the abyss of despair   作:佐谷莢

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テオルの森初プレイ時の思い出。
大佐を待つ間、アニスがトクナガを用いて拳打の練習をしていました。
悲鳴が上がった時には打たれた樹木が悲鳴をあげたのかと勘違いし、それはそれは驚いたものです……


第四十二唱——塗り固めた嘘は、ぽろぽろと剥がれゆく

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は総員でマルクトの機雷の接近を見張り、機関部の快調を保ったまま、タルタロスはローテルロー橋に接岸した。

 二国間の緊張を推し量ってか、兵士も工事業者もいない。ただやりかけの工事現場がむなしく残っているだけだ。

 街道を北上、エンゲーブとセントビナーへ続く橋の手前を東へ曲がり、道なりに進めば、チーグルの森とは違う、整備された森が見えてくる。

 グランコクマの最終防衛線といわれるだけあって、坂道を登っていくと一行の姿を見つけた兵士は警戒もあらわに叫んだ。

 

「何者だ!」

「私はマルクト帝国軍第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐だ」

 

 ジェイドが代表して兵士の前へ名乗り出る。

 その名と軍服の階級章を見てか、兵士はケテルブルクの兵士と同じような反応を示した。

 

「カーティス大佐!? 大佐はアクゼリュス消滅に巻き込まれたと……」

「私の身の証は、ケテルブルクのオズボーン子爵が保証する。皇帝陛下への謁見を希望したい」

 

 細かな説明は避け、単刀直入に用件を切り出す。

 兵士はジェイドの後ろで待機する一行をちらちら見ながら、歯切れの悪い返事を返した。

 

「大佐お一人でしたら、ここをお通しできますが……」

「えーっ! こちらはローレライ教団の導師イオンであらせられますよ!」

「通してくれたっていいだろ!」

 

 アニスの大げさな驚きに便乗してルークが文句を言ってみるものの、やはり兵士は首を横に振る。

 

「いえ、これが罠とも限りません。たとえダアトの方でもお断りします」

「皆さんはここで待っていてください。私が陛下にお会いできれば、すぐに通行許可をくださいます」

 

 ここで押し問答は不要とばかり、ジェイドは仲裁に入った。

 とにかくジェイドは向かうことができるのだ。この状況下では、それだけでもよしとするべきであろう。

 

「それまでここで置いてけぼりか。まあ仕方ないさ」

「……ちぇっ」

 

 ガイが納得を示すも、ルークは軽く舌を打った。気が急いて仕方ないらしい。それでも、今は待つしかない。

 

「それでは、ご案内します」

 

 兵に連れられ、ジェイドの背中は遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ待たされたのかは、時計が無くとも太陽の位置で計ることができる。時間に換算して約半日が過ぎた頃、ルークは一行の心情をぼやいた。

 

「まだかなー」

「ただ待つのも、結構大変ですわね」

 

 待ちくたびれたアニスが木の幹相手に拳打の練習らしいものをしているため、むごたらしい、もとい鈍い打撃音を背景に流したナタリアが飽き飽きといった表情で呟く。

 と同時に、兵士が見張りをしていた付近から人の叫び声らしきものが聞こえた。

 全員が立ち上がり、不安を抱くと同時に警戒を高めている。ティアが誰ともなしに呟いた。

 

「今のは……!?」

「悲鳴ですの……」

 

 ミュウがチーグル特有の大きな耳を持って聞き取った結果を怯えたように伝える。

 

「行ってみましょう!」

 

 ナタリアの号令の元、足止めをくらった付近へ走りよれば、そこにはマルクトの兵士が満身創痍の様子で倒れていた。

 状態は──瀕死。

 

「しっかりなさい!」

 

 治療師二人組が駆け寄るも、傷の程度に息を呑んで沈黙する。

 

神託の盾(オラクル)の兵士が……くそ……」

 

 兵士はそう遺して、息を引き取った。短い黙祷を捧げた後に、議論が始まる。

 

神託の盾(オラクル)……まさか兄さん……?」

「グランコクマで何をしようってんだ?」

「まさか、セフィロトツリーを消すための作業とか?」

 

 ティアの意見には異論はなく、ルークの問いには答えられないものの、イオンはアニスの意見に対し首を振って否定した。

 

「いえ、このあたりにセフィロトはない筈ですが……」

「話してても埒があかねぇ! 神託の盾(オラクル)の奴を追いかけてとっつかまえようぜ」

「そうですわね。こんな狼藉を許してはなりませんっ!」

 

 血気盛んなルークの提案に、ナタリアが呼気荒く賛同する。その二人を、ティアが押し留めた。

 

「待って! 勝手に入って、マルクト軍に見つかったら……」

「見つからないように隠れて進むしかないよ」

 

 遮るように、スィンが言い切る。

 ティアの言うことも一理あるが、消極的な行動は状況に対して後手後手に回ってしまう危険性が高い。この際、慎重さはかなぐり捨てるべきだ。

 

「ああ、マルクトと戦うのはお門違いなんだからな」

 

 ガイも納得を示し、アニスは体力だけを考えれば一般人以下と考えられるイオンに忠言した。

 

「かくれんぼか。イオン様、ドジらないでくださいね」

「あ、はい!」

「……いつの間にか行くことになってるわ……もう……」

 

 そんな嘆息は見せたものの、彼女にもう反論する余力は残っていない。

 抜き足、差し足、忍び足という、慣れない足取りで、時には息さえ殺しながら、マルクト兵の目をかいくぐって進んでいく。

 いつどこで神託の盾(オラクル)の連中と小競り合いになるのか見当もつかず、常に緊張を絶やさず行軍していた彼らであったが、出口が近づくにつれ、不信感が漂ってきた。

 

「もうすぐ出口だぞ。神託の盾(オラクル)の奴、もう街に入っちまったのか?」

「マルクトの兵が倒れていますわ!」

 

 ルークの視線から外れた先の光景を見て、ナタリアが飛び出すように兵の元へ駆け寄る。

 そこへ影が落ちた。

 

「ナタリア様!」

 

 スィンの警告を受け、ナタリアは間一髪影を避けた。瞬時に弓を取り矢を番え、放つ。

 放たれた矢は襲撃者に迫り、首を傾けられたことで顔の真横を通過した。

 

「お姫様にしてはいい反応だな」

「おまえは砂漠で会った……ラルゴ!」

 

 一度きりの邂逅であったが、ナタリアはこの巨漢のことを忘れてはいなかった。

 

「侵入者はおまえだったのか! グランコクマに何の用だ!」

「前ばかり気にしてはいかんな。坊主」

 

 多勢に無勢のはずなのに、妙に落ち着いたラルゴの態度と言葉にいぶかしがり、「え?」と後ろを向く。

 風を切る音、ティアに体当たりされた後に、ルークは新たな襲撃者の名を呼んだ。

 

「ガイ!?」

「ちょっとちょっと、どうしちゃったの!?」

 

 思いもよらぬ彼の行動に、アニスはイオンを背にかばいながらもトクナガに手を伸ばす。

 もっとも、この状況下で彼女に参戦を願うのは酷だが……

 

「いけません! カースロットです! どこかにシンクがいるはず……!」

「おっと、俺を忘れるなよ」

 

 イオンの言葉にシンクを探そうとしたスィンが、ラルゴの言葉にはっとなる。

 ガイのことは気になるが、ルークにこの二人を相手させるのはもっと酷だ。

 

「ルーク! ガイ兄様をお願い!」

 

 どうしようもなく、彼と剣を合わせ続けるルークに叫び、スィンは血桜を抜いてラルゴに肉薄した。

 迫る巨大な鎌を刀ではじき、後ろに回りこむように二人の様子を見る。

 その彼女に、ラルゴは小さな、それこそ近くにいるスィンにしか聞こえないような呟きを洩らした。

 

「未だに芝居を続けているのか……笑わせる」

 

 ! 

 ──ばれて、いる? 

 よくよく考えれば想定できたことだ。それでも、スィンの心に動揺は重くのしかかる。

 目に見えて動きの鈍ったスィンに、ラルゴが大鎌を振りかぶった。その彼に、ナタリアがまたも矢を放つ。スィンが傍にいるということを考慮してか、矢はラルゴの首の付近を通り過ぎていった。

 

「させませんわ!」

「ふ、ふははははははっ! やってくれるな、姫!」

 

 ラルゴの意識がナタリアに向く。

 一国の姫に刃を向けるという暴挙に反論するがごとく、大地は訴えるように動き出した。

 

「きゃっ、また地震!」

 

 足を踏ん張ったアニスたちを気遣わしげに見ていたティアだったが、ふと、傍の樹上の気配を感知する。

 

「ナタリア、上!」

 

 どこ、とは言わない彼女の意を正確に汲み取り、彼女は足場が揺れているにもかかわらず、正確な射撃を披露した。

 矢が樹上へ迫るのと、樹上から何かが落ちてきたのはほぼ同時のことである。

 

「……地震で気配を消しきれなかったか」

 

 シンクが姿を見せた瞬間、肉体のリミッターを強制的に解除されルークの剣を力任せに弾き飛ばしたガイが、脱力したのちに人形のように倒れた。

 

「やっぱりイオンを狙っているのか! それとも別の目的か!」

「大詠師モースの命令? それともやっぱ、主席総長?」

 

 ルークが吼え、アニスが答えを促すも、二人は明確な答えを示さない。

 

「どちらでも同じことよ。俺たちは導師イオンを必要としている」

「そんなわけだから、さっさと渡してよ。そうそう、そっちの色違い(オッドアイ)も一緒に」

「え? 何? 僕に何か用?」

 

 内心の動揺を押し殺し、わけがわからない風を装う。

 が、シンクは面白そうに口元を歪めると、哄笑を放った。

 

「あははははっ! なるほど、まだ──おっと」

 

 かこぉんっ! と音高く、先ほどまでシンクがいた木の根元に棒手裏剣が突き刺さる。

 あっさりよけられはしたが、とりあえずその口を止められればそれでいい。

 

「一応聞いとこう。何の話?」

「そうだねえ、十何年間にも及ぶ長い長いお芝居のお話──かな?」

 

 ──確定だ。

 表向き表情を動かさないスィンに対し、シンクはつまらないとでも思ったのか、ルークに顔を向けた。

 

「アクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたが……たいした生命力だな」

「ぬけぬけと……! 街一つを消滅させておいて、よくもそんな……!」

 

 わからない話からわかる話へ移行したのはいいが、内容が内容である。

 ナタリアが批難もあらわに言うも、シンクは素早くルークを指した。

 

「はき違えるな。街を消滅させたのはそこのレプリカだ」

 

 痛く厳しい沈黙。それを破ったのは、第三者の声だった。

 

「何の騒ぎだ!」

 

 ようやく騒ぎに気づいたマルクトの兵士が数人、こちらへ駆けてくる。

 それを視界の端に収めたシンクはチッ、と音高く舌打ちした。

 

「ラルゴ、いったん退くよ」

「やむをえんな……」

 

 短く交わされた会話の後、二人はあっという間に森の中へと去る。

 直後、マルクトの兵士たちが現れた。

 

「何だ、おまえたちは!」

「カーティス大佐の連れの者、です。彼をお待ちしていたのですが、不審な人影を発見し、ここまで追ってきました」

 

 誰何の言葉に、スィンが進み出て淡々と事実と虚実を織り交ぜて語る。

 

「不審な人影? 先ほど逃げた連中のことか?」

神託の盾(オラクル)騎士団の者です。彼らと戦闘になって、仲間が倒れました」

 

 ちら、とガイに視線を送れば、未だ目覚めぬ彼の姿があった。が、その答えで彼らが満足した様子はない。

 なぜなら。

 

「だがおまえたちの中にも神託の盾(オラクル)騎士団の者がいるな」

 

 ティア、アニス両名を指しているのだろう。これは仕方がない。色々複雑な事情もあることだし、それに。

 

「……怪しい奴らだ。連行するぞ」

 

 扱いはどうなるか知らないが、グランコクマ入りは果たせる。これだけは結果オーライといえるだろう。

 

「……抵抗しない方がいいよな」

「当たり前でしょう」

 

 集まってきた多数の兵士郡を見たルークの呟きに、ティアが無愛想なツッコミを入れていた。

 

 

 

 

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