#2 灯台は下が暗すぎて困る。
──朝
「ふわぁ……朝か。いつの間にか寝ちまってたな……」
遊太は自分の部屋を見渡してみるがそこに幽鬼うさぎの姿はなかった。
(まぁ、そうだよな。あんなことが現実で起こるわけ……)
遊太は少し安心したような、寂しいような気持ちで寝返りをうつ。すると、真正面にすやすやと眠る幽鬼うさぎの姿があった。
(まじかよ……!? 何でこいつ隣で寝てんだ……)
ドン……ドン……ドン……
(まずい! 母さんが起こしに上がってきてる! こんなところ見られたら……!)
遊太は自分の布団に幽鬼うさぎを覆い隠すように引き込んだ。
ドンドンドン……ガチャッ
「遊太ー起きなさい。もう朝よー」
ガチャッ
「ふぅ……どうにかなったな……ん?」
「あんた……何やってるのよー!!」
──―遊太登校中
(めちゃくちゃ怒らせちまったな……口聞いてくれなかったし……というかなんでいつの間にか俺のベットで寝てんだよ! 俺悪くねぇだろ!)
ヒソヒソ……
「……なぁ、あいつあんな可愛い女の子連れて登校してるぜ……」
「……しかもなんだあの格好、コスプレか?」
(……もしかして俺のことか?)
遊太は幽鬼うさぎが着いてきたのではないかと思い後ろを向くが、そこには誰もいなかった。
(……気にしすぎか)
──―放課後
授業が終わり、遊太は今朝の出来事で頭を悩ませながら、下駄箱へと向かう。
「おーい! 遊太ー!」
渡が走って遊太の元へやってきた。
「よぉ渡。なんだよそんなに慌てて」
「いやお前、さっきまで近くにいた女子誰だよ! お前って彼女いたっけ?」
「は? 女子? 俺ずっと一人だったぞ?」
「いやいやいたって! 隠してんのかよ? まぁ言いたくないならいいけど^^」
「はぁ……朝からそんなんばっかだな」
「まぁそれはそれとして、帰りカードショップいかね?」
「いいけど俺デッキ持ってないぞ?」
「持ってないのかよ! 決闘者としてなってないな~。俺はいつでも持ち歩いてるからな」
「学校にまで持ってくるほうがおかしいってことに気づけよ……。俺も相談したいことあるし行くか」
──―カードショップ内
「おっ、カードのガチャあんじゃん。遊太やってみたら?」
「どうせいいもんでないだろ。まぁ気晴らしでやってみるか」
ガチャ結果
<速攻のかかし><エフェクトヴェーラー>
<クリフォトン><スカルマイスター>
<十二獣ドランシア>
「お前やっぱ誘発に愛されてんな^^」
「自分でも驚きだわ。というか当たり枠がなんで禁止のドランシアなんだよ」
「こんなん結果在庫処分のためのものなんだよ」
「やった後にそういうこと言うの辞めてくれませんかねぇ⋯。で、これからどうするんだ?」
「どうするって、そりゃまず座るだろ」
「だから俺今デッキ持ってないんだって。カードショップでやることないんだけど?」
「はぁ⋯。なんかお前今悩みあるだろ? 聞いてやるって言ってんだよ」
「⋯! そうか」
普段はチャラチャラしているこいつだが、こういう時にだけは勘が鋭くなる。
やはりこういう時に頼れるのは親友なのだと実感しながら俺達は席についた。
──デュエルスペース
俺達はいつもの店の奥のほうにある席に座り、一呼吸置いてから話し始めた。
「⋯昨日、なにかあったのか?」
「⋯そこまで分かるのか」
「まぁな。長い付き合いなら昨日と今日で明らかにテンションが違うことくらいわかる。で、何かあったのか?」
俺は昨日のことをどこまで言うかを一瞬戸惑った。しかし、真実を言ったところで普通は信じて貰えないだろうと思ったので、とりあえず誘発のカードを無くしたことだけを端的に伝えた。
「⋯誘発のカードをなくしたぁ!? まぁ、決闘者にとってみればそれは中々に重要なことなんだろうが、もっと立て込んだ事情があるのかと思ったんだけど⋯」
本当はなぜかそのカードが実体化したところが一番の困りどころなんだが、そんなことは言えない。
「はぁ!? 決闘者にとってカード無くすとか一番やばいことだろうが!?」
更にめんどくさい状況になりそうだったので、俺はとりあえず渡を適当にあしらった。
「は、はぁ。そうなのか。ちなみにカードが何処にいったか検討はついてるのか?」
「『幽鬼うさぎ』だけは見つかったんだけど⋯。他のは何処にいったのかさっぱりなんだ」
「そうか⋯。ポケットの中とかちゃんと確認したか?」
渡が冗談まじりにそう言い放つ。
さすがにそれは無いだろう。カードを無くした後、うさぎが実体化するまで必死に探したのだから、あるはずが無い。
一応、念の為、自分の制服のポケットに手を入れて確認してみた。
(ポケットには何も⋯⋯無いな。反対側のポケットにも何も⋯⋯ん? 何か入ってるな。さっきのガチャで出た奴を無意識に入れたのか?)
ポケットの中の存在に気付いた時、遊太は反射的にさっきガチャで出たカードをポケットに入れたのだと考察した。しかし、すぐに遊太の目の前にあるガチャの箱の残骸と、しょっぱいガチャ結果達が目に入った。
(あれ、さっきのオリパじゃない。じゃあこの中に入っているのはなんなんだ⋯⋯?)
遊太は恐る恐る自分のポケットに手を伸ばし、中身をチラッと確認してみた。
(なんか光ってるな⋯⋯SRかURか? そんなカード無意識にポッケに入れるか? まぁカード名を見ればわかるか)
遊太はポケットに顔を近づけ、目を細めながらカード名を確認した。
(カード名は、<浮幽さくら>か⋯⋯!?)
遊太がカード名を理解した直後、自身に雷撃が走ったかのように震えた。
なんでなくなった誘発が自分のポケットに!? そんな思考を働かせる暇なく、<浮幽さくら>は輝き始めた。
この輝きは遊太にとって初めてでは無かった。そう、うさぎが実体化した時と同じような光方だと遊太は一瞬で把握した。
「すまん渡絶対に外せない用事が今出来たから急いで帰るわじゃあな!」
「遊太? どうしたそんないきなり急い」
俺は渡の別れ際の言葉も聞かず一目散にカードショップを出て、近くの人気がいない場所、路地裏に入った。
──路地裏
路地裏に入ってカードを取り出すと、周りの薄暗さからカードから放たれる光が一層際立った。
光が強くなり、カードを直視出来なくなったので、俺はカードを地面に置き数歩離れた。
光が周囲を包み込み俺は目を閉じた。そして再び目を開くと、そこには悲壮な表情を浮かべ、薄暗闇の中で輝きを放っている少女、浮幽さくらの姿があった。
カードが具現化するのを見るのは二回目だが、そんな非現実的なことに早々慣れるはずもなく、数秒の間沈黙が続いた。
「すいません、マスター⋯⋯。心配をお掛けしました⋯⋯」
唐突に浮幽さくらが口を開いた。
俺は少し戸惑いながらもその言葉に応えた。
「あ、あぁ⋯⋯そんな近くに居たとはな。
全く気が付かなかった、こっちこそ気づいてやれなくてゴメンな」
「いえいえ、マスターが悪いんじゃないんです⋯⋯。私がもっと気付かせようとしていれば⋯⋯」
俺はその発言を聞いて、今朝の登校時のざわつきや俺に対する渡の発言に全て合点がいった。
「じゃあもしかして朝からこの中に居て俺の後に着いてきてたってことなのか?」
「はい⋯⋯そうです⋯⋯。少々周りに誤解を生んでしまったことを反省しております⋯⋯」
少女は地面に膝をつき、今にも土下座しそうなポーズを取ったので、俺は止めてかかった。
「ちょっと待ったちょっと待った! 女の子が土下座なんてしちゃ駄目だよ!」
「いや⋯⋯でも⋯⋯それだと私の心が収まりません⋯⋯」
少女は遊太に曇りのない、殊勝な視線を送る。
「わかったわかった! 土下座はとにかく止めてくれ! その代わりでいいからずっとポケットの中で俺に着いてきていた理由だけ教えてくれ!」
少女はその言葉を聞くと立ち上がり、遊太の目を見つめながら事情を話し始めた。
「そうですか⋯⋯分かりました⋯⋯。では、改めて話させて頂きます⋯⋯。実はマスターにお伝えしたいことがございます」
少女は一呼吸置いて、何かを決心したかのように言い放った。
「私はマスターの元から離れさせて頂きます」