人類の進化は、次の幼年期へと入った。
 幼年期の始まりとは赤子の誕生、新人類の始まりであり、旧人類の滅亡を意味する。彼こそが新たな人類、上位者と成りし者――新人類の先触れである。
 蒼褪めた血の望んだ赤子、彼は人形に抱かれ滾々と眠る。

「あぁ、お寒いでしょう、狩人様……」

 上位者となり、新人類の先触れとなった彼は一体の人形と共に生きていく。


 上位者となった狩人と人形ちゃんがイチャコラサッサする話が読みたかったの、私は! けれど無かったの! 何で?(殺意) はやくかいて、やくめでしょ。

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軈て月に至る貴方へ

「幾人かの狩人様から、教会の話を聞きました、神と、神の愛のお話――でも、創造主は創造物を愛するものでしょうか? 私は、貴方がた人に作られた人形です……けれど、貴方がたは私を愛しはしないでしょう? 逆であればわかります、私は、貴方を愛しています――創造主は、創造物をそう造るものでしょう……?」

 

 私はそう、狩人様に問いかけた。彼は血に塗れた衣服を乱雑に湧き水で洗いながら、ふと、その手を止め答えた。彼が私に目を向ける事は無かった。

 

 ――人形を愛する奇特な創造主が居たとしても、別段、おかしい事ではあるまい。

 

 そう言って彼は再び血を洗う作業に戻る。何故、あんな事を問いかけたのか今でも分からない。本当に、分からない。でも、勘違いだとしても嬉しかった。多分、これが『嬉しい』という感情なのだと思う。暖かで、どこかむず痒く、微睡む様な心地よさ。

 

 それはまるで、彼に『愛している』と言われたような気がしたから。

 

 ■

 

「……はッ」

 

 目が覚めた。一時、思考に没していたらしい。木椅子に腰かけ、ぼうっと天井を見上げていた自分を自覚する。

 

「懐かしい……なにか、懐かしい、『夢』を――」

 

 夢の中で夢を見るなど、人形には少しばかり贅沢すぎる。暫くの間ぼうっと天井を眺めていたが、腕の中で何かが蠢く感触に慌てて立ち上がった。

 

「あぁ、狩人様」

 

 ストールに包まれ、弱弱しく蠢く蛞蝓の様な生物。私は彼を抱きしめたまま家の中にある暖炉の前へと足を進めた。狩人様の為に作ったものだった。既に火は下火となり、薪も燃え尽きている。横に積まれた薪を掴み、中に放り込む。暫くすれば火は再び勢いを増し、私は彼を抱えたまま暖炉の前に座り込んだ。滲むような温かさ、私には必要ないもの。けれど彼には必要な暖かさ。

 

「すみません、狩人様、また私は、どこかに……お寒かったでしょう、本当に、すみません」

 

 ストールに包んだ狩人様に詫びる。暖炉の方を向き触角を震わせる狩人様。何となくその姿が可愛らしくて、指先で狩人様の頭を撫でようとした。けれどその動作に入る直前、慌てて手を引っ込める。

 自分の指先を頬に当てる――冷たい。

 私は暖炉の前に自身の右手を翳し、十秒程じっとその熱を受け続けた。そうして再び頬に手を当て、温かい事を確かめる。そこまでして漸く狩人様の頭に指を乗せ、静か撫でつけた。微かな滑りと弾力、嘗て人間であった頃の肌とは違う感触。

 

「……この冷たい手では、貴方を暖める事も出来ません」

 

 この時ばかりは、自分が人形である事を少しだけ不幸に思った。もし人の様な暖かい手であれば直接彼を暖める事も出来たろうに、と。

 

「………!」

 

 そこまで考え、少し驚いた。「もし、人間だったら」なんて事を今まで考えたこともなかったというのに。ごく自然に、自分がそんな事を思考している事に驚いた。

 私は、人間になりたいのだろうか?

 

「――まさか」

 

 私は人形、道具にして創造物。この身は人を模してはいる、けれど決して人ではない。人に成ろうとしてはいけない。そう、望まれていないのだから。髪飾りに触れながら、思考を振り払う様にかぶりを振った。

 

「狩人様、貴方はあの方の望みを叶え、こうして新たな人の先触れとなり……その先に、何を望むのでしょうか」

 

 獣狩りの夜は何れ終わる。狩人様が先触れとなり、人の獣性を許さぬ新たな種へと人々を導くだろう。その果てに、人は獣に恐れる未来を克服する。彼はもう夢を見ない、狩人の夢から覚め、新たな主として人にその血を分け与える。

 けれど――それを為すかは狩人様次第。どう考え、どう動き、どうするか、それは私にも分からない。既にこの身の役目は終え、素体もまた一つ限り。死を恐れる事は無い、所詮は人形、感情らしい感情は希薄で、理解も出来ない。

 だから私は此方を見上げ、体を震わせる狩人様に告げる。

 

「――この身は狩人様と共に、私は人形、あなたの意志の為に在り、貴方が優しい目覚めを終えるまで……また懐かしい思い出となる時まで、ずっとお傍に」

 

 それがあの人の望んだ、創造物の在り方なのだから。

 

 ■

 

 俺は別段、狩人になぞ成りたくてなった訳ではない。そもそもヤーナムへとやって来た理由すら朧気であった。全てはもう、遠い夢の出来事の様だ。

 きっと、幾度も死を繰り返した弊害だろう。或いはこれこそ、『血に酔う』という事なのかもしれない。朧げな記憶を探り、ヤーナムへとやって来た理由を思い出す。そうだ、自分達は恐れていた、獣に成ってしまう事を。

 だから――。

 

「この辺にィ、蒼褪めた血っていう獣絶対ならない輸血液があるみたいっすよぉ? じゃけん、直ぐ行きましょうね~」

「おっ、そうだなぁ」

 

 俺はヤーナムに向かった。隣には自身の友人が居た。彼奴はヤーナムに踏み入り五分足らずで獣に喰われた、性的に。俺も、そうなる筈であった。しかし、何故か誰かに助けられ、狩人の夢という場所に囚われる事となった。俺の後ろの穴は無事であった。

 その夢は悪夢であった。死んでも、死んでも、死んでも、終わらない。終わらない夢。ヤーナムという場所は正に魔境。獣に成り損ねた人間達が襲い掛かり、十メートル近い巨大な怪物はそこらに張り付いているし、三メートルはある巨漢が瓦礫片手に襲い掛かって来る。とても正気とは思えない。いや、事実正気などこの街に存在していなかったのだ。

 斬られ、潰され、抉られ、千切られ、散々死んだ。

 それでも自棄になって戦えたのは良かった。多分、この時点で俺は狂ってしまっていたのだ。血に酔っていたのだ。

 

「おらオラ来いよオラァン! テメェ馬鹿野郎、ぶっ殺してやらァ!」

「三人に勝てる訳ないだろ!」

「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」

 

 本当に気が狂うかと思った。特にあの、悪夢にて相対した脳味噌に目玉の付いた怪物。アイツだけは許さない、絶対にだ。

 聖職者の獣を燃やし、斧を振り回す神父を散弾銃で吹き飛ばし、血に乾いた獣を磨り潰し、聖堂の奥に座していた獣も射抜き――嗚呼、もう、兎に角殺した。殺し尽くした。出逢った奴は全て殺した。そもそもこんな人外魔境にマトモな人間が残っている筈がない(確信)。つまり動いている奴は全て狂人、獣、怪物の類である。だから道を塞ぐ奴は問答無用で殺したし、そうじゃなくても殺した。

 どうせマトモであっても後々マトモじゃなくなるんだろう? 俺は詳しいんだ、絶対そうに決まっている。

 星の娘などと呼ばれている奴もそうだった。星の娘――つまり星で一番美しい女だと思った俺は喜々として彼奴を探した。この抉れた精神に癒しを求めたのだ。そして出会った。

 何かもう化け物としか呼べない位に化け物だった。暗面が真っ二つに裂け触手を伸ばし羽っぽい気持ち悪いものも生えた本当に化け物だった。マジで化け物だった。

 泣きながら大砲をぶっ放した。

 その辺りから俺はもう考えるのをやめた。

 

 金のアルデオ(金色の三角形)を被り、上半身は裸で、人形のスカートを履き、ローゲリウスの車輪を背負って夢を巡った。もはや俺を止める者はなかった。何ならそこら辺の村人が落とした輸血液を躊躇わず自分に打つ位は頭がおかしくなっていた。頭おかしくならないとやっていられないんだ、気が狂って当然だ、誰だってそうなる、俺だってそうなったのだから。

 泥水を啜り、腐肉を貪り、何か干乾びた臍の緒っぽいものも頬張り、灰を喰らい――そして漸く目につく奴を全て殺したと安堵していたら、何をトチ狂ったのかあの糞爺が襲い掛かってきやがった。どうやら夢から覚めるにはこの爺に首を刎ねられなければならないらしい。これはトチ狂っていますね、間違いない。年も年だしボケたか、確かに世話になったが敵対するならば容赦はしない。

 無論、抵抗した、拳で。

 やっぱり皆狂人になるのだと、逆に首を磨り潰してやった爺の傍で確信していれば、今度は上から毛むくじゃらの怪物が降臨した。本当もう頭おかしくなるかと思った、いやもうおかしくなっているのだろうが。結局そいつもぶっ殺した、思ったより弱かった。

 そして彼奴をぶっ殺したら蛞蝓になった。

 これが事の顛末である。

 

 つまりどういう事だってばよ。

 

 ■

 

「狩人様、お寒くはありませんか」

『寒くはないけれど新しい扉を開きそう、これが……バブみ? つまり俺はこの場でおぎゃれば宜しいか?』

 

 人形はゆっくりとストールの上から狩人を撫でつける。暖炉の前で日がな一日、こうして過ごす。狩人は何も喋らない、そもそも口がなく、誰かと意志を疎通するだけの力がない。彼は赤子である。

 しかし、彼が蒼褪めた血を受け継ぎ一年――その躰は確かに成長の兆しを見せていた。

 

「ほんの少し、体が大きくなったように思います」

『あん!? ヤメテェ! そこは後ろの穴んほぉぉぉおおおおッ!』

 

 人形がそっと狩人の腹を指先で突く。前は片腕で抱えきれる程であった。しかし今では一回り程大きくなり、両腕でなければバランスが取り辛くなった。人形の指先をくすぐったそうに避ける狩人。

 人形は何となくその悶える様が可愛くて、つんつん、と指先を動かす。

 

「えい、えい」

『しゅごいのおぉぉぉお人形ちゃんの指しゅご、しゅごいいいいいいッ!』

「ふふっ……すみません、狩人様」

 

 人形は指を引っ込めくすくすと笑う。笑って、それから自分が笑っている事に気付き、驚いた。何だか狩人がこの姿になってからというもの、自分の中にあった『何か』が変質している様に感じる。

 前はもっと無機質的であった筈だ。だというのに。

 

「………」

 

 狩人を撫でつけながら人形は考える。これは、人の言う【感情】というものなのだろうかと。

 

『ああん、人形ちゃんは意外とテクニシャン……でもそんな人形ちゃんも嫌いじゃないわ』

「狩人様、私はどこか……おかしくなってしまったのでしょうか」

『えっ、何、何の話? 服の話? ごめん今俺マッパだから何も言えねぇ』

「狩人様をこうして抱きしめていると、何やら、胸が暖かく……」

『えっ、何病気? 大丈夫? 結婚する?』

 

 腕の中で蠢く狩人。人形はそんな彼を抱きしめ、そっと椅子に深く背を預けた。口から吐息が漏れる、それは人の真似事。けれどそれ以上の何かがある気がして――人形は狩人の背に額を押し付ける。

 

「私は、人形です……それ以上でも、以下であってもいけません」

『人形と結婚しちゃいけないって法律あったっけ? 多分なかったと思うんですけれど』

「ただ狩人様の助けとなる物、それが私」

『あっ、結婚指輪、指輪はどうしよう? 今手持ち銀弾と輸血と火炎瓶しかねぇ……あっ、硬貨! 硬貨あったよ! これで買いものに行ける!』

「たとえ、この気持ちを得たとしても……私は」

『いや硬貨あっても店がねぇ、更に言えばこの足でどうやって買いに行けと? 人形ちゃん、申し訳ないのだけれど指輪は諦めて、代わりと言っては何だけどこの俺の血で作った銀弾でも指輪の代わりに……んほぉぉぉぉぉおッ!』

 

 人形の指が少しだけ強く、狩人を掴む。それは抱擁というより、幼子が親に縋りつく様な所作であった。人形は人形であるからこそ意味がある――そこに感情(不安定な意志)は必要ない。ただ必要とされる時に、必要とされる分だけ、役立てば良いのだ。

 

「狩人様、どうか、私を、御見捨てに――」

『駄目ッ、んほぉ! 人形ちゃん、駄目だッ! 蛞蝓のアヘ顔ダブルピースとか、誰も、誰も得をしないからァ! んほぉぉおおッ! らめぇぇぇぇえぇえ!』

 

 二人の幼年期は――まだ続く。

 




 ブラボの小説を書く→人形ちゃんをすこれの流れが生まれる→人形ちゃんを喜ばせる為に狩人達が舞い戻る→現実にドールブームが訪れる→人形が喋る幻覚を見る人たちが増え始める→夢に囚われる狩人が増える→体は闘争を求める→アーマードコアの新作が出る。

 人形ちゃんとイチャコラさせるにはギャグが良いかなって……。
 人形ちゃんからすると外見クールなナイスガイだけれど、中身は良い感じにトチ狂った狩人っていうのが見たかった。そもそもあんな世界で生き残る人間がマトモな筈がないんですよ、常に不定の狂気抱えているもんなんですよ。私はそう言いたい。
 
 続きはアーマードコアの新作が出たら書きます。

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