the abyss of despair   作:佐谷莢

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第六十一唱——死神の口より語られしは数々の事実

 

 

 

 眼を開ける。

 視界を占領したのは、裸足にされ足枷で固定された己の足だった。

 吊られた両腕、重たい体、いまいちはっきりしない頭。

 強制された姿勢に抗うも、当たり前のように拘束がそれを阻んだ。

 

 とらわれるならしね。とらわれたならしね。

 

「おや。もう起きてしまったのですか」

 

 脳裏を掠める遠い声を聞き流す。

 抵抗を咎めるように鳴った鎖でスィンの覚醒に気づいたのか。脱力し垂れていた顔に手が伸びてくる。反射的に逃れようとするも、感覚に体がついていかない。顎を掴まれて持ち上げられた。

 視線が否応なしに固定される。顎を掴んでいるのは──ディスト、だ。

 むき出しの肌が粟立ち、そのことで衣類の大半が取り上げられていることに気づく。

 このままではいけない。何とかしなければ。

 働かない頭が、この情けない半裸状態をどうにかしようと足掻いて……とんでもない下策を思いつく。

 

「困りましたね……あれ以上強い薬なんか用意していませんよ」

 

 顎をつかんでいた手が、いやにゆっくり離れていく。

 その芝居じみた動作を見逃さず、スィンはその指先に噛み付いた。

 

「あだっ!」

 

 指そのものではなく布の感触が口の中にある。手袋をしているようだが、気にしない。薄い布地をものともせず、更に顎に力を入れて犬歯を食い込ませる。

 やがて口の中には、鉄錆びの味がじわりと滲み──

 

「離しなさいっ!」

 

 口の中に硬い鋭角の何か、定規だろうか。それが押し込まれ、てこの原理で口をこじ開けられる。

 目的のものをすでに手に入れたスィンは、素直に指を解放した。口の中で譜を唱え──

 その間に、戻ってきた己の手を抱きしめるようにして、彼は苦情を言い募る。

 

「いきなり何をするんです、噛み切られるかと思っ……た……」

「──ふむ」

 

 ぐにゃぐにゃと好き放題歪んでいた視界がどうにか安定してきた。

 ポカーンと口を開けて呆けるディストをまじまじと見つけて、視線を下げる。

 

「な、な」

「詳細がいまいちわかりませんが、成功した、ということでよさそうですね」

「何で私の顔なんですかっ!」

 

 姿見のようなものが見当たらないにつき詳細は不明だが。発動させた秘術により、スィンはディストの姿を模倣していた。

 体格の違いが災いし、手錠足枷が拘束箇所を圧迫しているが、半裸に比べるべくもない。

 

「特定の人間を除き、無闇に肌をさらさない。淑女のたしなみです」

「私の顔で不思議なことを言わないでくださいっ!」

 

 余裕綽々だったディストが喚き始めたところで、スィンはようやく己のおかれた状況を把握し始めた。

 両腕は吊られて手錠でひとまとめ。両足は足枷でひとくくり。その上、薬がどうとか言っていただろうか。確かに現在の体調では、たとえ拘束がなくてもろくに動けないだろう。

 体調の把握を終えて、眼球だけを動かして周囲を観察した、

 以前こっそりお邪魔した、神託の盾(オラクル)本部ディストの私室を彷彿とさせる様相である。

 真横には書類の散らばる机、部屋の中央には備え付けにはとても見えない稼働中の音機関が設置されていた。

 足元が時折揺れる感覚、船窓の辺りから聞こえる波の音。連絡船か何かの一室ではないかと思われた。

 

「いや、問題はそこではありません。何故被服どころか眼鏡まで再現できるんですか」

「ふっ。華麗なる神の使者を自称するくせに、そんなこともわからないのですかっ!」

 

 はぁーっはっはっはっ! と、高笑いでお茶を濁す。

 こんな感じだっただろうか。自信はないが、完璧に真似る必要などどこにもないため心配するだけ無駄だろう。そして、その理由を語る気もさらさらない。

 彼は彼で返す言葉がないらしく、胸ポケットからハンカチを取り出してぐぬぬ、と歯噛みしている。

 

「お前は誰だ──もとい、ところでどちらさまですか」

「ゲシュタルト崩壊させようとしても無駄ですよ!」

 

 よくその単語を知っていたものである。彼の疑問から気をそらすためだけに放った一言だったのだが、ディストは予想以上に食いついてきた。

 

「そもそもあの実験は何日もかけて人間の精神崩壊を促すものですからね! 今どれだけ問答しようと無駄です、無駄!」

 

 飛んでくる唾がとても嫌だ。

 ディストの顔のまま辟易していたスィンの意識は、とある単語に引っかかりを見せた。

 

「……いくらユリアの再来だからといって、こんなの反則ですよ。まったく……」

 

 聞き慣れない単語を耳にしたが、詳細は聞かない。聞きたくない。

 しかしディストは、そんなスィンの心の内を見透かしたかのように視線を寄越してきた。

 

「ああ、ユリアの再来とはあなたのことですからね。現実から眼を背けないように」

「……何の話ですか」

「とぼけても無駄です。ユリア再誕計画87番目のユリア。報告書では生まれて七日で死亡したとありましたが、改ざんがお粗末でしたね。うつ伏せになって、寝返りが打てずに呼吸困難を起こした? 寝返りが打てないならどうやってうつ伏せになったのでしょうか」

「嬰児の死亡原因として、特に珍しくもない事例ですが」

「それは一般家庭の話でしょう。研究サンプルとして管理されていた嬰児ですよ? ありえないでしょう」

 

 この馬鹿にするような調子。どうも彼は、資料改ざんをスィンが行ったものとして話をしている模様だ。実際は87番目のユリアとか言われて非常に困惑しているわけだが。

 それはつまるところ、例の計画では少なくとも86人もの赤ん坊が生み出され、死亡していることになるのか……

 今とは関係ない話である。ディストの顔のまま、スィンは頭を振って考え込みそうになる思考を払った。

 そこへ、稼働中だった音機関からアラームが鳴ったかと思うと、備えていたスリットから書類が吐き出される。それを回収したディストは、一瞥するなりそれを彼女の眼前に掲げた。

 

「御覧なさい。大詠師の権限で機密文書を漁りに漁り、ついに発見したユリアの振動数と照合したものです。見事なものでしょう?」

 

 細かな数字の羅列が、間を開けて二種類表示されている。ただ見ただけでは差異が発見できないほどに、数字の羅列は似通っていた。

 徐々に書類の下部へ視線を下げる。そこでスィンは、思いがけない文面を見つけてそのまま口に出した。

 

「適合率……94.7%」

「そう。この数値は、たとえるならルークとアッシュ並み、つまりあなたはユリア・ジュエの完全同位体と称して差し支えない肉体の持ち主です。まあ二人の数値には若干及びませんが、当時の技術レベルを思えば」

 

 まだ何か抜かしているようだが、ほとんど耳には入ってこない。

 薬の影響なのか、事実を改めて突きつけられたせいなのか、非常に気分は優れなかった。

 

「私の顔で器用に青ざめない! もうちょっと嬉しそうになさい」

「──あなたの顔はもともと青白い。自分の顔に難癖つけないように」

 

 認めたくなかった現実が、目の前の書類にある。破いて燃やして、記録が残っているだろう音機関を破壊して、事実を知ったディストを消してしまいたい。

 そんな衝動に駆られている最中、そんなこととは知らないディストがこんな要求を口にした。

 

「さて、もういいでしょう。いい加減私の扮装を解きなさい!」

「私の服を返す。あるいは人間らしい格好にしてくださるなら考えてあげてもいいですよ」

 

 その言葉に、ディストはしぶしぶといった体で机の一番下の引き出しを開けた。

 スィンがまとっていた軍服がきちんと畳まれて置いてある。それを認めて、ひとつ促した。

 

「拘束を解いてくださらないと、条件は満たされませんよ」

「そんなことをしたら、あなたは嬉々として襲いかかってくるでしょうが!」

 

 残念、見破られていたようだ。

 薬がまだ残っていてろくに動けないからそんなことはできないと言い聞かせても、聞き入れる気配はない。

 

「その辺りに関してはまったく信用なりません。あなたは今までどれだけ嘘をついてきたと思っているんですか」

「あなたが今日、この日まで食べてきたパンの枚数くらいですかね」

「冗談に聞こえないのがあなたの怖いところですよ……」

 

 ぶつくさ呟きながら、彼は引き出しを閉めてしまった。

 代わりに、船室の備え付けと思われるロッカーから丈の長い白衣を取り出している、それを手にしたのち、彼は手錠を片方ずつ外すという手段を用いてスィンに白衣を着せた。

 

「いいですか? おかしな挙動をすれば、あなたの主の首がここに届けられますからね!」

 

 そこをどうにか、ジェイドの首辺りに挿げ替えてもらえないだろうか。

 口にこそしなかったが、スィンはそんなことを考えていた。

 そうこうしている内に白衣のボタンまでしっかり留められる。スィンは約束通りディストの扮装を解いた。

 

「質感まで存在するとは、相当手の込んだ術式ですね……」

 

 一子相伝の秘術につき、話すことは何もない。

 黙り込んでしまったスィンの口を開けさせるためなのか、ディストは唐突にこんなことを言い出した。

 

「ところで。主の安否は気にならないのですか」

「主のみならず彼らの安否は気になるところ。んで、尋ねたら教えてくれる?」

 

 ディストの性格を鑑みるならば、素直に教えてくれることはありえない。もったいぶってもったいつけて、どんな交換条件を提示してくれることやら。

 そんなスィンの勘ぐりとは裏腹に、ディストはおもむろに壁の突起を押し込んだ。

 モニターに電源が入ったかと思うと、一室にまとめて囚われている一同の姿がモニターに映し出される。

 その中には、ジェイドの隣に座ったガイの姿もあった。

 

『……たちは大丈夫でしょうか』

『ダアトは宗教自治区だもん。むやみに殺されるようなことはないと思うけど……』

 

 ナタリアが思わしげに呟き、アニスがわざと明るく希望的観測を口にする。

 それに彼女の希望であることは、どうしても明白だったが。

 

『俺たちはどうなるんだ?』

『ルークは処刑されるのでしょうね。預言(スコア)通りにするために』

 

 ガイの言葉に、ジェイドは今一番立場のはっきりしているルークの処遇を推測した。

 それまで何かずっと考え込んでいたルークが、やがてぼそりと零す。

 

『……その方がいいのかもな』

『ルーク、何を言ってるの!』

 

 驚いたようなティアの声音に動ずることなく、彼は淡々と、おそらく今まで自分が考えていたであろう内容を言葉とした。

 

『だって、そうだろ。俺が生まれたから、この世界は繁栄の預言(スコア)から外れたんだ。だから預言(スコア)にないセフィロトの暴走も起きたんじゃないか』

『おまえ、何言ってんだ』

 

 苛立ったようなガイにも、ルークは気づいていない。

 

『そうとしか思えないよ。それにティアだって言っただろ。ユリアの預言(スコア)には、俺が存在しないって』

『馬鹿!』

 

 突如ティアはいきり立って怒鳴りつけた。

 冷静な彼女にしては至極珍しく語気も聞いたことがないくらい荒いものだったが、光の加減だろうか。

 今にも雫を零してしまうそうなほど潤んでいる。

 

『ば……馬鹿とはなんだよ!』

『私はただ、あなたがユリアの預言(スコア)に支配されていないのなら、預言(スコア)とは違う未来も創れるって言いたかっただけよ!』

 

 そんな意味合いが込められていたとは露知らず、ルークは心底意外そうに彼女を見た。

 

『……ティア……』

『あなた、変わるんじゃなかったの! そんな風にすぐ拗ねて! もう勝手にしたらいいわ!』

 

 ルークに背を向けるその様は、本気で怒っているようにも、子供が拗ねているようにも見える。

 

『ティア……ごめん……』

『…………』

『……ごめん……』

 

 カチッ

 

「このような事態で仲間割れですか」

 

 余裕ですねえ、とディストは独り言のように呟いた。

 モニターの電源こそ落とされたようだが、彼が操作したのは先ほどとは異なる突起。

 何の意図かを勘ぐって、スィンは探索の秘術を発動させた。

 

「って、何をしているんですか、あなたは!」

 

 譜術行使の証として、足元に譜陣が浮かび上がる。

 ディストの声は無視して、閉じた目蓋の裏に第三音素(サードフォニム)を介しての光景を投影した。幸いにして、彼らが囚われている一室を発見する。

 彼らは言葉を交わしておらず、一様に壁の一点を見つめていた。

 一瞥して、術を解く。

 壁の一点は四角く発光しており、その中には拘束されたスィンと詰め寄るディストが映し出されていた。それだけ確認できれば、もう十分だ。

 眼を開けば、譜陣が消えて術の行使をやめたことに気づいたディストが額の汗を拭っているところだった。

 

「譜術を封じておくべきでしたか……先ほど言ったばかりでしょう。おかしな真似をしたらあなたの主は死にます! あなたのせいで、ですよ!」

「……どのようにして、ですか? この部屋は監視されていて、あなたに危害を加えようものならば、あなたの部下が行動を起こすのですか」

 

 煮えたぎる内心を押さえ込み、意図的に口調を慇懃なものへとすりかえる。

 沸騰寸前の頭を鎮めるのは容易ではなかったが、ここで感情を優先させてしまったら逆効果。この方法は極めて有効であると教えてしまうだけだ。

 スィンの態度に意外なものと感じたか、ディストの二の句はない。

 しかしそれは一瞬のことで、彼はなぜか相好を崩した。

 

「やっとシアに戻ってくださいましたね。没落貴族の従者を演ずるよりも、今のあなたのほうが魅力的です。ぜひそのままでいてください」

「人を二重人格呼ばわりしないでください。演じているのはまぎれもなくこちら」

 

 無論二重人格などではないが、意識して使い分けているのは事実だ。

 このままでは、ガイを心配するあまり何もできなくなってしまう。

 

「それで? あなたが悲鳴を上げでもしたら、即刻彼の首が刎ねられると?」

「まさか。このブザーが鳴ったとき、金髪碧眼の男の首を持って来いと伝えてありますとも」

「拘束してもいない人間の首を刎ねるのは容易ではありませんが、ずいぶん手練の人間を連れてきているんですね」

 

 ともあれ、脅しではなさそうだということ。そしてスィンへの切り札は、発動させるのに多少時間の猶予があることがわかった。

 人の首をあっさり刎ねることができる手練が気になるところだが、正体を考えるのは後でいい。

 シアを演じていることに機嫌をよくしているディストから、もう少し情報を引き出すことにした。

 

「ふっ。名を聞けばきっと驚きますよ。なにせ──「ルークとナタリアは、戦争再開のために処刑されるでしょう。では、他の皆は? ジェイドは敵国の軍人だから同じく処刑されるか、マルクトとの交渉に使われるかもしれません。ティアとアニスはダアトに引き渡されると思われる。なら、私達は──?」

 

 まるで思いつきのように、一行の今後の処遇を尋ねる。

 彼はほう、と感嘆の吐息をつきながらも答えてくれた。

 

「──流石採魂の女神にしてユリアの再来、私の認めた女性です」

「全部不名誉だから取り消してくださると嬉しいのですが」

「茶々を入れない! 王族二人組の扱いは正解です。あの二人が死ななければ戦争を起こす大義名分が立ちませんからね。ジェイドは処刑の線が濃いでしょう。キムラスカの軍人には恨まれていますから、兵士の鬱憤晴らしによってたかってなぶり殺しにされるかもしれませんね? アニスは導師じきじきの解雇を受けているし、未成年ですからダアトの両親の元へ戻されるでしょう。そして総長の妹とあなた、あなたの主は──私が責任を持って総長の元へ送り届けます。そういう命令を受けていますからね」

 

 どんなに感情を押さえ込んでも、顔色だけは押さえがきかなかったようで。スィンは自分の頬から血の気が引いていくのを感じていた。

 想像通りとはいえ、とても享受できる内容ではない。何が何でも、阻止しなければ。

 まるでスィンの内心を覗き込むかのように、ディストが顔を近づけてくる。

 それから顔ごと眼を背けて、まずこの状況の打破から考えていると。

 

「よほど大切に思っていらっしゃるんですねえ。あなたの主……いえ、腹違いの弟君でしたか」

 

 腹違いの、弟。

 

「……えっ」

 

 この瞬間。間違いなくスィンの時間は、停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しらばっくれても無駄です。以前からおかしいおかしいとは思っていました。単なる赤の他人にあそこまで入れ込むことができるなんて、何か裏があると思って調べた甲斐がありました。ガイラルディア・ガラン・ガルディオスはあなたの父方の弟君。否定しますか? シア』

 

 映し出されたモニターの中で、白衣を着せられたスィンとディストのやり取りに一同はらはらしながら見守ってきた最中、ガイは無言でモニターの中のスィンを見つめていた。

 ガイは腹違いの弟なのだろうと指摘された彼女は、呆然としたような、ショックでも受けたような、混乱の色が濃い瞳で意図しない返事を洩らしている。

 

『……ということは旦那様。あの計画に、協力されてらっしゃった?』

『ユリア再誕計画のことですか。確かに遺伝子提供者としてガルディオス伯爵の名が記されていましたが』

『あの奥様バカ……もとい、奥様に尻しかれマン……じゃなくて。奥様一筋だった旦那様が……実験のためだけにほ、他の女と』

 

 どうも、腹違いの弟云々よりも違うことに衝撃を受けている様子。

 それを見て取って、ディストはため息混じりに資料を見下ろした。

 

『動揺しているふりをしても無駄ですよ。あの計画において、男女の営みなど一切行われていないのですから』

『……?』

『遺伝子提供者と言ったでしょう。男女の遺伝子情報を取り出し、組み合わせて人を成すという偉大な実験でもあったのですよ』

 

 手元の書類に目を落とすディストは気づいていないが。スィンは心底ホッとしたように息をついていた。しかしその安堵も、次なる言葉を聞きつけて凍る。

 

『そうでもしなければ研究は遅々として成立しなかったでしょう。その代償として多くの、人間とは程遠いサンプルがいくつも出来上がってしまったようですが』

 

 顔を上げ、書類を束ねて形を整える。ちらりとスィンを見やったディストは、小さく鼻を鳴らしていた。

 

『まるで今、初めて知ったかのような反応ですね』

『今、初めて知りました。まさしく』

『役者もかくやという素晴らしい演技であることは認めましょう。しかし、私の目は誤魔化せません』

 

 書類を机上に置いたかと思えば、今度は違う資料を手にしている。

 おそらくユリア再誕計画に関するそれを眼で追っていたスィンは、違うものを突きつけられて色違いの瞳を瞬かせた。

 

『?』

『あなたの持病に関する報告書です。呼吸器系の疾患とは伺っていましたが、この症状は瘴気触害(インテルナルオーガン)そのものですよ』

 

 瘴気蝕害(インテルナルオーガン)。瘴気を吸引し続けることで臓器に毒素が蓄積し、発症する病である。

 かつて譜術戦争(フォニック・ウォー)の弊害による大規模な地殻変動で猛毒──瘴気が発生した際確認されたものだ。

 かかり始めは風邪に似た症状だが、やがては内臓を冒されて衰弱死する。致死率は非常に高い。

 

『厳密には違う、と私は伺っていますが』

『本来は体力のない子供や老人が発症するものですから、そう診断してもおかしくはありませんが……原因はホド戦争開幕時でしょう。逆算すれば十分該当しますよ』

 

 ホド戦争開幕──ファブレ伯爵がホドを攻め入った際、何があったというのだろうか。

 それらしい記憶が自分の中にないことを歯噛みするガイ、父の行いが絡んでいることに言葉を失くしているルークをよそに、画面の中のスィンはすべてを承知であるらしく、表向き何の表情も浮かんでいない。

 こめかみの辺りをつたう汗さえ除けば。

 見守る彼らを知ってか知らずか、画面の中のやりとりは続いていく。

 

 

 

 

 

 




ディストの語る一行の処遇は、オール個人的な予想です。
ジェイドは微妙なところですが人質にしてこれ以上危険な人もいないでしょうし、生き残り組とて厳しい現実が待っているのではなかろうかと。
ダアトに返されるはずのアニスが船に乗せられているのは、偽王女の仲間としてキムラスカで裁きを受けるため、です。あくまで形式的なものでしかないと思われますが。
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