転スラ世界に転生して砂になった話   作:黒千

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 アダルマン【85話 戦場の裏側で】12歳
 ハクロウ【143話 罠と対策】12歳
 マリアベル【144話 古代遺跡アムリタ】12歳
(メインキャラ/目次何話頃の話か/レトラ外見年齢)


(小ネタ集⑨ アダルマン/ハクロウ/マリアベル)

 

 ①アダルマン【85話 戦場の裏側で】

 

 元はクレイマンの"五本指"の一員、示指のアダルマン。

 生前は西方聖教会の枢機卿で、死後はアンデッドを束ねる死霊の王(ワイトキング)となり、姿はローブを羽織った骸骨そのもの。強力な魔法を行使しクレイマンの城を守る者だった──が。

 

「レトラ様、ようこそおいで下さいました……! 末席に加えて頂いたばかりの私に再び拝謁の機会をお与え下さいましたこと、誠に恐悦至極に御座います! ああ、先触れを頂いた際にはこのアダルマン、歓喜に満たされ天にも昇る心地で御座いまして、今日という日を指折り数えてお待ち申し上げておりましたぞ……!」

 

 ウチの仲間となった今では、こうして熱いパッションで生きる楽しいお爺ちゃんである。リムルと俺を神として信仰すると決めたそうで、熱烈なファンと大差ない。

 えーと……待ち切れなくて大変だったって言った? じゃあ今度は急に来た方がいいんだろうか。心臓止まる? 骸骨なら大丈夫か? 

 と、考えている間にも、アダルマンは俺への賛辞を途切れることなく並べ立てている。

 そろそろ俺にも発言権が欲しい。

 

「アダルマン」

「──は!」

 

 散弾銃のように発せられていた言葉が、ピタッと止まる。

 あ、言えば止まってくれるのか。こういうところはキチンとしてるんだな? 

 

 アダルマンと配下の不死系魔物(アンデッド)達は、封印の洞窟に住んでいる。アダルマン以外のゾンビ達は日光に弱く、昼間は外で活動出来ないからだ。

 今日はその様子を見に来た俺は、アンデッド用の居住区画へ案内された。

 

「ささ、レトラ様! 粗茶では御座いますが、どうぞお召し上がりを」

「ありがとう。うん、美味しいよ」

 

 テーブルセットのある部屋で振る舞ってもらったお茶は少し濃かったけど、飲食出来ないアダルマンが用意してくれたなら充分に凄い。

 ところで、気になるのは──

 

 チラリ……

 コソリ……

 と、窓の外からこちらを窺っているアンデッド達。部屋の外はそのまま洞窟の通路なので暗がりになっており、俺に気付かれないよう詰め掛けているといった感じだが……俺には『万能感知』があるし、目を向けなくても丸見えだ。

 

 イタズラ心で、パッと窓の方を振り向いてみる。

 その途端、覗いていたアンデッド達の頭が「!!」ってザザーッと引っ込み、少しして、また恐る恐る出てくるのが面白い。手を振っておいた。

 

「コラ、お前達! 持ち場に戻れと……!」

「いーよいーよアダルマン。皆は元気? 不便とかあったら言ってよ」

「滅相も御座いません! 我等のために最適な住居を手配して下さり、感謝の念に堪えませぬ……!」

「でも、ここはポーション製造工場でもあるからな。ちゃんと綺麗にしてる?」

 

 食品加工場にゾンビとか、本来やっちゃいけない組み合わせに見える。だが面白いことに、アンデッド達は「腐っている」わけではなかった。本当に腐っているなら肉体はどんどん腐敗し、全員アダルマンのように骨になっていなければいけないからな。

 

 どうやら魔物化してアンデッドになると、肉体は"屍肉"という無機物に近いものへ変質するらしい。そのため肉体は腐敗せず──むしろ腐敗が止まり、腐敗を進めていた微生物も死滅する。アンデッド達が不潔に見えるのは、脳の働きが鈍り生前の衛生観念が薄れ、付着した汚れやボロボロの衣類を放置してしまうからだろう。

 ということは、それを綺麗にすればいいだけだ。

 

「はっ! 御命令通り、状態清潔化(クリーンウォッシュ)を用いた洗浄の他、改めて皆に衛生観念を指導し、徹底した衛生管理に努めておりますぞ!」

 

 生活魔法:状態清潔化(クリーンウォッシュ)──風呂文化が一般的ではないこの世界で、冒険者業界どころか農村部でも使われている身近な魔法。そんな気軽な魔法が<神聖魔法>とは考えにくく、少なくとも聖属性ではないからアンデッドの屍肉でも綺麗になるんだろう。

 そして新品の衣服を支給し、洗浄や洗濯も習慣化してもらえば……代謝を行わない身体である分、無菌で清潔な存在として仕上がるということだ! 

 

 ポーションの原料栽培や生産に関わるのはガビル隊やドワルゴンの薬師達。アダルマンはベスターの研究助手、アンデッド達は洞窟の警備や物資の運搬が主な仕事だが、衛生観念は重要だ。アダルマンは真面目に取り組んでくれているようだし、心配なさそうだな。

 満足してお茶を楽しんでいると、アダルマンが控えめに切り出してきた。

 

「レトラ様。この機会に、是非とも御目通りを願いたい部下が居りまして……その者は、私が聖職者であった生前からの友でもあるのです」

 

 そう言って、アダルマンが部屋に招き入れたのはフードを被った骸骨剣士(スケルトン)……アルベルトか! 

 やって来たアルベルトはアダルマンに紹介された後、どうにか持ち上げたような右手を胸に当て、カクンと骨の首を鳴らした。一礼のつもりかもしれない。

 

 先日の戦いでシュナに浄化され、アダルマンは死霊の王(ワイトキング)からただの死霊(ワイト)に。アルベルトは死霊騎士(デスナイト)から低級の骸骨剣士(スケルトン)にまでランク落ちしてしまったんだっけ。それで動き辛そうにして……だが心配は要らない、アルベルトはここから力を蓄えて、いずれは聖堂騎士(パラディン)だった生前を凌駕する強さを得るんだからな。

 

「よろしくアルベルト! シュナから聞いたよ、ハクロウと良い勝負した剣士ってアルベルトだろ? ハクロウは俺の師匠でさ。俺も少し剣を使うから、今度一緒に──」

「うおおおおおん!」

「ッ、アダルマン!? 何!? どうした!?」

 

 響いた声に、ビクッと肩を跳ね上げる。

 アダルマンは骨の両手でガシャッと顔を覆い……涙は流れないにしても、もう号泣してるだろという豊かな感情表現をしながら震え声で言う。

 

「アルベルトは……我が腹心として共に戦場で命を落とし、物言えぬアンデッドと成り果てて尚、私について来てくれました。私にとっては掛け替えのない親友であろうとも、レトラ様にとっては取るに足らぬはずの者を、当然のように丁重に扱って下さる……その深き慈悲の御心に……わ、私は、私はああああッ……!」

 

 やってしまった…………

 そんな風に言われると、俺すごい聖人みたいだな……? 

 

「や、ごめん、違うんだよ……俺だって別に、誰にでも優しいわけじゃなくて……ア、アダルマンの友達だって言うから…………」

 

 正直なところ、今のアルベルトのビジュアルはちょっと強烈だった。フードに隠れてはいたが、顔の屍肉が剥がれて下の骨が見えてるんだから……俺はアルベルトだって知ってたから、ああ面影あるなぁくらいで済んだけど、知らなかったら流石に直視出来なかったかもしれないんだぞ……コレ、カンニングのようなもんでは!? 

 

「いいえ、いいえ……! たったそれだけの理由で、骸骨剣士(スケルトン)の身となった彼を一個人と認識して下さるレトラ様の真心、十二分に伝わりまして御座います……私もアルベルトも、こうして永らえてきたことが報われた思いで御座いますれば…………ッ!」

 

 いや大袈裟な。アダルマンが良い奴なのは知ってるけど、盲目的に信心深い奴であることも知っている。俺が口を開く度に信仰心が上がっていく仕組み、やめて欲しい…………

 

 ギギ、と骨の軋む音がする。

 見ると、アルベルトがまだ不慣れなんだろう骨の身体を動かしていた。床に膝を下ろし、跪いて、頭を下げる──それは、騎士が示す最上の礼。

 ……まあ、いいか。二人とも、本当に喜んでくれたみたいだし。

 

 ちなみに、アダルマン曰く騎士としては不格好なその所作を、最後まで見守ってあげた俺は神の何とかかんとか…………口閉じてても信仰心上がった! もういいって! 

 

 

 

 

 

 *****

 

 ②ハクロウ【143話 罠と対策】

 

「ハクロウ、まだ休暇中だろ? 今日、俺と一緒に出掛けない?」

 

 長鼻族(テング)の里から戻ったばかりのハクロウを訪ねて、俺はそうお誘いを掛けた。

 おやおや、とハクロウは目を細めて笑う。

 

「レトラ様。また以前のように、ワシに甘えて下さるのですかな?」

「うん。モミジがいいですよって言ってくれたんだ」

 

 離れ離れになっていたハクロウとモミジが仲の良い親子になれたら、俺はハクロウを爺ちゃんだと思って接しても良いというルールであり──今回、モミジがハクロウと一緒に里帰りする前に、俺に許可をくれていたのだ。

 

「で、モミジはハクロウに頼まれたって言ってた」

「……これはしたり。まったく、口の軽い娘ですじゃ……」

 

 裏工作は頂けないが、楽しそうに告げ口してくれたモミジに免じて許す。

 そのモミジは、リムルに打診されたトンネルの話を検討するためテングの里に残ったとのことだ。モミジがいない間は、俺がハクロウと遊んでもいいよな。

 

「して、レトラ様。本日はどのような御予定で?」

「町の視察として時間取ってるんだけど、特に決めてないからブラブラして……あ、おやつ食べに行こうよ。新作のケーキを出すって報告が来てたんだ」

「成程、ということはつまり……"デート"ですな?」

「ん?」

 

 ハクロウにしてはハイカラな横文字が出てきたと思ったら……そういえばハクロウは、モミジと一緒に出掛けることを"デート"だってリムルに教わってたな? 

 ということで、俺もノリノリに答える。

 

「そうだね、デートだ。今日は俺とお散歩デートしよう、ハクロウ!」

「ほっほっ……これは僥倖。良い日になりますな」

 

 

 ハクロウと出掛けてくる、とデータベースに伝言を残す。マリアベルに狙われていることがリムル達にバレたため、今は町でも護衛を付けろと言われているのだが、ハクロウと一緒なら何の問題もない。ただ、既に俺を支配したつもりのマリアベルが今更動いてくることはなく、ハクロウに言う必要もないか──と思ったのに。

 

「リムル様から伺っておりますぞ。不届きにも敵国がレトラ様を標的としているとか……」

「情報が早すぎない?」

 

 ハクロウが帰って来たの昨日じゃなかった? それだけは共有してあるのか……? 

 あ、そうだ、と俺はベニマルから聞いた話を思い出した。ハクロウが魂喰い(ソウルイーター)の木刀まで用意して、皆の精神体を鍛えてくれていたことに感謝を伝える。そして、もし木刀が余ってたら俺にもくれない? と頼んでみた。ハクロウが目を丸くする。

 

「レトラ様の剣と比べては、玩具のようなものですぞ?」

「いや格好良いと思うよ! 一本くらい余ってない? 駄目かな……?」

「御所望とあらばお安い御用ですじゃ。ちょうど良いものが御座いますので、レトラ様に献上致しましょう」

 

 ハクロウが管理しているという木刀のうちの、一本を貰った。それは大量の魔素を含んで変質した黒い木で出来ていて、日頃の修練で使うには危険なので仕舞っておいたという真っ黒な木刀。いいなこれ、俺の中二魂が疼くぞ……黒い木刀って良くない? 

 

 そして出掛けた俺達は、気ままに町を散策した。売れ筋の商品や今人気の冒険者情報など、自然と集まるデータはウィズが記録しておいてくれる。俺の視察は以前からこんな感じで、気晴らしになるし町の運営にも役立つから一石二鳥だ。

 

 おやつタイムにやって来たのは、魔国でも格式高い甘味処。俺の来訪は店員達に喜ばれ、和テイストのシックな個室に通された。飾り格子の付いた丸窓から庭園が見える。

 噂の新商品は抹茶ロールケーキだった。金の縁取りの皿に盛られて抹茶のチョコレートソースがトロリと掛かって、特別感ある佇まい。俺はロールケーキを、ハクロウは魔国スイーツセット(和)を頼んだ。わらびもちときな粉もちのアレである。

 

「どうにも、ケーキとやらはワシには少々甘すぎましてな……その点リムル様とレトラ様は、何度でも味わいたくなる程良い甘みで」

「だから言い方」

 

 この和スイーツセット、開国祭の時期に期間限定で一般販売されていたが、今は幹部以上なら注文可能な裏メニューとなったようだ。本当にもう、リムルか俺の姿をした食べ物ばっかり売れるよな。前世では、抹茶スイーツって人気だった気がするんだけど……

 渋めのお茶と共に、甘いケーキを堪能する。

 

「うーん……ハクロウと出掛けるの久しぶりだけど、やっぱり楽しいな」

「ほほ、これは嬉しいことを。ワシは果報者ですな」

「ハクロウは優しいし、俺のじいちゃんより取っ付きやすいしさ」

 

 つるっと出てきてしまった言葉は、まあ、俺がハクロウのことを爺ちゃんだと思って接していたからで。俺のじいちゃんとはタイプが違うから、そういう新鮮さもあってのことで。

 ただそれは、ちょっと、ハクロウの何かに触れたらしい。

 

「それは……レトラ様の前世の、というお話ですかな?」

 

 ん、と頷く。俺が前世の話をしたのが珍しいのか、ほんの少し、ハクロウから迷いを感じた。困らせるつもりはなかったので、話題を変えようかと思ったけど──

 

「レトラ様。もしお嫌でなければ、で構いませぬが……レトラ様の御祖父様は、どのような御方でいらっしゃったのですかな」

「俺のじいちゃん?」

 

 聞いてどうするんだろう。気になるんだろうか。

 じいちゃんの話は嫌じゃないので、普通に話せるけど。

 

「無口でいつもムスッとしてて、あんまり笑わない人だったよ。若い頃は結構ヤンチャで、カッとなったらすぐ口も手も出て喧嘩っ早かったみたいでさ。ばあちゃんに聞いた」

「それはそれは」

「でも大人になってからは、カッとなるのやめたんだって。我慢して口閉じて、すぐ怒らないようにって……だから俺といる時も、ちょっと口は悪かったかもしれないけど……いつも真剣に話してくれて、優しかったな」

 

 でもあの時、一度だけ、母さんが家を訪ねて来た日のこと。じいちゃんの別人みたいな怒鳴り声に俺は驚いて、つい母さんを可哀想だと思ってしまったけど……あれは逆だ。可哀想なのはじいちゃんだった。ずっと自分を戒めて生きてきたはずのじいちゃんが、自分の娘から怒りで我を忘れるようなことを言われて……ああやって、怒鳴らずにはいられないほどの出来事だったのだ。本当にさ、母さんさぁ…………

 唐突に母さんを思い出し、胃が縮み上がりそうになる。大丈夫だ、錯覚だ。今思い出すことじゃない……とロールケーキを一口味わい、お茶の渋みでスッキリ流す。

 

「レトラ様の御祖父様は……意志の強い、立派な御仁だったのですな」

「うん。そうだな……」

 

 俺がまともに生きられたのは、じいちゃんとばあちゃんのお陰だろう。それならせめて二人に恩返しが出来るまで……なのに、俺は死んでしまった。何でだろう。本当に。

 駄目だな、それを考え出すと今でも──

 

「叶うことなら是非一度、御手合わせ願いたかったものですな……」

「いやいやいや! 無理無理無理! ハクロウの圧勝だって!」

 

 ハクロウがしんみりと恐ろしいことを言うので、俺のしんみりは消え去った。

 やけにハクロウがじいちゃんを気にしてたのって、こういうこと? 何ですぐ剣で語り合おうとするんだ……俺のじいちゃん武人じゃないし、人間だからな!? 

 

 

 

 

 

 *****

 

 ③マリアベル【144話 古代遺跡アムリタ】

 

 マリアベルの『強欲者(グリード)』に掛かったフリをして擬似人格(プログラム)を支配させておく、という作戦を実行してから少し経った。遺跡調査の日まではもう少しあるが、マリアベルの動向は気になる。

 

(ウィズ。マリアベルは俺の情報を読んでるか?)

《解。個体名:マリアベル・ロッゾから擬似人格(プログラム)への意図的な接続を、日に一、二度ほど確認しております。主様(マスター)の個人情報やスキル、政務に関する正確なデータは流出させていません》

 

 その辺はウィズに任せているし、何も心配していない。

 原作では、マリアベルは支配した相手とはある程度の情報共有が可能だったはず……だが四六時中ではなく、意識して相手の情報を読もうとした時だけなんだろう。

 この前はウィズに頼んで、グレンダが魔国に連行され処刑されたという偽の情報をマリアベルに流してもらった。グレンダは元気にソウエイの下で働いている。

 

(でも一日に一、二回って少なくない? マリアベルならもっとこまめに魔国の情報を取ろうとすると思ってた。遺跡に行くまで、下手なことはしないつもりかな?)

《是。加えて、有用な情報収集が見込めないと判断するよう、同個体を誘導しました》

(え? お前が? 何したの?)

《解。接続頻度が最も高かったのは、評議会当日以降の数日間です。初日には、主様(マスター)の思考から無難なものを一部抜粋し、同個体に流しました──》

 

『やった、シュナ特製弁当に肉巻きおにぎり入ってる! この照り焼き感、芸術だろ……でも公園で食べたサンドイッチも美味かったな、ビネガー系の酸味がロースト肉と超合ってて』

『この店はパフェもクリームたっぷりで豪華だな。昨日のショートケーキもそうだけど、大国じゃないとこれはなかなか食べられないぞ美味しい』

『今日の煮込みハンバーグ美味すぎ、きのこと玉ねぎの食べるトマトソースが』

 

 食レポ配信者かよ!! 

 ええ……マリアベルはこんなの読まされたの? 俺を探る度にご飯やおやつのレビューが届くとか、どうでもいい事この上ない。これならマリアベルも俺を監視するより、評議会や魔法審問官の情報を集めていた方が有意義だと考えただろう……見事なカムフラージュだ。俺個人としては複雑だけど! 

 

 ***

 

 シルトロッゾ王国にて。

 マリアベルは城のバルコニーで一人、静かな時間を過ごしていた。

 先日、『強欲者(グリード)』を用いて支配下に置いたばかりの魔国王弟レトラ=テンペストから情報を読み、魔国の内情を探らんとしていたマリアベルだったが──どういうわけか集まったのは、食事を楽しむ感想ばかり。

 

「子供かしら」

 

 それを思い出し、白けた呟きが零れる。

 どうやらあの砂妖魔(サンドマン)には幼い一面があるらしい。精神支配を仕掛けた際にも幼げな言動をしていたため、恐らくはそれが本来の姿。開国祭で見た魔性の美しさと堂々とした振る舞いは、内に抱えた倒錯的な欲望を押し隠すための鎧だったのだろう。

 

 マリアベルはフォークを手に取り、フルーツケーキを一口分切り分けた。

 滑らかなクリームを纏うスポンジを口へと運ぶ。傍らのティーカップにはケーキとよく合う華やかな香りの紅茶。何にとは言わないが、つい触発されて用意させたものだった。

 

 政治面での情報は得られないかと、マリアベルは数日粘った。農作物の観察記録だの教育機関からの相談事だの訓練の日程調整だの──レトラの関わる業務は多岐に渡ったが、そのどれもがマリアベルの期待からは外れた内容だった。

 

「まだよ、まだなの……魔王リムルを消すのが先ね」

 

 急ぐ必要はない、とマリアベルは結論付ける。

 魔王リムルに代わって、王弟レトラが国主の座に就くことに異を唱える者は少数だろう。レトラに全権を握らせた後、彼に直接命じて情報を持ち出させれば良いのだから。

 

 

 魔王リムル達がジスターヴへ向けて出発した、という報告を受けた日の夜。

 夜更けを待ち、マリアベルは『強欲者(グリード)』を通じてレトラへ思念を送る。魂を支配した状態での秘匿通話であるため、盗聴のリスクは低いと見てのことだ。

 

『──レトラ、レトラ。聞こえる?』

『マリアベル?』

『ジスターヴには着いたのかしら?』

『うん。クレイマンの城に泊まってるよ』

『片道二ヶ月以上掛かるはずなのに、どうしてもう着いているのかしら』

『リムルだし……』

 

 魔王という理不尽な存在に苛立ちを覚えるが、マリアベルは努めて気を落ち着ける。

 古代遺跡の探索状況についてレトラに尋ねると、明日には最下層へ辿り着けるだろうとの返答があった。

 既に全ての準備は終えている。機を見て古の竜の封印を解き──その間にユウキを連れ、魔王リムルを葬り去るのだ。レトラを使って事が済めばそれも良い。動力炉を暴走させて脱出するための魔法道具も手配させており、抜かりはなかった。

 

『決行は明日よ、明日なの。誰にも気付かれていないでしょうね? 魔王リムルは何をしているの?』

『リムル? 俺の隣で寝てるけど』

 

 思い掛けない返事を受け、マリアベルは一瞬思考を忘れた。

 だがすぐに、その言葉が示す光景を思い浮かべる。

 

『まさか一緒に寝ているの? 正気なの?』

『え? 何が?』

『貴方、よくそれで我慢が出来るわね』

『ああー……大丈夫、食べたいけど我慢する。俺の左にミリムもいるし』

『魔王ミリムも……?』

『それより、思念会話はもうやめた方がいいよ。ミリムが寝てたからいいけど、起きてたら最初から読まれててもおかしくなかった……』

『そう。それじゃ予定通りにね』

 

 最古の魔王の名は伊達ではないらしい。

 魔王ミリムを引き離すまでは慎重を期すべきだろう。

 

 レトラとの通話を終える。

 マリアベルは再度、その光景を思い浮かべた。

 大きなベッドの真ん中に収まったレトラ。レトラの左側で安らかに目を閉じる魔王ミリム。その反対側となる右側には魔王リムルが寄り添い眠る…………

 

 

「何なの?」

 

 

 

 




①清潔なゾンビという無茶を通す考察
②おじいちゃんとデート
③セコムなの


年内最後の更新です。
感想、ここ好き、評価、お気に入り等、いつも本当にありがとうございます。



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