サブタイトルをつけるなら「げんだい」ですかね。

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久しぶりにけもフレの二期を見返したんですよ


アムールトラを拾った男の話

 

 

 僕は落ちている物を拾うのがたいへん好きな子どもだった。

 

 キレイな石を探して川原を一日中うろうろしていたし、下校中に手ごろな棒切れがあると拾って振り回さずにはいられなかった。

 今でも茂みに実っている木苺を摘んで食べたり、ツツジの花の蜜を吸うのは大好きだ。

 さすがに大人にもなると常識というものが備わるので、人前ではやらないけれど。

 

 路傍に捨てられて「にゃあにゃあ」鳴いている猫を拾ったこともある。それも二回。

 勉強はからっきしのくせに、こうしたことには意欲的で、小学生の僕は図書館で借りてきた本をもとに具体的な飼育計画を立てて両親を唸らせた。

 

 今はどちらも天寿を全うしている。実に勇猛果敢で、すぐに高いところに登って降りられなくなるやんちゃな連中だった。こうした性格については飼育計画にも無く、私も両親も手を焼いた。

 そんな猫たちとの別れを一番悲しんだのが、当時はペットを飼うのに猛反対した母だったりするから分からないものだ。

 

 そんな僕も今では社会人である。

 

 生来の拾い物好きが転じて、散歩が趣味になった。暮らしているのは実家から遠く離れた町だけど、もうずいぶん歩き回ったのですっかり親しみも湧いた。

 

 散歩が趣味だと言うと職場の人たちには「枯れてんなー」などと言われるが、なかなかどうして良いものだ。

 たまに変な物が落ちていて面白いし、健康にもいい。朝早くに、土手を歩きながら澄んだ空気を吸うと頭脳が明晰になる。明晰になった頭で考えるのは「道楽人になりてえぜ」などといったあまり賢くない妄想だが、それはそれで楽しい。

 

 このように僕は暢気に人生を満喫している。人生万歳だ。朝の散歩や落ちている物を楽しめるくらい心に余裕があれば、大抵のことにも動じずにいられる。

 

 けど、そんな僕でも面食らうことはある。今まで色んな物を見かけては拾ってきたわけだが、あんなことは夢にも思わなかった。

 

 まさか、行き倒れの女の子を拾うことになるなんて。

 

 

 

 

 

 

 ある日の早朝のことだった。季節は冬で、空気は痛いほど澄んでいる。白い息が出るのが面白い。

 

 いつものように川原をぶらぶら歩いていると、川辺に茂っている葦の中に何やら動くものを見つけた。

 

 持ち前の好奇心に任せて「なんだろう」と近寄ってみると、それはどうも生き物らしかった。

 しかもかなり大きい。葦をかき分けても飛んで逃げないから、鳥でないことは確かだ。

 

 そうして、その姿を見た時に、僕は思わず息を呑んだ。

 

 そこには女の子が倒れていた。

 川で溺れたのか、頭から爪先までぐっしょりと濡れている。

 

「ちょ、ちょっと!大丈夫ですか!」

 

 背の高い草を踏み倒しながら駆け寄って、僕はその人に呼びかける。

 反応がない。いや、呼吸はしているし、苦しそうではあるがモゾモゾと動いてもいる。ちゃんと生きているようだ。

 

 僕はホッとしつつも、女の子の奇妙な格好を気にせずにはいられなかった。

 

 コスプレというのだろうか。

 

 猫みたいな付け耳と尻尾。いや、履いているニーソが濃い黄色と黒の縞模様だから、虎のつもりなのかも。

 

 手にも虎の手を模したような、爪付きの手袋をはめている。手首には鉄製の手錠のような物を付けているが、どちらも本当によくできている。特にべったりと濡れて張り付いた毛皮など、まるで本物みたいな質感だ。

 

 服はどうも高校の学生服っぽいけど、アニメにこういうキャラクターがいるのだろうか。髪の色まで虎柄に染めているのは、素人の僕から見てもだいぶん気合が入ってるなあ、と思う。

 

「何故こんな格好で冬の川に......」

 

 いやいや、そんなことを考えている場合ではない。

 よく見ると身体のあちこちが傷だらけじゃないか。どこか高いところから落ちて川に流されてしまったのかもしれない。

 幸にして腕や足は折れていないみたいだけど、アバラとかまでは分からない。

 

 取り敢えずは救急車を呼ばなければ。

 そう思って携帯電話を取り出した、その時だった。

 

 

 

 女の子の付け耳がピクリと動いたのは。

 

 

 

 昔、猫を飼っていた頃にさんざん見てきた動き方。とても飾りとは思えない生々しさ。

 耳だけではなく尻尾も、まるで骨があるかのように揺れている。

 

「グルル......」

 

 女の子が唸り声を上げた。テレビ番組や動物園で聞いたことのある、獣そのものと言ってもいい声だった。

 

 ありえない妄想が、かつてないほどの現実味を帯びて頭の片隅に浮かぶ。

 

 知らず知らずのうちに自分の胸を押さえる。心臓が強く脈打っているのが分かる。首筋から、大動脈を流れる血潮の呻りまでもが聞こえてくるかに思われた。

 

 僕は荒くなりそうな息を抑えながら、そっと女の子の猫耳の付け根あたりに手を当てた。またしても耳が動く。

 感じ取れるのは僕と同じ、血の巡る脈動。そして頭から滑らかに続く、耳の付け根の触り心地。

 

 付け耳では、ない。

 

 状況も、この子の正体もよく分からない。分からないことだらけで思考がとっ散らかる。

 

 そうして呆けていた僕だったが、不意に女の子が震えていることに気付いた。唇が紫色になっていて、顔は青白く生気があまりない。

 

 そりゃ寒いに決まってる。真冬の朝に、川で濡れたままなのだから。

 

 今にも凍え死んでしまいそうなこの子を前に、考え込んでいる暇は無かった。

 

 急いで彼女を担ぎ上げる。ここまで動かされても起きないということは相当弱っているのだろう。背中に濡れた感触と、ぐったりとした人の重さが伝わってくる。

 

 そうして僕は一目散に帰路を走った。

 

 

 くつくつとお粥の煮える音がする。味見をしてみるが、塩をほとんど入れていないのであまり美味くない。ただほんのりとした甘さだけがある牛乳粥だ。

 コンロの火を止め、湯気の立ち上る鍋に蓋をしてリビングに向かう。

 

 リビング兼、僕の寝室である部屋の片隅にはシングルのベッドが置かれている。その上で寝ているのは、川原で倒れていた件の女の子だ。

 あれから数時間が経つけど、彼女はまだ目覚めない。今日が休暇だったのは不幸中の幸いと言える。

 

 この女の子を背負って連れ帰った後、まずは温かくさせなければと必死になった。服が濡れたままではいけないので脱がせて下着姿にし、タオルで水気を拭いた。切り傷や擦り傷だらけだったので、患部は出来るだけ綺麗にして軟膏を塗った。

 

 側から見た僕は、女の子を誘拐して服をひん剥き、挙げ句の果てにその柔肌に何やら白いものを塗り込む変質者に映ったことだろう。そう考えると大変窮屈な気持ちになるが、これも人助けだ。致し方なしと思ってやらねばならない。

 

 大きな爪のある手の毛皮は肘あたりまでを覆っていて、二の腕からは人間の腕とどこも変わらなくなっている。

 胴体も同じで、普通の人間の身体だった。下着を着けているとは言え、女性の裸体を見たら卑しくも劣情を覚えるのではないかと我がことながら心配していたが、流石に気絶している人に対して何か思うところなどなく、僕はホッと安心した。

 

 なにより彼女の手や耳や尻尾といった、常識では考えられない部分の方がよほど気になる。半ばで千切れた鎖のついた手枷も本物みたいだが、何故こんなものを付けているのだろう。自分からお洒落で身に付けている、などとは考えにくい。

 ひょっとして危険人物なのかも、と彼女の鋭い爪を見ながらごくりと唾を飲む。

 

 タオルで拭いた後は僕の寝巻きに着替えさせて、ベッドに寝かせた。

 

 徐々に体温が戻ってきたのだが、どうにも今度は熱すぎる気がする。額に手を当てるとあまりの発熱にびっくりした。計ってみたら40度近い熱が出ていた。顔が赤く、息も荒くて苦しそうだ。

 ずぶ濡れで寒空の下にいたのだから、こうなってもおかしくはない。

 

 問題は彼女の生態で、虎と人間のどちらを基準に看病すればいいのだろうと悩んだが、素肌から汗をかいているのを見て人間として扱うことにした。ほとんどの動物は毛皮があるために全身から汗をかくことは出来ないのだ。猫であれば、せいぜい肉球に汗が滲む程度である。

 

 僕は彼女の顔や腕から出てくる大量の汗を拭きつつ、おでこに乗せる濡れタオルを交換し続けた。二の腕を拭くたびに、人間の皮膚と虎の毛皮が融合したかのように分け目のない肘の周りへと目がいく。

 

 彼女は虎なのか、人なのか。本当のところは未だによく分からない。

 こうしてまじましまと観察して思うのは、あの場で救急車を呼ばなくて正解だったのだろうということだ。僕の苦労は減るだろうが、彼女がどのように扱われるか分からない。身元不明かつ正体も不明。肩書きだけならUMAとどっこいどっこいである。

 

「未確認生物って感じではないけどなあ」

 

 万が一、食べ物で不調をきたしたら大変なので、お粥は猫が食べても大丈夫なようにと塩をほとんど入れなかったが、はたしてそれは正解なのかどうか。

 とにかく今は彼女が目を覚ますのを待つしかない。

 

 そんなことを考えながら、もう何回目かになるタオルの交換をしていると、突然女の子がむくりと起き上がった。

 

「わっ」

 

あまりにも唐突に、何の前触れもなく起きたものだから、僕は驚いてタオルを浸していた水桶をひっくり返しそうになった。

 

 

 目を覚ました。まだ安静にしていなくては。虎か、人か。いきなり起きて大丈夫なのか。

 

 

 色んな考えが同時に頭の中を巡る。緊張で僕まで汗をかいてくる。

 

 女の子は風邪っ引きの赤ら顔でボーッとしながら、僕の方を向いた。金色の澄んだ瞳が、僕の姿を映す。

 

「グルァ!」

 

 その瞬間、彼女は吠えて跳躍した。

 布団を跳ね飛ばし、天井に着きそうなほどの高さまで飛び上がり、僕から距離をとる。

 

 僕が状況を理解できたのは、彼女が見事な身体操作で着地して、しばらく経ってからだった。

 思わず立ち上がると、それでより一層警戒を強めたのか女の子が吠える吠える。ご近所迷惑である。

 

 唸り声を上げて威嚇してくる彼女に、僕は慌てて声をかけた。

 

「ま、待って、落ち着いて。僕は味方。友達。フレンド。オーケー?」

 

 我ながら実に間抜けなセリフだった。言った後で自分に心底ガッカリした。何もオーケーではない。

 

 女の子は部屋の隅でこちらを警戒したまま。人にしては長い犬歯を見せて、寄らば斬ると言わんばかりに睨んでくる。

 

 言葉は通じないのだろうか。この状況じゃ近寄ることもできない。

 

 どうしたもんかと考えていると、急に女の子が飛び跳ねた。

 先ほども見た、人間離れした跳躍力。綺麗な弧を描き、今度は覆いかぶさるように僕へと飛びかかってきたのだ。

 

 のし掛かられ、押し倒される。後頭部を強かに打つ感覚。呆けてしまってろくに反応もできなかった。床にマットが敷いてあって本当に助かった。

 

「ガルルルッ」

 

 至近距離に迫った女の子の顔が、少し歪んで見える。脳震盪でも起こしてしまったのか。

 手を動かそうとするが、両腕ともがっしりと押さえられてしまっていて難しい。足を使うにも位置が悪くてどうにもならない。

 上下の感覚すら曖昧な中、彼女の口が大きく開かれるのだけが鮮明に見えた。

 

 歯並びは人間のそれ。奥はちゃんと臼歯になっている。ひょっとするとお粥に塩は入れても良かったかもしれない。

 やけにゆっくりに感じられる時間の中でそんなどうでも良いことを考える。

 

 死ぬのか、僕は。頸動脈に噛み付かれる。食べられる?この子は一人で生きていけるのか。職場になんて説明すれば。今日は休日。散歩がしたい。父さん。母さん。

 

 走馬灯のように幾つもの思考が浮かんでは消えていく。僕は目前に迫った死にぎゅっと目を瞑って、身体をこわばらせた。

 

「あれ?」

 

 しかしいくら待っても痛みが来ない。首筋に噛み付かれない。

 

 恐る恐る瞼を開けると、女の子は僕に襲いかかろうとはせず、頭をふらふらと揺らしている。

 ついさっき見せた獰猛さは鳴りを潜め、酩酊しているかのように表情筋が緩んでいる。その顔の赤みは寝ていた時の比ではなく、茹で蛸という表現がしっくりくるような有様だった。

 

 二、三回、大きく揺れたかと思うと、ぐでんと僕に倒れ込んできた。押し潰されて「ぐえっ」と間抜けな声が漏れる。

 

「だ、大丈夫?」

 

 そう聞くが、何の反応も返ってこない。僕の胸の上で苦しそうに身動ぎをするだけだ。手を床についているのは起き上がろうとしているからなんだろうけど、上手く力が入らないようですぐにヘナってしまう。

 

 風邪なのにあれだけ動いたらぶっ倒れるに決まっている。

 危害を加えられなかったことへの安堵と、女の子の病状が悪化してしまったことへの憂鬱から、重いため息が出る。

 

 これは思ったよりも大変なものを抱え込んでしまったぞ。

 

 僕は事の重大さへの認識を改めながら、とりあえずは女の子を再びベッドに寝かせるべく奮闘したのであった。

 

 

 今日一日の苦労は筆舌にしがたい。休日だというのに僕はすっかり疲れ果てて、日が暮れる頃には一年間放ったらかしにしたゴボウのように萎れてしまった。

 今は眠る女の子の様子を見つつ、適当に夕飯を済ませている。というか残り物のお粥を食べている。包帯を巻いた腕は動かす度に痛みが走るが、血は止まっているので大丈夫だろう。化膿もしないはずだ。

 

 あれから女の子は昼頃にもう一度起きた。その時は最初みたいに飛び上がったりはしなかったが、警戒心は相変わらずで、お粥を食べてもらうのにとても苦労した。なにせ僕が居間に入るだけでも唸って威嚇するのである。

 

 それでも座ったまま声をかけることで、少しずつ近付くことができた。今日だけで一生分「大丈夫」と言った気がする。

 あんなに警戒するのは、過去によほどのことがあったかもしれない。だとすると喋れないのは失語症なのかとも考えたが、それが虎の耳やら尻尾やらにどう関連するのかまでは分からず、その辺りは保留するしかなかった。

 

 とにかく僕は彼女の枕元まで辿り着けたのだが、その後でちょっとした事件というか、事故があった。

 

 お粥を食べさせようと「あーん」と言ってスプーンを彼女に向けたんだけど、それで怖がらせてしまったのだと思う。

 女の子は突然吠えて、僕の腕を払いのけた。弱っているとは言えたいした力で、しかも大きな爪が生えているものだから、お粥の椀が盛大にひっくり返り、僕の腕からは血が出た。しかもけっこう大量に。

 

 痛みとか、床を汚してしまったことも気になったが、何よりも女の子がハッとするような表情をしたことが印象的だった。

 「やってしまった」と言いたげな、申し訳なさそうなその顔が。反省するようにシュンと垂れた耳が、床の掃除をしている間も腕の手当てをしている間もずっと頭から離れなかった。

 

 彼女のそんな態度を見たからだろう。次は大丈夫だという確信めいたものがあった。

 それでもう一度お粥を運ぶと、今度は明確に拒絶されたりはしなかった。でもやっぱり警戒はされているようで、お椀を差し出したりしてもなかなか食べてくれない。

 しかし僕が食べて見せたことでようやく興味を持ってくれたのか、彼女は恐る恐るお粥に口をつけた。

 

 四十度の熱が出ているのだ。本当は上体を起こすことすら辛いはずで、女の子はただ黙々とお粥を食べた。さっきまでの凶暴性はどこへやら、気怠そうに目をトロンとさせて、僕が差し出すままにお粥を食べ進めた。

 

 学生の頃、よくこんな妄想をしていたことを、ふと思い出す。

 手近に転がっているであろうロマンスを求めて彷徨っていた青春時代、このような状況を夢見たことも何度となくあった。まだ尻の青かった僕は想像力の限りを尽くして、女子と懇ろな仲になってパフェを食べさせ合ったり、風邪を引いた恋人を甲斐甲斐しく世話して「あーん」をするなど、恥ずべきことばかり考えていた。思い出すだけで僕の方が病気になりそうである。

 しかしいざ、こうして病人にものを食べさせていると、想像していたような嬉し恥ずかしの甘酸っぱい妙味は全く感じない。強いて言うなら、実家で飼っていた猫に餌をやっていた時と同じ気持ちである。彼らが夏バテなんかを起こしたりしたら、普段より少し良い餌を買ってきてなんとか食べてもらおうとしたものだ。

 

 もぐもぐと咀嚼している女の子の姿に昔飼っていた愛猫の面影を重ねつつ、お粥を彼女の口に運び続ける。

 そうしてお椀一杯分を平らげると、気を失うようにまた眠りに落ちてしまった。

 とにかく、ちゃんと食べてくれたので一安心である。熱が高くてもこうして栄養を摂れるなら、すぐに回復することだろう。

 

 あとは濡れタオルを換えたり、彼女の汗を拭いたり、夕方にもう一度お粥を食べさせて、今日という一日は終わった。

 

 自分の夕飯も済ませて、寝ている女の子の側に行く。今は顔の火照りがだいぶん薄れて、呼吸も落ち着いてきている。

 検温すると、水銀の体温計が38.3度を示した。熱も順調に下がっているようで何よりだ。

 

 少なくともあと数日は看病しなければと思い、上司に休む旨を伝えたところあっさりと快諾された。むしろ「お大事に」と本気で心配されてしまった。そんなに疲労が声に出ていたのだろうか。

 不幸中の幸いと言えるけど、騙してしまったことに変わりはないので申し訳ない気持ちになった。次に出社したときは気まずいだろうな。腕の怪我のことも何かと聞かれるに決まっているし、誤魔化すのに一苦労しそうだ。

 

「とりあえず、あの手枷くらいは外さないと不便だよな」

 

 今日あったことを日記に書きつつ、女の子をちらりと見る。水気を拭く際にあの子の腕を持ち上げた時、ズシリと重たかった。無骨な鉄の重さだった。あれを着けたまま生活するのは可哀想である。

 

 文机には宴会芸の練習用にと買った手品の本が何冊かある。その中にピッキングのやり方が載っていなかったかと手に取るが、あいにくと見当たらなかった。今度、図書館やネットカフェに行ったりして調べた方がいいだろう。

 

 書き終えた日記帳を閉じ、シャワーを浴びて包帯を換え、押し入れから寝袋を引っ張り出す。

 寝袋はソロキャンプにでも行きたいと思って購入したのだが、まだほとんど活躍させられていないので新品も同然の良物だけど、冬用ではないのでセーターを重ね着して毛布代わりにしよう。

 

 部屋の電気を消そうとして、もう一度女の子の様子を伺う。悪い夢でも見ているのか、呻くような声を漏らしている。端正な顔を歪ませてイヤイヤと首を振る。

 

 この子がいったいどんな過去を歩んできたのか知らないし、言葉が通じないならこれからも知らないままだろう。

 それでも、僕は。

 

 ベッドからはみ出している彼女の手を握る。鋭い爪の生えた、猛獣と人間の合いの子のような形の手。ふさふさとした毛皮に覆われていて温かい。

 それを包み込むように握っていると、だんだんと女の子は落ち着いてきて、規則正しい寝息になり始めた。顔の険もとれている。

 

 ゆっくりと手を離す時、女の子が切なそうに鳴いた。それがどうにも、猫が寂しい時に出す声に似ていて、僕は堪らず彼女の頭を撫でた。

 

「大丈夫、見捨てやしないさ。ドンとこいだ」

 

 僕がそう言うと、もう鳴き声も出さなくなった。すうすうと静かに眠る彼女を見てホッと息を吐き。僕も寝床につく。

 

 こうして僕と女の子の奇妙な同居生活が始まった。

 この時の僕はまだ考えが甘かったのだと後々になって思い知ることになる。怪我も病気も良くなったら身寄りを探そうなどと考えるばかりで、前途多難な未来をまるで想像すら出来ず、なによりも彼女との生活がずっと続くことになるなんて、夢にも思わなかったのだから。

 

 

 




イチャイチャしてえなあ、アムールトラちゃんとなあ。

こんな終わり方ですが続く予定はありません。勢いだけで書きました。反省していますからどうか他の方がこんな感じの話を書いていただけないでしょうか。読みたいのです。


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