人々から迫害される『赤目』に転生しちゃった主人公が、同じ『赤目』である幼女たちを救うために奮闘する話。

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 (短編は)初投稿です。


第一話 転生したら赤目で人生ハードモードでした

 

 

 

 

 

 気がついたらラノベの世界に転生していた。

 

 うん。言葉にしてみて何だが、客観的に見ても我ながらなかなか頭のおかしい台詞だと思う。もしこんな台詞を知り合いの前でほざいたならば、いい歳して妄想と現実の区別のつかない可哀想な大人として指差して笑われること必至だろう。

 

 とは言え、事実は事実。ここにはくだらない妄言にツッコミを入れたり一緒にボケたりして笑い合う友人はいない。だって俺死んじゃってるからね。こういう展開でお決まりのトラックに轢かれて。しかも人間の子どもや老人のためじゃなくて、子犬のために。どうせ救うならロリを救いたい人生だった(切実)。

 

 別に死ぬつもりはなかったんだよ? 道路の真ん中でプルプル震えて動けなくなってたちっこいワンコがいたから、普通に拾ってトラックが来る前に華麗に歩道に戻るつもりだったよ? ただ社会人になってから一度も運動してなかったことを忘れてただけで。

 

 いやーワンコを拾い上げるまでは良かったんだけどねぇ。まさか学生時代の感覚で準備運動もせずに道路に飛び出したら、途中で足がもつれて車輪に首を差し出すハメになるとは思わなかった。

 控えめに言ってかなり恐怖を感じた。死因はたぶん頭を潰されたからだとは思うけど、実はその前にショック死してましたって言われても不思議じゃないくらい怖かった。実際痛みは感じなかったから、もしかしたら本当に轢かれる前に死んでた可能性が微レ存……? 

 

 俺が助けようとしたワンコは……たぶん大丈夫だろう。あの時、あの仔は俺の胸辺りにいた。位置的に車輪に巻き込まれたのは俺の頭とふくらはぎ付近だから、心配はいらないと思うけど。

 これでもしあのワンコも死んでたら最悪なんじゃが。無意味な死とか俺大っ嫌いだからね。どうせ死ぬなら意味のある方がいい。まあ、いざ死を目の前にするとヒヨって動けなくなるチキンなんですけどね、俺。さすがに約束された死に向かって一切の逡巡なく走り出せる覚悟ガンギマリメンタルは持ってないです。

 

 少し脱線したけど、そんなこんなで俺は一度死んだ。死んだ、はずだった。

 

 だが気がつけば俺は、異形の怪物と人間が戦争を繰り広げる『ブラック・ブレット』の世界に転生していた。ちなみに今世では6度目の誕生日を迎えます。友人どころか親にすら祝ってもらったことはないんですけどね。まあ俺が『赤目』だから当然なんだけど。

 何せこの世界、赤い目をした存在に非常に厳しい。目が赤いとそれだけで殺意や憎悪を向けられるからね。それはもう洒落にならないレベルで。

 

 『赤目』は人間じゃない。だから殺したっていいし、むしろ殺されて当然。そんな風潮がまかり通るのがこの世界だ。

 

 俺もこの6年間、散々な目に遭ってきた。

 身に覚えのない憎悪、暴力。心ない罵倒、偏見、そして差別。殺されかけたのも一度や二度じゃない。数えるのもバカらしくなるくらい何度も殺されかけて、何度も死にかけて、その度にまだ死にたくないと恥も外聞も全部かなぐり捨ててみっともなく生き延びてきた。

 

 けれど、それもここまでかもしれない。

 

(あー……死にそう……)

 

 俺は雨の中、大量の血を流しながら地面に倒れていた。追手を振り払うために外周区まで逃げてきたが、もう一歩も動けそうにない。

 ()()()()()()()()()()()()が、それまで追手が来ない保証はどこにもない。完治する前に連中に追いつかれれば詰みだ。

 

(ッ痛ぅ……くそ、あの変態仮面め。街中で斥力フィールド展開するとか何考えてやがんだ。そんなことばっかしてるから近い将来民警のライセンス停止させられる事になるんだぞ! 少しは自重しろ自重を!)

 

 まああの変態が無差別に暴れたおかげでここまで逃げられたんだけどね。でも感謝はしない。だってあいつも俺のこと狙ってたし。自分の獲物を横取りされたくなくて周りの連中ごと俺を殺そうとしただけだからね。

 あっでも、6歳バージョンの小比奈ちゃんに会えたことに関してだけは感謝してる。10歳の小比奈ちゃんも勿論かわいいんだけど、原作よりも幼い時分の小比奈ちゃんもそれはそれでぐへへ。

 

(とはいえ……はぁ。こんなことになるなら、師匠に貰った剣を持って来れば……いや、原作が始まるまで大人しく隠れ家に引きこもってれば良かった……)

 

 後悔先に立たずと言うが、まさにその通り。俺はうつ伏せのまま、近くにあったもう何年も使われず動かなくなった自動ドアを鏡代わりに自分の姿を確認する。

 

 泥で薄汚れているが、それでも前世とは比べ物にならないほど整った目鼻立ち。頭部には本来人間には生えるはずのないイヌ科の耳が存在するが、ところどころ欠けていて、全身は切り傷だらけ。臀部からはこれまた人間には存在しない、耳と同じ青味がかった銀色の尻尾が生えていたが、こちらもまたその毛並みはボサボサだった。そして何より特徴的なのは、ワインレッドのように濃い赤色をした、縦に裂けた瞳。

 

 敢えてここまで何に転生したのかぼかしてきたが、これだけヒントがあれば十分だろう。

 

 そう。前世では紳士でオタクで一般人だった俺は、今世ではモデル・ウルフのガストレア因子を持った『赤目』、すなわち『呪われた子供たち』と呼ばれる超絶かわいい美幼女として生まれ変わったのさ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……とでも言うと思ったかアホがぁぁぁぁああああ!!!

 

 

 

 残念、赤目は赤目でもガストレアの方でした! ファ◯ク!

 

 何? ラノベの世界に転生できただけありがたいと思え? ふざけろ! 転生なんて言葉、チャラチャラ口にすんじゃねぇ! 俺はその言葉が一番嫌いなんだ! せめて俺のように倒されるべきモブキャラになってから言いなさい。いいね?

 

 とにかく、自分がガストレアであるという、そのあまりにもあんまりな事実に気づいた当時の俺は阿鼻叫喚しながら神様を呪った。毛髪があるなら消し飛べばいい。巨根なら粗品になればいい。美形なら刺されればいい、と。ありったけの呪詛を、いるかどうかも分からない神様に向かって吐き続けた。

 

 が、そんなことをしたところで現実は変わらない。俺はガストレア戦争中、自衛隊の人たちに殺されないよう必死に無害ムーブをかましながら人命救助と情報収集に勤しんだ。

 

 ラノベの世界に転生したからと言って、その時期が都合良く原作の開始時期と同じとは限らない。

 ブラック・ブレットは作中で三度に渡ってガストレアとの戦争が起きている。一度目は2021年の第一次関東会戦。その数年後の第二次関東会戦。そして第一次から10年後、つまり原作が動き出す2031年に起こる第三次関東会戦。

 

 最悪、第三次関東会戦より後に、下手したら主要キャラが一人も存在しない時期に転生した可能性もあったが、結果から言うとそれは杞憂に終わった。俺はちょうどガストレア戦争が始まったその日に転生したらしい。できれば原作開始直前ぐらいに転生したかったです。いやホントに。何が悲しくて呪われた子供(ロリ)たちのいない殺伐とした世界で生きていかねばならんのか。せっかく鼻のいい生き物に生まれ変わったのなら、血と硝煙の匂いなんかじゃなく幼女の匂いを嗅ぎたいです。

 

(……あ、やばい。追いつかれた)

 

 パシャ、パシャと。雨の中を歩く複数の足音がした。二人……いや三人か。その足音は徐々に、しかし着実に俺の方に迫ってきてる。まるで自分たちの存在を誇示するかのように。

 

 足音たちは俺の近くに来ると、警戒しているのか慎重な動きで頭の方に回り込み始めた。どうやら頭部を潰して確実に息の根を止めるつもりらしい。

 

(おいおい、二度目の人生が前世と同じ死に方とかどんな皮肉だよ。やっぱ神様ってクソだわ)

 

 心の中で雨雲に向かって中指を突き立てながら、俺は欠けた耳や斬られた右目、その他の外傷を後回しにして優先的に再生させた前足と後ろ足に力を入れる。

 だがそこまでが限界だった。何度やっても、地面から少し体を浮かすのが精一杯で、とても立ち上がれそうにない。今の俺には、自分の身体を支えるだけの体力すら残っていなかった。

 

(どうする? 命乞いでもするか? 『もう人里恋しくなっても人前には姿見せないので見逃してください』って?)

 

 無理だろうなぁ、と俺は苦笑いした。彼らにとって、俺の存在は憎しみの象徴だ。生かしておく理由もメリットも、彼らにはない。

 

 はぁ、と溜息を吐いたつもりが、口から漏れたのは弱々しい「クーン……」というくっそ情けない鳴き声だった。

 いいや、まだだ。まだ終わりじゃない。俺の身体が動かないのは、俺の心が弱っているせいだ。なら、簡単な話だ。

 

 心が弱っているのなら、喝を入れればいいじゃない。

 

(頼む炎の妖精さん、俺に元気を分けてくれ……!)

 

 俺は脳裏に前世の日本で最も熱い男を思い浮かべ、改めて足腰に力を入れる。

 彼の名言を思い出せ。己を奮い立たせろ。イメージするのは、常にポジティブな自分だ。行くぞ。せーの……

 

 

 

 

 

 

 頑張れ頑張れできるできる絶対出来る頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だなんでそこで諦めんだ頑張れ頑張れそこだそこで諦めんな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る諦めんなお前もっと熱くなれよぉぉおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 プルプルプル……パシャン。

 

 やっぱりダメだったよ。一応立てはしたけど、走ろうとしたら踏ん張れなくてそのまま地面に顎を強打した。めちゃくちゃ痛いぞ。

 うんまあ、知ってた。知ってましたよ、世の中気合だけじゃどうにもならない事ぐらい。あの妖精さんも根性論は嫌いって言ってたしね。それが空元気なら尚更だわ。

 

 強い心を持つなら喝を入れるんじゃなくて、しっかりとした心の根を作らないと。そう、お米のような強い心の根を。こんな事ならお米食べとくべきだったかな。

 

(どうしよう。いや本当にどうしよう。このままだと確実に殺される。かと言って、何かこの状況を打破できる策がある訳でもない。そもそも身体が思うように動かないから、策があってもどうしようもない。……おや? もしかしなくても、俺詰んでね?)

 

 その結論に至った瞬間、今までの思い出が走馬灯のように駆け抜けていく。

 

 脳裏を過るのは、人間の味方を全力でアピールしてんのに全然信じてくれない自衛隊。戦場で大暴れする機械化兵士たち。命を助けた報酬として鉛玉をプレゼントしてくれやがった民警。俺を視認するなり徒党を組んで襲いかかってくるガストレア。

 

 …………碌な思い出が一つもねぇな!

 

 思わず泣きそうになった。やだ……俺の人生、悲惨すぎ……!? どうして世界はこんなにも俺に厳しいのか。俺がガストレアだからですかそうですか。

 

 せめて転生したのが呪われた子供たちだったらまだどうにかなったと思うんだけどなー。力を解放しなければ正体がバレることもないし、ぶっちゃけガストレアよりも長生きできた自信ある。花京院の魂を賭けたっていい。

 あ、でも呪われた子供たちは生まれたての頃は目が赤いから、それで母親は半狂乱になってほとんどの場合は生まれた直後に川に沈められて溺死させられるんだっけ。……なんだこのクソゲー。人生を最速で終了するRTAでも目指せってか。やっぱ花京院の魂返して。え、だめ? そう……。

 

 とにもかくにも、どうやらこれで最期みたいだから、死ぬ前にそれっぽい台詞でも言っておこうと思います。

 

 いいか人間ども! 俺を殺したところで、第二第三のガストレアが必ず現れる。つまり何が言いたいかっていうと、これで勝ったと……ん?

 

(あれ、ちょっと待って。雨と失血のせいで今まで気づかなかったけど……この臭い、俺を追ってた連中のじゃないぞ。じゃあ、俺を囲んでいる人たちは一体……)

 

「───ね、ねぇ。だいじょうぶ……?」

 

 声がした。不安げな、それでも勇気を振り絞ったような声だった。

 

 そう言えば、俺はまだ一度も自分を囲んでいる者たちがどんな奴らなのか、ちゃんと見ていなかった。

 

 無事な左目を緩慢な動きで上の方に向けると、そこには恐れと心配をない混ぜにしたような表情で俺を覗き込む、赤い目をした天使(ロリ)たちがいた。

 

 

 

 

 



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