魅魔様見聞録   作:無間ノ海

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秘神の世界 ~Fixer Secret

 

 湖が凍る、とある冬の日。

 

「ぐぬぬぅぅ……きゃああぁぁ!?」

 

 ドカン。バキン。ドゴオ。

 

「いったああい…!」

 

「……何を考えて、魔導書丸ごとに無理やり魔力を流してぶっ放そうとしたんだい。小一時間ほど教えて貰おうか、馬鹿弟子?」

 

 溜息をついて、魅魔は馬鹿弟子(魔理沙)のぶっ壊した壁を見やる。ものの見事に館には大穴が開き、半壊していた。

 

 取り敢えず、焼け焦げ吹き飛んだ建物を放置すると何時崩落するか分かったものではないので、魔法を使ってとっとと直す。

 時計の宝典・中章、部分時間回帰魔法。

 

 

 ――――『星霜転輪』

 

 

 疑似的な時間の巻き戻しにより、あっという間にアトリエが再構築された。防御結界新調のおまけつき。

 

「で、なんでこんなことを?」

 

「魅魔様が『同系統の魔法を多重に重ねたら強い』って言うから…」

 

 だから魔導書のページを開かず、表表紙から裏表紙まで魔力を流し込んだらしい。よく館の半壊程度で済んだものだ。

 

「大砲の砲口同士を合わせて、爆薬目一杯詰め込んで火を入れるようなものよ、それは。上手く扱えなくてやけになるぐらいならやめときな。」

 

「うー、はーい…」

 

 魔導書を本ではなく、道具として扱う修行。一流の魔法使いの登竜門に、魔理沙は未だ足を引っ掛けていた。

 

 

 

 

 

 

 あの数百年ぶりの『博麗』との邂逅から数年。

 

 魅魔は変わらず、着々と魔理沙に魔法を仕込んでいる。本人が師に造られた天才なのも相まって、十と少々の小娘とは思えぬほどに、その技巧は上達していた。そもそも手本である師が最高峰、というのもあるのだが。

 

「そう言えば魅魔様。」

 

「何だい?」

 

 夜、余った素材を使って作ったスープを飲んで、暖炉に当たって身体を暖めながら、魔理沙が問うた。

 ちなみに空いている錬金術用の大釜を使ったので、調理というより調合である。

 

 寝る前に一息ついて、師匠と語らうこの和やかな時間が、魔理沙は好きだった。

 

「魅魔様はどうして魔法を極めたの?」

 

「……ふむ。」

 

 なんと答えるべきか。

 

 割と答えに窮する問いである。確かに元々の種族は悪霊であるわけだし、魔法を修める理由もない。それでも何故か、と問われると。

 

「気まぐれ?」

 

「えー…」

 

 何時も自分には理不尽な論理と法則を求める師とは思えない返答に、弟子が呆れるのも仕方なかった。

 とはいえ、魔理沙は余り知らないが、この魔女は元来かなり適当かつ気まぐれである。あと大嘘つき。

 

「別に何の理由も無しに、魔道を歩んだわけじゃないよ。衰弱しきっていた私が生き残るために、一番手っ取り早かったのがソレ、ってだけさ。」

 

 封印によって、悪霊の力を剥奪されて。それでも生き残る為に、矮小となった身を補うために、地上や魔界でひたすら魔法を研鑽したのだ。

 

「むぅー…」

 

 だが、生憎そんな曖昧な答えでは、力に窮する少女を納得させることは出来ないようで。

 

 赤い髪を垂らした少女は、ほんのり桜色の頬を可愛らしくぷくーっと膨らませていた。

 

「……意地悪。」

 

「誰にだって話したかない過去なんて幾らでもあるさ。さ、もう休みな。」

 

 言うが早いか魔理沙の軽い身体を姫抱きに持ち上げた。羞恥と混乱で目を回している内にベッドにポンと放る。ボスっといい音がなって、少女が完全に布団に飲み込まれた。

 

 抵抗する間もなく、すぐにくぅくぅと寝息が聞こえてくる。元気なようでも疲れ切っていたのだろう。苛酷な魔法の授業は、人間の魔理沙には途轍もない負担がかかるのだ。

 

「さてと…」

 

 アトリエを出る。静かに、小さな弟子を起こさぬように。

 さっきから()()()()()()()()()不届き者の顔を拝むために。

 

 

 

 

 

 

 

「で、誰なんだいさっきから。肌がチリチリするんだが。」

 

 冷え込む湖のそばで、虚空に向かって話しかける。存在こそしていないが、確かにそこから此方を震わせるような神気が漂うのだ。

 紫ではない。しかし彼女同様、小深度の異界に身を潜めているらしい。

 

 引きずり出してもいいのだが、敵意は無いのでそのまま待つ。

 

 期せずして、動きがあった。

 

 

 ―――霊台方寸、死すれどあれかし。

 

 

 荘厳な言の葉が響く。森羅万象を震わせ、圧する。

 

 

 ―――稠凋に満ち満ちる望月に、燦々反ずる者も無し。

 

 

 無数の扉が現れ、開く。

 時間、空間。そんなものを忘れたかのように、その門扉からは、四季も処も無視した光景が覗いた。

 ある扉は、紅葉の差す夕暮れの寺。またある扉には、煌々と陽の照りつける夏風の草原が映る。雪冠を帯びる森林の上空から吹雪がなだれ込み、極めつけに見渡す限りに桜花満開の花の都が見えた。

 

 

 ―――さりとてその障碍、怨讐、瞬、如何に多きことか、救いがたきことか。

 

 

 中央に降臨する、一際大きな扉。

 異界の奥底から出現したそれは、別格の雰囲気を放っていた。

 

 

 ―――その黒魄、魔に堕つれど、努努鎮まりなりなむ……

 

 

 扉が開く。

 そこに広がるは、()()。日の光輝、月の眩耀すら無い、文字通りの虚ろの世界。誰も、何も、居られず、入れない、暗闇とくすんだ臙脂色の世界。

 ――――『後戸の国』。

 

 そこから現れた、車椅子に腰掛ける一人の女。

 

 天上に瞬く北斗七星を誂えた橙の狩衣に袖を通し、山吹色の長髪に大きな冠を戴冠している。片手には、鏡にも見える美しい漆塗りの小鼓。

 絶大な神力を内に秘め、超然と笑みを浮かべる姿は、並々ならぬ神格であると見てとれた。

 

「……初めまして、と言おうか。星宙の魔女よ。」

 

「これはまた、随分なものが出てきたね。」

 

 秘神、秘仏の類か。無節操すぎて最早暗黒に思える様々な力の粋が、女の形をなしている。

 

 向こうは自分のことを知っているらしい。となれば、紫か紅魔の関係だろうか。

 

「我なるは、摩多羅隠岐奈。あらゆる存在の背に秘せられし、絶対なる秘神である。」

 

「魅魔だよ。と言っても、貴女は私を知っているようだがね。」

 

「左様。私は八雲紫と共に、理想郷の創成に携わる賢者が一角よ。この度はそれについて、其方に是非を問いに来た。」

 

「ほう……」

 

 なるほど、やはり紫と理想郷の関係者か。協力者の話は聞いていたが、彼女がそうであるらしい。

 

「これより我らは核となる結界を張る。(うつつ)(まほろば)、相反する両翼を混沌の太極と成す、稀代の大結界を。さすれば現に拒まれた幻の者共は、彼の秘境に招かれる。」

 

 これぞ『幻と実体の境界』、その本質。現実に否定された者達を理想郷へ招く、言わば結界の形を成した門。

 

「それを創る上で、私に協力しろっていう話だろ?」

 

「その通り。」

 

 実は以前から打診は受けていた。何せこの結界、範囲こそ秋津洲(日本本島)の中央部だけだが、その実質の干渉範囲はこの星の全域に渡る。

 当然だが、こんなことは前代未聞の所業だ。小国を覆える結界だけでも前例のないほど巨大だが、それに全世界に影響を及ぼさせるなど、試そうとした者すらいまい。

 

 故に、八雲紫や摩多羅隠岐奈ら『賢者』達は考えた。如何に己の力が強大であろうと、ことが大きすぎるだけにそれだけでは不安が残る。

 確実に成功させるにはどうしたらいいのか、と。

 

 結論はシンプルイズベスト。

 

 ―――各地の知り合いに助力を仰げばいい。

 

「まあそれで私にお鉢が回ってくるのは良いんだが……他にも手を貸せる連中はいるんだろうね?流石に私の力だけで、そこまで範囲を拡大出来ないわよ?」

 

「無論だ。大江・伊吹山の鬼や天狗共、京の大妖ら日本の妖怪は言うに及ばず。西洋の吸血鬼に獣人、悪魔、お前のような魔女達にも力を借りる。」

 

「随分と大盤振る舞いだねえ。」

 

 逆に言えばそれぐらいしなければ、成功など以ての外なのだ。それぐらい、彼女らの企図は無茶苦茶かつ無理難題なのである。

 

「特にお前の力は我等に並ぶほどの格別だ。当てにしているよ?」

 

 超然としたそれまでの態度を崩した隠岐奈は、そう言って女童のようにからからと笑った。仮面を外したように模様が一変したが、どうやらノリの軽い此方が素のようだ。

 神の性格なぞ考えるだけ無駄だと承知している魅魔は、面倒そうな反応を返すだけ。

 

「…ま、報酬も貰ったし、良しとするけどね。」

 

「当然だ。寧ろそれ、賢者としての仕事じゃ一番の大仕事だったからな?これで流されたら骨折り損だ。」

 

 隠岐奈が遠い目をするが、それも致し方無い。

 というのも、報酬として事前に要求したものは、魔理沙に使えるような魔導書なのである。当たり前だが、そんなものがそこらに転がっているはずもない。

 

 魅魔の手で作ったものは、どいつもこいつも他人に使わせることを想定していない劇毒だ。そうでなくとも、まだ小さい弟子に使わせるには、予め限りなく弱いものでなくては。

 

 そんな指定が入ったせいで、紫たちは魔法使いと取引するか工房にこっそり押し入るかを繰り返す羽目になり、ようやく何冊かが手に入ったのである。

 

 ともあれ、契約は成ったのだ。

 

 ――顔を引き締め直して、隠岐奈は告げた。

 

「もうあと数日で始めることになるだろう。任せるぞ。」

 

 ――答えるは太古の魔女、獰猛と威厳の笑み。

 

「いいだろう。魔法使いは契約を破らん。」

 

 

 

 

「そう言えば、お前さんは何の神なんだい?えらく無秩序で混沌としているけど。」

 

 話を変え、魅魔は隠岐奈に聞く。彼女をして、これほどまでに数多の側面に顔を持つ神仏は初めてだった。

 

 性格自体は如何にも神らしい。自らを敬い信仰する者には慈悲と霊験を、蔑ろにする者には無慈悲と神罰を。そこは変わりないようだ。だがその霊験自体が、読み切れないほどの多角であった。

 

「そうさなあ……私の支配は多岐にわたるゆえな、一口には答えられん。後戸の神であり、障碍の神であり、地母神であり、能楽芸能の神であり、宿神であり星神であり、また養蚕や被差別民の神でもあるぞ。後は忘れた。」

 

「……無節操だねえ。」

 

 一体どれだけの権能を持っているのか。それでいてまだまだ底が無い。

 複数の方面に権能を持つ神はいるが、それにしたって彼女は異質、膨大に過ぎる。余りにも神性が多すぎ、神として混沌としていた。

 

 例えるなら、絡繰り箱にハノイの塔、古今東西ありとあらゆるパズルを無作為に積み上げ、ジェンガを組んでいるようなものだ。

 

「私はあらゆる存在の背中に扉を作り、後戸の世界より世を見守る。習合支配もお手の物さ。」

 

 そう言って、隠岐奈はニヤリと笑った。

 

 

 

 摩多羅神、摩多羅隠岐奈という神の本質は、すなわち究極の絶対秘神だ。

 

 彼女の本当の正体は誰も知らない。知ってはならない。如何なる者も、決して知ってはならぬ未知の世界そのもの。その正体を見てはいけない、聞いてはならない、語ってはならない。そういう神。

 

 無限にも等しい深淵に、無限に等しく習合した神々、その混沌が満ち溢れる。

 底へ手を伸ばそうと、届かぬ足りぬ。彼女は自分を隠してこそいないが、それと理解が及ぶか否かは別問題。拡散する無限級数の如く、決して到達出来ない蒼茫の神遠。

 

 ―――故に、威風堂々の神秘。

 ―――故に、究極の絶対秘神。

 

 

 

 威厳ある古めかしい口調と、童女と区別の付かない軽薄な口調を反復横跳びするのも、この神の抱える神性習合による異常性の一つだろう。相手する側としては厄介この上ないが。

 

「そんなのが何で彼奴に協力してるんだい?余り関係性が分からないんだがね。」

 

「なに、あやつとは昔々から交友と敵対を繰り返していてね。今回は偶々理想が合致したから、仕方なく手を貸しているの。」

 

 スキマを司る妖怪と、バックドアに潜む秘神。成程、お似合いではある。

 

「紫の奴が表なら、私は裏だ。私の賢者としての役目は、即ちフィクサー。パワーバランスに裏から手を入れ制御する。幾ら理想郷の土地が頑丈でも、修理する者は必要だろう?」

 

黒幕(フィクサー)とはこれまた言い得て妙だね。」

 

 これこそが摩多羅隠岐奈の真髄。郷内における過剰な力の偏りをその特異な権能でもって修正、制御し、秩序とパワーバランスを保ち続ける。まさしく『黒幕』。

 

「大抵のことはどっちか一人で何とか出来るんだけどねー…結界についてはちょっと大きすぎるから。」

 

 悩ましげに首を傾げる様相も、整いすぎた顔立ちのせいで実に様になっていた。

 

「まあ兎に角、私たちが日本から結界を拡げるから、結界の拡散に気づいたら順次動いておくれ。お前が手を貸せば大陸の殆どは範囲に入るだろうし。」

 

「はいはい、分かったよ。」

 

 音もなく、四季折々の情景を浮かべる扉が閉まる。月が明々と照らす湖に幾つも開いた時空の歪みが正され、やがて後戸の御世に通ずる錠門だけが残った。

 

 隠岐奈はキュリキュリと車椅子を動かして、元の世界に帰ろうとした――所で振り返り。

 

「そうそう、お前の育ててる弟子だが。()()使()()()のかい?」

 

「…まだだね。普通ならもう一人前だが、こと博麗とやり合うには未完成だ。」

 

「そうか。余り時間は無いぞ。」

 

 それだけ告げて、秘神は静かに闇の中に身をやつした。

 

 

 

 

「分かっているよ、言われずともね。」

 

 吐き詰めるように呟いた。

 ちょうどその時、後ろからガチャリとアトリエの扉が開かれる音がした。

 

「むみゅうう……魅魔様ぁ?」

 

 寝ぼけまなこを擦りながら、赤髪の少女が這い出してくる。毛布を纏って枕を抱えたままであり、本当についさっきまで熟睡していたのだろう。

 

「起こしたか。すまん。」

 

「んーん…誰か来てたの?」

 

 神格の残滓。ほんの少しとも言えないほど薄っすらと隠蔽されたそれを、魔理沙の感覚は当たり前のように捉えていた。

 ()()()()()()()()()()()()も、分からずに。

 

「…………いいや、何でもないよ。さ、もう入りな。凍った湖の傍は寒くて仕方ないだろ?」

 

「んー…」

 

 むにゃむにゃと、寝言を呟きながらアトリエに戻る。

 それに付いていきながら、魅魔は一抹の不安を覚えていた。

 

 

「危ういね、やっぱり。」

 

 

 

 

 

 

「ふうっ…やれやれ。小娘相手とは言え、感づかれず動くのも難しいもんだ。」

 

 冷や冷やしたよ、と冠を外して椅子に放る山吹色の秘神。

 車椅子から腰を上げ、カツカツと音を立てて歩みだす。視界の殆ど通らない暗黒の領域を、まるで自分の城であるかのように。

 

 それは事実だ。この『後戸の国』は、真実彼女の城であり、掌であり、あらゆる存在のバックドアそのもの。文字通り自分の宮殿にして体内同然のこの世界では、隠岐奈は絶対神同然の権能を行使する。

 

 真紅よりも真っ赤な、謎すぎる木々植物のカーテンと絨毯を通り抜け、その先に待つのは―――二つの物体。

 

「お前たち、帰ったぞ。」

 

 その言葉をかけられた。それがスイッチだったように。

 

 糸が切れた人形の如く鎮座していた物体は、スッと首を上げて主を迎える。

 

『お帰りなさい、お師匠様。』

 

「おう、丁礼田に爾子田よ、二人ともちゃんと留守番してたか?」

 

 無論、この問いに意味など無い。彼女ら二童子、「丁礼田」と「爾子田」は隠岐奈の操り人形。主人に奉仕することだけを存在意義とする、人間の皮を被っただけの肉の傀儡だ。

 その隠岐奈が命令を下していないのに、留守番など出来ようはずもない。

 

 されど、この秘神のタチの悪いのは、心など持たぬはずの人形に元の人格をしっかり残しているということだろう。

 

「そうですよ!聞いて下さいよお師匠様、爾子田がね……!」

 

「ちょ、それ言ったら丁礼田もでしょー!?」

 

 記憶も感情も無いのに、喧嘩を始める二人。勿論、そんな事実などありはしない。意地の悪い「お師匠様」の戯れだ。

 

「分かった分かったお前たち。話は後でゆっくり聞いてやろう。」

 

 ほっぺたをむいむい引っ張って取っ組み合いをしていた二人の動きが、歯車を抜かれた機械のようにピタリと止まった。

 

 紅草の庭園の中央に置かれた、扉をあしらった玉座に隠岐奈が座り込む。すぐに、先の喧嘩が噓のように息の合った動きで、玉座の隣に二童子が侍る。

 左座に竹を携えた丁礼田が。右座に茗荷を携えた爾子田が。それぞれの配座に着いた。

 

 暗がりに満ちた後戸の国に、突如として光が幾筋も差し込む。数多の扉が空間に出現し、一斉に開かれたのだ。

 つながる先は、全国全世界の妖怪や神の背中の扉。

 

 同時に二童子が手に持った竹と茗荷を構え、振りかざして踊り始めた。踊りとは言うが、常軌を逸したその踊りには規則性も美術性も、誰かを楽しませようという心情すら込められていない。

 ただただ無作為で無茶苦茶な、神奉の為の乱舞。狂いに狂った気違いの囃し。己の神へ捧げる、隠岐奈の為の踊り。

 

 これが、隠岐奈が部下として二人に与えた力。背中で踊ることで、望むがままに生命力を、精神力を跳ね上げ、或いは抑える能力。

 いわばバッファー。この二人は隠岐奈の意向に従い、舞を捧げ、人外達の力を司る。

 

 相手の力量そのものを裏から操る力と叡智、そして信念。

 故に摩多羅隠岐奈もまた、『賢者』の座にあるのだ。

 

 

 

 二人に躍らせながら、隠岐奈は考え込む。

 

 魅魔との会話を途中でぶった切り、異界に急いで戻ったのには理由がある。

 

 霧雨魔理沙。熟睡していた彼女が此方に感づき起きだしたからだ。いずれ楽園の機構たる『博麗の巫女』の隣にいるべき彼女に、自分の存在を知られるのは余りよろしくない。

 まさかこの自分が、たかが十年研鑽を積んだだけの小娘に見つかるとは思わなかったが。

 

「さて、どうしたものか。」

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今隠岐奈の頭を占めるのはそのことばかりだ。

 

 一度会ってみて分かった。アレは本格的に此方に引き込まざるを得ない。放置するには余りにも危うく、保有する力も大きすぎる。

 

 今はその強固な精神と優れた魔法の技術で抑えているが、枷が無ければその内どうなるか分かったものではない。

 下手をすれば、折角の楽園をぶち壊される可能性だってある。

 

 故に、枷を付けるのだ。そして楔はこの楽園、それそのもの。

 「縁」は得てして力の源に、そして首を絞める鎖にもなる。

 

 確かに危ないことは間違いないが、逆に引き込めば理想郷は更に強固になる。見逃すには惜しすぎる。

 

「差し当たって、逆鱗はあの魔女見習いか……とんだ厄ネタだよ、本当に。」

 

 言葉とは裏腹に、隠岐奈の口角は隠し切れないほど、邪悪に歪んでいた。

 

 元よりこの神は、決して善神などではない。むしろ世間一般で見るなら間違いなく悪神の類だろう。

 善も悪も飲み干し、自らの混沌の一部とする器がある。

 

 だからその貌は多彩で、尚且つ無貌だ。二童子よりも幼く見える姿も、こうして権謀術数を手繰る姿も、全て彼女の持つ一面に過ぎない。

 結局のところ彼女だって、何処まで行こうと狂っているのだ。その身に溢れかえる狂気を喰らっているのだ。

 

 『表』は優しすぎる。甘すぎる。

 これでは、いつかは守りきれまい。

 

 故に私が、奸佞邪智を巡らそう。必要とあらば、如何なる手も打とう。

 嗚呼、嗚呼、何と嘆かわしい。何と悲惨で――――何と甘美で、楽しいのか。

 

「くく、くくくっ……くはははっ!!あっはっはっは……!!」

 

 

 賢者の名を冠した絶対秘神、摩多羅隠岐奈。

 究極に座す邪神は、その悲惨で甘美な幻想に、どこまでも狂笑を響き渡らせていた。

 

 

 




 第二賢者、おっきーなです。最近賢者との絡みばっかりな気がする…。
 年末にギリギリ投稿できました。

 夏から投稿してて、未だに序章が終わってない小説があるらしいですね(白目)
 何はともあれ、よいお年を。読んで下さった皆様、ありがとうございます。
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