魅魔様見聞録   作:無間ノ海

14 / 26
 流石に魔法関係のお話を蔑ろにするのはいかがなものかと思い、別話に分けました。



追記:やらかして挿入投稿の場所を間違えてました。ごめんなさい。


楽しい魔法講座 ~Magus Pain

 

 

 魅魔が彼女の「親」ではなく、「師匠」として振る舞い始めたその日の朝。

 

「魔理沙、これからは私自ら魔法をお前に教える。言っとくけど、私に配慮なんか期待するんじゃないよ。分からなくても置いていく、自力でついて来い。」

 

「はいっ、魅魔様。」

 

 感性こそまだ未熟だが、一先ずの知識を手に入れて物心ついた魔理沙を前に、堂々とスパルタ宣言をする魅魔。

 

 これから魔法を手づから教えていくのだ。

 

 魔法だけは先の手法で覚えさせず、自ら教鞭を取ることにした魅魔だが、別に気まぐれというわけではない。単純に、魔法だけは基礎からして感覚的な部分があるので、どうしても先達から直接教える方が効率がいいのである。

 

 

「―――では、始めようか。」

 

 かくして、魔女の師弟が生まれた。

 

 

 

 

 

 そも、魔法とは。魔術とは何ぞや。

 赤子に等しい魔理沙には、一から教えていくしかあるまい。

 

「魔法。或いは魔術。魔界を源流として生まれた技術で、どんな世界にも多かれ少なかれその影がある。私らが生涯を掛けて存在意義として求め、窮める対象だよ。人によってその在り方は千差万別だし、その定義を深く考える必要はない。ただ魔力を使う術法。これだけを覚えておきな。」

 

 妖怪は自己の在り方が確立した生き物だが、魔法使いの場合それは魔法一つに集約される。言葉の通り、存在意義なのだ。

 

 兎にも角にもこれを研究、研鑽する。それが魔法使いという生き物の在り方だ。

 

 

 

「先ずは魔力だ。これは魔法の基本となる。魔法の根源、原動力。これに気づき、触れ、操ることが魔法使いの基礎であり、そして真髄でもある。とにかく形だけでもこれが出来なきゃ話にならん。」

 

「前提条件ってこと?」

 

「そうだ。」

 

 科学のように体系化されない技術である魔法は、やはり科学とは対極に混沌としている。その様は人によって十人十色、千差万別なのだ。

 だがそんな中でも、必ず共通して存在する、ある概念がある。

 

 それが魔力。

 自然に満ちる神秘の力、霊性の具現。不可思議のエネルギー、魔術の燃料。これを基にして術を動かせるのである。 

 

「自然の属性の魔力、星から降り注ぐ魔力、異界より齎される魔力。魔力は、その大本に様々な源泉がある。」

 

「属性?」

 

 聞き慣れぬ単語に、魔理沙が首を傾げた。

 

「五行――『木火土金水』は聞いたことがないかい?基本的に、魔力の、ひいては自然界そのものがこの五つの属性に大別される。例えば山や大地は『土』、風や雷は『木』だ。」

 

 魔力の基本となる五つの属性。

 五行思想にも現れているこの五属性は、魔力の基本の色だ。触媒魔法などではこの属性の相性などが大きく効力に関わり、故に重要視される。

 

 ただこれと決まっているわけではないので、魔力の性質の大別は五つから、人によって増えたり減ったりする。ちなみに魅魔の場合はこれに『日』『月』を加えた七曜の七属性だ。

 

 自然を大別するなら、更にここに『三精』や『四季』の性質まで加わり六十にまで膨れ上がるのだが、流石にそこまで話すのはややこしいし面倒である。

 

「このことは後で話そうか。とにかく魔力の扱いが何より重要だと心に刻んでおきなさい。」

 

「はーい。」

 

 

 

 理解が出来たなら次は実践。同時にこれが非常に難しいものでもある。だからこそ、魅魔は一人での研鑽を良しとせず、自分の手を貸して経験を積ませることを選んだ。

 

「魔力についての基本の理論はこんなところだよ。とはいえ、どうせ素で気づけというのも無理な話だからね。」

 

 そう言って、魅魔は魔理沙の背中側に回り込み、その華奢な背骨に手を当てた。

 

 嫌な予感。

 

「これからお前に魔力を流す。滅茶苦茶痛いだろうが、我慢して感覚を覚えな。自力で力の流れを掴み、制御出来るように努めるんだ。」

 

「う!?……は、はーい」

 

 

 明らかにただでは済まない鍛錬法。ちょっとダウナーである。

 

 霊体を破壊しないよう手加減するとはいえ、魔力を直接体に流し込むのだ。制御の目途が無い以上、死ぬほど痛いに決まっている。

 これは言ってみれば、骨髄に熔けた鉛を流し込んで熱という概念を知覚させるようなもの。普通の人間ならまず一瞬でショック死するだろう。

 

 だが荒療治である分、制御さえ出来れば途轍もない時間短縮に繋がるのもまた事実だ。

 

「そら、いくよ。」

 

「えーと…」

 

 ピシイッッ!と体に軋る異音。そして。

 

 

 

「……が、ぐうぅぅっ!?ぎゃああぁぁぁ!!」

 

 体内を魔力の奔流が這いずりまわり、少女の神経に烙印を捺すような激痛を走らせた。

 

(ああ、痛い、痛い、体中が焼きつくみたい……!もう熱いのかも冷たいのかも分かんないっ、いだい、いだい……!!)

 

 涙すら出ないほどのとんでもない激痛。例えるなら心臓から外皮まで、鉄の棘で身体を余すことなく貫かれた挙句、その棘をドロドロになるまで発熱させたような感触。

 それを受けながらも思考が回せるあたり、称賛されるべき精神力と言えよう。

 

 あまりの痛みに心が壊れそうになりながらも、この地獄を一瞬でも早く終わらせようと、魔理沙は殆ど無意識下で感覚を尖らせる。

 

(魔力、エネルギー、霊性の力、一体どれが…?いや……)

 

 

 白熱する感覚の中で痛みの根源、この体を痛めつけている元凶を探す。それこそが目的の力だ。気が狂う灼熱と動けなくなる凍結を彷徨い、五里霧中ながら全神経を一点に集中する。

 

 そして百里の果てにあるのではないかという、遠い遠い視界の先に。

 

 

 

 ―――『虹』を見た。

 

 

 

 外皮を、体内を、濁流となって押し潰す虹の大河。

 洪水のように滅茶苦茶に氾濫し、骨を、神経を、削り取っていた。

 

 本当にそういう色をしているわけではない。ただ頭の中で、そのように見えただけ。

 

 だが見えた。知覚出来た。それだけでも大躍進だ。

 

 

 魔理沙の体は、『紅夢の受肉』という魔法使いの新たな受肉の為だけの魔法によって作られた。

 そして、それゆえに人類として最高の魔力適正を持つ。

 

 それは彼女の魔法使いとしての適性が桁違いであることを意味し、魅魔がこんな無理矢理な鍛練法を選択したのも、彼女ならば死なずに自分の鍛錬を熟してみせるだろうという確信があったからだ。

 

 その期待は、裏切られなかった。

 

(感じる……?『流れ』がある、虹色の河が私の中で暴れてる…!

痛い、触ると焼けるみたい……きゃは、そうなの、これが魔力!! 痛いぐらいが何よ、私はこれを抑えて、掴んでみせる…!)

 

 痛みを敢えて嘲笑い、目標を前にした狂気じみた精神力で静かに作業を進行させた。

 

 

 虹を操る。

 

 無茶苦茶に暴れ狂う大水を、堤防で囲って一方向に誘導する感覚。虹色の流れを掌握し、際限なく膨れ上がる力を無理に押さえつけずゆっくりと制御していく。

 ―――循環させるのだ。

 

 

「ほう……!」

 

 魅魔の目には、魔理沙から噴き出しては大気中に霧散していた魔力が、虹色の鎧となって彼女にまとわりついたのがしっかりと見えた。

 

 ――果たして、見習い魔女は師匠の魂胆通りに、漏出する魔のエネルギーを捉え手繰ることに成功してみせたのだ。

 

 過剰な流量を抑え、循環により自身へのダメージを減らす。今の魔理沙にはこれが精一杯。

 もちろん魔力の純度は底辺な上、ロスも呆れるほど多い。―――が、それでも成功は成功だ。

 

 

 苦痛への耐久と極度の集中で、眼球の周りにビキビキと青い血管を浮かべながら、何とか声を絞り出した。

 

「魅魔、様……これで、いいの……!?」

 

「まあ及第点だね、良しとしよう。それを…そうさな、三十分は維持し続けるんだよ。とにかく体に慣らし続ければ自然にできるようになる。」

 

 爆発寸前の火薬庫をギリギリで抑え込んでみれば、返ってくるのはあと三十分続けろという無茶ぶり。

 

 更なる鬼畜所業の上乗せに、魔理沙はほんの少しだけ涙目になった。

 

 

 

 

 

 数日をかけて、なんとか三十分の外部魔力の保持を可能にした魔理沙を待ち受けていたのは、魔力の支配を更に高次へと引き上げる鍛錬。

 

 即ち――自分自身の魔力の掌握。

 

「魔法使いは外部と自身の両方から魔力を抽出する。その点、お前の体と魂は私の肝煎りだ。そのポテンシャルを最大限引き出せば、他の有象無象とは桁の違う魔法を扱えるようになるだろうね。」

 

「本当!?」

 

 アドバイス代わりの激励に、弟子が奮起したのは言うまでもない。

 鍛錬を始めた時の激痛などもう忘れたかのように、必死になって自分の中の魔力を引きずり出そうとしていた。

 

「魂魄の内部、阿頼耶識の領域に魔力は隠されている。そいつを見つけだすんだ。魔法使いの体は基本的に魔力の良導体で、全身にその排出口がある。一度こじ開けてしまえば、あとは軽く引き出せるようになるから。」

 

 先の鍛錬のように、自律神経すら含めて全神経全感覚を集中し、体内の魔力の掌握に当てる。但し今度は、その集中先は体内の更に深い部分、魂の領域だ。

 

 余計な感覚を使わないよう安楽椅子に腰掛け、座禅のように瞑想する。呼吸すらも浅くなってくるほどに深く意識を沈み込ませた。

 

 それを見届けつつ、師匠としてお節介を一つ。

 

「私の時はこんなもの無かったからね、感謝するんだよ?」

 

 口へ空気の流れを作り、自然呼吸を深くさせる。そして精神をある程度認識し易くする呪いを付与。

 気休めだがこんなものだろう。あとは本人次第だ。

 

 

 

 海よりも深く、空よりも高い場所に、魔理沙はいる気がした。

 気がした、というのはどうせ錯覚だろうと認識していたからである。

 

 

 深海に身を投じるかのごとき長い長い瞑想の末、魔理沙は今、ある種の一つの境地に達していた。

 

 五感が機能しなくなり、何も感じなくなってしまったのだ。

 それは本当に、どこよりも深く、誰よりも高い所にいるような錯覚を認識してしまうほどに。

 

 同時に、直感した。

 

(此処が、魂の内側。私の源流、その一つ。)

 

 此処が、求めていた場所なのだと。

 

 

 何も見えない。何も聞こえない。ただただ宇宙のような暗黒に抱擁されているだけ。

 だが、何も分からないわけではなかった。

 

 ……すぐ傍に、燃えるような塊があることを、第六感で感じていたのだ。

 それは、あまりにも大きな気配だった。

 

 燃えると言っても、決して火の玉が目の前に浮いている訳ではない。そんなちゃちなものでは断じてない。

 

 

 ―――例えるなら、それは恒星。

 鮮烈に耀き、何億年と燃え続ける偉大なる燈火。近づけばその主人であるはずの己すら瞬く間に焼かれてしまうと思わせる、極大の紅蓮。

 

 

 それほどのエネルギー、神秘の塊。

 

(これが、私の魔力。私だけの力。)

 

 何と熱く、大きく、荘厳なものなのだろう。これまで見てきたものが、宝石に比した硝子の玩具に思えてくる。

 あの人はこれを造ったというのか、この美しく絶大な、神秘の焔を。目指す場所がどれほどの頂きか、少しだけ分かった。

 

 

 幼い魔女の心は、歓喜に打ち震えていた。

 

 手を伸ばすのに、躊躇いは無かった。

 

 触れた瞬間、闇が白に染まった。

 

 

 

 

 ―――意識が戻る。

 視界に入る、見慣れたアトリエ。椅子に腰掛け、師匠がこちらを眺めていた。

 

「おや、戻ってきたか。どうだった?」

 

 まだ意識がはっきりしない。ふわふわとした浮いた感覚。掠れる視覚。

 

 しかし、自分の奥底にあるあの『星』から、どくどくと血流のように力がなだれ込んでいることは、しっかりと認識していた。

 

 

 おもむろに手を伸ばす。掌の穴を開き、流れ込む力を噴き出させる。

 

 ―――虹色が、手を覆った。

 

「やったっ……出来た!!」

 

 これが、これが魔力。自分だけの、魔理沙だけの力。

 

 魔法使いとしての第一歩、魔法を使うための念願の力。

 

 大きな喜色の声は上がらなかった。ただ心地よい疲労感と達成感、欲しかったものを今掌中に置いているという悦びを噛み締めていた。

 

 そしてその『視野』もまた、魔力に触れて以前とは別物と化している。ただの可視光しか取り入れることが出来なかったその目は、今や世界に満ちる極彩色の魔光をはっきりと捉えていた。

 魔を覗き見る、魔女の目だ。

 

 激変した世界を眺める。

 木の精が、湖の水気が、天体から降りる極光のカーテンが。明確に見てとれるようになった神秘の情景が、魔理沙を祝福しているようだった。

 

「上手くいったみたいね。どんな感じだった?」

 

 お前の魂の中は。

 

 少しだけ悩んで、そのまま答える。

 

「真っ暗で何にも分かんなかった。ただ、とっても大きな魔力があったの。まるで星みたいに大きいのが。」

 

 その言葉に、魅魔は()()()()()()()()()()()()()

 

「とにかく、これでお前は魔法使いとしての入り口に立ったわけだ。まあ、まだ半人前の未熟者のなり立てが一歩踏み出しただけだが……」

 

「むー、酷いよ!そこまで言わなくてもいいじゃない。」

 

 可愛らしく怒る弟子にニヤリと笑い、偉大な先達は言葉を贈った。

 

 それは、祝福であり、宣告であり、嘲笑であり、呪いであった。

 

 

「―――魔法使いの世界にようこそ、霧雨魔理沙。」

 

 私は、お前を歓迎しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、分かってるとは思うが、魔力の扱いだけが魔法使いの能力じゃない。寧ろここからが本番だよ。」

 

 そう、あくまで魔力は魔法をはじめとする術法の為のエネルギー。魔法の本質はこれだけではなく、魔法を使わない魔法使いは魔法使いではない。

 本題はここからだ。

 

「次は術式だ。魔法の本領は基本的にここにある。私が何回か口走ってるのを聞いたことぐらいあるだろう?」

 

「それって、魅魔様が火を起こすのに使ったりしてる魔法陣とかのこと?」

 

「そうだ。あれもその一種だよ。」

 

 『術式』。魔法を発露させるための、言わば回路である。魔力をエネルギーとするなら、術式が回転するエンジン、或いは演算回路だろうか。

 

 魔法とは、要するに神秘による現実への干渉だ。魔力を通して術式を起動し、起動した術式は魔道の法則に従い現実に干渉を行う。

 基本的にこの一連の流れで、魔法使いは魔法を行使する。

 

「お前の言う魔法陣も、外部に出力、可視化された術式の一つだね。他には退魔師の御札に描かれてる梵字なんかもそうだ。」

 

「ほへー……」

 

 とは言っても、術式に触れたことすらない魔理沙には如何にも感覚が分からないわけで。

 分からせるには()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魅魔は表情を消した。

 

 

「魔理沙、ちょっとそこに立ってごらん。」

 

「え?」

 

 言われるがままに工房の壁の傍に立って。

 

 唐突に魅魔が腕を振るった。

 

 

 ボオォォンッッ!!

 

 

 ―――それは、余りにも非常識過ぎる光景だ。

 

 そこに最初から爆弾が仕掛けられていたかのように、魔理沙の顔面からいきなり爆炎が上がったのだ。悲鳴をあげる暇すら無かった。頸は飛んでいないが、頭部を焼き焦がされて死なない人間がいるはずもない。

 即死だ。誰かがいれば、そう言っただろう。

 

 だが、生憎とこの魔女に常識が通じるはずも無く。

 

 どさりと横向きに倒れた死体に指を向けた瞬間、焼け焦げた外皮が修復され、沸騰し白濁した眼球は綺麗な光を取り戻し、消し飛んだ脳髄と皮下組織が埋め合わされる。ふさふさの紅色の髪もちゃんと元通りだ。

 一瞬で魔理沙は、殺されて、蘇生された。

 

 いきなりで何が起きたのか理解出来ていなかったのか、トロンとした目をこちらに向けていた魔理沙は、ハッと意識を取り戻すと慌てて魅魔から距離を取った。

 

「ちょ、ちょ、え、魅魔様何するの!? 私今死んでたよ、ねえ死んでたよね!?」

 

 敬愛する己の師匠相手でも、流石にいきなり炎でぶち殺されると生物としての警戒心が上回るらしい。雨に濡れた仔犬のように恐怖でブルブル震える魔理沙に、魅魔は似合わぬ穏やかさで問いかけた。

 

「今使ったのがどういう術式か理解できたかい。直撃を食らったんだから、どんな経路で魔法が発動したか、少しは解ったはずだよ。」

 

「へっ?……あっ」

 

 確かに、何か陣のようなものを介して魔力が変質し炎が起こされたのが、おぼろげながら感覚に残っている。直撃の瞬間に無意識で感じ取ったのか。

 この陣が、つまりは術式なのだろう。

 

(え、じゃあこれを教えるためだけにわざわざ……?)

 

 ということは、自分の師匠は通告も無しに、ただ授業の一環として自分を殺して、そして蘇生させたということか。

 確かに即死なので痛みも何も無かったが―――なんかこう、あんまりにもあんまりである。

 

「……むううーー!」

 

 頬を膨らませてポカポカと魅魔のローブをはっ叩くが、魅魔はかゆいかゆいと笑うばかり。

 

「それで、その術式を今ここで描けるかな。」

 

「…まだ無理。微かに記憶に残ってるだけだし。」

 

 本当におぼろげなのだ。せいぜい魔力が何か複雑な紋様を通り抜けたのが分かったぐらいで、それが何型なのか、中身に何を描かれているのか、皆目見当もつかない。

 

「そうか、じゃあもう一発……」

 

「え、ちょ、ま」

 

 本日二度目の爆轟。

 

 

 結局、数十回ほど殺されたことで、魔理沙はようやく火炎の魔法陣を描けるようになり、魔法における術式という概念をある程度理解できた。

 

 代償として、魅魔への好感度はちょっと、いや結構減ってしまったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法使いの先達としての経験に基づいた指導は、弟子に痛みを強いながらも、本来ならば有り得ない速度での魔法の習得を可能とする。

 

 それでも何年とかけて、小さな魔女は地道に努力を積み重ねなくてはならない。

 

 

 ―――魔道とは日進月歩。

 積み重ねた歴史をもって、魔女は力を成すのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日には、魔力を常時均等に放出し続ける鍛練。

 

「魅魔様、これでいいの?」

 

 そう言った魔理沙の手には、両手大の水球が浮かんでいた。水晶玉のようにがっちりとした、透明な純水の真球だ。

 水魔法で造った魔力の水球である。

 

「ああ、それでいいよ。その水魔力の球体を、出来るだけ長く保つんだ。力を注ぎ過ぎてもいけないし、欠けさせてもいけない。少しでも大きさが変わると破裂するから、そしたらやり直しだよ。」

 

「平気平気、こんなの一発でクリアしてみせ……わきゃあ!?」

 

 調子に乗った瞬間、ズパァンッと快音が響き水球は爆発。当然至近距離の魔理沙はぐっしょりと濡れ鼠と化した。

 見事なまでのフラグ回収である。

 

「……魅魔様ぁぁ」

 

「替えの服をありったけとっておいで。今日は一日中これをするからね。」

 

「うええぇ……」

 

 ちなみにこの日の限界は二十四分と五十三秒であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 またある日には、触媒を効率良く扱う鍛練。

 

 

「そもそも触媒ってのは、属性を抽出した魔法の強化物質だ。その効果は必要なエネルギーの減少から、魔法の効力強化や反転まで行える優れものでね。まだ未熟なお前には、これをマスターしてもらう。」

 

 唐突な魅魔の宣言で始まった触媒魔法の試験。

 内容は至って簡単。『コップ一杯の水を触媒を使って凍らせろ』である。

 

 テーブルの上にゴロっと用意された数々の結晶や金属から、魔理沙が選択したのは『銀』であった。

 

 水の入ったコップに、ポンポンと銀を投入する魔理沙。

 入れ終えたら魔力を込めて、更に触媒の力で変質させる。属性魔法の基本でありながら、高い応用と威力を持つ触媒魔法は、往々にして魔法使いの登竜門だ。

 

「水の属性を集めて…更に金の相生で強化して…よし、『凍れ』!」

 

 発声と同時、中身が一気に凍結し、コップが砕け散った。

 

 残ったのは、綺麗にコップの形を保ったまま凍り付いた氷塊である。

 

「やった、成功!」

 

「『金生水』。金は水を生じる、属性魔法の基礎中の基礎だから覚えておきな。それと氷は水と金に値する、そのために金属性の銀を選んだのは正解だよ。」

 

「きゃは、うん!」

 

 魔法を一発で成功させたお褒めの言葉に、魔理沙は花のような笑顔を咲かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 また魔道具を扱う時もあった。

 

 

 ある時魅魔が持って来たのは、古びた大判の本。しかしボロボロであるにも関わらず、その表紙からは隠し切れない高貴さや異様さが滲み出ている。

 

「できるだけ毒性を薄めた魔導書だよ。これなら()()()()()()今のお前でも使えるはずさ。」

 

 これは元々何処かの工房から押収した代物に、魅魔が手を加えて危険度を抑えたものだ。

 

「読む!」

 

 知識と力に餓える少女が、教材に飛びついた。

 

 ところで彼女の頭からは、とある事実がすっぽりと抜け落ちていた。

 数日前に魅魔から忠告されていたことである。

 

『魔法に関する文献や遺物を見つけても、決して安易に触ってはならない。それらには必ず何かしらの仕掛けがある。対抗策を万全にしてから触れること。』

 ―――即ち、元来杖や魔導書というのは、その施された細工のせいで非常に危険な代物だということを。

 

 

 パラリ、とページをめくった瞬間……魔理沙の視線が固定される。

 

 石像のように体勢を固定されて―――瞬きも許されないまま、魔導書に仕掛けられた精神魔法が、中身の情報を脳内に注ぎ込み始めた。

 

「ぐが……あぁぁぁっっ!?」

 

 最初に魔力を流し込まれた時並みの、意識が吹っ飛びそうな激痛が脳内を蹂躙したのだ。

 

 書き込まれていた内容が目を通さずとも精神に刻み付けられるが、知識を得られる喜びよりも苦痛の方が今は上回っていた。

 

「あーあー、だから前に言ったろう?能無しに他人の知識を覗くとしっぺ返しを食らうって。」

 

 頭の中を直接弄られて絶叫する魔理沙に、魅魔が呆れたように言うが、助ける素振りは見せない。

 

 まあ察しはつくだろうが、この女、事態を予測していながら敢えて引き起こしたのだ。つまり確信犯である。

 

 杖や魔導書といった魔法使い本人に特に縁近いものには、程度の差はあれどこういった精神魔法が仕込んである。不躾な侵入者には報復となる機能だが、正当な使用者ならば道具自ら機能をサポートしてくれる便利なものだ。

 

 使い方は慣れて覚えろ。

 忠告を忘れてやらかした罰代わりに、ここで無理矢理慣らさせるつもりであった。

 

「あああぁぁぁぁ……!!!」

 

 結局、魔理沙が自力で解呪し本を閉じるまで、工房には丸一晩絶叫が響き続けた。

 

 精神汚染への多大な抵抗と、魔導書の仕組みの扱い方を心得はしたものの、暫くは魔理沙は魔導書の類に触れることはなかった。

 

 

 

 

 

 幾度も幾度も、気だるげな師から元気な弟子は学ぶ。

 

 親密に、残酷に、魔女たちの宴は続けられる。

 

 それはまるで逢瀬のように、それはまるで処刑のように。

 

 楽し気な退廃に塗れた授業は、何処までも続くような錯覚さえ覚えるほどだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。