the abyss of despair   作:佐谷莢

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第二十六唱——食い違う歯車

 

 

 

 

 

 長い螺旋階段を登りきり、一番に外へ出たアニスは、ううーんと大きく伸びをした。

 

「ふー。やっぱり暑くても砂だらけでほこりっぽくても外の方がいいっ」

 

 全員が遺跡の外に出たところで、イオンが改めて全員に詫びる。

 

「皆さん。ご迷惑をおかけしました。僕が油断したばかりに……」

「そうですよ、イオン様! ホント大変だったんですから!」

 

 ルークにおかしなことを言われない前にと考えてか、本気でそう思っていたのか、アニスはそれほど責めているでもない口調でたしなめた。

 もともと彼女が眼を離したからこういったことになったような気がしないでもないが。

 

「ところで、イオン様。彼らはあなたに何をさせていたのです? ここもセフィロトなんですね?」

 

 再び外套を着込んだジェイドの質問に、彼は追及を逃れられないと判断してか、しばしの沈黙を経て頷いた。

 

「……はい。ローレライ教団ではセフィロトを護るためダアト式封咒という封印を施しています。これは歴代導師にしか解呪できないのですが、彼らはそれを開けるようにと……」

「なんでセフィロトを護ってるんだ?」

 

 ガイの問いに、イオンは軽くうなだれて回答を避ける。

 

「それは……ローレライ教団の最高機密です。でも封印を開いたところで、何もできないはずなのですが……」

「んー、何でもいいけどよ。とっとと街へいこうぜ。干からびちまうよ」

「ルーク! スィンを置いていくつもりですの!?」

 

 興味のないことに関してはまったく触れるつもりのないルークが先を促した途端、ナタリアが彼を責めるように言った。

 

「置いてけ、っつったのはあいつだろ? いきなりあんなトコにしゃがみこむほうが悪いんだっつーの」

『ルーク様つめたーい』

 

 珍しくアニスがルークを責める。

 んだと、と彼女を睨みかけると、当の本人は自分じゃない、とでも言うように口を押さえて首を振っていた。

 

『んもー、ルーク様ったら。暑いからってそんな冷たいこと言わないでくださいよぅ』

 

 そんな中でも、アニスの声がなぜか遺跡の中から聞こえてくる。

 と、ナタリアがふう、と息をついた。

 

「──スィン。悪戯はやめて出てらっしゃい。皆が、特にアニスが怖がっていますわ」

「はーい」

 

 間髪入れず返事が返ってきて、入り口の影の中から人が出てきた。

 陽光に煌く、ガイのものによく似た金の髪、この地域でものすごく暑そうに見える漆黒の衣装を涼しげに着こなしている──スィン。

 

「スィン様華麗にご帰還―ん」

 

 ばさっ、と外套を羽織って彼らの元に歩めば、一番にガイが出迎えてくれた。

 

「俺の台詞をパクるなよ!」

「すべての創造は、模倣から始まるものなんですよ」

 

 開口一番の苦情をにこやかに返して、お待たせいたしました、とルークに向かって一礼する。

 

「そ……そっかあ。スィン、声真似が得意なんだっけ」

「いやー、久々に聞きましたがやはり見事ですねえ」

 

 すっかり騙されました、という嘘くさい感想を言うジェイドにどーも、とおざなりな返事をしてから。

 

「では、参りましょうか」

「そうね。ケセドニアへ向かいましょう」

 

 ティアが同意し、ナタリアが賛成を呟き、ミュウも同じことを言ったのだが、例によってルークにけなされている。

 

「……ブタザルは黙ってろ。暑苦しい」

「みゅう……ごめんなさいですの」

 

 熱砂の上で己を縮こませながら、ミュウは謝罪を呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやくケセドニアまできたな」

 

 イオンを加えての同行ではそれほど強行を望めなかったものの、一行はどうにか無事にケセドニアへたどり着いていた。

 

「ここから船でカイツールへ向かうのね?」

「マルクトの領事館へ行けば、船まで案内してもらえるはずです」

 

 ティアの質問を答えるように、ジェイドが頷く。と、急にルークが額を押さえて呻いた。

 

「また……か……!」

「ルーク! またか? 頻繁になってきたな……」

 

 一行の目が集中する中で、ルークは歯を食いしばっていたが、やがて小さく息を吐く。

 

「……大丈夫。治まってきた」

 

 その表情に嘘のようなものはないが、それでも今までの行軍を考えてか、ガイが提案した。

 

「いや、念のため少し休んだほうがいい」

「そしたら宿へ行こうよ。イオン様のこともどうするか考えないと……」

「……わかった」

 

 アニスの言い分もあり、ルークは今の頭痛を憂うように頷いた。

 砂漠からケセドニア入りしたこともあり、一行はキムラスカ側の宿へと向かう。

 宿の前にて、スィンは最後尾を歩いていたルークに異変が起こったことに気づいた。宿ではないほうに行きかけ、ぶつぶつ呟きながらどうにか宿へ行こうとするも、頭を押さえて立ち止まる。

 

「ルーク様、頭痛ですか?」

 

 他の面々が彼の異変に気づく頃、スィンはルークに歩み寄った。

 

「ご主人様! 大丈夫ですの?」

「ルーク、しっかりして」

 

 不意にルークがしゃがみこむ。後を追ってスィンがのぞきこむように体を近づけた際。

 ルークの手が、スィンの首を掴んだ。

 

「!」

 

 そのまま握りつぶさんばかりに力が込められる指を、斬り飛ばしたい衝動に駆られながら両手で抵抗していると、ルークの片腕がゆっくりと腰の剣を引き抜いた。

 

「ルーク! 何をしていますの!?」

「ち……ちが……う! 体が勝手に……! や、やめろっ!」

 

 苦悶の表情から彼の言葉を信じたいが、このままでは開きにされる。

 揺らいできた意識を保たせて首の手を片方残し、懐刀を取って口で鞘を払う。降ってきた一撃を耐えたと同時に、首に激痛が走り、意識が暗転した。

 狭まっていく視界の中、ルークもまた地面へ崩れ落ちている。

 

 

 

 

 

 

 スィンが次に目を覚ましたのは、見慣れない寝台の上だった。

 状況を思い出し勢いよく起き上がれば、ルークを除いた面々の視線が集中する。

 

「大丈夫か?」

「は、い……」

 

 咽喉にひりつく痛みを感じて顔をしかめた後、なぜかスィンはジェイドとばっちり目が合った。

 

「……起きて一番にこの顔って憂鬱「おはようございます♪」

 

 途中で言葉を遮られ、ぽい、と放り投げられたものを受け取れば、鞘に収まった漆黒の短刀が手の中にあった。

 どうも、と呟いて立とうとしたが、ぐらぐらと視界が揺れて直立ができない。結局寝台に腰かけた。

 痛む首がどうなっているのか手鏡で確認すると、くっきりと手形の痣が残っている。顔をしかめて包帯を取り出すと、ナタリアが処置を手伝ってくれた。

 

「……ルークの奴、どうなっちまったんだ?」

 

 スィンが起きたのを見て、ガイが誰ともなしに呟くも、それに答える者はいない。

 

「健康に難ありかぁ」

 

 その代わりといってはなんだが、アニスが取らぬ狸の皮算用を始めている。

 

「介護するくらいならぽっくり逝きそうなお金持ちの爺さんの方が……」

「何か言いまして? アニス」

 

 呟きをナタリアに聞きとがめられ、「……えへv なんでもないv」と急ににっこり笑ってごまかす。

 

「……大佐。ルークのこと、何か思い当たる節があるんじゃないですか」

 

 そんなやりとりとは裏腹に、以前から思わせぶりな態度を取っているジェイドへティアが詰問した。

 

「……そうですねぇ」

「アッシュという、あのルークにそっくりの男に関係あるのでは?」

 

 否定とも肯定ともつかないジェイドにナタリアが重ねて尋ねるも、彼は首を振っている。

 

「……今は言及を避けましょう」

「ジェイド! もったいぶるな」

 

 ルークに関することとあってガイも声を荒げるが、ジェイドに動揺する素振りはない。

 

「もったいぶってなどいませんよ。ルークのことはルークが一番に知るべきだと思っているだけです」

 

 と、ルークの顔を心配そうに見ていたミュウが声を上げた。

 

「ご主人様が眼を覚ましたですの」

 

 見れば、彼はむくりと起き上がって一同を見回している。

 

「……俺がどうしたって?」

「いえ、何でもありません。どうです? まだ誰かに操られている感じはありますか?」

 

 わずかに寝ぼけているようなルークに会話の内容は話さず、ジェイドはきわめて自然に話題を変えた。

 

「いや……今は別に……」

「多分、コーラル城でディストが何かしたのでしょう。あの馬鹿者を捕まえたら術を解かせます。それまで辛抱して下さい」

 

 スィンの視線に気づいていないのか気づかないフリをしているのか、ジェイドは確かにもっともらしいことをルークへ説明する。

 事情を知らない皆も、それで納得しているように見えた。

 

「……頼むぜ、全く。ところで、イオンのことはどうするんだ?」

「とりあえず六神将の目的がわからない以上、彼らにイオン様を奪われるのは避けたいわね」

 

 アスター氏に預けるのが得策ではないかと思われたが、スィンがその意見を口にする前に当の本人から希望が寄せられる。

 

「もしご迷惑でなければ、僕も連れて行ってもらえませんか?」

「イオン様! モース様が怒りますよぅ!」

 

 アニスはそう言って改めさせようとしたが、彼の意向には逆らえなかった。

 

「僕はピオニー陛下から親書を託されました。ですから、陛下にはアクゼリュスの救出についてもお伝えしたいと思います」

「よろしいのではないですか」

 

 相手が導師イオンだからか、話の筋が通っているからか。ジェイドは即座に賛成を示した。

 

「アクゼリュスでの活動が終わりましたら、私と首都へ向かいましょう」

 

 が、思い返したようにルークを見る。

 

「……ああっと、決めるのはルークでしたね」

「……勝手にしろ!」

 

 いつまでもしつこいジェイドに不機嫌な顔でルークは言いのけた。

 自分の身に起こるわけのわからない現象にも腹を立てている節はあるが。

 

「またしばらく、よろしくお願いします」

 

 現在の時刻が夕方だということ、倒れた二人の体調にイオンのことを考慮し、このまま宿に一泊することが決定した。

 話し合いの結果、同室になったナタリアに外出を告げて、スィンは外套を手に外へ出る。

 

 ──アッシュを、巻き込んでしまうことになるが。これも彼の選択であると、こじつけ気味に思い込んで。

 

 

 

 

 

 

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