魅魔様見聞録   作:無間ノ海

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 はい、お待たせいたしました。魅魔様vsコンガラ様です。ぶっちゃけこれの為に靈異伝編を書きたかったと言っても過言ではない。


破邪の小太刀と月夜の杖

 

 

(門…かしら。)

 

 銀の大扉。

 その言葉に相応しいものが、駆けてきた靈夢の前に聳えている。

 

 縦何百メートルはあろうかというゲート。白銀一色の門がガッチリと閉ざされて行く手を阻んでいた。

 

 そしてこれまでと同じような障壁が、扉を守っている。

 

 頭上には、心臓のように鼓動を打つ巨大な暗黒の太陽。暗い光と熱が、彼女と門を照らしていた。

 

 ―――しゅるり、と陰陽玉を構える。

 

 それらはまるで享年まで仕えた従者のように横に並び、彼女の周りをゆっくりと回り始める。

 

 今まで意識して制御していた宝玉は、その創造者二人の権限と力を宿した靈夢を、改めて正式な主人として認めてくれた。

 これまで四苦八苦していたのが噓のように、呼吸の如くその莫大な力の挙動をコントロールできる。

 

 ただただ、心地よかった。

 

「叩き破ってあげる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所変わって、地獄。

 

 魅魔は、地獄の中でも一等の灼熱空間に身を置いていた。

 

 ここは『炎の腐海』と呼ばれる場所だ。名前の通り、あらゆる存在が朽ち果て燃え尽きる炎に覆われた炎海の海底である。

 

 禍々しい色の梵字で埋め尽くされた精緻な加工の柱が何本と伸び、その巨大さは遠近感を狂わせる。

 その空の中心では、この地獄の炎をかき集めたように煌々と輝く炎陽が、世界を赤く照らしあげていた。

 

 もっとも、この場所がどれだけ熱かろうが、魅魔には通らないのだが。

 

「デキる魔法使いは、太陽から身を守る術ぐらい持ってるもんさ。」

 

 そういいながら、より正確な位置を探るため探査の魔術を使う。

 

 

 気配を辿り、辿り、辿り―――

 

 腐海を抜け、炎陽をくぐり、柱の中央へ―――

 

 ―――チリッ……!!

 

 

「!!?」

 

 そこまで見て、()()()()()()()()()()()()()

 

 少し後から、そのことに自分で気付く。

 

(威圧?いや、睨まれただけか……!)

 

 攻撃を受けたわけじゃない。

 

 覗き見た場所から睨み返されただけだ。

 

 ただその視線の主が、余りにも規格外な神力の持ち主だったために。

 反射で警戒せざるをえなかったのだ。

 

 そして幸か不幸か、その神力の持ち主には心当たりがある。

 

「何であいつがよりによって此処に来てるんだろうねえ――取り返すのが無茶苦茶難しくなったよ。」

 

 ため息をついても事態は変わらない。

 

 今ので確実にこちらの位置がバレた。

 ならば絶対に追撃してくるはずだ。見逃してはくれまい。

 

 ――あの剣士なら、そうするはず。

 

 その思考を呼び水にして。

 

 

 

「―――変わっておりませんなあ。」

 

 

 ()()()()()

 

 

 緋の腐海の底から、その影は現れた。

 

「幾星霜を介そうと、その在り様は不動のもの。であれば、やはり私が祓うに値する。」

 

 

 中性的すぎて、男とも女ともつかない容姿。長い黒髪を後ろにまとめ、白無垢の上に羽織と一体化した真っ赤な装束を羽織っている。

 見るからに神具と分かる神々しい直剣と盃を提げ、額から伸びるのは真紅の鋭い一本角。

 

 一目の印象は、『鬼』だろうか。

 少なくとも、立派な角をつけたヒト型人外とくれば、鬼かその亜種であるのが普通。

 

 しかし、魅魔は知っていた。

 

 コイツだけは別だ。

 

 ―――そんなものより、遥かにヤバい。

 

 

「魔理沙を連れてこなくて正解だったね。」

 

「おや、数千年ぶりの再会だというのに、他人の心配とはつれませんのう。」

 

「お前みたいな異常者に大事な弟子を会わせられるかい。」

 

 友人のようなことを言っているが、その実バリバリの敵対関係である。必然、苦い顔をしてしまうのも仕方ない。

 だが不用意には飛び込まない。それだけ油断ならない相手なのだ。

 

「一応聞いておきたいんだが、お前が何で此処にいるんだい。

 

 ――――なあ、『コンガラ』よ。」

 

 にこりと、笑みが深くなった。

 

 コンガラ―――知られた名であれば矜羯羅童子(こんがらどうじ)。十王の一角、秦広王こと不動明王の近侍にして副官。

 

 しかしながらそれは表の顔。その本来の立場は、地獄最強の戦士の一人に列せられる、是非曲直庁の切り札(ジョーカー)である。

 

「なに、貴女の魂の闇を感じたが故、神殿にて待ち構えていただけのこと。我が主は貴女をより確実に祓うべく、私の戦いの場を設けて下さった。」

 

 その範囲、実に半径二千由旬(約二万四千キロ)。どれだけ暴れても、これなら周囲に被害は届かない。

 

「……用意周到なこった。私を討つためにそこまでするかしらね。」

 

「貴女を完全にすれば、それこそ未曾有の虐殺が起きる。霊界のバランスは大いに崩れ、輪廻は不可逆の危機を迎えるでしょうな。上はそれを危惧し、私に封印の守護と、貴女の討伐を任じたのです。」

 

 魅魔の半身は、地獄からしても破壊不可能だった。それだけ強力な怨念なのである。だから封印という手段で留めおくしかない。

 だが封印していても、奪い返されたら不味い。その上隠すのも難しいときた。

 

 ならばどうするか。

 

 簡単だ。

 『最強』に守らせればいい。

 

(あわよくば私を消せれば一石二鳥、か。)

 

 

「……さて、お喋りは此処までといたしましょうぞ。」

 

 スルゥ――と差した剣が引き抜かれた。

 

 汚れ一つ、反り一つない純白の諸刃造り。読み切れないほどの装飾を施したそれは、彼の主の象徴。衆生の穢れを一切合切焼き清める、仏神の宝剣。破邪顕正、ただそれだけを願われ鍛たれた太刀。

 

 メラリッ、と彼の周囲が紅色に歪み始める。恐ろしく高密度の神力は、練り上げられた剣気と共に鋭く重くなってゆく。

 

 

「……来たれ、『白銀(しろがね)』、そして『月輪(がちりん)』」

 

 対する魅魔も、その全力を引きずり出す。

 

 杖を構え、両脇に呼び出した銀と朱の魔導書を浮かべる。これまでとは桁の違う魔力が渦巻き、宝典が何重もの魔法陣を展開し始めた。それは宝典の、本来の姿。

 

 人を千度消滅させても足りぬ魔法が幾つも浮かぶ。それでも油断はしない。目の前の相手は、それを遥かに超える正真正銘の化け物だ。

 

 

「では。」

 

「死ね。」

 

 

 開戦と共に、地獄が砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初撃は、横薙ぎの斬撃。

 剛剣と柔剣、その双方を突き詰められた究極の剣技が、神の筋力で振るわれる。

 

 それは目の前の空間を鋭く真二つにかち割り、さらに余波で地面が塵となって吹き飛んだ。

 

 もっとも、これを甘んじて受ける魅魔ではない。

 上空へ上がって回避。そして反撃の準備は、とっくに終わっている。

 

「『雪崩』」

 

 滝と見紛うほどの物量で降り注ぐ、星魔力の実体弾。軌跡の重なりが一つの極太の光線に見える密度で放たれる。

 地面が何百メートルの奥深くまで掘削された。

 

 が、仏の一柱がこれで落ちるわけもなく。

 

「フッ!!」

 

 上空への、渦を巻くように捻られた剣の一薙ぎで魔弾の滝は打ち消され、勢い余って地獄の天井に深く深く真円の大穴が開いた。

 

「小技はお返ししましょうか――『紅杵』」

 

 爆音が発生し、中空の魅魔に向けて真紅の雷光が奔る。空が更なる朱に染まった。

 

 その雷撃がこれまた真っ二つに裂かれ、中から翠の人型が現れた。

 しかしその姿は、数秒前とは異なっている。

 

「そういえば、貴女は足を生やせるのでしたか。」

 

「いっぺんで良いからその横っ面を蹴り飛ばさないと、気が済まないんだよ。」

 

 エクトプラズム状の亡霊の足は、いつの間にかすらっとした白い二本足に早変わりしていた。

 傍目には、人間と区別はつかない。

 

 一瞬意識が逸れた瞬間、その姿が消える。

 物理的な超速度ではない、時計の宝典に属する空間操作系の瞬間移動。

 

 微風一つ起こさず背後に現れた彼女を、コンガラは驚異的な直感と経験で察知していた。ぐるりと眼球が回り、視線が向いた。

 同時に、攻撃が放たれる。

 

「『魔空星帯』」

「『苛焔球』」

 

 容赦なく敵を磨り潰そうと猛回転する小さな小惑星帯。

 魔力妖力を打ち消し超高温で相手を苛む火炎弾。

 

 腕の一振りで術が何千回と放たれ、互いの猛攻が激突して潰し合い、地形を土煙に変えていく。

 

 

 

 その土煙がボッと吹き飛び、今度はコンガラが白兵戦を仕掛けた。

 

「シイィィィィィィィ!!」

 

 呼吸が蒸気と化した。

 地震を引き起こす踏み込みと共に、純白の剣がブレる。

 

 ―――面打ち、上薙ぎ、突き、袈裟斬り、逆袈裟、兜割り。

 

 全く無駄のない身のこなしを崩すことなく、分子単位の恐ろしく正確な斬撃が放たれる。それを繋げ、束ね、まるで襲い掛かる龍のように、一切の余地なく繋げられる連撃の型。反撃を許さず切り刻むための近距離乱舞技。

 

 その連撃の速度は、文字通り空を駆ける彗星のそれに匹敵した。

 

 銀閃の数秒後に、今更気づいたように地盤が粉々に砕ける。

 

「グッ……!!」

 

 魔術では間に合わない。神経と筋肉、外皮に魔力を巡らせる。もとより高い全てのステータスをさらに何乗と強化し、近接での応戦に出た。

 

 怒涛の攻勢を、杖で受ける、弾く、流す。激しいながらも余分な力を抜き、大気のように手ごたえを無くす。絶えず形を変えつつも決して崩されない、流水の如き槍術。

 だがそれをもってしても。

 

(守り切れん……)

「おおおぉ!」

 

 裂帛の斬撃が振りかぶられ、その度に傷が増えていく。

 コンガラの一発一発が、こちらのガードを正面から破る威力だ。直撃したら間違いなく真っ二つ。先ほどのように魔術を使う隙すらない。

 

 さらに厄介なのが、緩急。彼の得意とする柔剣術。

 

 ぴたりっ、とコンガラの動きが止まる。

 

(!)

 

 まるでフィルムが底抜けしたかのような一瞬の静止。そして魅魔は、彼の動きを捌くように動いていた。

 静止は、()()()()()()()()

 

「しゃっ!!」

 

 次の瞬間、零から百へ。一切の加速の概念を丸投げして最高速度に至った一閃が、杖越しに魅魔の腕を皹入らせる。

 

「ぐうっ!」

「これも受けますか……」

 

 動きが止まる瞬間に魔術を放ち、怯んだ隙に距離を取りながら再生させる。

 

(手の内は分かっているんだがね……!)

 

 時たまやってくる『崩し』の攻撃。紙一重で捌いてはいるものの、先程からこれのせいでかなり翻弄されていた。

 

 加速の段階が存在せず、静止と全速のみの急動作で幻惑する。生物として色々とおかしい、コンガラの極限まで練り上げた筋力と体幹あっての技術だが、なかなかどうしてこちらに刺さる。

 

 

「ふっ!」

「?」

 

 正面衝突では分が悪い。

 咄嗟に判断した魅魔がコンガラの突きを見切り、肩をつかむ。頬を掠める剣先を無視してそのまま空いた腹に掌底を当て、そして。

 

「ぜえあぁっ!」

「なんと……!」

 

 ふわり、とその体躯を宙に浮かべたのだ。

 

 投げ技。

 遠い未来では合気道の部類に入るだろうか。だがその技には、相手を転がし無力化する意図などない。あるのはただ、相手の力を使って身体を壊す、純粋な殺気。

 

 ズガアアァァン!!

 

「がっは……!!」

 

 受け身もなく地面に叩き付けられ、閉じた口から血が噴き出した。

 地面が真っ二つに割れる。鍛え上げた芯軸を根本からへし折る、えげつない威力の投げだった。

 

(油断できませんな、本当に!)

「死ね」

 

 喉元に杖を突きつけられた。

 

「ぬううぅん!!」

 

 だが身体を壊されるのは、これまでの生で千度と下らぬ。

 噴き出した血ごと苦痛と空気を吞みこみ、体の軸を回し、大車輪を描くように剣を払う。絶死の状況すら、妙手を以て攻め番に変えるのだ。

 

 距離を取り間合いから逃れた魅魔と、立ち上がりと共に剣を鞘に納めたコンガラが、同時に振り向く。

 

「いい加減に、倒れなっ」

「それはっ、承服できませんなあっ!」

 

 ――――『燈火』

 

 ――――『已み抛り・弓張』

 

 熱源を収束して振り切られる杖先、両腕を後ろに振りかぶるほどの勢いをつけた居合がかち合った。

 

 吹き上げた塵やがれきは、もはや暗雲となるほどに集まりキノコ雲を形成している。

 

 両者とも、得手不得手をものともせず、苛烈に、されど柔軟に戦い、一歩たりとも退きはしない。

 

 

 それでも、やはりクロスレンジにおいては、地獄最高の剣士が一枚上手だった。

 

 両腕を正眼に構え、ゆったりと振り上げる。

 

 誠心、一擲。

 

「オォッ!!」

「がっ…!」

 

 杖の正中に上段切りが直撃し、彼方へぶっ飛ばされた。

 

 力を溜めただけあり、身体の芯に響く重い一撃。如何なる硬い防御の上からでも叩き切るという、執念の宿った一打ち。

 しっかり受けてもゴリゴリと体力を削られる。

 

 だがこれは、魅魔の策中であった。

 

「ずっとこんな陰気な場所にいちゃ、気も滅入るだろう。久しぶりの日の目を浴びるといい。」

 

 吹き飛ばしによって一瞬できた間隙。それは、待機している魔法を叩き起こすのに十分な時間。

 

(しまった!)

 

 コンガラが気づき、追撃に踏み込もうとしてももう遅い。

 ニヤリと口元が歪む。

 

 ……術式発動、出力最大。

 

 

 ――――『王の白陽(ロイヤルフレア)

 

 

 彼らの間に小さな紅蓮色の恒星が現れた。

 それは小さくとも、星の奇跡を宿した光。

 

「!!」

 

 その危険度を察したコンガラが飛びのく。

 

 次の瞬間、恒星は白く、白く、輝き始め…

 

 

 そして全てが、白き光と熱の爆発に一掃された。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、少しは効いてるかな……」

 

 白銀の宝典・中章。日属性拡散系爆発魔法。

 名前通り、太陽フレアを疑似太陽で完全再現する狂気の代物。

 

 ミニサイズとはいえ、破壊力だけなら本家の宇宙的災厄にも匹敵する、能動と攻撃に優れる日属性の代表魔法だ。消耗も少なく、頼れる火力要因である。

 

 更地となった地獄を眺める。普段獄炎が満たされているこの場所も、流石にこの魔法を受けてはその耐熱性も意味をなさなかったらしい。

 地獄を支えていた柱ごと、溶岩でできた滑らかで巨大なクレーターに激変していた。

 

 ……その真ん中で、人間大の溶岩流の柱が一本。

 

「ま、そううまくはいかないわね。」

 

 じゅおおおおお、とその溶岩が白煙をあげ、蒸発を始める。

 

 やがて現れる、手、角、剣、装束。

 

「ふーむ、魔法使いに変わったとはいえ、破天荒の度合いは変わっていないようですの。」

 

 そんな暢気なことをのたまいながら、矜羯羅童子はその姿を曝け出した。

 その様子に、決定的なダメージは見られない。精々が、服の端が焼け焦げていることぐらいか。

 

 変わっていることがあるとすれば、それは。

 

 ―――彼の身体を、まるで糸と見紛うほど細い紅蓮のオーラが纏っていること、だろうか。

 

「あんた自身の炎かい、それ?」

 

「いかにも。私の権能が不定ながら形をなしたものですな。」

 

 隠すことでもないので正直に応える。

 

 彼を覆う赫黒の細長い気。

 その正体は、途轍もない密度で圧縮された炎、あるいはプラズマ。本来なら現象として視認することすらも不可能な超々高温・高密度の神気を無理やり押しとどめ、辛うじて火炎の形をなしているのだ。

 その結果が、自然では有り得ない糸のように細い炎。

 

 温度にして、先の爆発のさらに数十倍。

 

「そりゃ通じないよねえ、全部ソレが守ってくれるんだから。」

 

「便利なものです。鎧にもなれば刃にもなる。」

 

 これと比較すれば太陽ガスも溶岩も氷も変わらない。全てが触れれば蒸散する。

 つまり、あのオーラを突破しなければ傷もつかないということ。

 

「さて、ここからは本気で参りましょう。次はこちらの手番です。」

 

 メラメラと、紅花の神気が揺らぐ。

 

「っっ……『城壁』!!」

 

 刹那、膨れ上がった。

 

 

 

 ――――『火生三昧・往生』

 

 

 

 あらゆる不浄を焼き滅ぼす仏罰の炎。

 

 その破滅的な熱量が。

 

 たった一人の標的に向けて解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オオオォォ――――………。

 

 

 亡霊の叫びの如き音が、燃え尽きた地獄にて反響する。

 それは巻き込まれ浄化された亡者の声か、あるいは戦場としてとばっちりを受けた地獄そのものの声か。

 

 コンガラの放った一撃は、フレアに炙られクレーターと化した地獄を更なる火力でもって、完全なる異世界にしてしまった。異界の境界線すら粉砕するほどの威力だったのだ。

 見渡す限りは灰と、溶解し冷えた黒い大地のみ。怨霊すら、立ち入ることを躊躇われるような状況。

 

 あの世の神々の力をもってしても、その大地は元には戻るまい。

 

 そう、それほどの大技を放っておきながら……

 

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

「……私が言うのもなんですが、ちと頑丈すぎやしませんかの?」

 

 油断なく構えたまま、呆れた目を向ける。

 その視線の先に、場違いな白く光る壁があった。

 

 それが今更気づいたように炎を噴き出しながらボロボロと崩れ落ち、その先にいたのは。

 

「はあっ……相変わらずのアホ火力め。それじゃ料理しても鍋ごと食材が燃えちまうだろうに。」

 

 憎まれ口を叩きながら出てきた、悠々たる魔女だった。

 

 とはいえ無傷ではない。防御魔法を貫通する炎撃に右腕は丸ごと焼き捨てられ、無残にも全身に大火傷を負っていた。

 だがふらつきもせず身体を再生しながら話に付き合う様は、そんな痛ましさを微塵も感じさせない。

 

地獄(ウチ)の料理人は中々優秀な者たちが多いのでね。私が厨房に火を入れなくとも美味な料理を揃えてくれますな。三途の川の古代魚などは特に旨い。」

 

「羨ましいこった。じゃあこれが終わったらご相伴にでもあずかろうか。」

 

 無論不可能である。魅魔の種族柄、彼らと出会えば即座に殺し合いになる。

 あくまで戦い中の与太話に付き合っているだけだ。

 

 

 その隙に回復して、戦術を整える。

 

(いってて……威力は無茶苦茶だねホントに。さーて、どう攻略したもんか。少なくとも攻撃力は向こうが上だね。)

 

 余裕な様子を計らっているが、ぶっちゃけやせ我慢だ。治癒術式で治療はできても、体力と魔力はごっそり持っていかれた。

 

 先の火生三昧は、明王が瞑想と共に大千世界全ての仏敵を討ち滅ぼすために放つ、まさしく究極の炎。

 『城壁』は百枚近い対属性障壁を張り合わせた、あらゆる攻撃に耐えうる対人最硬クラスの防御壁魔法だったのだが、それでもやはり全てを凌ぎきることは出来なかった。

 

 それをコンガラは、特にもったいぶらずにぶちかました。それだけで彼の格の高さが窺える。

 あれが切り札ということはないだろう。恐らくは本気の状態で放つ奥の手の一つ、或いは単なる大技。

 

(『城壁』が破られかけた以上、防御は愚策か。守ったところでどうせ向こうの出力に押し負ける。)

 

 ―――ならば、大技を出させないほど攻めまくる。

 

 結局のところ、行き着くのは一つしかなかった。

 

 即ち、ゴリ押しである。

 

 

 

「『渾天儀・宙(オーレリーズユニバース)』」

 

「むっ」

 

 落ち着いた詠唱と共に出現する、七色に輝くビット。星々の力を閉じ込め攻防自在の使い魔として使役する、魅魔の代名詞。

 ただし今回の出力は、以前幽香に使ったそれとは比較にならない。込められた光は、「陽」を蠟燭とするなら、「宙」は太陽のそれ。

 

「『破魔の剣・玻璃の型』」

 

 その危険度を肌で感じ、コンガラも大きく体を開いて剣を構える。無駄を極限に排し、一刀にて切り捨てる為の型。己ではなく、人を、敵を斬るための技。

 必要とあらば、いつでも彼岸の敵を斬れるように。その刃は、一握の慈悲をもってあらゆる罪業を断つ。

 

 ビキビキと、二人の肉体に青筋が浮かんだ。集中により目は血走り、脱力から涎が伝う。

 

 闘気が、凪いで。

 

 

 ふっ、と両者の呼気が重なった。

 

 

「「ッッ!!」」

 

 

 剣先が鼻を掠めた。

 

 熱線を躱した。

 

 杖が胴を薙いだ。

 

 炎が髪を焼いた。

 

 

 魔術と剣戟が寸分空けず入り交じり、散った火花は万を、億を超え、一瞬にして兆へと届く。

 

 屠る意を存分に込めた攻撃の一つ一つが、舞踊を思わせる美麗な技前。それが絶えず絡まりもつれあい、醸す画は神話が一幕の如く。

 

 

 大気が鉄槌となって降り注いだ。

 

 剣気が嵐となって吹き荒れた。

 

 細められた水流が斬撃を撒き散らした。

 

 風を引き裂く掌底が四肢を砕いた。

 

 

「……ォオオ!」

「……ゥアア!」

 

 斬り、撃ち、殴り、弾く。地道に相手を削り続け、タイミングを見計らった両者の動きが変わった。

 

 続いては、堰を切ったように大技が飛び合った。二人の研鑽の果ての果てが、惜しげもなく奥義としてその粋を見せつける。

 

 

 ――――『月の天盤』

 

 ――――『炎熱請来』

 

 ――――『万雷・雨傘』

 

 ――――『下段払い・屍人』

 

 

 月の盾が剣を弾き押し潰そうと迫る。晒した隙を潰そうと悪夢の業火が湧き上がる。豪雨の如く降る雷撃が空を虹のように彩る。敵の中心を抉ろうと下段を殺意の剣が舞う。

 

 互いに互いを潰し合う、後先を考えない強力な攻撃の応酬。コンマ一秒と間はなく、攻める、攻める攻める攻める……。

 果てしない大技の殴り合いの末……

 

「「!」」

 

 ガキンッ!と硬質の音が響き、体幹が大きく崩れた。

 ようやく二人にできた、初めての大きな隙。

 

 魅魔が杖を構え、魔導書の回転が最高潮に達する。

 コンガラが足を止め、炎が白刃を覆いつくす。

 

「静寂の月、死の安寧を……」

 

「悪徳よ、魔性よ、此処に降伏せよ……」

 

 ここでなんとしても倒す。

 そう、告げるように。

 

 

 ――――『月女神の寂世』!!

 

 ――――『秘奥・修羅狩り』!!

 

 

 万物の死を示す月光が、世界を切り裂いた。

 

 阿修羅すら殺す一薙ぎが、天も地も塵に変えた。

 

 

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