the abyss of despair   作:佐谷莢

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第二十三唱——かくて二人は出会いを果たす

 

 

 

 

 

 そんなこんなで。

 寂れた工場内、いつの間にか住み着いた魔物を倒し、いくつかの天空客車を乗り継いだ一行の行く先に待っていたのは、鼻をつく異臭だった。

 

「なんか臭うな」

 

 同じ工場内を歩いてきたのだが、天空客車を乗り継いだせいか異様に気になる。

 

「油臭いよぅ!」

 

 小さな鼻をつまんで文句を呟くアニスに賛成するように、ガイが周囲を見回した。

 

「この工場が機能していた頃の名残かな? それにしちゃ……」

「待って! 音が聞こえる……。……何か……いる?」

 

 かさかさっ、というほんのわずかな音だったために、ナタリアは聞き逃したらしい。

 

「まあ、何も聞こえませんわよ」

 

 ナタリアは言ったが、一行の大半は暗黙のうちにティアの意見を採用していた。

 

「いえ……いますね。魔物か?」

 

 ジェイドの一言に反応し、彼の実力をよく知る面々は一斉に警戒態勢へ入った。

 一方、ナタリアはどうすればいいのか困惑し、弓を取るのも忘れて何が来るのか周囲を見回している。

 ふと、ナタリアの真上に影がさした。スィンが警告を上げる前に、ティアが飛び出す。

 

「危ない!」

 

 ナタリアを引いてティアがその場を飛びのいた瞬間、巨大な何かが落ちてきた。

 

「うわっ! きたーっ!」

 

 アニスが思わず叫んだのも、無理はない。

 いきなり現れたそれは、ぶよぶよとした体を揺らす巨大なスライム──が足を生やしたような、不気味なフォルムをしていたからだ。

 

「……何、これ?」

 

 とりあえず威嚇しようとしてか、スィンがミュウに頼んで第五音素(フィフスフォニム)を正体不明の魔物に放っている。流石に火吹き芸はしない。

 

「ふぁいあー!」

 

 炎が魔物に着弾した瞬間。体表皮が可燃性だったのか、魔物は景気よく燃え始めた。

 

「どわーっ!」

 

 トクナガをあやつり接近しかけていたアニスが、突如燃え上がる炎に驚いて後ずさる。

 そういえば、あのでっかくなるぬいぐるみは可燃性なのだろうか。でも戦闘用人形なら、多少のことで傷つきはしないはず──

 

「見て!」

 

 ティアの声で我に返れば、燃えていたはずの魔物は着火したぶよぶよ鎧を脱ぎ、巨大な蜘蛛の姿となって突進してきた。

 長刀──血桜を抜くと共に伸びてきた足の一本を切断する。

 大蜘蛛の平衡感覚が失われた一瞬、ガイの「弧月閃!」という声が聞こえ、さらにルークの追い討ちがまともに入った。

 

「瞬迅剣!」

 

 度重なるダメージに、巨体が大きく傾いだ。更に空中を切り裂いて蜘蛛の頭部に矢が突き刺さる。そして、後ろで紡がれていた詠唱が今、完成した。

 

「アピアース・フレイム!」

「燃え盛れ、赤き猛威よ──イラプション!」

 

 人為的なフィールド・オブ・フォニムスにより属性を変えた譜術は、発生した溶岩の塊を全身に浴びてあちこちを墨にしながら足を丸める。

 よもやぴくりとも動かなくなった巨大すぎる蜘蛛を見て、ルークは戦闘を終えたこと、一時的に気温が上がったことによる汗をぬぐいながら剣をしまった。

 

「な、なんだったんだ。この魔物はよ……」

「この辺じゃ全然見かけない魔物だな。こりゃどう考えても蜘蛛……だよな?」

 

 現れたときの姿が蜘蛛からかけ離れていたせいか、確かめるように妹を見る。

 

「さっきミュウと一緒に先行した時、これみたいなものはいたけど、あのぶよぶよって……」

「油を食料にしている内に、音素暴走を起こして突然変異を起こしたのかもしれませんね」

 

 やけに燃えやすかったようですし、とジェイドがしめれば、ナタリアは遠慮がちにティアへ話しかけた。

 

「……あ、あの。ティア」

「何?」

「ありがとう。助かりましたわ。……あなたにもみんなにも、迷惑をかけてしまいましたわね」

 

 当初のルークに、否、今のルークにも爪の垢を煎じて飲ませたいくらいの謙虚さである。

 合流したばかりの態度の継続を予想していたティアにとって、これは衝撃だったようで、その顔にははっきりとした驚愕が浮かんでいた。

 

「……いいのよ」

「よくねぇよ。足ひっぱんなよ」

 

 どうしても現在の事柄にしか視野にいれないルークを、何か言いたそうに、しかし無言でティアは見ている。

 そんな視線にも気づかず、ルークは目先の問題を話題と出した。

 

「ところで、排水施設ってのは一体……」

「下のほうじゃないかな……」

「そんなことしなくても、あそこに非常口がありますよ」

 

 スィンの言葉にそちらを見るが、ただの壁のように見える。

 歩み寄る彼女を見ていると、スィンは結構な勢いで壁を蹴りつけた。蹴られた壁の一部があっさりと外れ、音素灯とは違う光を招いている。

 

「よし。あそこに梯子を降ろせば、外に出られるな」

「はいですの、ご主人様。ここを抜ければ、あとは目指せケセドニア! ですのね」

 

 この廃油臭い工場から出られるとあって気分が高揚しているのか、珍しく彼はミュウに対して反応しなかった。

 

「ケセドニアへは砂漠越えの準備が必要よ。途中にオアシスがあるはずだから、そこで一度休憩しましょう」

 

 ティアの言葉を聞きながら、歩んでくるスィンの方へ行こうとする。

 すると、ナタリアがガイにこんなことを提案してきた。

 

「ガイ。あなたが先に降りなさい。わたくしが足を滑らせたら、あなたが助けるのよ」

「……俺がそんなことできないの知ってて言ってるよな」

 

 スィンに頼んでくれ、といわんばかりのガイに、ナタリアはまたいらないことを心配している。

 

「だってそれを克服していただかないと、ルークと結婚したときに困りますもの」

 

 それを聞くなり、アニスは大仰なしぐさでルークに抱きついた。

 彼は反射的に引き剥がそうとしているが、女の子相手に本気にはなれないのか、なかなか外れない。

 

「ルーク様はもっとず~っと若くてぴちぴちのコがいいですよねっv こんなでっかい説教魔人なんかじゃなくて♪ 婚約なんていつでも破棄できますしv」

 

 明らかに誰かを意識しているアニスに、ナタリアはじろり、と頭の悪そうな神託の盾(オラクル)を見た。

 

「……なんですの」

「何よぅ……!」

 

 ナタリアは腰に手を当て、アニスはルークにしがみついたまま。一人の男を巡って女の戦いが繰り広げられている。

 その光景を見、ティアは額に手を当てながら呆れたように呟いた。

 

「ルーク。あなたって最低だわ」

「何なんだよ! 俺のせいかよ!」

 

 傍から見ればそうなのだが、当人にとっては濡れ衣である。

 そんな光景を楽しそうに見ながら、ジェイドもいらない一言を公言していた。

 

「やー。仲が良さそうで何よりです」

「あんたの目は節穴かっつーの!」

 

 もしくはガラス玉、と思いながら、スィンはたぶん、和気藹々としている彼らに背を向けた。

 苦笑いしながら見守っているガイのもとへ向かう。

 

「水の気配がします。大事には至らないよう、ナタリア様は僕が支えるので、ガイ兄様はルーク様をお願いします」

 

 ん、ああ、というガイの返事にかぶさって、ルーク争奪戦を繰り広げている彼女らを横目にジェイドが尋ねてきた。

 

「あなたは参加しないのですか?」

「──あんな子供に何をしろって言うんですか。冗談きついですよ」

 

 思ってもみなかった返事に、ジェイドは思わず眉根を寄せた。

 以前ガイから聞いたスィンの年齢は二十歳である。ルークを子供と言い切るほど年を取っているわけではない。

 なんとなく、わかるような気はしたが。

 

「水の気配ってのは……?」

「外、雨が降っているみたいです。僕では、もしルーク様が足を滑らせたとき、支えることができませんので」

 

 スィンは備えられていた縄梯子の強度を確かめている。

 大丈夫だということを確認した後、それをしっかり取り付けてから、まだ揉めている彼女らの間にずかずかと割り込んだ。

 

「さぁさ、続きはここを出てからにしてくださいね」

「続けさせるな! つーか、助けろ!」

 

 ほんの小さな嘆息をして、とりあえずはアニスを剥がそうとして。

 スィンはわずかに残っていた巨大蜘蛛のぶにぶに体組織を踏み、ルークへと倒れこんだ。

 

「ぅわたっ!」

「どわあっ!」

「きゃうっ!?」

 

 結果、アニスを弾き飛ばしてルークを押し倒すようにスィンは床を転がるハメになる。

 しかも、立ち位置がずれ込んだせいか、ちょうどルークの顔に胸を押しつける形だ。

 それにいち早く気づいたスィンは、ぱっ、と起き上がると、小さく咳払いをしてからルークを助け起こした。

 

「──失礼いたしました」

「お、おう……」

 

 真っ赤に染まった頬ですねたようにルークを見れば、彼はしっかりと感触を確かめたらしく、やはり顔を赤くして自分の頬を触っていた。

 

「いやうらやましい。役得ですね」

 

 やっぱり笑顔を絶やさないジェイドに、粛々と抜刀の体勢に入ったスィンが低い声でルークに囁く。周囲をじろりと睥睨しながら。

 

「……ルーク様。あのおっさんを叩っ斬る許可を」

「へ? だ、駄目だ。戦争が起きるだろ!」

 

 ——偶然を装って一応確認だけはしたが、やはりスィンの密命を知る者はいない。

 チッ、と音高く舌打ちするスィンの本性を垣間見た一行は、どうにかこうにか、梯子を降りることになった。

 こちらの言うことも聞かず、一番に降りてしまったルークを追い、ガイ、ジェイド、アニス、次にナタリアが下りるというのでスィン、最後にティアという順番で濡れた地面へ降り立つ。

 すると、ルークがあらぬ方向を見ていることに気づいた。

 

 同じ方向を見れば、巨大な陸艦が鎮座している。その手前に、何人かの人影が立っていた。

 もうすっかり見慣れてしまった神託の盾(オラクル)兵に脇を固められたイオン、そのすぐそばに、真紅の長髪を雨にさらしている黒を基調とした外套の男が──

 こちらを向いていたイオンの視線で気づいたのか、黒衣の青年が振り向いた。

 そのとき、すでにルークは剣を携えて駆け出している。

 

「イオンをっ、返せぇ────っ!!!」

 

 相手が人であるにもかかわらず、剣を抜ききったルークは黒衣の青年に肉薄した。相手も、黒い長剣を抜き放って応戦している。

 激しい剣戟が響き渡る、が──それは数瞬のこと。

 二人が互いの姿を認め合い、ルークが驚きに目を見開いたそのとき。

 

「おまえかぁっ!」

 

 黒衣の青年が大きくルークを跳ね飛ばし、二人は剣をかまえて睨み合った。やがて、どちらからともなく剣を降ろす。

 ジェイドを除く仲間たちが驚愕の声を洩らす中、ガイがルークの名を呼んだ。その声で、スィンもはっ、と我に返る。

 ぬかるんだ地面を蹴ってルークの元へ辿りついた。呆然とアッシュの顔を見つめるルークの様子をうかがいながら、刀の柄に手を添える。

 そこへ、ほどなくしてバチカルの入り口にいたというシンクがアッシュの後ろへ来た。

 

「アッシュ! 今はイオンが優先だ!」

「わかってる!」

 

 きびすを返しかけ、アッシュはルークを睨めつける。

 

「いいご身分だな! ちゃらちゃら女を引き連れやがって」

 

 そのまま彼らはタルタロスへ撤収すると、陸艦は轟音と共に去って行った。

 追いつけるものではないし、追いかけることもできない。ルークは呆然としたまま、呟いた。

 

「……あいつ……俺と同じ、顔……?」

 

 うっ、と口を押さえて呻く彼をあわてて支える。滅多に見ない青白い顔色を見て、スィンはルークの好きにさせた。

 ふらふらと工場跡の壁に手をついて胃の中のものを逆流させる彼の傍につき、背中を撫でさする。

 後ろでは、二人をのぞく一同が彼と同じように困惑をあらわにしていた。

 

「……どういうこと?」

 

 ナタリアが呟くが、答える者はいない。

 あの状況下でも冷静だったジェイドは、更に冷静に意見を述べた。

 

「ところで……イオン様が連れて行かれましたが」

「……あああ!! しまったーっ!」

 

 アニスが今気づいた、というように頭を抱えている。それを機とし、ジェイドはさりげなく話題を変えた。

 

「どちらにしても、六神将に会った時点でおとり作戦は失敗ですね」

「バチカルに戻って船を使ったほうがいいんじゃないか」

 

 効率を考えれば、そちらのほうが利口だ。しかしこの意見を、ナタリアが却下した。

 

「無駄ですわ」

「……なんで」

 

 口をゆすぎ、どうにか落ち着いたルークが、スィンの肩を借りて一行の下へ行く。

 

「お父様は、まだマルクトを信じていませんの。おとりの船を出港させた後、海からの侵略に備えて港を封鎖したはずです」

 

 海路を断たれたことで、ティアが陸路を行くメリットを見つけ出した。

 

「陸路に行って、イオン様を捜しましょう。仮にイオン様が命を落とせば、今回の和平に影響が出る可能性もゼロではないわ」

「そうですよ! イオン様を捜してください! ついででもいいですから!」

 

 ティアの提案、アニスの嘆願を受け、ジェイドは決定をルークに丸投げする。

 彼の発言を尊重するためだ。けして嫌がらせではない。多分。

 

「決めて下さい、ルーク。イオン様を探しながら陸路を行くか。或いはナタリアを陛下に引き渡して、港の封鎖を解いてもらうというのも……」

 

 その代わりとして、もっとも効率的な方法を模索するが、当人によって却下された。

 

「そんなの駄目ですわ! ルーク! わかってますわね!」

 

 次々と発せられる意見の数々に、ルークは受けたショックを一時忘れることにしたらしく、何とか立ち直っている。

 

「あー! うるさいっ! 大体なんで俺が決めるんだよ」

 

 思わず言ってしまったこととはいえ、一度口に出した言葉は消せない。

 ジェイドは珍しく半眼になってルークを横目で見た。

 

「責任者はあなたなのでしょう?」

 

 しかし、精神的に参っている人間に追い討ちをかけるのはいかがなものか。

 スィンは気遣わしげにルークを見た。

 

「ルーク様。お加減がよろしくないのでしたら、それを理由に親善大使を辞退するという選択もあります」

「……いや、平気だ。──陸路! ナタリアを連れてかないと色々ヤバいからな」

 

 ルークにはルークの事情がある。結局進路変更なし、という形で落ち着いた。

 

「イオン様……。どこに連れてかれちゃったんでしょう」

 

 気遣わしげにアニスが言えば、わずかに残る陸艦の痕を見て、ジェイドが眼鏡に付着する水滴を払って呟く。

 

「陸艦が立ち去った方角を見ると、ここから東ですから……ちょうどオアシスのある方ですね」

「私たちもオアシスへ寄る予定でしたよね。ルーク様ぁ、追いかけてくれますよねっ!」

「ああ……」

 

 明らかに別のことを考えているルークの様子を垣間見ながら、結局驚くような素振りを見せなかったジェイドを見た。

 この様子だと、彼だけはどういうことなのか、察しているのかもしれない、いや、おそらくしている。

 その件については、スィンも同じことなのだが。

 

(厄介なことしてくれちゃって、まあ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しとしと降り注ぐ雨は、進むうちに雨足を弱め、足元が一面砂の海に変わる頃、その姿を綺麗に消した。

 今一行に降り注ぐ容赦ない太陽の日差しで、すでに濡れきっていた服は乾き、水筒までからっぽにしている。

 

「あ、あつぅ~い……」

「…………」

 

 砂漠越えを想定してバチカルで購入した日差し避けの外套の中から、アニスは呻くように感想を洩らした。

 当初こそ不平を洩らしながら歩いていたナタリアだったが、すでにそんな体力はないのか、アニスの言葉に同意することなく閉口している。

 

「アニス、水飲む?」

「……いいの?」

 

 見かねたスィンが自分の水筒を取って差し出した。

 スィンが頷いたのを見てアニスがじゃあ、と水を口に含む。その顔が驚愕に彩られた。

 

「わっ!?」

「どうかした?」

「何でこの水、こんなに冷たいの!?」

 

 思えば、廃工場を抜けて一日以上経過している。

 それなのに、スィンの水筒はまったく中身が減っていないどころか、井戸から汲んだばかりの冷たさを保っていた。

 アニスから水筒を返してもらったスィンが、ナタリアに手渡しながら種明かしをしている。

 

「そりゃ、こーやってさー……」

 

 人差し指を立て、大気の第四音素(フォースフォニム)を結集させる。瞬く間に小さな氷の欠片が生まれた。

 

「補充してるからに決まってるじゃん」

 

 言いながら氷の欠片を自分の口の中に放り込めば、ジェイドが呆れたように呟いた。

 

「小器用な方ですねえ」

「通常譜術が使えないから、せめてこういう小技くらいはね」

 

 口の中で氷を転がしながらナタリアから水筒を受け取る。

 

「ありがとう、助かりましたわ」

「ほしくなったらいつでも言ってくださいね、ナタリア様」

 

 脱水症状になると危険ですから、と返せば、彼女はそういえば、とスィンを見た。

 

「スィン、身分を隠すためです。わたくしを呼び捨てなさい。敬語も使わないこと」

「ウンワカッタソウスル」

 

 誰が聞いてもそうだとわかる、素晴らしい棒読みである。

 それにナタリアが苦言を口にすれば、スィンはにっこり微笑んだまま、棒読みを繰り返した。

 感情の伴わない言葉の羅列は、非常にむなしく。

 

「ゴメンネソノウチナントカナルヨ」

「もう少し、なんとかなりませんの?」

「ならないよ。ナタリアったら、わがまま。そんなんで、この先本当に大丈夫? 不安だわーちょー不安だわー」

「な……! この、無礼者っ、あ」

 

 鼻白むナタリアの顔をとっくりと眺めて。スィンはひとつ頷いた。

 アニスにぞんざいな口を叩かれて平気な顔はできても、長らく自分に仕えてきた人間のそれは、彼女にとって違う意味合いと認識してしまうようだ。

 

「やっぱり、やめておきますね。気安い口と悪口の境界は曖昧ですし、昔のこともありますので」

「わかりましたわ……」

 

 しぶしぶながらも素直に承諾するナタリアの態度を訳ありと見て、ジェイドが興味深そうに二人を見た。

 

「何かあったんですか?」

「ナタリア様とルーク様に敬語使わないで、侍従長に仕置き棒でしばかれたことがありまして」

「まあ、そんなこと聞いてませんわ! 私には怒られたとだけ……!」

「そりゃ必死こいて逃げましたから、被弾してませんよ? ナタリア様にはそうご報告させていただきました」

 

 状況はさておき、素人が振り回す棒切れを回避できないなど、昔の話であってもありえない。

 とはいえ、解雇されるわけにもいかない事情があったから、それからというものこっそり使っていたタメ口をやめ、二人に対して気安い態度はとらないようになった。

 そんな真の事情を隠すように遠い目をしてみせるスィンに、アニスは軽く同情的になっている。

 

「大変そうだよねー、お姫様の世話って」

「……まあでも、あそこでしか働けない理由があったからさ」

 

 理由って? と尋ねるティアに、スィンはそれに答えないで陽炎の向こうに見える影を指した。

 

「──やっとついた」

 

 巨大な譜石が突き立ち、都市の残骸がそこかしこに転がっている。

 ぽつぽつと並び立つテントや小さめではあるが石造りの家屋を徐々に視認しながら、一行はオアシスへたどり着いた。

 

 

 

 

 

 

 




呼吸器に疾患があり、定期的に薬を飲まねばならないオリジナルキャラクター。
職場の空気が綺麗で、高給待遇の城勤めは、外せない仕事だったのです。
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