the abyss of despair   作:佐谷莢

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第十三唱——合流につぐ合流

 

 

 

 

 

 

 

 道中何事もなくカイツールへたどり着き。

 国境へ通じる門を見やり、ルークが指を差した。

 

「あれ、アニスじゃねえか?」

 

 見れば門を守るマルクトの警備兵に、小柄なツインテールの少女が目元に拳を当てながら哀願している。

 

「証明書も旅券もなくちゃったんですぅ。通してください。お願いしますぅ」

 

 可愛らしく、困ったという雰囲気を全身にまとっているものの、規律は規律とマルクト兵はそれに応じなかった。

 

「残念ですが、お通しできません」

 

 事務的に断れば、少女はふみゅう~、と呻いて、くるりときびすをかえした。直後。

 

「……月夜ばかりと思うなよ」

 

 とろん、と下がっていた眉がつりあがり、ドスの利いた低音で物騒な台詞を吐く。

 少女の豹変振りにルークもガイも驚いていたが、スィンはやっぱ中身はこんなんかー、と生暖かい眼で少女を見た。

 

「アニス。ルークに聞こえちゃいますよ」

 

 イオンの言葉に、アニスが、んあ? と柄悪く応じる。

 やっと一行の姿を認めたアニスは、はっ、としたように固まると、しなをつくってくねくね、とその身を震わせた。

 

「きゃわーんv アニスの王子様v」

 

 まるで別人のように、感激した様子でルークに勢いよく抱きつく。

 その様を見たガイがこっそりと「……女ってこえー」と呟いた。

 同性ながら、それにはスィンも同意見である。

 

「ルーク様v ご無事でなによりでした~! もう心配してました~!」

 

 幼い体をすり寄せながら、外野からはどうも胡散臭い台詞を並べている。

 ルークは彼女の思惑に気づいていないのか、きわめて普通に──わりと優しく返している。

 

「こっちも心配してたぜ。魔物と戦ってタルタロスから墜落したって?」

「そうなんです……アニス、ちょっと怖かった……。てへへ」

 

 普通のか弱い少女ならそのまま死んでもまったく不思議ではないのだが、そこは導師守護役(フォンマスターガーディアン)だからか、はたまた彼女であるがゆえんか。

 

「そうですよね。『ヤローてめーぶっ殺す!』って悲鳴上げてましたものね」

 

 どうやら後者の率が高いらしい。

 イオンによって彼女の本性がちらっと垣間見えたのはお気に召さなかったのか、アニスはルークから離れてイオンに迫った。

 

「イオン様は黙っててください!」

 

 が、苦情が終わるとすぐにルークへぴたっ、とくっつく。

 

「ちゃんと親書だけは守りました。ルーク様v 誉めてv」

 

 甘えるようにねだれば、やはり丁寧に接されて悪い気はしないのか彼は簡単に応じている。

 

「ん、ああ、偉いな」

「きゃわんv」

 

 やりとりがひと段落したところを見切り、ようやくジェイドが口を開いた。

 

「無事で何よりです」

「はわーv 大佐も私のこと心配してくれたんですか?」

 

 やっぱり玉の輿狙いなのか、ちゃんと向き直って照れた表情を見せている。スィンはそんな彼女よりも、アニスのことを心配していたらしい大佐に驚いていた。

 付き合いが長い人間になら、冷酷非情な死霊使い(ネクロマンサー)も多少は情を寄せるのか──

 

「ええ。親書がなくては話になりませんから」

 

 と、いうのはスィンの勘違いか、もしくは彼の性格を未だ見切れていない証なのかもしれない。

 大佐って意地悪ですぅ、とぶうたれるアニスとは裏腹に、ティアが平素と変わらぬ態度で今後のことを持ち出した。

 

「どころで、どうやって検問所を越えますか? 私たちには旅券がありません」

「ここで死ぬ奴に、そんなものは要らねえよ!」

 

 口汚い罵声が飛び込んできた。はっとした様子で飛びのくアニスと入れ替わるように、スィンが駆け寄る。

 飛び降りてきた影の斬撃がルークを襲う。

 それを逃れてだろう、彼は弾かれたように地面へ倒れこんだ。

 

「……如何様な、御用向きで?」

 

 倒れたルークの前に立ち、片刃の剣で相手の剣を受け止める。

 ルークに向けていた視線を戻せば、眼前にいるのはやはりアッシュだった。

 

「邪魔だっ!」

 

 力任せにスィンを弾き飛ばそうとするが、彼女は実に上手く剣撃を受け流している。

 結果、国境を前にしてチャンバラが始まった。

 

「ルーク様!」

 

 ルークの様子を気にしながら繰り出される攻撃を捌いているスィンに対し、アッシュは本格的に彼女を排除せんとしている。

 しかし、スィンが苦戦している風には見受けられない。

 それどころか、彼女は相手がどのように戦うのかわかりきっているかのように、ちらちら後ろを見ながら防御だけを行っている。

 苛々とアッシュが眉間にしわを寄せ始める頃、唐突に鋭い音がしてスィンの持つ剣が根元からへし折れた。

 基本的に足が動かせないため、受け流さずにそのまま剣撃を受けていたこと、今まで斬るだけではなく、盾として使用したことに要因がある。

 音を立てて回転する刃が、なぜかルークのすぐ横に突き刺さった。

 うおおっ! という悲鳴が聞こえる。スィンはアッシュの顔めがけて柄を投げつけた。

 

「あ、アブねーじゃねーか、アホ!」

「ごめんなさーい!」

 

 気のない謝罪を投げかけながらも、懐刀を抜いて応戦する。

 文句を言うべく、全身をしたたかに打っていたルークが起き上がろうとした。

 直後。

 

「アッシュ!」

 

 懐かしい、重厚にして低い男の声が空気を震わせる。

 まるで示し合わせたようにスィンが横へ飛びのくと、白を基調とした外套の、長髪を頭頂部近くでまとめた男がアッシュの前に立ち塞がった。

 その様子を見ながら、懐刀を収めてルークに駆け寄る。

 

「ルーク様、頭は大丈夫ですか?」

「……誤解を招く言い回しはやめろ……」

 

 スィンがルークのふくらんだ後頭部を確認している間にも、同じような長剣をはさんだ二人のやりとりは続いていた。

 

「……ヴァン、どけ!」

「どういうつもりだ。私はお前にこんな命令を下した覚えはない。退け!!」

 

 長剣同士をかみ合わせ、ヴァンが強く命じると、アッシュはしぶしぶ剣を収めて襲撃と同じくらい唐突に去った。

 それを見届けると同時に、ヴァンもまた剣を収めてルークたちに振り返る。

 その姿を認め、ルークは嬉しそうな、それでいて安心したような喜色に満ちた声を上げた。

 

師匠(せんせい)!」

 

 彼の前で無様な姿はさらせないと無理に起き上がる。

 う、と姿勢を崩したルークを、スィンが支えた。

 

「ルーク。今の避け方は不様だったな」

「ちぇっ。会っていきなりそれかよ……」

 

 どんな言葉を期待していたのか興味の湧きどころではあったが、師弟の再会という和やかな雰囲気はもろくも崩れ去った。

 

「……ヴァン!」

 

 アニス以上にまなじりを吊り上げ、ティアが投げナイフを掲げ持つ。

 美人なだけに迫力も半端ではないその様子は、公爵家の屋敷で見た彼女の印象とも重なった。

 しかしその瞳が映すヴァンに動じた様子はなく、剣の柄に手をかけようともしない。

 

「ティア、武器を収めなさい。お前は誤解をしているのだ」

「誤解……?」

「頭を冷やせ。私の話を落ち着いて聞く気になったら、宿まで来るがいい」

 

 そう行って歩みだすヴァンの背中に、普段を考えたらまるで別人のようになったルークが声をかけた。

 

「ヴァン師匠(せんせい)! 助けてくれて……ありがとう」

 

 わずかに照れたような彼の言に、ヴァンは振り返ることもなく、しかし優しく今までをねぎらった。

 

「苦労したようだな、ルーク。しかし、よく頑張った。さすがは我が弟子だ」

「へ……へへ!」

 

 嬉しくてたまらない、といった様子のルークを、スィンがこっそり垣間見る。

 年相応であると同時に、師匠以上の親しみを抱いていることがよくわかった。

 事情を知らない者が見れば、異常と感じられるほどに。

 

「スィン」

 

 ふと名を呼ばれ顔を上げると、細長い棒が飛んできた。

 右手で受け取る。ゆるく弧を描いた木製の棒はなんの飾りげも無く、ルークの目には変わった杖のように見えた。

 しかし、スィンにとっては違うらしい。

 その証拠に、スィンはそれが何なのか、受け取った瞬間にあっ、と声を上げた。

 

「血桜……! 持ってきてくださったんですか!?」

「ペール殿から預かった。道中無手ではつらかろうとのことでな」

 

 その言葉を聞くや、スィンはそれを抱きしめ、満面の笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます、ヴァン謡将!」

 

 無邪気な笑顔を浮かべる彼女に軽く手を振り、ヴァンは今度こそ宿舎へ去った。

 嬉しそうな笑顔もそのまま、彼女は腕の中にあるそれを見つめている。

 

「なあ、その木の棒ってなんなんだ? 杖じゃないのか?」

 

 違いますよ、と笑顔で答え、スィンは木の棒の端を握り、抜いた。

 鮮やかな緋色の刃が陽光に反射して、細身に似合わぬ獰猛な光を放つ。

 

「そういえば、言っていたわね。血桜があれば、って……」

「まあねー。でも、ヴァン謡将が持ってきてくれるとは思わなかった」

 

 にこにこと刃を収め、エンゲーブで購入した剣帯に差したスィンを見ながら、イオンは未だにナイフを携えるティアに微笑んだ。

 

「ティア。ここはヴァンの話を聞きましょう。分かり合える機会を無視して戦うのは愚かなことだと、僕は思いますよ」

「そうだよ。いちいち武器抜いて、おっかねー女だな」

 

 イオンの言葉に便乗し、本気なのか冗談なのかよくわからない嫌味を飛ばすルークだったが、ティアは相手にしなかった。

 ただ一言、

 

「イオン様のお心のままに」

 

 儀礼的に呟いただけである。

 

「じゃあ、ヴァン謡将を追っかけるか」

 

 ガイの提案に頷き、一行は宿舎へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿舎の中で、ヴァンはまんじりともせず一行の到着を待っていた。

 

「頭が冷えたか?」

 

 開口一番、一回りも離れた妹に尋ねるヴァンに、彼女は警戒を崩さず詰問した。

 

「……なぜ兄さんは、戦争を回避しようとなさるイオン様を邪魔するの?」

 

 硬い声で、疑心に満ちた様子の彼女に、ヴァンは軽く嘆息している。

 

「やれやれ。まだそんなことを言っているのか」

「違うよな、師匠(せんせい)!」

 

 彼を擁護するように、彼との会話に入らんと口を挟むルークにティアも対抗しかけた。

 

「でも六神将がイオン様を誘拐しようと……」

「落ち着け、ティア。そもそも私は、何故イオン様がここにいるのかすら知らないのだぞ。教団からは、イオン様がダアトの教会から姿を消したことしか聞いてない」

 

 もっともな説明にティアが口をつぐむ。

 自身の招いた兄妹の誤解をほどくように、イオンが謝罪した。

 

「すみません、ヴァン。僕の独断です」

「こうなった経緯をご説明いただきたい」

 

 それを怒るでもなく、淡々と事情の説明を乞うヴァンに、ジェイドが進み出た。

 

「イオン様を連れ出したのは私です。私がご説明しましょう」

 

 これまでの経緯──マルクトの皇帝の命を受け、和平のために親書を持ってキムラスカへ向かうその行動を、六神将が阻もうとしていることをジェイドは極めて淡々と語った。

 いくらか省略されている分もあるが、それは蛇足というものだろう。

 すべてを聞き終え、ヴァンは軽く嘆息した。

 

「……なるほど、事情はわかった。確かに六神将は私の部下だが、彼らは大詠師派でもある。おそらく大詠師モースの命令があったのだろう」

「なるほどねぇ。ヴァン謡将が呼び戻されたのも、マルクト軍からイオン様を奪い返せってことだったのかもな」

 

 納得したように軽く頷いているガイを見、ヴァンも賛同する。

 

「あるいはそうかもしれぬ。先ほどお前たちを襲ったアッシュも六神将だが、やつが動いていることは私も知らなかった」

 

 暗に無関係だというヴァンに、ティアは柳眉を逆立てて詰め寄った。

 

「……スィンはラルゴに、あなたの部下によって腕を失うところだったのよ? それでも兄さんは無関係だって言うの!?」

 

 激昂したように声を跳ね上げるティアに、場違いとは思いながらスィンはきわめて軽く言った。

 

「ティア、結果的に無事だったから──」

「よくないわ! 私が治癒術士でなければ、あなたが第七音素(セブンスフォニム)で治癒の増幅をしなければ、あなたの腕はとうに失われていたのよ!」

 

 つらそうに眉根を寄せているティアに、スィンは落ち着くよう伝えた。

 

「ありがと、心配してくれて。でも大丈夫だから、先のこと、考えよう?」

 

 唇を噛んでうつむくティアをジェイドに任せ、スィンはヴァンを見た。

 

「……彼らに行動の自粛を命じるくらいは、してくれますよね?」

「善処しよう。最も、この状況下でどの程度の効果があるかはわからんが」

 

 そこでガイが思い出したように、旅券のことを口にした。

 

「ヴァン謡将、旅券の方は……」

「ああ。ファブレ公爵より臨時の旅券を預かっている。念のため持ってきた予備を合わせれば、ちょうど人数分になろう」

 

 計七枚の旅券がルークの手に渡される。

 それを珍しげに見ながら、ルークは呟くように言った。

 

「これで国境を越えられるんだな」

 

 しかしヴァンは、はやるルークを抑えるようにここでの休憩を提案する。

 

「ここで休んでからいくがいい。私は先に国境を越えて、船の手配をしておく」

「カイツール軍港で落ち合うってことですね」

 

 諸々の手続きの手間を考えた合理的な判断に、ガイが頷いた。

 

「──ところでティア、お前は大詠師旗下の情報部に所属しているはず。何故ここにいる?」

「モース様の命令であるものを捜索しているの。それ以上は言えない」

「……なるほど。第七譜石か」

 

 呟くように言って、彼は一行の隙間を通るように部屋を出ていく。

 行きがけにさりげなく肩を叩かれ、スィンは第七譜石とは何か、ルークにかわるがわる語っている面々を見ながら彼の後を追った。

 宿舎を出て、ヴァンは国境をくぐらずその裏に回る。

 譜を口ずさみながらついていくと、ある地点でヴァンがくるりと向き直った。

 

「……ここなら、見咎められることもあるまい」

 

 大きな手が華奢な肩に回る。一歩足を踏み出せば、そのまま力強く抱き寄せられた。

 身を預けるようにその胸に顔を埋め、抱き合うこと少し。ヴァンの手が包帯にかけられ、色違いの瞳があらわとなった。

 

「……苦労をかけた」

 

 視線を強く絡めたまま、首を横に振る。

 腕の具合を問われ、今や何の問題もないことを告げる。

 再び抱きしめられ首にわずかな痛みが走ったのと同時に、耳へ囁きかけられた。

 

「連れて行きたいのは山々だが……ルークを見張っていてもらいたい」

 

 わかってるよ。

 一言、そう呟けばヴァンはゆっくりと体を離した。

 

「頼む」

 

 わずかに眼を閉じ、勢いをつけて離れた。

 解かれてしまった包帯を再び巻きつけて、一礼する。

 

「お気をつけて。ヴァン謡将」

「それと……」

 

 手招きをされてついていけば、再び宿舎の前へ出た。

 ルークが強襲を受けた国境ゲートの前まで行くと、ヴァンは振り向き様、突然剣を抜いて斬りかかる。

 スィンの死角、左側から繰り出されたそれを、短刀で受け流した。

 同時に、腰の血桜を抜いてヴァンの顎の下へゆっくりと差し込む。

 わずかでも動けば、容赦なく刃が首を掻き切るという位置で静止した。

 

「師匠!?」

「スィン!?」

 

 スィンの姿が見当たらない、と宿舎から出てきた面々は、光景を見て驚いた。

 ここまで、とでも言うように、ヴァンが剣を引いた。同時にスィンも両の剣を収めている。

 

「お前、に何を──!」

「落ち着け、ルーク。私が仕掛けたものだ」

 

 剣を収めるやいなや、ルークがスィンの襟首を掴んで問いただした。即座にヴァンが制止する。

 襟首を掴まれ軽く宙吊りになったまま、スィンはこともなげに嘘をついた。

 

「こんな眼でルーク様の護衛が務まるか否か、試されたのですよ」

「ああ。反応できないようなら私の補佐をさせようと思っていたところだ」

 

 へ? と心底驚いたようにヴァンを振り返る。かの人はすでに国境を渡っていた。

 

「……アニスとイオン様は?」

 

 ルークの手を外して、見当たらない顔の居所を求めれば、ジェイドが眼鏡を直しながら宿で休んでいますよ、との答えを返してきた。

 

「ところでスィン。首にあるアザのようなものはなんですか?」

「──? そんなものどこに……」

 

 手鏡を取り出して首を確認してみる。乱れた襟首の内側には、内出血のような痕が確認できた。

 ふと、先ほどのことを思い出す。そういえば、ヴァンと抱き合ったとき、首にわずかな痛みが走ったような……

 流石にそれを白状するわけにはいかない。スィンはごまかすことにした。

 

「本当だー。虫刺されかなー」

 

 頑張って不思議そうに首をひねっているスィンをじっと見つめていたジェイドであったが、ふと彼女に歩み寄った。

 

「え?」

 

 警戒するよりも早くひょいっ、とジェイドの顔が首に迫る。

 その口が、かぱりと開いて──

 

「──っ、ひ……っ!?」

 

 無我夢中で引き剥がす。光景に頬を染めているティアの後ろに隠れて確かめるも、噛まれた跡はない。

 安堵して、スィンはティアの肩越しにジェイドを睨んだ。

 

「この吸血鬼め、お食事なら他所でやれ!」

「私はバンパイアではありませんよ。鏡になら映ります。流水も太陽光も平気、十字架もにんにくも平気な吸血鬼は──」

「生き血をすする魔物から転じて、無慈悲に人を苦しめて利益を搾り取る人間という意味もありますよ」

 

 揶揄に対してジェイドは珍しく生真面目に反論するも、大佐にぴったりだと嘯かれ。

 彼は薄笑みを浮かべて眼鏡を怪しく光らせた。

 

「若年者の血には若返りの効用があると聞きかじりました。吸血の習慣はありませんが、ちょっと試してみましょうか」

「それ、全身の血液を入れ替える勢いで輸血すると効果があるという研究結果。飲血じゃ意味ないですよ」

「なんで二人ともそんなこと知ってるのかしら?」

「俺に聞かないでくれ……」

 

 まるで手術を控えた医者のようにかぎ爪の形をさせた手で迫るジェイドからスィンが逃れる。

 騒ぎが気になったのかイオンとアニスが宿舎から出てきた。

 

「ねえ、何騒いで──あれ?」

 

 ヴァンの姿を追って国境の先を見るルークを見、ジェイドと鬼ごっこを興じる真剣な顔つきのスィンを見、とても複雑そうに二人を見ているガイを見、生暖かい眼で光景を見守るティアを見──

 少女がどんな笑みを浮かべたのか、それを知るのは導師ただ一人だった。

 

 

 

 

 

 




ヴァンとの関係は「そういうこと」です。この先必死で隠してますけどね(笑

ジェイドとの絡みは、伏線と趣味が八対二の割合です。嫌いな方には申し訳ありませんが、この先も似たようなことが発生します。
ルークはまず騒ぎに気づいておらず、捕まったら抱きつぶされると彼女は真剣です。
「また始まったよ」とガイはあきれており、「また始まったわ」とティアもあきれています。
合流したアニスはそれとなく、人間関係を把握し始めておりましたとさ。
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