草木の少ない荒野を進んだ先、岬の突端──というと少し言いすぎた感のある位置に建立する街の中で。一行は奇妙な三人組と遭遇した。
とある大きな建物の側面、見張り台へ登る梯子を前にした地点で、老人二人に老女一人という面々が顔をつき合わせて唸っている。
年に似合わぬモヒカンに似た髪形をした、色黒の老人が禿頭で対照的に色の白い老人にせっつくように何かを聞いていた。
「どうじゃった!? んん? どうじゃったんじゃい!」
「間違いない! メジオラ突風に巻き込まれて、今にも落ちそうじゃ」
答えを聞き、柔和な面立ちの老女が手にした定規で肩を叩きながら確認している。
「いやだよ、アストン。あんた、老眼だろう? 見間違いじゃないのかい?」
「老眼は遠くの方がよう見えることはわかっとろーが、タマラ」
色白の老人が、タマラというらしい老女に沈痛な面持ちでそれを言った。
同時に、色黒の老人がどちらかといえば困った、というように顎へ手をやっている。
「マズイの。このままでは浮遊機関もぱぁじゃ」
その一言を聞き、老女は持っていた定規を色黒の老人に突きつけた。
「何言うんだい、イエモン! アルビオールに閉じ込められてるのは、あんたの孫のギンジだろう! 心配じゃないってのかい!」
それでは彼女が怒るのも無理はないのかもしれない。
タマラが、イエモンというらしい色黒の老人に定規で突きを入れたところで、ルークが彼らに話しかけた。
「何かあったんですか?」
「……アルビオールが、メジオラ高原に墜落したんじゃ」
ルークの問いに、イエモンがそう答える。
彼らに言葉が届かないあたりで、仲間たちはひそひそと言葉を交わした。
「アルビオールって……」
「古代の浮遊機関を積んだ、飛行機関の名称だよ」
「あちゃー。じゃあ無駄足だったってこと?」
アニスの言葉に、「そうでもないんじゃない?」とスィンが答え、老人三人組に話しかける。
「浮遊機関は二つ発掘されたはずですけど」
「よく知っとるな。じゃが、第二浮遊機関はまだ起動すらしとらんのじゃ」
そのとき初めてスィンの顔を見たイエモンは、んん? と首を傾げた。が、アストンの言葉に重要事項を思い出す。
「そんなことよりイエモン。すぐにでも救助隊を編成して、ギンジと浮遊機関の回収を!」
「そうじゃな。浮遊機関さえ戻れば、二号機に取り付けて実験を再開できるしの」
「なんて薄情なジジイだい!」
なんやかやと言い合いながら立ち去ってしまった三人組の背中を見送り、ジェイドがぽそりと呟いた。
「メジオラ高原は、魔物の巣窟ですよ。救助隊が逆に遭難しかねませんね」
「でも話を聞く限り、墜落した浮遊機関がないと空を飛べないみたいだわ」
どうもややこしい話に、それでもできることから、とルークが提案する。
「とにかく、まずは浮遊機関を借りられないか相談してみよう」
「そうですわね。あのイエモンと言うご老人を訊ねればよろしいのではないかしら」
彼らの後を追う道すがら。ジェイドは絶えぬ疑念を確認するようにスィンを見た。
「──ひどく詳しいように思えたのは、私の気のせいですか?」
「ま、この交渉で説明できると思いますよ」
街の人々の聞き込みから三人が入っていったらしい集会場に踏み込むと、三人は上部の大きな机を前にいる。
ものも言わずスィンは一行の前に出ると、何のためらいもなく話しかけた。
「ご無沙汰しております、お三方。私のこと、覚えておいででしょうか?」
「おお! どっかで見た眼じゃと思うたら、やはりあんただったか!」
実に慇懃なスィンの挨拶に、イエモンが素早く立ち上がっている。
他二人は、スィンの顔をまじまじ見た後で、ああ、と手を打っていた。
「あのときのお嬢さんじゃないか! 元気にしていたかい?」
再会を喜ぶ三人とは裏腹に、置いてけぼりの一行はルークを代表して不思議そうに問いかける。
「知り合い……なのか?」
「浮遊機関の発掘班班長としてここに浮遊機関を届けにきたときに、少し親交を暖めさせていただきました」
口調は慇懃なものへ、それに伴い物言いは感情が希薄なものへ、意図的に変化している。
これが『シア・ブリュンヒルド』としての彼女なのだろうか。
「さておき、頼みがあります。図々しいお話ではありますが、飛行機関を貸与願いたい」
「そりゃまた一体どうして……」
事情の説明を求められ、スィンは淡々と事の説明を始めた。三人はその間、何か質問を挟むことなく沈黙している。
何をどう思っているのかさっぱりわからないが、とにかく話さないことには頼めはしない。
話し終えてしばしの沈黙。
イエモンはどこを見ているのかわからない視線を、話の中で紹介したナタリアにはっきりと向けた。
「……話はあいわかった。しかし、亡くなられた筈のナタリア様が生きておいでとは。しかもマルクトの住民を助けるために動いておられる……」
キムラスカの民としてなのか、憂いを帯びた彼の声音を遮るように、またはそんな彼の態度を苛立ったようにルークが声を張り上げる。
「マルクトとかキムラスカとか、そんなん今はどうでもいいだろ!」
「そうさねぇ。ただ、こっちも困ってるんですよ」
タマラがとんとん、と定規で肩を叩いた。
「アルビオール初号機が、メジオラ高原の崖に墜落してしまって……」
「中に操縦士が閉じ込められた状態で、メジオラ突風が吹いての。今にも崖から落ちそうなんじゃ。救助隊を派遣しようにも、マルクトと戦争が始まるってんで軍人さんは出払っててのう」
スィンの頼みに頷けない事情を話す彼らの話を聞き、ルークはほとんど即答した。
「だったら俺が行くっ!」
「よく言いましたわ、ルーク! それでこそ、王家の蒼き血が流れる者ですわ!」
感極まったようにナタリアが言うも、ルークはかすかに戸惑ったようにそれを否定している。
「……べ、別に王家とか、そんなん関係ねーって!」
「……え?」
「ただ俺は……できることをやらなきゃって。だいたい人を助けるのによ、王家とか貴族とか、そんなんどうでもいいかな……とか……」
おそらくそう考える理由としては、彼がレプリカであることも含まれているだろう。
が、ルークはそう明言することを避け、尻すぼみになった理由を強引にまとめた。
「そ、それだけだよっ!」
──幼少より親しんだルーク、否アッシュと、王族としての在り方を語り合ったナタリアとしては、ルークにかけた言葉は彼女の中の真実だったのだろう。
が、ルークはアッシュではない。彼女のように考えるのは、おそらく一生を費やしてもできることではないだろう。
少しそれてしまった話題を修正するように、ティアが仕切り直し気味に頼み込んだ。
「……私たちの中には、軍事訓練を受けた者もいます。任せていただけませんか?」
「その代わり、じゃないですが、俺たちが浮遊機関を持ち帰ったら、二号機を貸して欲しいんです」
たたみかけるようにガイも続けるが、イエモンは更なる問題を提示している。
「二号機は未完成じゃ。駆動系に一部足りない部品がある。戦争にあわせて、大半の部品を陸艦製造にまわしてしもうた」
「タルタロスも元は陸艦です。使える素材があるなら、使ってください」
「ジェイド! いいのか!?」
驚いたようにルークが言うも、ジェイドはそれに笑みを浮かべることで肯定した。
「イオン様。ここに残ってタルタロスの案内をお願いできますか? 我々が浮遊機関を回収する間に、二号機を完成させて欲しいのです」
「僕は承知しました。あとは……」
穏やかなイオンの視線が、三人組に向けられる。代表して、イエモンが応えた。
「……部品さえあれば、わしら、命がけで完成させてやるぞい」
話がまとまったことに安心して、それでもルークは表情をひきしめている。
「よし、じゃあ俺たちはそのメジオラ高原へ行こう。で、場所は……?」
「メジオラ高原は、ここから北西じゃ。それと、こいつを持っていけ」
後ろの方でなにやらごそごそやっていたアストンが、大型の筒のようなものを一組、ルークに手渡した。
「この発射装置で、アルビオールを固定してから崖下へおろすんじゃ。あそこは酷い風が吹いていて危険じゃからな」
「でも使い方が……」
そこへガイがルークから発射装置──ランチャーを取り、一組のうち片方を手馴れた仕草でスィンへ寄越す。
「音機関なら、俺たちに任せとけ。大丈夫だろう?」
「……取り扱いに関してなら、問題ありません」
渡されたランチャーはふたつ。いうことは──
軽く唇を尖らせて不満をあらわとし、スィンはこっそりと彼を見た。
『王家の蒼き血』ってカッコいい響きですよね。
blue blood 通称は貴族の血統。元々はスペイン語のsangre azulからきているそうです。意味合いとしては実際の血液の色ではなくて、肉体労働などがなく日焼けすることのない貴族の腕には、青い静脈が透けてみえることから出来上がった言葉らしいのですが。
あと、「お嬢様」とも訳せるようですね。出かけることがあまりない深窓の令嬢はやっぱり日焼けをしなくて、静脈が青く透けてみえる、と。
現在進行形で旅をしている二人は少なからず日焼けをしていない、ということはなさそうですが。