彷徨う悪霊魔女 ~Ancient Ghost and Witch
灰色の大地があった。人っ子一人いない、滅びた大地。
聞こえるのは轟々と鳴り叫ぶ風の音だけ。
生命の途絶えた、死に塗れた土地。
ここは太古の昔より、月より降り注ぐ魔力に覆われた神秘の島であった。
天然の結界によって外界からの影響を断たれ、豊富な神秘から育まれた特異な生態系を何千年もかけて構築し、魔法によって築き上げられた文明が聳える場所だった。
知識あるものが見れば、魔界の文明を模した地だと気づいただろう。
…もっとも、天災なのか魔法の暴走による人災なのか、完全に滅びてしまったが。
今では灰に残さず覆われた、文字通りぺんぺん草も生えない死した土地である。
そこにふわふわと漂う、女がいた。
翠の長い髪を垂らし、怖ろしい程にととのった顔立ちの女であった。
纏っている深海を思わせる長いローブの裾には星と月の意匠が刻まれ、頭には太陽をあしらい白いフリルのついた三角帽子。
そして手には、白銀の三日月を柄に据えた、長い長い杖を持っていた。
しかし最も可笑しな所は、その襤褸のようなローブから覗くのが、脚ではなく白い霊魂の一部であるということか。
まるで、その女が幽霊であるかのように。
髪と同じ色をした切れ長の瞳には、まさしく星空を吞むような、深すぎる叡智が宿っている。
だが彼女を知る者がいるなら、彼女がそんなただの幽霊のような生易しい存在ではないことを理解していたはずだ。
翠の
「ここも大した代物はなさそうだねえ。碌な魔力があるわけでもなし。…気まぐれに来てみたけど、余り意味はなかったか。」
魔女が、三日月をあしらう杖を、がしりと握りこむ。
次の瞬間、凄まじい魔力が彼女の体から噴き出した。
まるで清水のように美しく蒼い神秘の奔流は、彼女が掲げる杖の先に一切の無駄なく折り重なって圧縮されていく。
同時に、何重にも重なった魔法陣が幾つも杖の周囲に現れ、くるくると回転を始めた。
そして何の気なしに、けだるそうに彼女が杖を振るったその瞬間。
蒼い破壊が吹き狂った。
島が海から引き剝がされ、塵も残さず消し飛んだ。
光が消えて残ったのは、海に空いた大穴と、深海を超えて抉り取られた海底のみ。
そうして一瞬で島一つを消し飛ばして後片付けを済ませた魔女は、そのまま興味を失ったように紅い唇を開いた。
「…さて、次の場所に行くとしようかい。今度こそ、私を満たしてくれるものがあればいいんだが。」
彼女の名は魅魔。
太古より今まで、いつまでもさまよい揺蕩い続ける、大魔女の悪霊であった。