the abyss of despair   作:佐谷莢

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第四十三唱——その清水にすすがれるが如く、隠れ蓑は崩れさった

 

 

 

 

 

 

『水上の帝都』と謳われるグランコクマは、その名の通り水の上、すなわち海の上に構える美しくも華やかな都市だった。外観としては赤を基調とし、きらびやかにして重厚なバチカルとは正反対の、青と白という清楚な趣がある。

 通常時は城及び街を覆う水源も相まって、さぞや和やかなところなのだろう、が──それはあくまで通常時の話だ。

 兵士に連行される形で街に入った一行を待ち受けていたのは、これまた完全武装の兵士をずらりと後ろへ従えた、一際異彩を放つ男だった。兵士のものではない、ジェイドが着ているタイプと酷似した軍服をまとった男を前に、兵士が敬礼する。

 

「フリングス少将!」

「ご苦労だった。彼らはこちらで引き取るが、問題ないかな?」

「はっ!」

 

 少将ということは、大佐であるジェイドより上の階級にいるということだ。つまり、眼前に立つこの男は、彼よりも偉い人である。

 フリングス少将は兵士が戻ったのを見送った後に、ガイを支えるルークに話しかけた。

 

「ルーク殿ですね? ファブレ公爵のご子息の」

「どうして俺のことを……!」

 

 驚くルークに、彼は詳細を説明する。

 

「ジェイド大佐から、あなた方をテオルの森の外へ迎えに行ってほしいと頼まれました。その前に、森へ入られたようですが……」

「すみません。マルクトの方が殺されていたものですから、このままでは危険だと思って……」

 

 ティアの謝罪に対し、彼はあくまで静かに首を振ってみせた。

 

「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。ただ騒ぎになってしまいましたので、皇帝陛下に謁見するまで、皆さんを捕虜扱いとさせて頂きます」

 

 一昔前のルークなら、なんやらかんやら文句をつけたに違いない。が、今はそんなことも、それを思い出すどころでもなかった。

 

「そんなのはいいよ! それよかガイが! 仲間が倒れちまって……」

 

 ──そう。彼はこの行程の最中、ただの一度も意識を取り戻していない。

 カースロットについてはよく知らないため、ルークは肩を揺さぶって起こそうとしたくらいだ。

 そのときはイオンに止められ、しぶしぶ引き下がったのだが……

 

「彼は、カースロットにかけられています。しかも抵抗できないほど、深く冒されたようです。どこか安静にできる場所を貸してくだされば、僕が解呪します」

 

 進み出たイオンに、ルークはすがるようなまなざしを向けた。

 

「おまえ、これを何とかできるのか?」

「というより、僕にしか解けないでしょう。これは本来導師にしか伝えられていないダアト式譜術の一つですから」

 

 会話を手早く理解し、フリングス少将は「わかりました」と快く頷いている。

 

「城下に宿を取らせましょう。しかし陛下への謁見が……」

「皇帝陛下には、いずれ別の機会にお目にかかります。今はガイの方が心配です」

 

 きっぱりとガイの体調を優先させるイオンを説得する気など、初めからこの少将にはなかったようだ。やはりあっさりと承諾してくれている。

 

「わかりました。では部下を宿に残します」

「私も残りますっ! イオン様の護衛なんですから」

「待てよ! 俺も一緒に……!」

 

 もしものことを考えてイオンに付き添うというアニスに、ルークもまたガイが心配だと付き添いを希望した。しかしそれは、イオンの言葉によりお流れとなる。

 

「……ルーク。いずれわかることですから、今お話しておきます。カースロットというのは、けして相手を意のままに操れる術ではないんです」

「どういうことだ?」

 

 詳細な説明を求めるルークに、イオンは苦しそうに、しかし真実を告げた。

 

「カースロットは記憶を揺り起こし、理性を麻痺させる術。つまり……元々ガイに、あなたへの強い殺意がなければ、攻撃するような真似はできない……そういうことです」

「……そ、そんな……」

「解呪がすむまで、ガイに近寄ってはいけません」

 

 動揺を隠せないルークに、イオンは有無を言わさぬ口調で戒める。

 その彼に、正確にはガイへ近づき、スィンはルークの肩からぐったりとしたガイを外すと、担ぎ上げた。力任せとは程遠い、重心の移動を利用した無理のない持ち上げ方である。

 ガイがうんうん唸り始めたのが気になるところだが……

 

「ご案内します」

 

 兵士の後について、イオンとアニスの視線を背中に受け止めながら宿の一室へ入る。

 丁重にガイの体を寝台へ下ろすと、何か言いたそうにしている二人より素早く、スィンはイオンに頭を下げた。

 

「ガイ兄様を……お願いします」

「……わかりました」

 

 辞儀をした際零れた涙をぬぐい、ガイの傍を離れる。解呪の様子を見届けたかったが、先にやるべきことがあった。

 備え付けのテーブルに向かい、取り出した羊皮紙に事の次第の詳細を綴っていく。記憶に残る全ての事実を余すことなく書き記し、まだ終わっていなかった儀式を固唾を呑んで見守っていると、ガイはぱち、と唐突に目を開けた。

 

「ガイ兄様!」

 

 思わず駆け寄り、起き上がった彼を前にして、まくしたてる。

 

「大丈夫ですか? どこか痛いところありますか? 頭ははっきりしていますか?」

「……ああ。平気だ」

 

 わずかに頭を揉むようにしているガイの、それなりに平気そうな様子を見て、ホッと息をついた。ふと気づけば体が脱力して座り込むような形になっており、慌てて立ち上がる。

 

「それよか、俺……」

 

 はっきりしない記憶を探るように呟いたガイに、アニスもイオンも言いにくそうに何かを言いかけ、やめていた。

 確かに、起こった事実を本人の前で口にはしがたい。だからスィンは、この形をとった。

 

「……こちらを」

 

 羊皮紙を恭しく差し出し、眼を通すよう促す。

 彼がそれを読んでいる間に、スィンはイオンからの視線を感じた。眼は口ほどにものを言う、とは、このような感覚であろうか。彼の眼を見れば、何が言いたいのか、不思議とわかった。

 

「……お願いします」

 

 その言葉を受け、彼は空気を読めていないアニスを連れて退室していく。フリングスの部下に、ルークたちへの伝言を頼みに行ったのだろうと考えられた。

 カサカサ、という音に引き寄せられたようにガイを見る。彼は羊皮紙を畳み、自嘲じみた笑みを零していた。

 

「……まー、隠しきれることじゃねえとは思っていたが、ここらが限界ってところか」

 

 言葉の内にひそめられた心の動きを察知して、スィンはあくまで静かに尋ねている。

 

「真実を、告白されますか?」

「ああ、そうする。この先どうなるのかはちぃっとわからんが……お前はどうするよ?」

「僕は、僭越ながらあなた様と同じ道を歩ませていただきます」

 

 悪戯っぽく、しかし瞳だけは真剣に尋ねられた問いに、スィンは即答を返した。

 

「いいのか? 奴と袂を別つ──あいつを裏切ることになるんだぞ」

「もう、進むべき道を違えてしまったことは、自覚しています。随分前に、彼へ懐刀を送りました」

「……そうか」

 

 六神将の言動はそれが原因かもしれません、と思わしげに呟けば、ガイはある提案を持ち出してくる。それについて議論をかわしていると、ドアが控えめなノックを響かせた。

 立ち上がろうとするガイを手で制し、スィンが応対に立つ。

 

「──はい」

「あの……ルークたちが来ました。よろしいですか?」

 

 イオンの声に、ちら、とガイを見やった。

 彼は何を言われようと覚悟は出来ている、といった風情で頷いている。

 

「どうぞ」

 

 扉を開けば、苦しそうな、辛そうなルークの顔があった。その場を退いて、ガイの傍につく。

 

「ガイ! ごめん……」

 

 寝台の上に胡坐をかいたガイを前にして、ルークの第一声はそれだけだった。

 

「……ルーク?」

 

 予想外の一言に、彼は思わずルークの名を呼ぶ。

 

「俺……きっとおまえに嫌な思いさせてたんだろ。だから……」

「ははははっ、なんだそれ」

 

 ピントのずれていたルークの推測に快活な笑声を上げるも、すぐにその声は低くなった。

 

「……おまえのせいじゃないよ。俺がおまえのことを殺したいほど憎んでたのは、おまえのせいじゃない」

 

 どういうことなのかと聞くことも、浮かんだであろうその思いに表情を変えることもなくガイの言葉を待つルークから目をそらすように、ガイは軽くうつむいている。

 

「俺は……マルクトの人間なんだ」

「え? ガイってそうなの?」

 

 アニスの問いに、事の発端を語ることで彼は答えた。

 

「俺はホド生まれなんだよ。で、俺が五歳の誕生日にさ、屋敷に親戚が集まったんだ。んで、預言士(スコアラー)が俺の預言(スコア)を詠もうとした時、戦争が始まった」

「ホド戦争……」

 

 ティアの呟きに、ナタリアは息を呑む。全てを察したように、史実を述べた。

 

「ホドを攻めたのは、確かファブレ公爵ですわ……」

「そう。俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねえ。使用人も親戚も。あいつは俺の大事なものを笑いながら踏みにじったんだ」

 

 ……本当に実際にそうしたわけではないのだろうが。

 スィンもガイもファブレ家で奉公していた際、ホド戦争における公爵の活躍を嫌というほど聞かされている。間違いではないだろう。

 

「……だから俺たちは、公爵に俺たちと同じ思いを味あわせてやるつもりだった」

「あなたが公爵家に入り込んだのは、復讐のため、ですか?」

 

 あえて、なのか。ジェイドはガイのみにそれを聞いた。

 

「ガルディオス伯爵家、ガイラルディア・ガラン」

 

 どこで仕入れた情報は知らないが、身元がはっきりしているガイにそれを確かめるためだろう。当然だ。スィンの正体を、彼が知っているわけがない。本名をもののずばりと呼ばれ、彼は一瞬ではあるが、身を固くしている。

 

「……うぉっと、ご存知だったって訳か」

「ちょっと気になったので、調べさせてもらいました。あなたの剣術は、ホド独特の盾を持たない剣術──アルバート流でしたからね」

 

 正確にはアルバート流シグムント派なのだが、剣に関して門外漢、とまではいかなくとも、どちらかといえば譜術専門であるジェイドにその違いはつかないのかもしれない。

 

「……なら、やっぱ二人は俺の傍なんて嫌なんじゃねぇか? 俺はレプリカとはいえ、ファブレ家の……」

「そんなことねーよ。そりゃ、全くわだかまりがないと言えば嘘になるがな」

 

 苦しげなルークの質問に、ガイはあっさりと否定をしてみせ、スィンもまた大きく頷いた。

 

「だ、だけどよ」

「おまえが俺たちについてこられるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。そうでないなら、もう少し一緒に旅させてもらえないか? まだ、確認したいことがあるんだ」

 

 ここが正念場だ。ルークが同行を拒否するようなら、ガイにも考えはあるだろうがスィンはアッシュとの共同戦線を張るつもりだった。

 アッシュはともかく、ガイはオリジナルたる彼との協力を絶対と言っていいほど嫌がるだろうが、今のところそれ以外にアプローチの仕方を考えていない。

 ガイに考えるところあり、それに補佐が必要だというなら、スィンは迷わずガイを選ぶつもりだったが。

 

「……わかった。二人を信じる。いや……二人とも、信じてくれ……かな」

 

 心配が杞憂へ変化する。しばしの沈黙を経て、ルークは二人の同行を許可する決定を下した。それにほっとしてか、ガイも軽口を叩いている。

 

「はは、いいじゃねぇか、どっちだって」

 

 その光景に、イオンがほっと安堵の息を吐いていた。安心したように無邪気な微笑を浮かべる。

 

「よかった。三人が喧嘩されるんじゃないかって、ひやひやしてました」

「そうなると、気になるのがスィンの存在ですねえ」

 

 なんとかしのげそうな気配に、同じように息をついていたスィンだったが、その一言にぴし、と固まった。

 緋色のまなざしはしっかりと彼女へ疑念を寄せている。

 

「……せっかく丸く収まりかけてたのに、どうしてそこで引っ掻き回そうとしてくれやがるんですか?」

「はっはっは、何を言っているんですか。ガイ以上に色んな疑念を抱かせてくれたあなたの正体を暴く絶好の機会ですよ? 見逃す理由がありません」

 

 表面上は朗らかな微笑をたたえ、それでも目がさっぱり変わっていないジェイドを見た後、ガイを見る。

 あきらめろ。彼の目はそう言っていた。

 

「……ちなみに、大佐は誰だと思っていたんです?」

「外見的な特徴から、ガルディオス伯爵家長子、マリィベル・ラダンだと考えていたのですが……」

 

 興味本位でジェイドの意見を求めれば、彼は妥当な人物を指した後に珍しく言いよどんでいる。

 その理由に気づいて、スィンは知らず唇を歪めていた。

 

「この眼のことでしょうか?」

「貴族の家に虹彩異色症(オッドアイ)が誕生したとなれば、情報が来ないわけがありませんからねえ」

 

 なるほど、と頷き、どのように話した方がいいのか、迷いながらも語り始める。

 

「まず、ガイラルディア様の妹というのは真っ赤な嘘です。本当は、ガルディオス伯爵家左の騎士、ナイマッハに連なる者……になります」

「こんなに似ているのに、血のつながりはないのですか?」

「この姿の大半は偽りです。……見てもらったほうが早い、かな?」

 

 ナタリアの問いに答え、どうせカースロットもどうにかしなきゃならないし、と一人ごちてから、スィンは袖を捲り上げた。

 紋章のようなアザが色濃く残っている。カースロットの侵食率などまったくわからないが、放っておいていいものではないだろう。

 イオンに頼みたくても、消耗の激しい彼にそれを頼むのは酷だった。

 

「久しぶりだよな、元の姿に戻るのは。ちゃんと戻れそうか」

「……元の、姿?」

「ご安心あれ、ガイラルディア様」

 

 元の姿に戻ること自体は、結構頻繁に行っていたことだから。

 儀式によって固定した術式を、一時的に封印することで仮の姿より元の姿へと、ガイという主には内緒で。術式を解除することは、主の許可なしにはできない。そうすることで、術式はより強固な形で組まれていた。

 眠っていようと意識を失おうと、力尽きるまではけして解けはしないものに。

 口の中で譜を紡ぎながら、ゆっくりとガイの元へと進み出る。

 足元から眼前から、背後から頭の上から、大小さまざまな譜陣が展開されスィンを覆いつくした。時同じくして、多数の譜陣に臆することなく、伸ばされたガイの腕がスィンの胸元へと伸びる。

 その場所に揺らめく譜陣を通して、彼の手は。

 

「!」

 

 いつの間にか一振りの剣を手にしている。それは、乾いた血液の色を有する不気味な剣だった。

 鍔の部位には緋色の宝石がはめ込まれているが、お世辞にも宝剣には見えない。それ自体が呪いを孕んでいるかのように、見る者に対して畏れ慄かせる光を放っている。

 刀身の切っ先は斧刃を背中合わせにしたような形状で、中央には血抜きのためだろうか。強度という点にかなり不安を与える一条の溝が刻まれている。

 異形の剣を前にして、ガイはうっすらと苦笑した。

 

「……何回見ても慣れないな、この剣。それじゃ、いくぞ」

「お願いします」

 

 譜陣に取り囲まれたスィンがその場に跪くも、その表情どころか何もかもが、判然としない。

 主の手によって、剣が一閃する。

 まるで斬りつけるように振るったその一撃によって、浮かんでいた譜陣は余すことなく両断された。硝子のはぜ割れるような耳障りな音が響き、崩壊した譜陣の名残が宙に溶けて消える。それに伴い、彼が手にした剣もまた消失した。

 ガイのものによく似た金髪の色が抜けていき、ついには雪の色とまでなる。

 うつむいていた顔が上げられると、そこにスィン・セシルの面影は綺麗さっぱり失せていた。

 端正な、と評されるところだけは共通するあどけない顔立ち。切れ長ではあるものの、まなじりが下がり気味の目は美人というには可愛すぎ、緋色と藍色という左右の違う瞳が、かろうじて彼女がスィンであることを思い出させる。

 あまりの変貌ぶりに一同──あのジェイドすらも──唖然とする中、アニスは「ああーっ!」と驚愕に満ちた叫びを上げた。

 

「シ……ア!?」

「やっほぅ。アニス、久しぶり。今まで黙っててごめんね」

 

 へら、と笑いかけ、驚愕によるショックから立ち直れないアニスを更に混乱させる。

 

「シア、って、スィンの姉貴なんじゃ……」

「そんなこと誰も言ってないよ」

 

 しれっとした言い草の彼女に反論せんと、ルークは以前交わしたシア絡みの会話を思い出した。うろ覚えではあるものの、血縁関係だとは言っていたが、姉だなんて確かに一言も聞いてない。

 

「スィンとシア・ブリュンヒルドが同一人物……ということは、ヴァン謡将と手を組んでいた線が濃厚ですね」

「師匠と……!? どうして」

「覚えていませんか? 以前、シアは元六神将にあたる人物だとアニスが言っていました。カイツールでヴァン謡将と合流を果たしてからバチカルで別れるまで、二人の態度はどこかおかしかった。……否定しますか、スィン?」

 

 彼女は首を真横に振った。

 

「否定すべき要素がありませんね。繋がっていた、というのが事実です」

 

 開き直りに近い彼女の言動から、ジェイドは小さな特異点を見つけている。

 

「ふむ。過去形ですか」

「信じる信じないはそちらにお任せします。疑わしいと仰られるなら、僕だけでも放逐してくださって結構です。……ガイ様は、無関係ですから」

「すぐにばれるような虚偽を口にするのは見過ごせねえな」

 

 じろ、と彼女を睨んで黙らせると、ガイもまた告白を始めた。

 

「スィンが信じられないなら、俺も離れる必要がある。ヴァンはガルディオス家右の騎士フェンデの長男だ。スィンの幼馴染であり、俺の兄貴分でもある。……俺達は、失われた故郷、家族の復讐を誓い合った仲だ」

 

 ガイラルディア様のバカ。

 小さな声ではあったが、スィンははっきりとそれを呟いた。

 

「正直は美徳だと思いますが、今なら僕になすりつけちゃえばあなただけでも無傷でいられたのに」

「バカ言うな。蛇足だって言いたい気持ちはわかるがな、お前に押し付けたところでばれるときはばれるものなんだよ。……さっきみたいにな」

 

 テオルの森での記憶が甦りかけているのか、彼はわずかに影を落として、それでもすぐにルークへ笑いかける。

 

「どうだ? 気ぃ、変わっちまったか?」

「そ、そんなことない。ちっとビビッたけど、でも……二人とも、俺が立ち直るって信じてくれた。だから今度は、俺が二人を信じる番だ」

「ちっとじゃなくて大分だろ」

「うるせっ」

 

 仇を討たれるかもしれないとわかっていながら、彼は精一杯の笑みを浮かべていた。

 その彼を微笑み返せば、ジェイドの仕切り直しが入ってくる。

 

「さて、いい感じに落ち着いたようですし、そろそろセントビナーへ向かいましょうか」

 

 予想していた動きであるが、初耳だった。それを聞く前に、アニスが自分たちの今後を報告する。

 

「ああ、使者の方から聞きました。セントビナーに行くって。でもイオン様はカースロットを解いてお疲れだし、危険だから私とここに残ります」

 

 が、イオンを思っての意見を、当の本人が却下した。

 

「アニス。僕なら大丈夫です。それに僕が皆さんと一緒に行けば、お役に立てるかもしれません」

「イオン様!?」

 

 思いもよらぬ彼の一言にアニスが驚愕を返すも、彼に主張を曲げる気配はない。

 

「アニス。それに皆さん。僕も連れて行ってください。お願いします」

「師匠がイオンを狙ってんなら、どこにいても危険だと思う。いいだろ、みんな」

「目が届くだけ、身近の方がマシということですか。仕方ないですね」

 

 イオンの頼みに、ルークがメリットを唱えて了承を促し、ジェイドもまた賛成した。

 ルークはともかくとして、イオン、ジェイドにまで逆らって自説を主張するほど、彼女は子供ではない。

 

「もぅっ! イオン様のバカ!」

 

 結局、すねるように彼女はしぶしぶ承諾した。

 

 

 

 

 

 

 

 




実際のところはどうなんでしょう、ガイはちゃんと自分がしたことを覚えていたかもですね。
でもそれだと、度重なるカースロット発動時のあれもこれも覚えていて、でも覚えていないふりをしていたことになってしまいますか。

何故彼女がわざわざ姿を変えていたのか。それは次唱、明らかとなります。
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