数秒ほどの出来事ではあったが、時がたつにつれてカタカタと震えが大きくなっていく。

 苦悶を色濃く表情に浮かせた彼女をまじまじと見やって、ジェイドはその手を解放した。

 

「あれ?」

「それだけ酷使できるなら、問題はなしと見ます。スィンも戦力と数えてよろしいですね」

 

 独り言のように呟くジェイドではなく、ガイがどういうことなのかとスィンに尋ねる。

 

「戦うことはできるかどうか試されたんですよ」

 

 それを証明するように、ジェイドは軽く足を引いてルークに向き直った。

 

「では、これから戦闘は私とガイとティアとスィンで担当するようにします。四人で陣形を張りますので、ルークとイオン様は中心で待機。もしものことがあればティアが離脱しますので、一緒に逃げてください」

 

 治癒術士の彼女なら最も生存率が高いと思われますので、と言われ、ルークはえ、と呟いた。

 

「お前はもう戦わなくていい、ってことだよ」

「お疲れ様でした、ルーク様。ここから先はお任せください」

 

 先を行くジェイドとイオンを追って、セシル兄妹もルークの前を行く。

 

「ま、待ってくれ!」

 

 数瞬の戸惑いの後、彼は全員に制止と戦闘に関する撤回を求めた。

 かわるがわる制止を促し、最終的にティアが説得を試みるが、失敗する。

 結局彼も戦う、ということでこの話は終止符を打ったが、スィンは心の中で複雑な思いを抱いていた。

 ここぞというところで逃げようとしない姿勢はさすが、と言うべきなのかもしれない。

 あのような状況で育てられた子供にしては、賞賛に値するべき点だろう。

 しかし、それ以外の点では──

 

「無理するなよ、ルーク」

 

 ガイの声で我に返り、先を行く全員の背中を眺める。

 この先に待ち受ける現実を憂い、スィンは小さなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一昼夜。一行はようやく、セントビナーの城壁を眼にすることができた。

 ここまでの行程で追っ手にかかることも、致命的な危機に陥ることもなかったが、その幸運はこれまでのようである。

 

「……入り口に、マルクトの軍服じゃない兵士がいますね」

 

 ジェイドの提案により、斥候を務めたスィンが一際高い木陰から降り立って報告した。

 彼は当初ガイに徒歩での斥候を頼んだのだが、そんなことはさせられないとスィンが木登りを披露したのである。

 

「危険ですね。身を隠していきましょう」

 

 ジェイドの言葉に従い、街道から外れて森の中へ入る。

 服や髪が枝に取られてぶうたれているルークをなだめながら、一行は木陰に隠れてセントビナーの眼前までたどり着いた。

 街の入り口は神託の盾(オラクル)兵が陣取っており、おそらく街中にも相当数の兵がいると考えられる。

 

「なんで神託の盾(オラクル)騎士団がここに……」

「タルタロスが停止した場所から一番近いのはこの町だからな」

「休息に立ち寄ると思われたのでしょうね。この分じゃ、エンゲーブも同じようなことになってるんじゃないですか?」

 

 ルークのぼやきにセシル兄妹が答える。それを見て、ジェイドが意外そうに言った。

 

「二人とも、キムラスカ人のわりにマルクトの地理に詳しいですねえ」

 

 ちらり、とスィンがガイに視線を走らせる。

 大丈夫だ、とでもいうように、彼はさらりと言ってのけた。

 

「卓上旅行が趣味なんだ」

「数年前の話だけど、僕はこの辺来たことあるから……」

 

 薄い笑みを浮かべながらとりあえずは納得したジェイドに、ティアは緊張したような声をかけた。

 

「大佐、あれは……!」

 

 ティアの示す先、巨大な門の眼前に止まった馬車から、神託の盾(オラクル)一般兵ではない面々が現れた。

《黒獅子ラルゴ》、《魔弾のリグレット》、《妖獣のアリエッタ》というタルタロス襲撃メンバーに続いて奇妙な仮面を被り、黒に緑の組み合わせという身軽な格好をした少年が馬車から降りてくる。

 

「仕留めそこないましたか……」

 

 ジェイドが呟く。ラルゴのことだろう、彼の外見からは今どのような状態なのかまったくわからないがどちらかといえば健在に見える。

 

「導師イオンは見つかったか?」

 

 リグレットが一般兵に聞くも、兵はかぶりを振って答えた。

 

「セントビナーへは訪れていないようです」

 

 それを聞き、桃色の髪の少女が口惜しそうに呟いた。

 

「イオン様の周りにいる人たち、ママの仇……この仔たちが教えてくれたの。アリエッタはあの人たちのこと、絶対許さない……」

 

 彼女の後ろに控えるライガを見て、まさかなあ、とスィンは思う。

 当時あの場にいたメンバーは気づいているか定かでないが、イオンはわずかに顔を曇らせていた。

 

導師守護役(フォンマスターガーディアン)がうろついていたって話はどうなったのさ」

 

 ぶっきらぼうに、仮面の少年が尋ねる。

 どこかで聞いたような、とガイが呟くが、スィンは早くも彼の正体を察知していた。

 あの濃い翠の髪といい、あの声質といい、彼は──

 

「マルクト軍と接触していたようです。もっとも、マルクトの奴らめ、機密事項と称して情報開示には消極的でして」

 

 アニスは無事のようですね、とジェイドが呟いた。

 当たり前のことを確認するかのような声音にアニスを知らないガイが首を傾げていたが、説明は後とする。

 彼らにとっては、結局何の収穫もない。ラルゴが首をうなだれ、獣のように呻いた。

 

「俺があの死霊使い(ネクロマンサー)に遅れを取らなければ、アニスを取り逃がすこともなかっただろう、面目ない……」

 

 すると。空から声が降ってきた。

 ──聞く者の大多数を不快にさせるような高笑いが。

 

「ハァーッハッハッハッハッ!」

 

 声とともに、空から椅子が降りてくる。

 豪華な、それも貴族が使用するような一人掛けのソファで、それには当たり前のように人が座っていた。

 色白で全体的に細く、兵士よりは学者のような風貌の男。

 白に近い銀髪を肩の辺りまで伸ばし、ふちのない丸眼鏡をかけている。軍服と称していいかわからない上着の襟はさながら巨大花の花弁のよう。

 乗り物といい、風体といい、一目で奇人変人の類だということがわかった。

 

「だーかーらー言ったのです! あの性悪ジェイドを倒せるのは、この華麗なる神の使者、神託の盾(オラクル)六神将、薔薇のディスト様だけだと!」

 

 性悪ジェイド。

 その単語は、ラルゴとは違った意味でジェイドのことをよく知る人物であるということが伺えた。

 

「大佐。お友達ですか?」

「いえ。間違ってもあんなのを友人にする輩はいないでしょう」

 

 その言葉に、スィンだけでなくルークやガイも素直に同意していた。

 

「薔薇じゃなくて死神でしょ」

 

 仮面の少年に突っ込まれれば、神経質そうに抗議している。

 

「この美し~い私が、どうして薔薇でなく死神なんですかっ!」

 

 しかし、その言葉に答える者はいなかった。

 ずれる話題を一気に修正するべく、リグレットが何事もなかったように話しかける。

 

「過ぎたことを言っても始まらない。どうする、シンク?」

「……おい」

 

 無視されたディストがもう一度抗議するも、今度は誰も相手しなかった。

 

「エンゲーブとセントビナーの兵は撤退させるよ」

 

 驚いたことに、少年──シンクは彼らの中で一番格上らしい。

 ラルゴがそれに抗議するものの、それに頷くことはなかった。

 

「あんたはまだ怪我が癒えてない。死霊使い(ネクロマンサー)に殺されかけたんだ、しばらく大人しくしてたら? それに奴らはカイツールから国境を越えるしかないんだ。このまま駐留してマルクト軍を刺激すると、外交問題に発展する。──奴らの中にわかりやすい目印もあることだしね」

 

 後ろでディストがわめくものの、彼はまったく気にすることなく自分の目のあたりを指した。

 

「カイツールでどう待ち受けるか、ね……一度タルタロスに戻って検討しましょう」

 

 リグレットの言葉に頷き、ラルゴは街を向いて撤退の命を叫んだ。

 そばにいた兵士がそれを受け、走り去っていく。

 四人を乗せた馬車がタルタロスのある方角へ走り去っていく中、一人残されたディストが悔しそうに唸っていた。

 

「きぃぃぃっ! 私が、美と英知に優れているから、嫉妬しているんですね──っ!!」

 

 今の会話をどう解釈すればそうなるのか、数々の謎を残してディストは空へ消えた。

 タルタロスとは別の方角を行ったようだが、彼は一体何をしているのだろうか。

 次々と馬車が出て行き、マルクト兵が門の左右に立ったとき、一行はやっとセントビナー入りを果たした。

 

「あれが六神将か……初めて見た」

 

 彼らが去っていった方向を見つめつつガイが呟くと、ルークはさっそく疑問を口にした。

 

「六神将ってなんなんだ?」

神託の盾(オラクル)の幹部六人のことです」

 

 正確には少し違うけどね、とスィンが心中で呟く。

 それを言ったところでイオンはおそらく知らないだろうし、誰かさんに怪しまれる種を作りかねないため、黙っていたが。

 

「でも、五人しかいなかったな」

「黒獅子ラルゴに死神ディスト、烈風のシンクに妖獣のアリエッタ、魔弾のリグレット……いなかったのは鮮血のアッシュでしたね」

 

 指折り数えて誰がいたのかを確認する。すると、ティアが硬い表情で付け加えた。

 

「彼らは、ヴァン直属の部下よ」

 

 ヴァン、という単語に反応したルークが、驚いたような声を上げる。

 そのままヴァンが戦争を起こそうとしている、と結論付けたティアに、イオンがその上にいるモースが発端だろう、と訂正する。

 ティアがそれを否定したところで、ルークもまた師匠(せんせい)が戦争を仕掛けるわけがないと反発する。

 ティアが当然のように反論すれば、ルークがそれにつっかかり、口論に発展するところをイオンが押しとどめた。

 

「二人とも、落ち着いてください」

「そうだぜ。モースもヴァン謡将もどうでもいい。今は六神将の目をかいくぐって戦争をくいとめるのが一番大切なことだろ」

 

 二人がかりで諭され、ティアが冷静になったようで謝った。

 が、ルークはやはり納得していないようでヴァンを擁護している。

 本当にうまく手懐けたよなぁ、と感心していると、キリのいいところでジェイドが仕切りなおした。

 

「──終わったみたいですねえ。では、私はマルクト軍の基地へ行ってきますので、宿を取って待っていてください」

 

 基地のほうへ向かおうとするジェイドに自分たちも行く、とルークは言ったが、ジェイドは首を振って却下した。

 

「今回は極秘任務ですし、あなた方を連れて行くと説明が面倒です。どのみち今日はここに一泊する予定ですから、別行動と行きましょう」

 

 微笑を残して去るジェイドを見送って、一行は宿へと向かった。

 その手前で、スィンはガイにこっそり話しかけた。

 

「──ガイ兄様。僕、ちょっと用事すませてきます」

「そうか? 早めに帰ってこいよ」

 

 軽く頷き、街のメインストリートの方向へ走り去る。その彼女を見送って、ガイは大きく嘆息した。

 

「スィン、どうかしたのか?」

「この間に買い出しすませてくる、ってさ」

 

 ──そうこうしているうちにスィンが戻らぬまま、ジェイドが帰還した。

 ジェイド一人が。

 

「ジェイド、アニスは……?」

 

 イオンの問いに、ジェイドは軽く首を振った。

 

「街を封鎖される前に次の場所へ向かったようです。手紙を残していきました」

 

 ポケットから取り出された手紙を、ジェイドはルークへ手渡した。

 

「半分はあなた宛のようです。どうぞ」

「アニスの手紙だろ? イオンならともかく、なんで俺宛なんだよ」

「読めばわかりますよ」

 

 いぶかしがりながらもルークは手紙を読んだ。

 

「親愛なるジェイド大佐へv

 すっごく怖い思いをしたけど、何とかたどり着きました☆

 例の大事なものはちゃんと持っていま~す。誉めて誉めて♪ 

 もうすぐ神託の盾(オラクル)がセントビナーを封鎖するそうなので、

 先に第二地点へ向かいますねv

 アニスの大好きな(恥ずかしい~☆ 告っちゃったよぅv)

 ルーク様v はご無事ですか? 

 すごーく心配しています。早くルーク様v に逢いたいです☆

 ついでに、イオン様のこともよろしく。

 それではまた☆

 アニスより」

 

 

 なんともいえない手紙の内容に、ルークは眉間を軽く揉んだ。

 

「……眼が滑る……」

「おいおいルークさんよ。モテモテじゃねえか」

 

 その声に振り向けば、ガイがにやにやしながら覗き込んでいた。

 彼だけではない、ティアにイオン、文面を知っているはずのジェイドや、いつの間に帰ってきたスィンまでそこにいた。

 

「ルーク様。女性から好かれるのはいいことだと思いますが、ほどほどにしておいてくださいね? ナタリア様に蜂の巣にされるのはお嫌でしょう?」

「あほ!」

 

 意地の悪そうな含み笑いを浮かべて野次るスィンに怒鳴りつけてから、彼女がいたことに驚く。

 

「お前いつの間に帰ってきてんだよ!? それに、それ……」

「ちょっとした変装です」

 

 服装こそ外套に包まれたままだが、印象が変化している。

 後ろで束ねられていた髪が外套の下に仕舞われたのか消失しており、片目が包帯で完全に覆われていた。

 緋色の眼を隠したせいか、更にガイと似通っている。

 

「変ってわけじゃねーけど、でも……」

「いえ。似合わないと思います」

 

 珍しくストレートに辛口のコメントを出したジェイドに、意地悪だなあ、とスィンが口を尖らせている。が、しかし。

 

「あなたは素顔が一番いいと、私は思いますよ」

 

 顔を紅くしろ、怒りでいい、照れてるとでも思わせろ! 

 

「──ご意見のひとつとして受け取りまーす」

 

 ちらりとジェイドを見やってから、そっぽを向く。

 しかしその頬は、ルークの髪色よりも赤い。

 

「おやおや、体は正直ですね」

「そういうことを妖しげに囁くのはやめてください。実際目立つのだから、追われている身として隠すのは必然です」

 

 やはりシンクの言葉が気になっていたのか、そう言って彼女は抱えていた袋を下ろした。

 背中を向けてグミやボトルの補充を始めるあたり、もう会話に参加する気はないらしい。

 

「……大佐、人の妹にちょっかい出すのはやめてもらえるか……?」

「そんなつもりではありませんよ。根が正直なだけです♪」

 

 にこにこしながらガイを軽くいなすジェイドに、ティアが話の軌道を修正した。

 

「大佐。第二地点というのは?」

「カイツールのことです。ここから南西にある国境で、フーブラス川を渡った先にあります」

 

 カイツールか、とガイが呟く。

 

「カイツールまで行けば、ヴァン謡将と合流できるな」

「兄さんが……」

 

 ティアが物憂げに呟くのを、ガイは聞き漏らさなかった。

 

「おっと。何があったか知らないが、ヴァン謡将とは兄妹なんだろ。バチカルの時みたいにいきなり斬り合うのは勘弁してくれよ」

「……わかってるわ」

 

 不承不承、彼女は頷いた。

 

「なら……アクゼリュス行きの橋を通ってフーブラス川を越え、街道を南下していくのが無難なトコか? 六神将が張ってる可能性はあるが、魔物とやりあうよりはまし……」

「ダメです。さっき旅人さんから伺いましたが、その橋なら自然災害が原因で壊れちゃったみたいですよ。フーブラス川を横断してカイツールへ行きましょう。そっちのほうが最短距離だし、今の時期だったら水嵩も水流も問題ない──って地元の方が言ってましたっ」

 

 水袋から突き出たストローをくわえつつ、スィンが投げ遣りにガイの案を却下した。

 考えながらでも、地図を見ながらでもなく、すらすらとルートを提案する二人に、ジェイドが眼鏡を光らせる。

 

「お二人とも、本当に詳しいですねえ」

「「だから──」」

「卓上旅行と来たことがある、でしょう? まあ橋が使えないというのは事実です。スィンのルートを取りましょうか」

 

 眼鏡を直しつつ、どこか違和感のある兄妹を盗み見る。

 二人はその視線に気づいているのかいないのか、思い出したように買い付けた周辺地図を取り出したスィンがガイへ渡し、それを手に彼はルークに詳細を説明していた。

 ティアとイオンもまた、その説明を聞いて自分なりにルートの確認をしている。

 

「橋が使えないってことは、アニスもその川を渡ったのか? 大丈夫かよ」

 

 ルークが気遣わしげに言うも、ジェイドは意味ありげに微笑してみせた。

 

「大丈夫ですよ。アニスですから」

「ええ。アニスですからね」

 

 彼女をよく知るイオンもまた、口をそろえて頷いている。

 やっぱりガイが首を傾げているが、表向きアニスのことを二人ほど知らないスィンでは説明できなかった。

 確かにそうそう簡単には死にそうにもない少女だったが……果たして。

 セントビナーの夕日が沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「そもさん」「せっぱ」とは、禅問答におけるかけ言葉です。

 問題を出すほうが「そもさん」=「問題出すよ」
 答えるほうが「せっぱ(説破)」=「答えるわ」

 転じて、勝負事の掛け声として使用しました。実際の使い方としてはたぶん間違っておりますので、真似なさらぬよう。
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