魅魔様見聞録   作:無間ノ海

23 / 26
 筆が乗らない時に東方新作の発表来て狂喜乱舞したので一気に書き上げました。


永遠の巫女

 

 

 轟音と共に巨大な運動量を叩き込まれ、赤黒の障壁に向けて疾走する、二色の球。

 

 果たしてそれは主の狙い通りに目標に吸い込まれるように直撃し、いとも容易く邪魔な障害物を破壊した……のだが。

 

「なっ!?」

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 確実に貫通する軌道と速度だった。なのにどういうわけか、タイルを抵抗なく割った後に不自然に跳ね返ってきたのだ。

 まるで壊すことは許しても、貫くことは許さないという風に。

 

 更には砕け散ったタイルから、弾けるように白い弾丸がばら撒かれた。撃退用のトラップ。

 

(罠!! しくじった!)

 

 咄嗟に札をばらまいて弾丸を相殺する。幸い強度は無かったらしく、札一枚で無力化できた。

 

「くっ……」

 

 呆ける暇はない。膨大なエネルギーを放出する霊具が、今度は自分に向けて飛んできているのだ。

 黄金より重い球体が靈夢の細い身体に直撃すれば、どうなるかはお察しである。

 

「そう簡単に言うこと聞いてくれないわよね!」

 

 右腕に渾身の霊力を送り込み、筋力と耐久を何十倍にも強化する。

 大きく身体を捻って脊髄周りに力を込めた。

 

 そして鞭の如く腕をしならせ、思いっきり玉に掌を撃ち込む!

 

 さながらバレーボールの選手のように見事なフォームで陰陽玉を弾き飛ばした、が。

 

「ぐ、あああ!」

 

 ビリビリと掌越しに伝わる衝撃。

 骨がへし折れ、筋繊維がブチブチと千切れる。陰陽玉から逆流する無尽蔵の霊力が、腕の細胞を粉微塵に砕いてしまった。

 

 それでも何とか腕一本を代償にその勢いを殺すことに成功し、パワーを受け流された陰陽玉は、コロコロと橋の上を転がってようやく止まった。

 

 

 ―――えらい目に遭ったが、これでやっと落ち着ける。

 

「痛った…うわあ……」

 

 改めて見ると酷いものであった。

 内側から爆発したように右腕が完全に砕け、ほぼ挽き肉と化しているのだ。至る所に断面ができて血が噴き出し、液状に磨り潰された筋肉と骨が覗いていた。

 これまでの人生で最大の大怪我が自分の攻撃による自滅とは、何とも皮肉なものだった。

 

 何はともあれ、まずは腕を直さねば。

 

「……『浄癒』」

 

 紫から教えて貰った治癒術式に、霊力を流し込んで肉体を修復する。妖怪の妖力による圧倒的な回復能力を、人間の霊力で模倣する術だ。

 

 ボコボコと嫌悪感を煽る音を立てて、砕けた骨や潰れた肉が胴の方から生えるようにして再生していく。

 無茶苦茶な治療に激痛が走るが顔には出さず、思考を巡らせた。

 

(やっぱりまだ陰陽玉を扱えてるとは言い難いわね。私も未熟だったってことかしら。)

 

 霊具、魔道具といった神秘に類する道具というものは、薄弱なれど意思を持つ。

 魂もどき、或いは欲望(神霊)の成り損ないが宿っていると言い換えてもいいかもしれない。

 

 それらは基本的に影響は及ぼさないが、特に陰陽玉のような最高格の代物であれば、主の命に己の意思で従い動くこともある。

 陰陽玉の詳細を靈夢は知らないが、少なくともそんじょそこらの秘宝に負けるような霊具ではないはずだ。

 

「つまり、それが私に牙を剥いたのなら、まだ私は主人として認められていない。」

 

 本来の主であれば、陰陽玉が自律的に攻撃を避けているはず。

 だが今の靈夢は主人と認められていない。陰陽玉の力を制御できていない。

 

 道具如きが何を偉そうに、と思うかもしれないが、陰陽玉に限らず最高位の道具は自分で主を選ぶもの。そもそも陰陽玉の放つ力が完全に靈夢を上回っているのだから、調伏できていないのも仕方がない。戻ってきた陰陽玉を受け止めきれなかったのもそれが原因。

 

 しかしそうなると、どうすべきか。

 

 まず分かっているのは、この障壁はただ貫くことは出来ないということ。恐らくは障壁の一枚一枚が相互補完し合っており、全てのタイルを破壊しつくさない限り侵入を許さない仕組み。

 つまり先の攻撃を繰り返し、全てのタイルをぶち壊す必要がある。

 

「手でぶん投げるのは無しね。同じことになるわ。」

 

 どうせ跳ね返ってきて二の舞を踏むのが目に見えている。

 

 また壁自体にトラップが仕込んであるのは予想外だった。ただ超頑丈なだけの障壁ではなかったらしい。魔弾自体は簡単に迎撃できるので、そのために余計な危険を負う気はない。

 魔弾の迎撃の為に両手は空けておきたい。となると……

 

「お祓い棒で弾くか御札で調整。もしくは最悪足で蹴り飛ばそうかしら。」

 

 可能な限り触れずに軌道を調整し、間に合わないようなら足で蹴る。つまり蹴鞠の要領だ、昔藍に教えてもらったのが功を奏した。

 これなら手でぶっ叩くよりはマシなはず。

 

 方針は決まった。あとは実行のみ。

 

「本当にてこずらせてくれるわね……首を洗って待ってなさいな。」

 

 元凶に向けて恨みつらみを吐き捨て、完全に治癒した右腕でお祓い棒をギュンギュンと回転させる。

 

 助走をつけ、陰陽玉を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途轍もないスピードで飛来する、超が付くほど巨大な魔力の塊。

 

 果たしてそれが、ただの一体の悪霊であると気づけた者はいただろうか。

 

「こっちか……」

 

 衝撃波を撒き散らしながら空を駆け、ジェット気流に乗って雲を抜ける。

 そうして目的地の近くに到着し、地上に降りようと視界が開けた。

 

 そして、その光景を目にする。

 

「げっ……!」

 

 見渡す限りとんでもない数の、魔獣、怪獣、魑魅魍魎。

 この世の者とは思えない冒涜的な怪物達が、本能のままに大地を行進していた。草木は踏み荒らされ森が燃え、地獄絵図を呈していた。

 

 そして彼らは、目の前にいるものを二種にしか分けることが出来ない。

 ――即ち、喰えるか、喰えないか、だ。

 

「×××××!!!」

「××、××」

 

 地上に降りてきた新たな獲物に、影の獣は目を血走らせて咆哮を上げる。聞くに堪えない、憎悪と欲望渦巻くオーケストラ。

 

 だが事実彼らは強い。地上の生き物では基礎能力からして歯が立たず、素で食い物にできる上位者にして捕食者だ。 

 どう獲物を喰らってやるか、という思考に走るのも仕方ない。

 

 ……故に彼等の誤算はただ一つ。

 降りてきたのは獲物ではなく、歯を突き立てることすら許されぬ『星』であったこと。

 

「面倒だねえ……気を使う掃除は嫌いなんだよ。」

 

 術式を起動、魔法陣を敷設。この程度であれば一秒とて掛からない。幸いにも、このあたりには金属性の魔力を多く感じられた。

 使うのは属性魔法の到達点の一角、「手軽に高火力」で一掃してやろう。

 

「金、白、渦巻、竜眼。」

 

 虹霓の宝典、終章。金属性最高位傀儡魔法。

 

 ――――『銀鱗竜』

 

 

 大地を叩き割り降臨したのは、威厳と理智を思わせる顔つきの、銀一色の鱗に覆われた途方もない大きさの生物。五十メートルはあろう長い身体が、哀れな贄を見定めるように鎌首を擡げる。

 

 それは蛇どころの威圧感ではない。

 ―――幻想種の頂点。この世のあらゆる生き物の系譜から外れた存在。生物のルールを置き去りにした、最強の生命体。

 

 竜種。

 

 白銀の竜皇が、産声を上げた。

 

「グウウゥゥオオオオオ!!!!!」

 

 咆哮だけで大気が共鳴し、地脈が溢れる。あくまで神獣の模倣といえど、存在自体が周りにとっての猛毒になるほどの、桁の違う格。

 

 流石にこれほどの化け物がいきなり出現するとは思っていなかったようで、周りの魔獣たちはすぐさま仲間を踏みつぶしながら一目散に逃げ出した。

 

 もっとも、それは甘いと言わざるを得ない。

 魅魔がわざわざこんなものを出した理由。それは、邪魔な連中をフルオートで殲滅する為なのだから。

 

「私が戻ってくる間、此奴らを潰しておくように。逃がすな。」

 

 主人の命に従い、銀の竜が暴れ出した。

 

 咆哮をあげ、空圧で地盤ごと圧壊させる。

 鞭のように尾を振るい、塵も残さず消し飛ばす。

 鱗を散弾銃のように飛ばし、体に風穴を開ける。

 口腔に魔力を集積させて、超高熱の吐息として放つ。

 

 なにせ攻撃の一発一発が対軍兵器級だ。なすすべもなく蹴散らされていく。

 

 これの正体は、地中の金属を魔力によって再構成した特大ゴーレム。勿論竜種を模してスペックを構築しているので、本物には及ばずとも最強の生物の真似事ができる。

 多少魔力消費はかかるが、事前に設定していたアルゴリズムに従って、最高効率で命令を実行しようと自律稼働する。陸地を傷つけない、フルオートの大掃除にはもってこいだ。

 

 中には止めようと殴り掛かっている者もいるが、そもそも傷を負っても自動で修復する仕様だ。

 燃費についても、周囲の金魔力を絞り上げて内部の炉でエネルギーに変換している。エネルギー切れは無い。

 

「さて……多分向こうの方に、うん?」

 

 先を急ごうとすると、山の向こう側で強力な気配が二つ。此処まで届いて見える発光が出る辺り、向こうもこちらと負けず劣らずの馬鹿騒ぎらしい。

 死をばら撒く凶悪な妖力と、神霊を使役する式神遣いの妖力。

 

「さては紫と藍か。あいつらもここにいるんだね。」

 

 知り合いがいるのは素直にありがたい。

 状況を問うべく、急行した。

 

 

 

「これで何体かしら?」

 

「二千四百と七で御座いますね。」

 

 黒死の蝶弾が触れる度、魔物の肉体が真っ黒に染まり有無を言わせず死に至る。

 式神や爪、尻尾が掠る度、魔物の半身が吹き飛んで鼓動を止める。

 

 八雲の主従は、異界の侵入者を倒し続けることで現状維持に務めていた。

 

 一応抑え込んではいるが、正直何時までもつことやら。もし限界が来たら人里や他の国にこ奴らが入り込む。そうなれば、待っているのは虐殺だ。

 出来ればすぐにでも決め手が欲しい。

 

 そして式は、術者ほどの視野は持っていなかった。

 

「紫様、このままでは……」

 

「焦ることはないわよ、藍。もうすぐ致死のナイフが手に入るわ。」

 

 少しずつ焦りが出る藍に対して、紫は涼しげな顔。もちろん、千客万来な魔物を潰して捻って壊しながらだ。

 

 紫の言うことを疑うわけではないが、それにしてもどういうことか。

 答えを聞く前に、それは現れた。

 

「―――さて、こいつはどういうお祭りなんだい?聞かせてもらおうか、紫?」

 

 スナップ音と共に真っ黒い無数の魔力弾が斉射され、紫と藍の周囲に蔓延る者達の頭を全て吹き飛ばす。

 血飛沫を歓声代わりに現れたのは、馴染み深い深海色と翠の魔女だった。

 

「あら、お早いお着きね。魔理沙に手を出されたのかしら?」

 

「馬鹿言え、この私がそれを許すわけないだろう。」

 

 どうやら切り札は彼女だったらしい。藍は不躾を承知で会話に割り込んだ。

 

「魅魔、すまんが靈夢が元凶のいると思しき異界に突入した。何か突破の方法があるなら教えてくれ。」

 

 入り口の結界を指差す。生憎と紫や藍が触れても入ることすら出来なかった代物だ。

 ほうほう、と見遣る。

 

「あー、この結界に入り込むのは多分お前たちじゃ無理だ。かなり強力な理法式の結界だよ。」

 

「何?」

「でしょうね。」

 

 訝しむ藍と納得する紫。

 

「到達するまでに挟まれた無限の距離と位相を突破しなくちゃいけない。空間を重ねてガチガチに固めた、隔離能力に特化させた世界を展開してる。例外は――」

 

「――博麗家の血の者、と。道理でね。」

 

 入る以前に、そもそも到達出来なかったのだ。如何に紫でもこれでは干渉もできない。

 

「すると魅魔、どうやってこの中に入るつもり?あなたでも一筋縄ではいかないでしょう。」

 

「その前に一つ聞かせなさい。今回の一件は、()()()()()()()()()()()()

 

 真剣な表情で聞いた。これはどうしても聞いておきたかったのだ。

 

 紫は見つめ返し、数秒と逡巡した後、改めて溜息をついた。

 

「……ええ、これは完全に私の想定外よ。異界の対応を見誤っていたわ。」

 

「よし、なら手加減はいらないね。」

 

 もしもこれが紫の手の内の事態であれば、さっさと目的を達成して逃げ去るつもりであった。

 だがそうでないのなら遠慮する気はない。堂々と大手を振って介入できる。

 

「助かるわ。でもどうやって?」

 

「簡単だよ。」

 

 そう言って結界に触れる。魅魔は博麗に連なる者ではないので、当然動きが急速に遅くなり不動となるほどに固定された。

 

「私でもこれを破るのは無理だ。けどこの先にはちょっと因縁があってね。その繋がりを利用する。」

 

「縁?元凶と繋がりがあるのか?」

 

 それは、彼女を此処まで貶めた所以。

 

「『悪霊』としての私はこの先だ。」

 

「「!」」

 

 息を吞んだ。それは博麗の始祖に封じられた魅魔の半身。

 つまり、魅魔にとっては長年探してきた、文字通り自分自身の一部がこの先に封じられているということ。

 

「それで此処に来たのね。」

 

「ああ、何処にやったのかと思っていたが、封印ごと異界に隠すなんてね。見つからないわけだよ。」

 

 これがここ数百年で最大のチャンス。

 何が何でもこれを機に、半身を奪い返す。

 

「制御は出来るんでしょうね?暴れられたら止められないわよ。」

 

「安心しな、しくじったりしないよ。」

 

 

 目を閉じて、異界の奥底から伝わる妖力のラインを辿る。

 

 ほんの微かな気配だ。ほぼゼロと言ってもいい。

 しかしいくら離れて減衰されようが、重力であれ電磁気力であれ、力というのは決して真にゼロになることはない。希釈に希釈を重ねても、無限遠にまで届くのだ。

 

 そしてほんの僅かであっても、何よりも探し続けた自分の一部。見逃すわけはない。

 

「……見つけた。」

 

 多重次元の位相を数え切れないほど重ねたその先。空間をランダムに分断した重層が壁となって隔てられているその先に、感じる自分の妖力。

 

 確かに遠い。正しく無限に等しい距離だ。歩いていけば、到着するより宇宙が終わる方が早いだろう。

 だが今の魅魔には理を塗り替える魔術、魔法がある。せっかく研鑽した神秘の技術、ここで使わねばいつ使うのか。

 

「少し長旅になるかね……『境界レンズ』」

 

 何百何千と重なった空間を可視化する。

 隣接した異界を上手く利用して、多重にショートカットできる。既に座標は見えているのだから、見失う心配も無い。

 

「行ける?」

 

「何とかね。地上は任せた。」

 

 次の瞬間、光となってその姿が消える。

 異界へ潜り込んで遥かな闇の底に突入を開始したのが、紫には見えていた。

 

「任せるって言ってもねえ……」

 

「……せめて、先にアレだけは片付けておいて欲しかったのですが。」

 

 二人そろって背後に目を向ける。

 

 そこには、未だに暴れ続ける銀の竜像。敵を追い詰めながらこちら側に寄ってきている。

 尾を振り回し、頭突きを繰り出し、殺息(ブレス)をぶちかましとやりたい放題。心なしか、弱い者虐めを楽しんでいるようなのは気のせいだろうか。

 

 もちろん仕事ぶりは褒めてやるべきなのだろうが、終わった後にあのドラゴンを大人しくさせて、崩れた地形を補修する手間を考えたら……

 

「「はあ……」」

 

 とっととこのバカ騒ぎにケリがつくことを願いつつ、主従もまた戦線に復帰した。

 

 

 

 

 

 弾く。弾く。弾く。

 

 陰陽玉を札で飛ばし、お祓い棒で弾き、咄嗟の時は蹴り返す。

 

 このループによって、靈夢は安定して障壁を削ることに成功していた。

 もとより靈夢の学習能力はすさまじく高い。加えて望む通りの体捌きを行える身体能力とセンスを持つ以上、この結果は必然であった。

 

 タイルを破った瞬間、クラスター爆弾のように光弾がぶちまけられる。

 

 ―――チュチュチュン!!

 

「おっと!」

 

 陰陽玉を札で弾いて時間を稼ぎ、その隙に光弾の嵐を大幣の一薙ぎで全て吹き飛ばした。

 

 光弾は霊子を相当に圧縮した弾丸だ。スピードが速い上、見た目に反して硬く重いのでこちらも当たると致命傷になる。

 だが逆に言うなら…当たらなければどうとでもなる。

 

「一度見たのよ、当たるわけないでしょう。」

 

 最後の障壁に向けて札を放ち、陰陽玉を誘導し――直撃。

 あっという間に全てのタイルを削り飛ばした。

 

 同時にガシャアアアン、という硝子の割れるような音とともに、鳥居を残して障壁が完全に崩落。

 

 ようやく道が開けたのだ。

 

「はあー……やれやれね。またおんなじ仕掛けがあるかもしれないし、警戒はしておきましょ。」

 

 鳥居の向こうに広がるのは、障壁以前の全く同じような光景。だが未だに直感がこの先に行けと囁いている。

 

「行きましょうか。」

 

 

 

 

 そこからは流れ作業だ。幾度も出てくる出てくる、密閉型の障壁。

 基本の攻略法は同じ。ギミックは一度発動させれば対処法を編み出せる。ならば余程のことがない限り攻略可能。

 

 

 第二の壁―――千鳥模様とそれを埋め合わせる形の障壁が三枚。問題なく突破。

 

 

 第三の壁―――不規則な波形と小円の組み合わせと、起点となる中央の楔形魔法陣。魔法陣を壁代わりにすることで効率よく全壊させた。

 

 

 第四の壁―――黄色い特殊な障壁を内部に持ったリングと、小球が付属した形。これも魔法陣と同様に反射を可能としていたので、加速させながら弾き返すことで一掃することに成功していた。

 

 

 ……そして、第五の地。

 

 ここに来て、ついに橋が途切れていた。この先は本当に何もない。

 進むべき道が、存在しない。

 

 とは言え、全くの手掛かりなしというわけでもなかった。

 今の今まで全く生物の気配が無かった空間に、突如として生命の力が現れたことを、靈夢は悟っていたのだ。

 

(霊気が明らかに濃い。妖怪ではないけど完全な人間でもない。幽霊か何か、あちら側の存在。)

 

「バレバレよ、出てきたらどう?それとも怯えて出てこれないのかしら。」

 

 空中に向けて挑発。煽られて気配の主が出てくるように仕向ける。

 というかこれで出てこられないと本格的に詰むので反応してくれないと困るのだ。

 

 ―――そんな願いが、通じたのかは定かではないが。

 

 

 景色が塗り替わった。

 

 

「!」

 

 暗闇と紫の星の空間が崩れ落ち、光の橋も砕けて塵に帰る。

 変わって黒が青に染まってゆく。

 

 果たして現れたのは、青一色に浸食された、何も無い世界だった。

 

 遠近感が掴めない。何処を見ても青色の光しかない。音も匂いも無く、生命の息吹も欠片として感じられない。

 何の面白味もない世界に、ここを作った奴は相当の悪趣味だろうという割と失礼な感想を抱く。

 

 そして、感じられていた気配が収束し。

 そこに現れたのは。

 

「え。」

 

 何故だ。何故それがそこにある。何故それが牙を剥く。

 

 

 他ならぬ、ソレ(陰陽玉)が。

 

 

 全く同じではない。赤と黒ではない、白と黒。そして太極の片の穴は、割れたように歪だ。

 だが本能が訴えかける。アレも本物だ。紛れもない、本物の陰陽の霊具だと。

 

 そして、敵は考えることすら許してくれなかった。

 

 回転数を跳ね上げ、巨大な陰陽玉は散弾の豪雨を暴風と共に後継者に降らしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たれ。」

「来たれ。」

 

 無感情な声が響く。

 陰陽玉の中に閉じ込められた、否、密封された二つの影。

 

「我らの子、博麗の御子。」

「振るえ、穿て、駆けよ。」

 

 巨大な球から、戸惑いながらも紅白の少女が戦いに駆けだすのを見届ける。

 己の体でもある球に、膨大な力が幾度も叩き付けられるのを感じる。

 

「使え、仕え、遣え。」

「身を焔とせよ、魂を氷とせよ。」

 

 この身は門番。

 封印の主人にして鍵。二つの異世界から、封じられた者達から、平穏なる現世を護るもの。

 

 ―――故に、破るなら。

 

「この身を超えよ。」

「我らと等しく。」

 

 そうでなければ、この先には行かせない。

 死ぬのが分かっているから。中の怪物が暴れ出すのが分かっているから。

 

「封印を破ってはならぬ。」

「封印は破られねばならぬ。」

 

 自分たちすら倒せない者の為に、門を開けてはならない。

 

「この身と同化せよ。」

「我らを吞み込め。」

 

 だから上回り、吞み込め。

 自分たちを。更なる飛躍の為に。

 

 ―――少女の目が変わった。

 

 透明な殺意。破壊の渇望。

 確執呪縛を振りほどき、吹っ切れた人間特有の瞳。

 

「そうだ。」

「そうだ。」

 

 それで良い。これで良い。

 それでこそ。

 

「「永遠の巫女に相応しい。」」

 

 ―――我らの理想に、相応しいのだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。